オシオキタイム
※本話はまるまる拷問回です。苦手な方はご注意くださいまし※
※悪イザナさま降臨回です※
ふふふ、今回は1話丸ごと拷問スペシャルと行こうではないかっ!!
―――???
コツッ
コツッ
コツッ
ほの暗い灰色の世界に響き渡る冴え渡る靴の音。しかしそれは同時にひとに恐怖を植え付ける。
「さて、随分といい姿になったじゃないか。俺のショーをお披露目するのにふさわしい」
俺は黒ずくめの服に身を包み、目の前で鎖につながれた哀れな女を見据えた。
鮮やかだった金色の髪は薄汚れ、長く見事な髪はちりぢりに引き裂かれている。両頬には痛々しい傷がついており、唇の端が切れて血が滴っている。
やれやれ、女性の顔には傷をつけるな、―――と言いたいところだが、この女はたいそうな極悪人だ。
溺愛対象である弟を傷つけられたと来たら、溺愛ルートおなじみの容赦のないオシオキタイムである。そしてそのオシオキは大体は容赦なく行われるものなのである。
※あくまでも、イザナの個人的な所見です
だからこそ、周りに控える部下“たち”を咎めることはしない。むしろ良くやったと褒めてくれようぞ。
そして当然のことながら手足は縛られ、鞭打たれ、いい感じに血が滲んでいる。
「こんのっ、悪魔めっ!」
忌々し気にマリアが俺を睨む。
「まぁ半分魔物だからな。悪魔と呼んでも構わん」
俺への暴言に足を出しかけた部下たちを手で制し、にぃっとほくそ笑む。
「貴様は稀代の悪女だがな」
「誰が悪女よ!私は、私はヒロインなのに!」
“ヒロイン”、―――か。コイツ、ちょっとボロを出しすぎじゃないか?よくこんなんでスパイができたものだ。よくあるヒロインチートとか言うやつだろうか。ま、それもこれで見納めだろうがな。
「まぁいい。よく見ておけ。今からとっておきのショーを見せてやる」
俺は部下に指示を出す。
すると部下のひとりであり従者でもあるナユタがとある男をマリアと俺の前に引きずり出した。
あれまぁ。俺の部下たちも容赦がない。顔が腫れまくってかつての顔形は見る影もない。確かアニメではかなりの美男子だった気がするが。
「きゃああぁぁぁっっ!?ば、バケモノ!?」
かつての恋人、―――いや今もつながっているであろうに彼女は無情にもそう叫んだ。
「まっ、まり、あ」
顔面の腫れた男は苦しそうに恋人の名を呼ぶが。
「いやああぁぁぁっっ!近づかないで!バケモノが伝染る!!」
伝染るわきゃねぇだろうが。殴り痕だぞそれ。しょうがない。このままじゃ話が進まないからな。
「ヒール」
俺は男の顔面を治してやった。
「―――い、痛みがっ、消えたっ!?」
男はきょとんとしながらマリアを見上げている。
「ロン!ロンじゃない!私を助けに来てくれたのね!信じてたわ!」
えぇーと。極限状態になるとひとは本性が出たり、思ってもみない行動をとったりするわけだが。―――クズすぎんだろっ!コイツ!!
「な、何を??」
ほら、ロンくんだって戸惑ってるぞ?
「さて、貴様ら。どちらかひとりを助けてやるといったら、―――どうする?」
俺はにやりとほくそ笑みながら告げた。
「な、なら!私を助けなさい!私は王女よ!こんな平民騎士とは違って政略的価値があるわ!」
マリアが真っ先に叫び、ロンが驚愕の表情を浮かべる。そしてロンも叫ぶ。
「た、助けてくれ!俺はこの女に騙されたんだ!任務を成功させたら結婚しようって言ってくれたのにっ!畜生っ!こんな女だと知っていたら国からの命令だとは言え、スパイ行為に協力するんじゃなかった!」
「な、何よそれ!私のお金で今まで贅沢できたのよ!?今までの恩を仇で返すつもり!?」
「何だと!?この悪女!」
「アンタみたいのはね、“ヒモ”って言うのよ!!」
「―――あぁそうだ。“助ける”と言うのは、命を助けることじゃないからな?」
『え?』
先程まで言い合いをしていたふたりが俺の言葉に驚いたように目を瞠る。
「死ぬことでこの拷問タイムから解放される、―――と言うわけだ」
にやり。
『た、助けなくていいです!』
ふたりとも、息ぴったりで返しやがった。案外お似合いだよ、お前ら。
「あぁ、わかった。では大罪人への最後のお情けとしてこの俺がその願いを聞いてやろう」
「やったぁっ!私、助かるのね!」「いや、助かるのは俺だ!」
「それじゃ、早速拷問タイムを始めようか?」
「え、拷問?私たち、助かるのよね?」
マリアが驚愕したように表情をこわばらせる。
「何を言っている?拷問で殺さないように甚振ってやると言う意味だが?」
「は?」
「俺の溺愛する弟に毒を盛り、苦しめ、“聖剣への生贄”にしようとした罰だ。相応の罰をくれてやろうかァッ!」
俺は顕現させた鞭をしなやかに打ち鳴らす。
「ひっ、何で生贄のことをっ!それに溺愛って何!?悪逆王子のイザナはスザナのことを、スザナのことをっ!―――あれ?」
彼女は奇妙な矛盾点に気が付いたようだ。確かに原作小説の中でスザナはイザナを倒した。だが、原作小説の中のどこにもスザナとイザナの兄弟仲についてはっきり明記された記述はないんだよ!
唯一、俺の最期にスザナが俺を“兄上”と寂し気に漏らすだけなのだ。そしてそのことを知っているコイツは、やはり。俺はゆっくりと彼女に近づき、耳元で囁く。
「(残念だったなぁ?暴君になった俺を、聖剣の生贄にしたスザナで倒せなくって)」
にやり。
それを聞いた彼女はくわっと目を見開いて俺を睨みつける。
「あんた、まさかっ!」
「おっと~、馴れ合いはここまでだ」
俺はガガッと彼女の体を蹴り飛ばし、頭を靴で床に叩きつける。
「次、俺の許可なしに口開いたらもっと過激にオシオキするからなぁ?」
「ひっ!」
彼女の声がひきつる。
「早速口、開いちゃったかァ」
俺は手に持った鞭をビッと引っ張る。その仕草に彼女は暴れようとするが、いかんせん頭を足で押さえつけられ思うように動かない。
「た、助けてくれぇっ!」
ロンの方がその隙に逃げ出そうとし、そしてマリアが叫ぶ。
「ちょっと、私を助けなさいっ!!」
「やなこった!俺は、俺はここから逃げるんぁへぶぅっ!」
しかしながら最後まで言い終わらないうちにナユタの靴がロンの頬を思いっきり蹴り飛ばした。
「あぁ、言い忘れてたけどぉ?今日のオシオキチームはお前らの国が聖剣を掲げて蹂躙した半魔を中心に集めてるからァ、泣き叫んでも命乞いしても無駄だぞ?」
『えっ』
ふたりはその瞬間固まった。かの小国・ラモルタ聖国が大国である我が国に怯えながらも占領されずに生き残り、なおかつ魔物の国からも侵略されずに済んでいる理由のひとつが“聖剣”である。
また勇者や聖女を多く輩出しているのに理由がある。その秘密と“聖剣”の在処、起動方法については最高機密。一王女であるマリアですら知らないのだ。そんな希少で大きな力をもつ小国ゆえに、多くの脅威を退けてきたのだが。
同時にかの国は魔物を“悪”として勇者や聖女などを度々魔王国へ魔王を倒す巡礼の旅に出している。
それ故に魔物からは怨まれており、魔物の血を引く半魔はかの国では確実に迫害される。
もしくは魔物を倒すための練習台にされるために半魔の子をわざわざ他国から誘拐することだってあるのだ。
ここにいる部下たちは表舞台に出ることのできない素性のやつらばかりだが、あの国には怨みを持つものも多い。
そして絶対崇拝対象であるこの俺の溺愛対象に手を出したこいつらに、容赦をするわけがないのだ。―――ふふふっ
「では、お楽しみの時間だっ!」
ビシィッ
「ひゃぎゃぁぁっ」
俺がマリアへ鋭い一打を与えたのと同時に、部下たちが一斉に暗具片手に彼らに襲い掛かる。
ほの暗い灰色の空間の中では、ふたりの男女の悲鳴と狂乱者たちの愉快な笑い声が不気味に響きわたっていた。




