episode 37 バインと地下住民
木々を抜け庭を抜けると城門では兵士とティルの軍が未だ交戦していたが退却の指示が届いていたのだろう、しっかりと退路を確保しつつゆっくりと後退しているように見えた。
「お嬢さん方、この中を突っ切るよ!」
「むちゃくちゃなこと言うわね!
ミーニャを真ん中に入れて!
誰か守りの術でもお願い!」
「任せなっ」
「分かりました、一定の速さで距離を保って下さい」
あたしとテティーは両側に別れ前方は言い出しっぺのファーサに勝手に任せることにした。
「ミーニャはしっかり付いて来るのよ!
えぇい、邪魔よっ!
どきなさいっての!!」
唐突に後方から味方では無い者達が突っ込んできたもんだから、兵士達も浮き足立っているのが目に見えた。
「くそっ、引っ張るなってのっ!
通して通してー!
戦う意志は無いんだからぁ!!」
とは言っても簡単に分かって貰えるとは思っていないが、それだけを言いながら隙間をすり抜けていくとティルの軍をもいつの間にか過ぎ路地裏へと入ることが出来た。
「さて、お嬢さん方。
どこから出て来たんだい?」
「あー、と、えーっと、多分こっちよ」
頭の中を整理しつつ地下への入口がある路地裏を探すと、そこではアルバではなくバインが立っていた。
「え?
なんであんたが?
アルバは?」
「奴は先に帰した。
後はお前達だけだ。
テイルウイングからは何を言われた?」
「は?
あんたティルを知ってんの?」
「それよりもこの状況を説明しろ」
「なに、どういうことなの?
あー、とりあえず地下の人達も一緒にアルゴ砦へ逃げるわよ」
「……把握した。
では、付いてこい。
説明をしてやる」
梯子を降りたところから早歩きでバインに並ぶとさっきの答えを問い詰めた。
「オレは元より地下の住民ではない。
テイルウイングからここの者達の警護を頼まれたレイラ王女派。
だが、今の状況は撤退命令が出たのだな?」
「は?
あんた王女派だったの!?
ティルは一体いつから計画を立てていたってのよ……。
……えーっと、そう、撤退命令よ。
ティルが王と会って戦況が変わったらしいわ」
「彼が負傷したとでも?」
「いえ、まぁ傷付いてはいたけど、どうやら王と魔者が関わりを持っていたらしくてね」
「……噂が噂ではなかったということか。
ならばお前達の言うように、全てアルゴ砦に向かわせる必要があるな。
ここからは任せてもらう」
「それならそれで頼むわ。
……ねぇ、ファーサは彼が仲間だって知ってた?」
「いや、知らなかったよ。
私達は一介の駒に過ぎないからね、全ての駒を知る必要もないのさ」
「駒って、そんな……」
「私達を拾ってくれた恩人だからね、それくらい割り切ってなきゃ生きては行けなかったのさ」
「そう。
ま、人には色々な過去があるものよね。
それがあるから現在があるんだもの、深くは聞かないわ」
前を行くバインにも隣にいるファーサにも色んな事があったのだろう。
そういった事がなければ反乱に参加をしていなかったのは容易に考えがいった。
「ヴェルサム、ここを放棄する」
「バイン?
どういうことだ?」
「あー、あたしから説明した方が良いかしら?」
「今すぐ全ての住人をアルゴ砦へ」
「そんな説明じゃ分からないでしょうに!
良くまぁそれで王女派としてここを任されたもんだわ。
……に、睨んでも埒が明かないからあたしが説明するわよ」
「バインは口下手でな。
アテナ、頼む」
「急を要することなんだけど、今上では王女派と国王派に分かれ内乱が起きているわ。
本来であれば王女派が滞りなく事を進めて国を制圧するハズだったんだけど、どうやら王は魔者と結び付きを持っていたらしく、王女派は撤退を余儀なくされたのよ。
んで、反乱を起こしておいて撤退するもんだから、アルザドの住人である貴方達にも危害が及ぶと発起人であるテイルウイング卿がアルゴ砦で匿うと判断したのよ」
「……なにやら騒がしいと思っていたが、そんなことが……。
……いや、いずれ起きた事が今だったという事かも知れないな。
では、我々は卿の言葉に甘えさせてもらおう。
表立って言えることでは無かったが、我々とてレイラ王女の考えに賛同していたのだ、何か出来ることがあるならば力になろう。
今は逃げることしか出来ないのであれば、いつか戻れる日が来るのを待ち望もう。
バイン、アルバと共に全員を中央広場へ、オレから話すことにしよう」
「分かった。
急いだ方が良い」
「えーっと、あたし達は目的を達成してきたけど、テイルウイング卿と約束があるからアルゴ砦まで護衛させてもらうわね。
腐街の外で待ってるから、準備出来たら直ぐにでも」
「ああ。
各々準備もあるだろうが出来る限り急いで向かうことにする。
何から何まですまないな」
「成り行きよ、成り行き。
それじゃ待ってるわ」
その場にヴェルサムを残しあたし達は地下を出るとアルザドの外壁の所で警戒しながら待つことにした。
ティルの軍が退いてしまった後、少ししたらアルザドに兵が送られるだろうことを予期してのことだ。
そうなる前、ティルの軍が退いてしまう前にアルザドを出るのが完璧なのだが、兵士達の喧騒が程なくして耳に届いて来たのだった。




