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episode 30 愛ゆえに

 出て行った女性達を見送った彼の顔は満面の笑みを浮かべていた。


「どういうことよ」


「んあ?

 こっちの話だ――が、あんたらにも手伝って貰おうか」


「手伝う?

 それより正直に話したんだから見逃してくれるんでしょ?」


「見逃す、とは言ってないがなぁ。

 まぁなんだ、あんたらの目的を聞いておこうか。

 事の次第によっちゃぁ交換条件ってことにもなるしな」


「交換条件?

 なんだか良く分からないけど、目的を話したら手を貸してくれるってことで良いのかしら?」


「この街でのことなら大概のことには手を貸せるからな。

 なんたってオレはこの国の騎士候だからある程度なら介入が出来る。

 どうだ?

 取引に応じられそうだろ?」


「テティー、どう思う?」


「言動からして敵意はなさそうだし、信用しても良いんじゃないかい?

 彼の手伝いって話も気になるからね」


「分かったわ。

 ……あたし達は(ドラゴン)に頼まれて竜の卵を取り戻しに来たのよ」


「ほぉ!

 そいつはそいつは」


「疑わないのね」


「疑うも何も、卵の存在を知るのは限られた人しかいないからな。

 この国の上層部と取引国の偉いさん方。

 取引国が取り戻そうと思っても卵の存在は言わないだろうからな。

 それに国から雇われてんなら、腕利きの盗賊に頼むはず。

 こんな嬢ちゃんらが昼間に卵を探しに来るわけがないね。

 なのに、知りえるはずのない卵の存在を知ってるとなりゃ、その話、信じない訳にはいかないってな」


 この人、この一瞬でここまで考えが及ぶとは並外れた洞察力を持っていることを物語っている。


「なら、手を貸して貰えるってことかしら?」


「あぁ、こっちの手伝いもしてくれんなら卵の場所まで案内するさ。

 なんたって、騎士候だからな!」


「その騎士候さんが何だって国の重要な物を奪う手伝いなんかを?」


 ニールセンの言うことは最もだ。

 国の為に遣える騎士ならば国の損益になることに手を貸すのは不自然というものだ。

 それよりも、さっきから騎士としては不自然な言動ばかりしている。


「そいつはオレのすることに手を貸してくれるなら、その程度のことはなんてことないからな」


「それって、何を手伝うっていうのよ」


「そいつはな……この国に反抗する手伝いをしてもらうのよ」


「!?

 それって!

 内――!!」


 大きな声で内乱と言いかけたところで男に口を塞がれた。


「まだ大声で言っちゃならねぇ。

 そ、内乱を起こす」


 片目を瞑っ(ウィンクをし)てお茶目を装っているが、大それたことを言っていた。


「なんだってそんなことを。

 あんた騎士なんでしょ?」


「紛れもなく騎士候だが?

 この国には王女(プリンセス)がいるんだがな、第一王女は現王の政治を引き継ぎ、武力拡大を望んでいる。

 そして、第二王女は穏健派。

 武力よりも民を第一に思う心穏やかな人だ。

 これが何を意味しているか分かるか?」


「ん~、あたしに分かるのは戦争が起きても良いか、戦争を起こさないようにしたい二人としか」


「ま、だろうな。

 そんなもんだろう。

 現王の施政ってのが軍備増強拡大で領土を拡げたいと考えているんだ。

 それがこのまま続けばどうなる?」


「ま、いづれは隣国と戦争、もしくは制圧になるわよね」


「それでいてこの帝都はどうだ?

 街の一部を切り離し、裕福な者だけが暮らす街。

 他の街だってそうだ。

 一つの城砦は巨大な牢獄兼見世物すら造っている始末だ。

 そんな国にいてほくそ笑んでいる奴らにはヘドが出るね。

 それに比べ、第二王女は全ての民が笑って暮らせる国にしたいと願っている。

 人としてどちらが正しいか、想っているか考えるまでもないだろう」


「ねぇ、一ついい?

 あんた……第二王女のこと好きでしょ」


 あたしの言葉に男は目を丸くし、少し口を動かすが声になっていなかった。


「な、なんで分かった!?」


「いや~なんとなくよ。

 女の勘ってやつね」


「そ、そんなことは今はどうでも良いだろ?」


「どうでも良くないわよ!

 愛してるの!?」


「あ、愛、してるが」


「なのに、さっきは女性を三人もベタつかせて」


「あ、あれは、その、あれだ」


「あれとは何よ」


「彼女らはオレのことを気に入ってくれているし、内乱のことにも賛成しているオレのお抱えの密偵でだな……」


「それ、第二王女が知ったらどう思うかしら。

 愛してるって言う男が他の女とイチャイチャ。

 信じられるかしら?」


「お?

 おぉ……そ、そうだな。

 確かにそうだ」


「なら、男として誠意を見せてあげなきゃ。

 あんたは第二王女の為に内乱の先頭に立つんでしょ。

 それくらいの覚悟、誠意くらい見せれるのかしら?」


「当たり前だ。

 彼女が笑顔でいられる世界にするのがオレの役目だからな」


「よし!

 だったら手伝うわ。

 あたしも愛ってのを確かめる旅に出てるんですもの」


「良いのかい、アテナ。

 内乱だぞ?」


「大丈夫よ、テティー。

 ちょっと手伝うくらいなら国から追われる身にはならないと思うわ。

 これで交換条件成立ね。

 なら自己紹介といきましょうか?」


「良いだろう。

 オレはテイルウィング。

 ティルと呼んでくれて良い」


「オッケー、ティル。

 あたしはアテナ。

 そっちはテティー、同じく剣を扱うわ。

 それで、そっちは魔法組のニールセンにフレイ、真ん中はあたしの友達のミーニャよ」


 紹介が終わるとティルは手を差し出し、それにあたしは応える形でがっちりと握手した。

 自分の目的が霞むほど彼の愛を応援したい気持ちが勝っていたが、それをどうにか抑え次の手筈を聞こうと考えるようにした。

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