エピローグ
あたしの話はここまでだと軽く頷きハルベール王国兵士と視線を合わせた。
「でしたら王にこの事をお話出来たということで?」
「いえ、ハルベールに向かったのは確かなんだけど、あたし達は城へ向かうことが出来なかったのよ。
貴方も知っての通り、王室のゴタゴタがあったじゃない」
「あぁ、現王が兄君と父王に反旗を翻した、あれですね」
「そ。
その時に第二王子だってことは知ったんだけど、あの時は城に近づくことも出来なかったし、あれから何年か続いたから話す機会を失ってね。
あたしもこんなことになってるし」
「左様でしたか。
では、王はエルフのフレイ殿を城に呼びたく私をこの地に向かわせたのですか」
「そうだと思うわ。
彼が王になってエルフの研究を世間に知らしめ、今後は研究ではなく共に過ごせる日々をって掲げてるのは耳にしてたから。
それに直接会った感じだと偽りのない愛だと感じたわ、隠し事は多いかも知れないけど」
「確かに仰る通りで。
現王は無邪気ではあるものの、争いは好みませんから」
「貴方の口からそれを聞けたのも良かったわ。
人は変わりゆく者だから、今はどうなのか知る術はなかったからね。
そしたら、そこの緑の紋様が施されている本を持って行きなさいな」
「こちらで?」
「ええ、それよ。
それがあればマグノリア王国とも友好でいられると思うわ。
ただ、中身を読んで貰うと分かるけど、少しの過ちであろうともそれに反することがあるならば武力を持ってして徹底抗戦するって記載があるから心して行くのよ」
「それは私への脅しでもあるわけですな」
「そういうことよ。
貴方に戦争を起こす利害があるとは思えないけど、国を一つ動かすだけの力がある本だということは忘れないほうが良いわ、ってね」
「肝に命じておきましょう。
では早速、王へお話して参りたいと思います。
お話頂きありがとうございました」
「いえいえ、こっちも長年のやり残した事が片付くので心地好いわ」
「ではアテナ殿、失礼致します」
「ええ、ルハルト王には宜しく言っておいてね」
兵士が部屋を出るのを見送ると清々しい気持ちになった。
「ようやく、ね。
フレイもずっと待っていたんだもの、これであたしの役目も終わったわね」
一人思い出に更けつつ待ちわびたであろうフレイの愛に区切りが付くと思うと、一つの物語が終わることに感慨深くなる。
そして、あたしは来るべき刻へ備えるべく再び本の中へと潜り込んだ。
あれからどれくらいの日々が経ったのか、部屋には一人の魔術師らしき男が本を読み漁っている。
「あんた、探し物はなぁに?」
「ん?
なんだ、ただの亡者か……。
すまないが、あんたには用はない。
調べ物をしているのだ、黙っていてもらおう」
「ちょっ!
ちょっとぉ!
亡者ってなによ、亡者って」
「死人であろう、何も間違えてはいないが?」
「そりゃそうだけど、半死半生ってやつよ!
ただの死人と同じにしないでよねっ」
男は長い黒髪を一度後ろへ流すとあたしへ向き直り視線を反らさなかった。
「知った顔だな」
「あたしは知らないわ」
「いや、一度会ったことがある」
「どこでよ」
「私がまだ幼かった頃だ」
「そんな昔のこと……。
あっ!
まさか、グレンリテル島の!?」
「やはりそうか。
それならば私の探し物を見つけてはくれまいか?」
「探し物?
あんたも叡知の書庫とかって聞いて来た口ね」
「ここではないのか?」
「ここよ、ここ。
でも、ここは王室図書と同じような物しかないわ」
「では?」
「あたしの存在がそう言わしめてるみたいなのよね」
若干うんざり気味に問い返すと、その態度に興味を持ったようだった。
「あんたが私の問いに答えてくれると?」
「そうは言ってないわよ。
あたしだって、あたしの見たモノしか知らないんだからさ」
「ならば知っていよう、グレンリテル島に住まう隻眼の魔王のことは」
「ええ、知っているわ。
それが今でも猛威を奮っていると?」
「ああ、そうだ。
人にして並外れた魔力。
あれの謎を解明したくてここへ来た」
隻眼の魔王。
人間であるが故に限られた魔力、寿命であるにも関わらず一向に衰えることがない。
かといって、魔の者と契約しているとも聞かない人間にして魔王の名を冠された人の王。
「解明出来るかはともかくとして、知っていることは話せるわよ」
「なれば話して貰おう、そこから糸口が見えるかも知れないのでな」
「その前に一つ聞くけど、どうしてその話が必要なの?」
その問いに答えるべきか悩む姿に、国が絡んだ重大な事柄が関わっていることがうっすらと垣間見えた。
七海玲也でございます。
これにて第三部が終わりになります。
時間もかかり、最後は二週ほどお待たせすることとなり大変申し訳なく思っております。
エルフにドラゴンと人間ではない種族の中に愛を織り混ぜる為に色々とあっちこっち行きました。
出来るのならもっと深く掘り下げてとも思ったのですが、だらだらとなっても読み飽きてしまうので色々と感じ取って頂けたら幸いです。
種族を越えた愛、子に対する親の愛、地位を挟む片思いなど少しずつ混ぜたのですが、中々に長くなりそうだったのを短く纏められたのではと思っております。
そして次作は、戻ることのない愛憎をとも思っております。
そこに至るまでの物語は隻眼の魔王を主人公にして描いて行く所存でございますので、楽しみにしていただけたらと感じております。
ちなみに少し補足として、現在のアテナは三十歳前後で亡くなっておりそれから十数年ほど経っております。
物語として旅をしていたのは十三歳頃からで三部の時点では十五・六、叡知の書庫を訪れた魔術師はアテナが二十五歳前後の時に出会っております。
ですので、次作はそれよりも前に島へと渡ったアテナの物語となります。
アテナの物語と隻眼の魔王の物語が多少リンクしていくこととなるのでどちらもお待ち頂けたらと思っております。
それではまた、次回でお会い致しましょう。
七海玲也でした。




