episode 35 帝国の野望
レイラ王女の居た塔とは反対に行き外へと出る。
外壁に沿うようにし兵達にも気を配りながら急ぎ足で付いて行くとテティーが声を掛けてきた。
「どうして魔者だと思ったんだい?」
「何か怪しいとは感じてたのよ」
「どの辺りが?」
「地下に魔者が居たじゃない?
そもそも、何で城下町の地下になんか魔者がいるのかってね。
それも閉じ込めてるようにさ。
あれじゃまるで見張り番みたいなもんじゃない?」
「確かにね、今思うとおかしいね」
「でしょ?
魔者を飼ってでもなきゃあんなとこにいるのはおかしいのよ。
じゃなきゃ一応の脅威なんだから討伐して、代わりに兵を見張りに立てるのが普通でしょうに。
それを堂々とあそこに入れておくには何か理由があるんだろうなってね」
「それでティルが襲われたのは魔者だと勘づいたって訳か」
「そういうこと。
ただ分からないのが竜の卵に仔竜騎士団、それらがあるのにどうして魔者までいるのかってことよ。
力だけならどちらかがあれば周りの国々にも示せるはずなのに、両方を欲してるこの国の狙いが何なのかってね」
「確かにね。
どちらの力を持っていても周囲からは脅威と見なされるだろう。
違いと言えば、竜の軍団なら自衛の為、魔の力なら進行の為、と取られるってことにはなるが」
「でしょ?
そこに来ての両方……。
まさかとは思うけど、侵略を開始する為の力……」
「有り得なくないとは思うが、卵はウィンシェス王国から運ばれたんだろ?
なら、和平の為の送り物だったんじゃ?」
「それで仔竜騎士団が攻めて来たってんなら問題にはなるだろうけど……。
もし魔者が攻めて来たとしたら……」
「それは……。
誰の、どこの差し金かなんて考えもしないだろうな」
「多分、答えはそこだと思う。
計画までは想像出来ないけど、魔者が攻めてきたと言われても知らぬ存ぜぬで通せるし、不可侵を締結していたとしても助ける筋合いは無いと言えばそれまでだからね」
一介の旅人が策を練るのとは違い、国が練った策であればこれ程までに大きな事であっても不思議ではないと思う。
「だからこそ、アルザドを復興させるのではなく壁を造り切り捨てた、と。
そんなことより街を強固にする為に、ってか。
えげつない国だな、ここは」
「ま、そんな国は探せばいくらでも有りそうだけどね。
あたしの居た帝国だって酷い搾取が行われていたって話だから」
「海に居た者としてはどうにも窮屈な話ばっかりだな」
「それが嫌で海賊に成らざるを得なかった人もいるでしょ、多分。
陸地ってそんなものなのよ。
中には民を思いやる国もあるけどさ」
と話したところでファーサは曲がり角の所で止まり、口に人差し指を当てあたし達に静かにするようにした。
「何?
どうしたの?」
「いや、あそこが見えるかい?
あれが竜舎だよ。
警備が多いね。
それに慌ただしく動いてるようだし」
「それで?
どうするの?
作戦か何かあるんでしょ?」
「いや、今の見立てでそれは崩れたね。
あの数は私一人でバレずにどうこう出来る数じゃないから」
「どうしよっか」
「人は斬りたくないんだろ?
中々に難しいこと言ってくれるよ、お嬢さん方は」
「あの?」
「どうしたのフレイ」
「この辺りでしたら木々もあるので魅了の精霊の力を借りることは出来ますよ」
「それってどうなるの?」
「魅了の精霊は相手を魅了し草木を身体に絡ませ身動きの取れないようにします。
どのみち幻惑に捕らわれているので身動きはしませんが」
「どうやらそれがお嬢さん方には良さそうだね」
「そうね、それで行きましょ。
ただ、ここまで連れて来ないとならないってことでしょ?」
「草木がないとどうしようも無いですから」
「分かった。
なら、フレイはその準備をしといて。
あたしとファーサ、テティーが引き連れて来るわ」
「もし殺しちまったら許してね」
「出来る限り殺さないで欲しいけど。
なら、行くわよ!」
あたしを先頭に角を飛び出るも兵士が中々気づかず、暗がりでも人の気配が感じる所まで近づく他無かった。
そして、剣を構えながら竜舎がはっきりと見える位置まで行った所でようやく一人の兵士が槍を構え出した。




