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episode 45 幻惑の森

 マグノリア王国を目指すあたし達は徒歩や馬車で十日程の道のりを進んでいた。

 地図によるとそろそろ国境付近なのだが、こかからの道は二手に別れ選択肢を迫られていた。


「ここから安全な道を行くとなるとかなりの日数がかかるけど、どうする?」


「安全じゃないって方はどう安全じゃないんだい?

 魔者の巣を突っ切るってのかい?」


「魔者もいるのは確かよ。

 けれど、厄介なのは(いにしえ)の森ね。

 別名『幻惑の森』ともいうところよ」


「あぁ、それがこの先にあったのか。

 噂には聞いていたが」


「流石はニールセンね。

 一度入ったら出るのは困難と言われている森なのよ。

 古代の魔術だか秘術だかで覆われているんだとか」


「その話は知っています」


「何か知ってるの?

 フレイ」


「ええ、聞いたことがあります。

 昔、亜人が人間と共にこの界にいた頃、魔の軍勢から住処(すみか)を護る為に術を施したと。

 それは誰であろうと目の前に欲を映し出しそこに繋ぎ止める術だと。

 多分ですが、神秘術(カムイ)と精霊を用いたのではないでしょうか」


「欲を映し出す、か。

 魔者だと食欲や殺欲みたなのもってことね」


「そうですね。

 ですので、魔者であれば隣にいる魔者が人間や亜人に見え、同士討ちしたりなんてことになるかと」


「そりゃあ出て来れなくて当たり前だわね。

 あたし達に関しては同士討ちなんてことはないでしょうけど、どうする?」


「欲、ねぇ。

 無欲な人間はいないと思うが、この中に欲望まみれなのはいないから大丈夫じゃないのかい?」


「オレは知識欲はあると思うが」


「それはそれでどうなるのかしらね。

 金欲だと金品が見えるって考えたら、ありとあらゆる書物が見えるのかしら。

 そうなったらどう?」


「幻惑だと分かっていたら抑えられると思うが。

 書物自体が幻想なら見る価値はないからな」


「確かに幻惑と分かっていて入るなら問題ないのかも知れないわね」


「その意見には賛成だね。

 旅路が短くて済むならそこを通っていいだろう。

 私もエマを追いたいしな」


「フレイはどうかしら?」


「私は……分かりません。

 ただ、伝承通りの術ならば耐性があるので効くことはないと思います」


「なら、行こうかしら。

 ミーニャは強欲とはかけ離れているから大丈夫よね?」


「はい。

 私はお嬢様と一緒に居たいとしか思っていませんし」


「決まりね。

 幻惑の森を突っ切って彼らの村、シーフルを目指しましょ」


 道筋は決まった。

 あとは地図を片手に森を目指す。


 そこはなんの変哲もないただの森。

 だが、何か嫌な違和感だけは身体に(まと)わりついていた。


「鳥の(さえず)りすら聞こえない森なんて物騒この上ないわね」


「ああ、見た目と中身が違う嫌な感じがするよ」


「オレの予測ではこの辺りはまだ大丈夫なはず。

 外敵から護る為に施されたなら森の中心からだろう。

 範囲も森全体には及ばないとは思うからな」


「中心から円を描くように一定の範囲にってことね。

 それなら今の内にはぐれた時の対策もしておいた方が良さそうね」


「皆さんは耐性がないと思うので幻惑が目の前で起こると思います。

 そうなり先に進んだ場合ですが方角は分からなくなるので、そのまま真っ直ぐに進むべきかと思います」


「まぁ逆戻りだけしないようにしたらまだマシかもね。

 幻惑にかかっても振り返って進むってことだけはしないようにってことね」


「おそらく後ろからも欲に関する何かが迫ってくるかと思いますが、それに構わず真っ直ぐ進むことが良いかと」


「もし、隣に仲間が居なくてもそのまま森を抜けて、森の外周で会いましょ。

 真っ直ぐ進めば半周以内で全員に会えるはずだものね」


「分かった。

 外に出たなら私とアテナだけで外周を回ろう」


「そうね、限定した方が良いかもね。

 あたしとテティーだけで探索して皆はその場で待ってて」


 みんな頷きはしたが誰も声を発することがなかったのは、肌で異変を感じたのだろう。

 あたしも森の雰囲気が変わり、まるで夢の中のような透明な感じを受けるようになっていた。


「来たようよ!

 何が来ようとも幻惑よ、惑わされず真っ直ぐにね!!」


 と言った途端、霧に包まれる。

 この霧さえも幻惑だとしたら本物と見分けがつかない。

 そして、周りには仲間の気配は一切なくなっていた。


「思っていた以上ね。

 こんなハッキリとした幻……」


 誰かの声が聞こえた気がした。

 どこか懐かしく仲間ではない声。

 胸を(くすぐ)る声の主は前方から聞こえた。


「……ナ…………テナ……」


 あたしを呼んでいる?

 あたしを知っている懐かしい声。


「アテナ……こっちよ……」


 霧の向こう側に人影が二つ映る。

 背の高い影とあたしと変わらないほどの影。

 声だけじゃない、見覚えのある近影(シルエット)にあたしの心は踊っていた。


「アテナ……愛しい子よ」


「……私の愛しい子……」


 ああ、そうだ。

 この声、この感じ、あたしの両親だ……。


「お父様、お母様!!」


 涙が溢れてくる。

 あたしは駆け出し間近でその姿を見ようと必死だった。

 やっと会えた、ずっと会えなかった両親に。


 ずっと会えなかった両親?

 何故ずっと会えなかった?


 それは……それは亡くなっているから。


 それに気づいたあたしの歩みは止まりその場に泣き崩れていた。


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