episode 05 エルフ
洞窟から街道へと出る為に森の中を歩き、咆哮の峰を地図で探してみることにした。
「ここから北へ行くと半島があるみたいね。
咆哮の峰は載ってないけど山はいくつかあるみたいよ」
「そうか。
ならば北へ向かい街や村で聞く以外なさそうだね」
「となると、山に近そうな街はこことここ。
それと島にも山があるから海沿いの村ってことになるわね。
ここからなら国を一つ跨ぐ感じになるのか。
えーっと、ウィンシェス王国に入って先ずは三つ目の街ってところかしら」
「だいぶ遠いな。
ま、余裕がない訳ではないからいいんだが」
「ミーニャは大丈夫だとして、フレイは長旅になるけど大丈夫かしら?」
「え?
あ、ああ……」
フレイの帰る手段があるというのに、なんとも歯切れの悪い答えに若干違和感を覚えた。
「どうしたの?
なんか不味いことでもある?」
「い、いえ……。
そういう訳ではなく……。
ただちょっと、心残りと言いますか……いえ、大丈夫です。
長旅でも平気ですから」
「何だかスッゴく気になる言い方ね。
心残り、ね。
不自由だった人間界なんてさっさと出たいもんだと思うけどなぁ。
何か力になれるならするからさ、何でも言いなさいな」
「分かりました。
旅の間に決心がつくかも知れないのでお構い無く、私の問題ですから」
「連れないわねぇ。
何だって言っていいし、気なんて使わなくていいのよ。
あたし達はそんな身分でもないんだし。
まぁ、それにさ、エマがあんな人だって知らなかったとはいえ、エルフの存在を教えてしまったって負い目もあるんだから」
鼻の頭を掻きながら自分のしたことに少し後悔していた。
「それは私も警戒していなかったのでお互い様ですから。
貴女達も騙されていたなら不可抗力ですよ」
「そう言って貰えると少し安心するわ」
声すらも透き通っているエルフに対して笑顔を見せると、あたしに気を使わせない為か笑顔で返してくれた。
「さてと、さっさとウィンシェスへ向かいましょうか。
街道を北へ向かうだけで着くはずよ。
王都の向こうにある街に着いたら休憩しようかと思うわ」
既に昼間を過ぎ街には暗くなってからでは着かないが、王都と結ぶ街道なら比較的安全である為、月明かりさえあればどうということはない。
それを分かった上でテティーアンも頷いたと見え、あたし達は王都から離れて行く街道に足を向けた。
「そういえばさ、フレイは精霊術なんかも使えるんでしょ?
どういったのが出来るの?」
「そうですね。
エルフは森の妖精でもあるので、風や木々、水に関することでしたらある程度は……。
その前に精霊術やエルフについて知っていることはあるんですか?」
「んー、精霊術なら間近で体感したから少しは分かる程度よ。
風の精霊に力を借りて色々するってところかしらね」
「体感って、他にもエルフがいたのですか?」
「いやー、なんか人間で使える人と関わってね、それでほんの少しはってことよ」
「人間で使えるですって!?
それは本当ですか!?」
急に似つかわしくない大声で驚いたのにはあたしが驚き、一瞬声が出なかった。
「そ、そうよ。
びっくりしたぁ……。
詳しくは知らないんだけどね、普通に風の精霊と話したりしてたわよ。
あたし達には見えてないけど。
ね、ミーニャ」
「はい。
そよ風に向かって独り言のように喋ってましたけど、何かいるんだなぁとしか思えなかったです」
「そんな……人間にも……。
精霊術というのは神秘術や魔術と違って、訓練したからどうなるってことではないんです。
世界に生きる全ての物や者に精霊は宿っていて、その存在を感じなければ使うことすら出来ないのです。
とは言っても精霊にお願いするのが精霊術なので自分の力ではどうにもなのですが」
「なるほど。
ってことは、人間の中にも何かしらの理由で感じ取ることが出来る人がいて、精霊術を使えたってことなのね」
「私の憶測ですが、昔から一部の人間にはその力が有り、それが受け継がれているのではないかと。
昔はエルフと人間が交わったとの事も聞いたことがありましたから、その子供達に継がれていったのではと」
「エルフと人間のハーフからどんどん繋がってってことか。
無い話ではなさそうね、人間界にエルフが往き来をしていたなら尚更よね」
魔人戦争は全ての界を巻き込み魔人の軍勢が押し寄せると、人間と亜人は手を取り合いそれを払いのけたと聞いた。
それ以来、亜人達は人間とも交流を育んで来たのだが魔法大戦が始まると人間の野蛮さが露見し、亜人達は人間界から立ち去り関わりを拒絶するようになったと伝えられている。
その伝承が本当ならば、今の話は真実味を帯びて来るというものだ。
「そろそろ次の街に着くと思うわ。
もう暗くもなったし、フレイもフードを取って平気よ。
着いたらとにかく宿に入ってくつろぎましょ」
フードを取ったフレイは軽く頭を振ると、長い髪が露となって少しさっぱりしたような印象を受ける。
今日という日は朝から散々だったおかけで、あたしも早くさっぱりしたいと心から願うばかりだった。




