episode 29 豪快な男
梯子を登り地上へ出るとアルバに金品を渡し、あたし達は街へと繰り出した。
「さて、どうしよっか」
「そうだね、卵は城の敷地内だと思うからとりあえず遠目からでも見に行ってみるかい?」
「そぉね、先ずはそこからでしょうね」
あまりうろうろしても怪しまれるだろうとさっさと済ませると《暖食亭》と掲げられた酒場で席に着いた。
中には数人しか居なかったが、入ったそばから目を引いたのは派手な毛皮の外套を羽織り女性三人を侍らせている若い男性だった。
ニールセンとあまり変わらない若さの割に、テーブルに足を乗せ大きな態度で酒を浴びている姿は豪快そのものであった。
「さて、テティー、ニールセンはどう見る?」
「忍び込むには手段が無いように思うね」
「同感だな。
先ずあの警備態勢は普通の国とは違うしな。
それに城壁に穴は無かったから正面から行くしか無いように思う。
ただ……」
「ただ?
何よ」
「魔法を使えばどうにかなるかもって感じだな。
オレだけじゃなくフレイの精霊術も含めてだがね」
「それは最終手段としておきたいわ。
なんたって寿命を削ることになるんだから。
それに、出会ってから大分魔法を使ってるんだからこれ以上は、ってね」
円卓を囲みあまり声が響かないように静かに話すのは、商売の話をしてると思わせるのに適している感じがする。
「では、どうする?」
「フレイはどう見た?」
「そう、ですね。
恐怖の精霊であの場にいることを恐がらせるか、草木があったので魅了の精霊に働きかけるのが手だとは思いますが、見た限りは兵士が兵士を監視している感じもありましたから、それだけで突破出来るとは思えませんね」
「フレイが単独でもムリがある、か。
……さて、どうしたもんだろうね。
手詰まり感がハンパないんだけど……ん~」
「何か城に運び込むことがあれば、それに紛れるとかも考えられるけどねぇ」
「そうなのよ、あたし達はこの街を知らな過ぎるのよね。
かといって――」
「そんな悠長にもしていられないってな」
「ここまで来て……。
このまま手が浮かばなかったら闇夜に紛れて魔法を使ってもらうしか――」
と言ったところで横から人の気配を感じ首を上げると、奥にいるはずの派手な男が近くで様子を伺っていた。
「何か御用かしら?」
あくまで商人の一行だと思わせる為に丁寧に、そして少し高い声で問い掛ける。
「ははぁ~ん?」
顎を擦りながら近寄ってくると席の間に入り込み小声で呟いた。
「あんたら、この国の者じゃねぇな?」
早速バレた!?
胸の高鳴りを抑えながら一呼吸置く。
「いえ、あたし達は商人で色々と持って来ただけでこの国には住まわせて貰ってますよ」
「はんっ!
そんなことは良いのさ。
正直に話してくれたら聞いてやるが、話さないならば城に突き出すまでってことよ」
その言葉に違和感を感じあたしの中に言葉を落とし込むと、言っていることがおかしいことに気づいた。
「余所者だと言わなければ突き出すと?」
「ほぉ?
まぁ、そういうこった」
どういう了見なのか見当もつかず、正直に話すか、話さず城に行くか、表情に出さないように二択を瞬時に考えた。
正直に話したところでどうなるのか想像はつかなかったが、城にさえ行ければどうにかなるようにも思ったが、最悪武器を取られ猿轡もされたら成す術が無いように思え、ここは安全策が無難だと答えを出した。
「あ~、はいはい。
あたしの負けね。
良いわ、正直に話すから突き出さないって約束はしなさいよね」
「オレが約束を破るような男に見えるとでも?
ははっ!
そんな軽い男に見えるってのかい?」
ツッコミどころ満載な言葉を間に受けツッコミそうになったが、今は敢えて受け流すことにした、今は。
「だったら話すけど?
……そぉね、ちょっと席替えをさせてもらうわ」
まだ信用の置けない男の左右にあたしとテティーが陣取り、術者とミーニャはあたし達と少し間を開け対面に座らせた。
「さ、これで満足かい?
オレとしちゃ話してくれんなら何もしないんだがね」
「念のためってやつよ。
……あたし達はちょっとこの国――というより帝都に用があって忍び込んだってわけよ」
「ホントか!?
他の国から来たんだな!?」
「あまり大きい声出さないで。
他の国ってわけではないんだけど、旅をしててちょっとした用事が出来たのよ」
「………………」
「急に黙り込んで何よ」
「ホントだったんだな……。
いや、こっちの話だ。
それなら待ちに待ってたってやつだ!」
言い終わるや否や席から立ち上がり振り返った。
「おいっ!!
今がその時のようだ!
手筈通り進めてくれっ」
振り返った先に居た女性三人に声を挙げると、口元には笑みを浮かべていた。
そして、女性達はコクリと頷き徐に店を出て行った。




