episode 39 正義と悪
あたし達は来客として扱われると客間をあてがわれ、寝食を有意義に過ごすことが出来ると次の日を迎えることになった。
「あ、ティル!
どう?
説得は出来た?」
「あぁん?
あー、アテナか。
どうもこうもねぇよ。
理解はしたが納得はしてないってやつさ。
ただまぁ、他国まで介入した戦争になるくらいならってことで付いてくることにはなったがな」
「それでイイんじゃない?
何よりも内乱だけで手っ取り早く終わらせて死者が少ないに越したことはないんだからさ」
「それには大賛成なんだがね。
その為の手段にはレイラに先頭を切って貰うのが良いのさ。
現王派だとしても魔者と一緒に居れる兵士なんざ数少ない筈だからな、レイラに反旗を翻す象徴になってもらえたら大半は寝返ると踏んでるのさ」
「それだったら一つ忠告させてもらうわ」
「何がだ?」
「乙女心って複雑なのよ」
「は?」
「王女だってここまでなってしまったら理解はしてるでしょ。
でもね、頭で分かっていても心は反対しちゃうのよ」
「は?
意味が分からんな。
これ以上民が苦しまない為の反旗だろうに」
「そうじゃなくって。
そうなんだけど一人として死んで欲しくないのよ」
「現王のやり方じゃあ、いずれ第二第三のアルザドが増えて民が苦しむ一方なのは――」
「それも分かっているのよ。
だから納得出来ないの。
それがましてやお父様なら尚更でしょ」
「父や母だとしても間違っているなら力を持ってしても正さなきゃならないってもんだろうに」
「はぁ。
これだから男ってやつは……。
ま、今の言葉でティルが騎士候たる所以も分かったけどさ」
「意味が分からんね。
オレはオレが正義たることをするまでだからな。
皆が幸せならそれでイイじゃねぇか」
「行き着くとこは同じなのよ、手段がってだけなの」
「戦争、力でねじ伏せるってことが、か?
こいつは持論だが、戦争だ内乱だってどっちが正しいかなんてのは自身が決めることじゃねぇか。
どっちにも正義があってすることだろ?
オレは悪だ、だから戦争するぞ、なんて言うヤツに誰も付いては来ないだろうに。
そんなのはその辺の小悪党ぐらいなもんさ。
魔者だって人間に害を成す者だから悪と決めているだけで、魔者にとっちゃあ人間は魔者を狩る悪だって思っているかも知れねぇ。
ヤツらにゃヤツらなりの正義があるんだろうさ。
だから今回の様なことだって起こるんだろう」
それは確かに考えたことはなかった。
亜人とは仲良く出来ると思って接してきたが、魔者にも魔者なりの正義があるのならもしかしたら……。
「ま、そこは魔者に聞いてみないとだけど。
王が魔者と契約したってことを考えると、最悪は魔人戦争を越える戦争が起こり得るってことも」
「どういった思惑が両者にあるかだがな。
互いが利用する為の契約なら何とかなるが利害が一致しての協力だとすると、とんでもないことになるのは明らかだ。
その為にも早々に内乱を収める必要があるのさ」
「それを王女には言ったの?」
「いいや、言ったところでってやつだな。
それが剣を持つ理由にはならないさ。
魔者ならいざ知れず、魔者を使役する魔人なら話し合いにも応じると考えるだろうね。
全く、力が正義の現王の娘が対話が平和を生むと思っているんだからな、厄介極まりないさ」
「そんな彼女だから惹かれたってんでしょ。
だったら損な役回りに徹しなさいな、それで皆を幸せにしたら良いのよ。
さぁ、そろそろ頃合いよ、あたし達はいつでもイイわ」
「しゃぁねぇか。
じゃあ少ししたら行く。
砦の外で待っててくれ」
ティルは侵攻の手筈の打ち合わせとレイラ王女を呼びに行ったのだろう。
あたしも客間に戻ると皆を連れ出し砦の外で待つことにした。
「さて、これからなんだけど」
「ウィンシェス王国に行って船を借りるんだろ?」
「そうなんだけど、テティー。
簡単には行かないと思ってるわ」
「どうして?」
「どうもこうも卵があるから竜のとこに返しに行きたいって通じると思う?」
「ま、そいつはムリだろうな」
「流石ね、ニールセン」
「どうしてですか、お嬢様」
「どうしてって、こっそり白竜の所から卵を持ってきてそれを他国に渡してるのよ?
それを認めるワケはないだろうし、卵が外交として渡してたらそれこそアルザラート帝国とは決裂ってことで戦争の火種に成りかねないのよ」
「それが一般的な王国の考え方だな。
オレの予想では不可侵条約かそこいらの為の贈り物だと思うね」
「そゆこと。
んで、更にばつが悪いのはレイラ王女。
帝国から来て侵攻してくるな、協力してって頼みに行くもんだから内情がバレバレなワケよ。
それって疲弊した頃に襲ってって言ってるもんだわ」
「驚異を感じていた帝国が内乱、それで不可侵条約も破棄、いつでも侵略してくださいって言ってるもんか」
「テティーも海賊で同じ立場ならそう取るでしょ?
そういうことなのよ。
だからあくまでも卵のことは秘密にしなきゃならない。
それでいて船を借りる手筈を踏む。
中々に悩ましいのよ」
「でしたら、私がお話しましょうか?」
「フレイが?」
「私がエルフだと話すことが前提ですが大丈夫だと思います」
「……。
あまり知られない方が良いけど、白竜の所まで行ったらフレイは帰っちゃうから身の心配はない、か……」
「亜人である私と幻獣である竜が絡むことはさほど不思議には思わない、と思いますから」
「ならそうしましょうか。
王との話はフレイに任せるわね。
補足ならあたしやニールセンがいるから適当に上手く話してくれたら良いわ」
「分かりました。
……来たようですね」
振り返るとティルとレイラ王女、その後ろには馬車が二台向かって来ていた。
その馬車に乗りウィンシェスへ向かうこと一日、ようやくウィンシェス王国王都ウィーネスへ辿り着いたのだった。




