episode 06 魔術師 ニールセン
ウィンタニアに入ると直ぐに暖かそうな服を調達すると、その足で酒場に向かい温かい飲み物と食べ物を頼みテーブルにこれでもかと並べ立てた。
「ふぅぅぅぅ!
はぁぁぁぁ、温まるわぁぁぁぁ。
これよこれ!
温かい物がこんな身に染みるなんて初めてよ。
ミーニャもよく頑張ったわ」
「ええ、温かいって素晴らしいですね。
ここまでの寒さは初めてでしたからどうなるかと思っていましたが、服も新調出来ましたし良かったです」
「なんとか落ち着いたって感じだねぇ。
こんな寒い場所なんかに竜なんているもんなのかね」
「ホントよね。
竜って火を吐くもんなんでしょ?
幻獣の部類で小さいのから大きいのまでいるってことしか知識はないんだけど」
「そうさねぇ、私の知ってることもそんなもんだからね。
ここの人らに聞くしかないからね、どうしたもんか」
テティーアンがゆっくりと酒場内を見渡すのに釣られ、全員が首を回している。
「あら?
あの人って何か色々知ってそうじゃない?」
賑やかな中に独りテーブルを囲い何やら書物を読んでいる男性を発見した。
茶色の長い外套を纏った黒い長髪男性はいかにも賢者のような出で立ちで、一人あからさまに違った雰囲気を漂わせている。
「街の人って感じじゃなさそうだが、博識そうではあるね。
話しかけてみて損は無いように思うよ」
「だったらちょっと行ってくるわね」
あたしは席を離れるとずかずかと男性の元へ歩み寄るが、全く動じることもなく書物に意識を集中させているようだった。
「ねぇ……ねぇってば。
あなたよ、あなた。
ちょっと聞きたいことがあるんだけど、良いかしら?」
「んあ?
お、オレかい?
あんた……誰?」
「え?
あ、あぁ、あたしはアテナ。
この酒場の中でも一番物識りそうだったから、ちょっと聞きたいことがあってね」
「お?
おぉ、知り合いじゃぁなかったのか。
どうにも人の顔は覚えられなくてね、どこかで会ったことがあるのかと思ったよ」
「残念ね。
こんな美少女は滅多にいないから会ったことがあるなら忘れないとは思うけど、初めてよ。
それでね、あたし達はこの辺りの地理に詳しくなくってさ、とある場所を探してるのよ」
「あたし達?
あんた一人じゃないのか?」
「あんたじゃなくアテナ、アテナよ。
そ、あっちに仲間がいるわ」
視線をミーニャ達のテーブルに向けると、あちらも全員がこっちを向いていた。
「あ、あそこ、の……ね……」
「おーい。
どうしたの?
知り合いでもいた?」
言葉半ばにして呆けていた彼の目の前に手のひらをちらつかせ、意識をはっきりさせようと試みた。
「え?
あぁ、あ?
知り合い?
知り合いはいない……が」
「どうしたの?
急に。
まぁ良いけど、その場所ってのが地図にも載ってないわけよ。
それで色々調べたいなと思って声をかけたんだけど……。
って、おーい!」
「あぁっ、あ、えーっと、何々?
地図に載ってない場所?」
「そうよ。
ここの国には間違いないんだけどね。
どう?
分かるなら詳しく話すけど、あっちに行く?」
「行く!
あ、いや、そうだね、分かるかも知れないし、食べ物でもあれば応えてあげれると思う」
「は?
お腹すいてるの?」
「一人旅をしているものでね、中々資金面が苦しくて。
はっはっはっ」
「笑い事じゃないと思うけど、ご飯くらいなら別に。
テーブルにあるの食べても良いし。
なら、席を移りましょ」
やはり街の者ではなかったが、この感じなら色々と知っていそうな気がしている。
「みんな、この人なら何か分かるかも知れないって。
えーっと、名前は?」
「オレはニールセン、以後お見知り置きを……」
「って、どこに向かって言ってんのよ」
名乗ったからには普通は全員を見て話すものだろうに、何故か顔の向きはミーニャだけだった。
「……え?
あ、いや、ニールセンだ」
「今みんな聞いてたわよ」
「あ、いや、そうか。
あぁ、えっと、なんだっけ?」
「あ~あ~もぉ!
とにかく座って。
それでね、あたし達が探してる場所ってのがさ、咆哮の峰ってとこなんだけど知ってる?
どうやらこの国にあるみたいなんだけど」
「咆哮の峰、ね。
それなら多分だが、竜の尾根島にある山のことじゃないかな。
地図を広げて……あー、っと今いるのがここ。
そんで尾根島がここ。
この山が咆哮の峰って言われてた気がするな。
実際は行ったこともなければ、近くにも行ったことはないから確かではないんだが」
彼が地図で示したのは半島を南西に少し下った場所から、海を渡った先にある小さな島であった。
「確実じゃなくてもそれだけで十分よ。
竜の尾根島ね。
ってことはここの村から船を借りて渡るのが最適か」
「おっと、そいつは出来ないと思うが」
「なんでよ?」
「その村は今、魔人が支配してて誰も近づかないんだとさ。
オレも尾根島には行きたかったんだが、こうして足止めを食らってたってんのさ」
「魔人が支配?」
「そ。
聞いた話だけどな、いつからか魔者が村を襲い始めて魔人が現れたんだと。
それで国も対抗しようとしたんだが、返り討ちに合い村ごと放棄することにしたらしいのさ。
その代わりに近くの警備は相当なものにしたらしく、今じゃ誰も寄り付かない、いや、寄り付けないって話さ」
「なるほどね、理解したわ」
「困ったもんだね。
国が手出し出来なかったところじゃ私らはどうすることもだ」
「そんなことはないわ、テティー。
あたしらで魔人討伐しちゃえば良いじゃない」
「は?
何を言ってんだい?」
「たかが魔人でしょ?
魔人王じゃないのなら何とかなるわよ。
テティーだって立ち向かって行ったじゃない」
「あん時は無我夢中ってやつだったからだよ。
そりゃ恐怖は感じていたがさ」
「でしょ?
あの時の冷たく凍りついた空気を体感して尚、立ち向かったんだから。
だったら魔人くらいどうにかなるわよ」
「簡単に言ってくれるね。
だとしたら、どうやってその村にまで行く?」
その問いには既に頭の中で答えが組上がっていた。
ただ、あとはフレイとニールセンの協力があってこそ魔人討伐が叶うかも知れないと思っているのだが。