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episode 33 密偵

 運の良いことに走り抜けた廊下では誰にも出会うことなく武器庫近くまで辿り着いたのだが、曲がり角から覗くとそこには衛兵が二人しっかりと立っていた。

 

「どうするの?」


「どうするもこうするも、()るしかないだろうに」


「んー、それは……どうにかならないかしらね……」


「こいつは戦争だよ?

 敵対するなら――」


「分かったわ、あたしがなんとかしてみるから隠れてて」


 戦争で、すぐ外にはティルの軍がいるのだ、これを利用しない手はないだろうと一つ考えついたことを実行に移す。

 曲がり角を慌てて出ると、衛兵に向かいいかにもを装い走って行った。


「はぁはぁ、大変よ!!

 はぁ、外は大変なことに!!」


「は!?

 誰だお前は。

 それに大変とは」


「あたしはテイルウイングの招き人(ゲスト)

 それよりも!!

 外に、外に武装した集団が――」


「何!?

 それは本当か!?」


「本当よ!!

 確かめてる暇なんてないわよ!

 急いで隊長なりなんなりに連絡して!!」


「こ、こいつは……」


「テイルウイング卿のお知り合いとあればウソではあるまい。

 この場は放棄して行くぞ!」


「早く行って!」


「言われるまでもなく。

 ご令嬢は安全な場所へ」


 槍を構えていた衛兵は二人とも慌てた様子で廊下を走って行った。

 向かった先が皆とは反対方向なのも相俟(あいま)って、何とか無事にやり過ごせた。


「やるじゃないか」


「無駄な争いはしたくないからね、ファーサ達だって無駄に手は汚したくないでしょ」


 感心した様子のファーサに笑顔で応えると、武器庫の扉へ手を掛けた。


「選り取り見取りだね、こいつは」


「テティーも扱い易そうなのを手早くね。

 あたしはこの辺りかしら」


 テティーは曲刀をフレイは十字弓(クロスボウ)を手に取るが、フレア達はこぞって短剣(ショートソード)を見定めていた。


「そんな短いので良いの?」


「なんならもっと短い短刀でも良いくらいだよ。

 私らは暗殺の方が向いてるからね」


 そういえば密偵だと言っていたなと思いだし納得して見せた。


「ここはもう良いかい?

 さっさと王女の元へ行こうか」


 武器庫を出ると若干騒がしいように聞こえ外を覗いて見ると、城門付近で争いが行っていた。


「仲間が来たようよ、急ぎましょ」


 あたしは促すとリリが先導して皆を導いてくれた。

 城内の兵達は外に出たらしく、あたし達は西塔へと辿り着く。


「やはり、ここは兵士が残っているね」


「どうするの、フレア」


「あいつらはレイラ派じゃないね。

 だとすると、することは一つ。

 まぁ見てな。

 お嬢ちゃん方の手は汚さないよ」


 そこまで言われて理解出来ないはずもなかった。


「他に手は?」


「無いね。

 なんたって王女の自室がある塔だからね、動かすことは出来ないさ。

 それに、これは戦争。

 割り切るしかないよ。

 行くよ、ファーサ、リリ」


 三人は散り散りに草木に隠れながら塔の傍まで移動すると、何かを放る仕草を見せた。

 すると、五人の兵士が一斉に塔の上へ視線を向け、次の瞬間、二人の兵士は首元を抑え倒れ込み残った三人が辺りを見回す。

 それも束の間、一人が太ももを抑え地面に膝を付くと、木の影からフレアとリリが飛び出し各々兵士に向かって行く。

 が、剣と小剣がぶつかり合うと、遅れてファーサが膝を付いた兵士を踏み台にし跳ぶと、二人に何かを投げ付ける。

 瞬く間に塔の前に居た兵士五人は動きを止め、フレアはあたし達を手招きしていた。


「全員殺しちゃったのね……」


 近づいて見ると一目瞭然で、首や顔に短剣が刺さり明らかな致命傷であった。


「こいつには猛毒が仕込んでいてね、刺さったらおしまいなワケさ」


 ファーサは踏み台にした兵士から短剣を抜き取ると頼んでもいない説明をしてくれた。


「なら、早いとこ行きましょ。

 あたしは死体を眺める趣味はないから」


 強がりだった。

 人が目の前で息絶える、それは仲間ではなく敵だとしても気分の良いものではなかったから。


「そうね、これを登ったら王女がいる。

 ティルを待たせないように急ぐよ」


 扉を開けると長い螺旋階段が上まで続いていて、それを駆け足で上りきると扉の前に兵士が居たことで咄嗟に剣を抜き放った。


「大丈夫、彼らはレイラ派さ」


「おお、テイルウイング卿の。

 何やら騒がしいと思いましたが、この時が来たのですね」


「そういうこと。

 お嬢ちゃん達は一応味方ってことね」


「ではでは。

 レイラ王女、レイラ王女。

 来客が参りました。

 いかが致しましょう」


 兵士は扉をノックし王女に問い掛けると、少しの間を置いて中から女性の声が聞こえた。


「分かりました。

 では、お入り下さい。

 我々は下で待っております故」


 王女の自室の扉が開かれ、フレアとあたしが並んで足を踏入れる。

 そこには大きなソファと煌びやかな装飾で部屋を華やかにさせ、奥の方で質素な格好の女性が佇んでいた。


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