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episode 07 勝ち気な交渉

 山を一つ越え雪が積もったウィンシェス王国の王都であるウィーネスに入ったあたし達は一晩明かすと王城へと向かい、王への謁見を試みたのだが宰相なる人物が話を聞いてくれる運びになった。


「話というのは、魔人に支配された村があるでしょ?

 そこをあたし達で取り戻してあげるってことなんだけど」


「お主らがか?

 何を馬鹿なことを。

 そんな話の為に王を呼び出そうなどと」


 (あるじ)不在の玉座を前に、謁見の間で宰相は怪訝な顔を浮かべながらあたし達を見下ろしている。


「あなた達じゃ出来なくてもあたし達なら出来るかも知れないって話じゃない」


「貴様はこの国を侮辱しておるのか!」


「そんなつもりはないわよ。

 魔者や魔人相手に戦いなれてない兵士たちより、あたし達の方がよっぽど役に立つって話なだけよ」


 すると隣から肩を軽く叩かれ自分を指差すニールセンが口を開いた。


「なあ?

 オレは魔者なんかとやりあったことはないんだが」


「ニールセンは黙ってて。

 あたしとこの二人は魔者とは何度か戦ったことがあるし、なんてったって魔人王とも対峙したことがあるんだから。

 それにさ、この子は精霊術を使えるし、ニールセンは賢者だからどうにかなるかも知れないのよね」


「オレはしがない魔術師なんだが……」


 あんたの話は誰も聞いちゃいないと無言の圧力を醸し出し、無理矢理話を続けることにした。


「とにかくよ、あたしらなら何とかなるかも知れないのよね」


「ほぉ。

 魔人王と、な。

 それで生きていると」


「まぁね。

 向こうもまともに相手をしようとはしなかったし、眷属に任せて奥に行っちゃったから。

 だから対峙して戦いをしたのはホントなのよね。

 ま、他にも色々と魔者とは戦いはしてるから、やり方なら知ってるつもりよ」


「では何かね、本当に村を解放しようと言うのかね」


「だーかーらー!

 そう言ってんじゃないのさっ。

 ま、その暁には竜の尾根島に行かせて欲しいかなってね」


「ふんっ。

 解放出来たなら自由にするが良い。

 それならば私の一存では決めかねる故、少し待つが良い。

 これより王にお越し頂く」


 やっと待っていた言葉を引き出すことが出来たと内心ほっとした。

 これでも嘘は言ってないし、魔者の軍勢の前には逃げることもしたが、色々な戦いを知った今なら逃げることもないと少しばかりの自信はついている。

 宰相が横の扉から出るのを確認した上で文句の一つでも口走ってみた。


「だから最初から呼んでくれればいいのよ。

 要らない手間だわ、ホント。

 ま、来るって言うなら待ってやるけど」


「こういうことだったのね、アテナ。

 直談判とは恐れ入ったよ。

 それで、本当に私達だけでどうにかなると思ってんのかい?」


「ま、状況を見なきゃなんともだけどさ、多分ならないでしょ。

 だから、兵士をちょろっと借りて魔人をあたし達で討つってわけよ」


「なるほどね。

 本命さえどうにかしたらってことか。

 にしても貸してくれるもんかな」


「そこはあたしの腕の見せ所でしょ」


 と、ここで扉は開かれ宰相が戻って来ると玉座の横に立ち、背筋を伸ばすと大きめの声ではっきりと言葉を発した。


「陛下のご入室である」


 脇に立つ兵達が片膝を付くのに習い、あたし達も慌てて片膝を床に付け反対の膝に腕を乗せた。


「そなたらか?

 子供が二人と剣士が一人。

 それで討伐すると?

 馬鹿馬鹿しい。

 この者達の話を真に受けるとはなんたることか」


 玉座に座り出すと同時に王が発した言葉は想像通りすぎて顔がにやけそうになる。

 あたし達を見下ろし宰相に愚痴を溢した王は、あからさまに不機嫌な顔で目を細めている。


「あら?

 あたし達じゃムリって言いたそうね。

 王様でも見た目で判断するなんて、それじゃあ魔者にだって太刀打ち出来ないわよね。

 それともなに?

 それも兵達の力量が足りないからって理由をつけちゃったり?

 それじゃあ王様の指揮力だってたかが知れてるって話になってくるわよね」


「なんと無礼な!!」


 宰相が真っ赤な顔で一歩踏み出したのは、自らが王を呼んで来たという負い目から出た保身の怒りも混じっているのだろうが、ここまで来たらあたしだって引くわけにはいかない。


「無礼もへったくれもな言ってんの!

 部外者が勝手に戦いに行くって言うんだから見た目なんて関係ないでしょ!!

 行くにしても兵士に止められないように手順を踏みに来たってだけの話なのよね!」


「良い良い。

 ならば、我が国に損害を与えないということだな?

 勝手に行き勝手に死ぬと、それで良いのなら許可しようではないか」


 半分諦めにも似た感じで話す王の言葉は、願ってもない好機(チャンス)だと悟った。


「あら?

 そしたら手柄はあたし達のものになっちゃうけど?

 勝手に行ってどうなるか知ったことじゃないってんならそれでも構わないわ」


「では、我に何を望む?」


「少しばかり兵を借りれたらって。

 とはいっても囮程度で死なないようにしててくれるだけで良いのだけど。

 それだけで討伐したら国の手柄になるし、損害は出ないはずだけど?」


「……全く勝ち気な娘だな。

 ならば、それで手を打とう。

 主らの生き死にはこの国とは無縁、手柄となれば我らが兵士の行いのこと。

 これで良いのだな?」


 待っていたのはこれだった。

 これで魔者が少しばかり居ようが魔人のところまでは行ける手筈が整った。


「結構よ。

 なら作戦とかは任せてちょうだい。

 あとはそちらに任せるわ」


「よかろう。

 手筈が整い次第迎えをよこす故、街でゆっくりしてるが良い」


「陛下のご退出である」


 王はまるで何事もなかったかのような表情で謁見の間を後にすると、宰相はあたし達に杖を突きだした。


「兵を付き添わせるので宿までついて行くがよい。

 店主にはこちらで話をつけるので、迎えまで暫く待つことだ。

 これで謁見は終わりにする。

 ベイルグラント、後は宜しく頼む」


(かしこ)まりました」


 一番近くに居た正装に身を包んだ立派な騎士は腰を軽く曲げ宰相に頭を下げると、あたし達の前に出向き付いてくるよう手を差し出した。

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