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episode 41 幻獣の咆哮

 役目を終えたティル達とは別れ、王都ウィーネスの船着き場に着いたあたし達を待っていたのはやはり同じ船長であった。


「おお!

 これはこれは勇者アテナ殿!

 またしても船がご入り用だとかっ」


「船長、久しぶりだわね。

 って、ここで勇者とか言わないでよね、国との約束なんだから」


「しかしなぁ、歯痒いもんでさぁ。

 あれから何度も村と往き来して村人らも運んではいるものの、誰もアテナ殿の活躍を知らなんだ」


「あたし達は手柄を欲してるワケじゃないから良いのよ」


「これじゃあ真実を伏せる王国に不信感も抱いてしまいますぜ?」


「国民も今はまだこの国に英雄は要らないってことでしょ。

 必要になったら隠し通せなくなるんだから、それまでは良いの」


「流石に器が違いますなっ!

 ガッハッハッハッ!」


「それで?

 いつ出発出来るの?」


「お?

 いつでもイイですゼ!

 出発しやすかい?」


「お願いするわ」


 そうして竜の尾根島へ向かうと、前回よりも幾分天候の方は穏やかに感じた。


「前ほど荒れてないわね」


 雪の山道に変わりはないが、風がなくチラチラと雪が舞うだけだと歩き易さが遥かに違っていた。


「なんだかすんなりいって怖いくらいね」


「それだけ白竜(ホワイトドラゴン)も落ち着いているんだろ。

 楽に越したことはないさ」


「テティーもそろそろ分かってるでしょ、あたしとの旅路を。

 すんなり進むとこの後が怖いんだって」


「あははは。

 確かに何かあることの方が普通だものな」


「だからレディも飽きないからって旅をしてたのよ。

 あたしは何事もなく目的を達したいだけなのに」


「なのに危なっかしいから代わりに私を寄越したんだろ。

 今になって理由が一つ判明したよ」


「危なっかしいことはしてないつもりなのよ。

 ただ、成り行きがそうさせないだけ」


「それが幻獣の(ドラゴン)と対峙するんだものな、成り行きでそうなるってのはまぁ無いことさ」


「そうかしらね?」


「普通は無い無い」


「オレから言わせてもらっても無いことだと思うがな」


「何よ、ニールセンまで。

 あんただって色々と旅をしてきたんでしょうに」


「だから無いって言ってんだよ。

 竜だぞ、あの竜だぞ?

 どこでどうなりゃ二度も会いに行かなきゃならなくなるもんだか」


「それってあたしのせいじゃないでしょうに。

 事情が事情だからでしょっ」


「すいません、私の為に」


「フ、フレイは別に悪くないのよ!

 あんなところに隠れ住んでるなんて一生はムリでしょ。

 エルフの仲間だって心配してるでしょうし」


「だからと言って……でも……」


「イイのイイの!

 あたしが帰してあげたいだけなんだから。

 それに、これが上手くいけば他の亜人達も帰してあげれるかも知れないんだし」


「さぁ着くよ!

 竜のお出ましだよ」


 テティーの声に皆一斉に前を見据えた。

 一度会い敵意はないにしろ、やはり緊張が走るのは巨大な体躯による威圧感に他ならない。


「……娘よ。

 戻ったのだな」


ビリビリとするこの空気は幻獣ならではと言ったところだ。


「ええ、取り戻して来たわよ!

 ミーニャ、出して」


「はい、お嬢様」


「……ふむ。

 (まご)うことなき我が卵。

 よくぞ取り戻してくれた。

 それをこちらに」


「ええ、この辺りで良いかしら?」


 竜の腹の前に差し出すと、それに覆い被さりすっぽりと隠してしまった。


「これで我が子が(かえ)るのを待つばかり。

 して、我に望むものとはなんぞ」


「とりあえずは取り戻したから街を壊すのはしないで欲しいの」


「良かろう。

 二度はない、覚えておくが良い」


「それと、あなたの咆哮で亜人界に行けるようにして欲しいんだけど」


「それくらいは容易(たやす)い。

 だが、亜人界だけが開く訳ではない。

 全ての界と繋がるのだ、それでも構わぬか娘よ」


「!?

 ってことは魔界とも!?」


「そうだ、全てだ」


 それはそうだ、全て都合が良すぎた。

 ともすれば魔人が出て来てもおかしくないがフレイさえ帰せたら、と色々と頭を駆け巡った。


「……イイわ!

 このコが通ったらすぐに閉じて貰える?」


「容易いことだ」


「フレイ、分かった?

 空間が開いたらすぐに行って。

 あたし達のことは構わずに」


「……でも……私は……」


「別れの挨拶とかそんなのより、フレイが無事に帰れるのが本望なのよ。

 それに長く開いた分だけ魔人が出て来ることも有り得るんだから」


「……う……分かり……ました」


「良し!

 あなたと旅が出来て楽しかったわ。

 このことは忘れない、あたし達は友達よ」


「そ……それならっ!」


「いえ、イイのよ。

 元居た場所に帰ることが幸せだから。

 さぁ!

 いつでもイイわよっ」


「良いか?

 では、我が咆哮に耐えるが良い。

 ………………。

 ヴグオオォォォォォォォォ」


 野獣や魔獣、どんな生き物でも発した事のない咆哮が体を突き抜ける。

 それは言葉のあやではなく、心すら貫き立っていられない程に足をすくませると息も絶え絶えにさせていく。

 得体の知れない恐怖に襲われ雪上に両手を付くと次第に視界をも奪われていった。


(誰なの!?

 怖い!

 助けて!!

 誰もいないの!?

 暗い……何も見えない……止めて……苦しい……イヤだ……止めてぇぇぇーーー!!!)


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