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episode 43 彼の正体

 ウィンシェス王国からハルベール王国へ戻ったあたし達は暑さにやられていた。


「寒いとこから来るとこんなに暑いもんなのね」


「普通なんだろうがね、本来は」


「とりあえずはこの服を売っ払って涼しげなのに着替えましょ」


 元々の着替えは持っていた為、仕立て屋で着替えるとそのまま厚着の物は金品に交換した。


「良し!

 涼しい涼しい。

 とりあえずこの国でフレイを連れてうろうろする訳には行かないから元の洞窟に行ってみましょう」


「そうだね、人相しか分からないんじゃぁね」


 あたし達は森へ向かいフレイの案内により洞窟へと辿り着いたのだが、特に変わった様子も無かった。


「ん~困ったわね」


「そうだろうね」


「エルフに敏感な街でフレイを連れ回すことも出来ないし、かといって名前も知らないんじゃ探しようがない、か。

 ……そういえば彼はさ、兵士に追われてたわよね?」


「ああ、おかげでエライ目にあったからね」


「お尋ね者?」


「可能性がない訳じゃないが、フレイは聞いてないのかい?」


「彼が悪さを?

 そんなことはないと思います。

 いつも身なりはしっかりされてましたし、届けて下さる食事も普通に調理されていた物でしたから」


「お尋ね者でそれは無さそうね。

 なら、何で兵士に追われていた?

 彼は一体何者なの?」


「お尋ね者でも無いのに兵士に追われる、そんな人……しっ!!

 誰か居るぞ」


 一斉に動きを止め洞窟の入口を注視するも誰かが入って来る気配は無かった。


「もしかしたら彼かも知れないわね。

 見て来るからここでじっとしてて」


 あたしは機会(タイミング)が良かったのかもと静かに森へと出た。

 しかし、外には誰も居ず、しばらく森を歩き回って見ると複数の金属音が聞こえて来る。

 それに気づくのが遅かった。


「居たぞ!」


「何!?」


「ようやく見つけたぞ、赤毛の女!

 捕らえろ!!」


「えっ!

 えっ!?

 ちょっ、ちょっと何、何よ!!」


 いきなり飛び掛かられ後ろ手にされたと思ったら口までも塞がれた。


「よし、これで任務完了だ。

 連れて行くぞ」


 金属音は兵士の軽鎧がぶつかる音であったのが今になって理解出来たのだが、それは歴としたハルベール王国の鎧であったことにこの後のこともすぐに理解出来た。


「ここに入ってろ」


 案の定、連れて来られたのは鉄の檻。

 あたしは人生で何度入れられるのだろうと溜め息と共に腰を降ろした。

 ただ今までと違うのが猿轡(さるぐつわ)を嵌められたまま後ろ手に縛られている点だった。


(これってどういうわけ?

 この国じゃこれが当たり前なのかしら。

 唾も飲み込みづらいったらありゃしないわ)


 慣れなのか待遇の悪さを気にする程気持ちに余裕があった。

 そんな時だった。


「いやいや、やっと見つけたよ。

 ずっと探していたんだ、アテナ」


「ふふーん!

 ふふふふふーんふふ!」


「何から説明したら良いのか。

 とは言え、説明している刻はないんだがね。

 それを外してあげるし、ここからも出してあげる。

 けど条件がある」


「ふふふんふふ」


「君は僕に質問しないこと。

 それに話すことには相槌だけを打って(にこ)やかに隣を歩くこと。

 これだけ守れるなら出して上げれる。

 どうだい?」


 睨み返しつつ色々と考えを巡ったが、どうやら従うことが最善手であると答えが出るとしぶしぶ首を縦に振った。


「よろしい。

 必ず守ってくれ。

 君の為でもあるし、仲間の為でもあるんだから」


 言いながら格子から手を差しのべ首の後ろへ手を回すと猿轡を解いてくれた。

 あたしはそのまま後ろを向くと両手も自由になり鉄格子から出ることになった。


「悪いことをしたね。

 でもこれしか手が無かったと理解して欲しい」


「ええ」


 一応は従いつつ笑顔で相槌をすると、そのまま牢獄から城の中へ出る事が出来た。


「彼女は君達と一緒かい?

 無事でいるのかい?」


「ええ、そうよ」


「なら良かった。

 あそこに戻ったということは君たちも僕を探していた?」


「ええ」


 遠目から見る分には良いのだろうが、あたしの作り笑顔は絶対にひきつっている自信があったのだが、すれ違う兵士らは特に不審には思っていないようだった。


「でも、どこにいるかも分からない。

 ましてや正体も知らず、といったところか」


「そうですわ」


「ただ、それは秘密。

 秘密があればあるほど興味が沸くだろ?」


 ちょっとイラッとした。


「それで、何故兵士達が君を探していたか。

 疑問だらけといったところだね」


「ええ、その通りで」


「それも秘密。

 どうだい、興味が沸いて出て来ないかい?」


 カチンときた。

 もぉ、今すぐ胸ぐら掴んで全て問いただしたい。


「とりあえず今は彼女が無事ならばいい。

 だが、これだけは伝えて欲しい。

 必ず迎えに行く、と。

 だから彼女を安全な地で過ごさせて欲しいんだが、出来るかい?」


 そんな急に無理難題まで押し付けて来るなんて、と思いつつも兵士だらけの王城で騒げるはずはなかった。


「ええ、良いですわね」


「ありがとう、頼んだよ。

 さあ、ここから先に出たら君は自由だ。

 行きたまえ、僕に出来るのはここまでだ」


「分かりましたわ」


 最後まで約束を守ったあたしは偉い、と自分を褒める他に感情のやり場がなく、そのまま王城を出るとすぐに森の中へ戻って行った。


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