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episode 03 不老の魔女

 エマはゆっくりとテティーアンに顔を向けると不思議そうな表情で口を開いた。


「隠す?

 (わたくし)は何も持っていませんが?」


「剣をしまいなさいよ、テティー」


「いや、こいつは隠し事をしている」


 エマは小瓶に蓋をすると懐に隠し、ゆっくりと立ち上がった。


「隠し事とは何のことでしょう。

 これは研究材料として興味があるだけのこと」


 と言いつつも半歩下がり、あたし達から距離を計ろうとしている。


「さっきのその瞳の奥に宿した狂気、私は見逃さなかったよ。

 シラを切ろうってもムダなこと。

 私はそういうのを何度も見て来たからね!」


 そしてまた半歩下がると目を閉じ、エマには似つかわしく軽く両腕を広げた。


「不老不死という伝説はご存知ですね。

 老いらず死なないことがあるという嘘か真か分からない伝説。

 では、老いて死ぬことは無くとも傷を負った場合はどうなのでしょう。

 その苦しみは傷が癒えるまで続くということも考えられますし、痛みを知らないということも考えられます。

 不死の伝説には非常に興味深さはありますが、真に人が求めるのは若さ、即ち不老ではないかと(わたくし)は考えるのです。

 何かにつけて人は若さを求め、老いた者を排除する。

 貴女達には若さがあるので何も知らないと思いますが、国や店に仕え働くことさえも若さを求め、個人の持つ可能性には見向きもしないのですよ」


「何が言いたい?」


(わたくし)はそれに気づいたとき、生きることも死ぬことも怖くなくなりました。

 そして、何よりも老いることが怖くなったのです。

 老いることは死へ向かうことではなく、人が人を除外、排他する指標なのです。

 それが数百年とこの目で見てきた真実。

 この世界には人が歩むべき道を操る者達も居ますが、そんなことは老いて死ぬべき個人にとっては何の意味もなく、周りから爪弾(つまはじ)きにされることこそが最大の苦痛であると」


「エマ?

 今……数百年って――」


「ええ、そうよ。

 (わたくし)は悠久の(とき)を生きる者。

 そして、エルフもまた長き刻を生きる者。

 完全なる老いの克服にはエルフの存在は欠かせない。

 だからこうしてこの国に留まりエルフの所在を捜していたのよ。

 それがまさか、こんな形で見つかるとはね」


「あたし達を――いえ、アリシア達をも騙していたの!?」


「騙していたと言うなれば、そうかも知れないわね。

 まあ、アリシアには疑われていたからいずれは知られていたかも知れないけど、それよりも早くに知られることになるとは思っても見なかったわ。

 さすがは海賊上がりといったところかしらね」


「そんな褒め言葉は要らないな。

 それよりも不老になり何をするつもりだ?

 場合によっては」


 と、テティーアンは剣を構え直すが、エマはにこりと笑顔を浮かべた。


「ふふ。

 (わたくし)は世界をどうこうするつもりはないわ。

 単に人が人を排除しない世界にしたいと思っているだけ。

 それに賛同する者達が多くなれば建国も考えなくはないが。

 ふふふ。

 多少の犠牲があろうと大いなる事象に比べたら、犠牲にはならないのよ。

 ……おっと、(わたくし)を斬らないほうがよろしくてよ、異界の扉を開ける方法を教えることが出来なくなるわ」


「ちぃぃっ」


「ここから、北へ向かうと咆哮の峰があり、そこに巣くう(ドラゴン)なら扉を開ける事が出来るはずよ。

 竜の咆哮には特異な力が備わっているの。

 ただし、それを叶えるには貴方方(あなたがた)は耐え難い恐怖に打ち勝つ心がなければならないけれど」


「耐え難い……恐怖?

 それは竜の存在ってこと?」


「さぁて。

 そこまで教えるほど甘くはないわ。

 (わたくし)も暇ではないのでね。

 やることもありますし、経過観察の続きもやらなきゃならないですから。

 それではこれで……」


 と、話を打ち切る形でエマは笑顔を浮かべると何やら詠唱を口に出した。


「な、何をする気なの!?

 ちょ……あの話……?

 まさか!!

 エマ!

 あなた、もしかしてカルディアに、瀕死の女性に魔者の血が入った小瓶を渡さなかった!?」


「…………。

『我が肉体を包み込み浮かべた地へと想いを移せ』

 あぁ、渡しましたよ。

 知っているのですね。

 死にましたか?

 魔者にでもなりましたか?」


「彼女は――魔人王になったわよ!」


「それはそれは。

 厄介になりましたね、手に負えないようなら()む無しですね。

 では、これで――」


 言い終わるや否やエマの体に風が(まと)わりつき、それが消えるとエマの姿は洞窟内には見当たらなくなった。


「なっ!?

 なんなの、今のは……」


「あれは風の精霊術に似ていますが、多分人間の創った魔法『肉体転送(トランスファー)』でしょう」


神秘術(カムイ)瞬間移動(テレポート)は法円があるとこだけだったのに、そんなことまで出来るなんて。

 いや、それよりも……カルディアに渡したのがエマだったなんて……」


「ああ、あんな女だったとはだよ。

 しかし、これで私の目的はハッキリと見えた、カルディアの仇が彼女だってね。

 魔人王とのケリはレディが、カルディアの仇は私がする」


「テティー……。

 まさかの展開だけど、どうする?」


「今から追うとしても行く宛てもないからね、アテナについて行くよ。

 アテナの追ってるアリシアに追いつけば何か分かるかも知れないからさ」


「そうね、ありがと。

 で、そうねフレイ。

 色々巻き込んじゃってごめんね。

 一応は帰れる手段は聞いたけど、行ってみる?

 咆哮の峰とやらに」


「え、ええ。

 ご一緒させてください、お願いします」


「こちらこそよろしく頼むわ」


 フレイに手を差しのべ立ち上がらせると、またフードを被り直し周囲を気にしながら一緒に洞窟を後にした。

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