episode 48 獣人の村
森を抜けて来たおかげで村の入口とは真逆であった。
しかし、その甲斐あって村の様子が一望出来ていた。
「隠れ住んでいる割には無防備なんだな」
テティーの感想は最もだ。
塀も低くそのまま村に入ろうと思えば入れるのだから。
「と、思うでしょ?
それがそうでもないのよ。
周りの森には侵入者に備えて罠が仕掛けてあるし、塀も入口に行くにつれて高くなっているんだからね」
「通って来た道に罠がなかったのは?」
「多分、幻獣が居たからでしょうね。
その奥は幻惑の森だし、村の裏側から何かあるってことはないと判断したんでしょうね。
あたしには説明してくれなかったけど」
「なら罠も厭わず森を通ってきたのか?」
「ええ。
だって、罠って言っても動けなくするくらいって話だから、それならそれで迎えが来るでしょ」
「分かってて進んだなら良しとするよ」
「ありがと。
さ、正面に周りましょ」
塀が大人三人程の高さになると草原に一本道が現れ、小さな門の傍にはマグノリアの兵士が一人立ち、門からまた一人出てきたところだった。
「止まれ止まれ!
ここに何用だ!」
「あたしよあたし、アテナ!
って言っても、あんた知らない顔ね。
あー、と、長のルゥか村長のレンを呼んで欲しいんだけど」
「ん?
アテナ?
聞いた名だが……。
ルゥ殿とレン殿に如何用なのだ?」
「知り合いだからとりあえず呼んで来てって言ってるのよ!」
「ならん!」
「どうしてよ!」
「知り合いだか何だか知らぬが、その名前を出されておいそれと呼ぶほど我らの目は節穴ではない!
お引き取り願おうか」
「は?
そもそも、あたしがこの村を造るのに一役買ってんのよ!
それなら呼んで来るのが筋ってもんでしょうが!」
「なんだなんだ、どうしたい?」
門をゆっくりと開き、頭を掻きながら面倒くさそうな声と共に顔を向ける男は隙もなく、両腰に短刀を二本ずつぶら下げいつでも交戦の出来そうな出で立ちであった。
「あっ!
ちょうど良いところに――レイブル!!」
「あん!?
あ、姉御!?」
「お、お嬢様……レイブンさんです」
「え?
あー、こんなのどっちでも良いのよ」
「あ、姉御ぉ。
いい加減名前くらい覚えてくれっての」
「良いじゃない良いじゃない。
ほら、兵士さん?
こいつとも知り合いなワケ!
通っても良いかしら?」
兵士二人は顔を見つめあって、答えをレイブンに求めるように視線を向けた。
「あーーー、姉御。
ここに何の用ですかい?
それに今は何をしていて?
姉御のことだ、どっかの国に属してるってワケじゃなさそうだが……返答次第じゃぁ……」
「なーにバカなこと言って警戒してくれちゃってるのよ。
今も昔も変わらず未だ答えを探す旅をしているわよ。
ここにはあたしの友達を預けに来ただけよ」
「預けに?
また獣人とでも出会ったと?
んなこと、いくら姉御でも簡単に信じられやせんぜ?」
「今回は獣人じゃないのよ。
今回はこの子」
「フレイ、と申します」
フレイはフードを取り、顔にかかる銀髪を払うと軽く会釈をした。
「ず、随分と綺麗な女性で。
この人をこの村に?」
「そうよ、ちょっと兵士にも素性は話したくないから中に入れてくれないかしら?」
「確かに獣人じゃなさそうだが……。
まぁ、姉御が連れて来たんだ、ワケ有りってやつか。
イイだろ、蓮のところにも連れてってやる」
「じゃ、そういうことよ、兵士さん。
ここを任されたんなら信頼されてるってことだから、あたしのことも勉強しておくことね」
「んなっ!?
くっ――どうぞ、お入り下さい」
なんだかんだあったがようやく村に入ると、前よりも作物が増え家々も立派になっていた。
ともすると、そこらの村よりも小さな街に近く、そこらで笑い合うマグノリア兵と獣人のおかげで堅固な護りも築いている印象を受けた。
「どうだい、久しぶりの村は」
「随分と明るくなったし、生活に不自由無さそうね。
信頼のおける兵士も増えたようだし」
「ああ、女王が気を利かせてくれてるからな。
獣人達も何か要求するワケじゃないから円滑に進んでいるさ」
「んで、レンとか皆は元気なの?」
「蓮のやつは家にいるが、ミューなんかは色々と調べたり研究したりで忙しくしている」
「ミューも相変わらずってやつね。
ん?
あれ、あんたん家?」
「ああ、そうだ。
そうか、前よりデカくしたからな」
一応村長であるレンとレイブンの家だからそれなりの大きさではあったが、前よりも一回り大きくなっていたことに驚いた。
「とーちゃーーーん!!」
遊び回っている人羊の子供の輪から一際大きな声で叫ぶ子供にふと目をやると、それは人間の子供であった。
しかも、何を思ったかこちらへ向かってくる。
「おぅ、どうした?」
「これ見て!
フュルーが作ってくれたんだ!」
子供はレイブンに向かい草花で出来た手首輪を見せていた。
「おお、スゴいな!
次はお前が作ってやりなよ!」
「うん!!」
走り去った子供の背中を見て背筋に冷たい物を感じながらゆっくりとレイブンに向き直ると、家から出てきた赤子を抱いた女性が目に入った。
「レイブン、どうかしたのか?」
「どうもこうもねぇよ、姉御が来たのさ。
蓮」
レ、レンって言った?
今、レンって言った!?
「おお、アテナか!
久しぶりではないか!
少し大きくなったか、いや、背の話だからな」
………………。
………………。
………………。
「はぁぁぁぁ!!??」
いや、確かにレンだ。
確かにレンだが……。
いやいや、それ、その胸に抱いてるの何!?
それにレイブンをお父さん!?
はぁ!?




