episode 28 閃きの一手
視線を合わせたら死ぬなんて一体どうしたら良いのか考える前に、人丈ほどのある鶏のような魔者の胴体だけを見つめていた。
「どうする、テティー?」
「短剣じゃ近づくしかないが、咬まれても駄目だと難しいね」
視線はお互いに合わせ、なるべく鶏竜翼蛇を見ないようにしているが相手はそれを黙って見ているほど優しくはなかった。
「ちぃぃ!!」
突っ込んでくる魔者の嘴を寸でのところで横に跳び躱すも、テティーとは離れてしまう。
「一体どうしろってのよ!?」
「アテナ!
私が引き付けておくから、何か手を」
「んなこと言ってもっ」
横から近づこうにも羽ばたきにより近づくことは困難で、後ろからでは蛇になっている尻尾で威嚇をされている。
「何か……。
目を合わせなきゃ良いんでしょ……」
思い浮かんだ手立ては二つ。
背中に乗り移り短剣を突き立てる、又は、一か八か投剣で致命傷を与えるか。
「ムリだわ、どっちも。
隙が無い……隙が」
と、思ったと同時に無いなら作れば良いと閃き一つの手が思い浮かんだ。
「テティー!
合図で短剣を胴に投げつけて!!」
「武器が無くなるが良いのか!?」
「大丈夫!
なんとかしてみせるわ!」
視線を合わせることなく嘴を掻い潜るテティーはまさに踊っているかのようだった。
あたしは翼が届くギリギリの距離を保ったまま魔者の動きに注視していると、一瞬こちらに首を捻ったのを感じた。
「今よテティー!!」
視線を躱しテティーが短剣を投げたのを確認すると、翼を横切り大きくその場から跳んだ。
「てぇいやー!」
胴体に短剣が突き刺さると鶏竜翼蛇の頭が上を向く。
頭の位置さえ分かれば顔を斬り付けるの容易いと踏み、目があるであろう顔に短剣を二振りしてみせる。
「ギョゲゴゲギョー」
何とも気味の悪い鳴き声を上げた鶏竜翼蛇を着地と同時に見てやると、上手く視界を塞ぐことが出来たのが溢れた緑色の体液によって確認出来た。
「でぇい!」
テティーの投げた短剣を素早く引き抜き床を滑らすと咄嗟にその場を離れた。
「しぶといわねっ!」
あたしが居た場所は嘴で何度も突っつき、首を振るっては奇声を放っている。
「やるじゃないのさ」
「それは息の根を止めたらね。
後は嘴にさえ気をつければ」
無尽蔵に翼をはためかせては首を振るい、近づくことは困難になっていた。
「アテナ、テティー!!
その場を離れろ!」
背中からニールセンの叫びが聞こえ、考えるよりも体が動いていた。
「……火炎小弾!」
何事かと振り返るとニールセンの魔法のようで、小さな火の礫が毒去蛙もろとも鶏竜翼蛇をも焼き付けた。
「今だわっ!」
「行けるよ、アテナ!」
「でぃぁあ」
よろけた魔者の首を背後から斬り付けると同時に、テティーが正面から斬り付けていた。
お互いの視線がぶつかると考えていることを察しそのまま前後から首を切り落としにかかると、鶏竜翼蛇の首の中で硬い物同士がぶつかり合った。
それ以上進まない短剣に重みを感じると、首がずるりと刃を滑り落ちた。
「やったか!?」
首は床に転げ落ちたものの、胴体は未だ二本足で支えられ尻尾の蛇がこちらを見ていた。
「こっちもなのね!!」
すかさず翼を踏み台にし上段から振り下ろすも素早い蛇の動きを捉えることは出来なかったが、これは想定内で真の一撃は下段から付け根を狙った振り上げだった。
「ぜぁっ!」
スルリと入った刃は緑色の体液を撒き散らし、魔者はよろめくと横倒しになり痙攣を起こしていた。
「はぁはぁ……。
もう起きてこないでよね」
「やったじゃないかアテナ」
「それはお互い様よ」
テティーと手のひらを頭の上で弾くと、後ろを振り返った。
「ニールセン、フレイ!
そっちも終わったのね」
二人に近づくとちょっとした異臭が鼻を突く。
「毒の臭いだが、オレ達は大丈夫だ」
「無事で何よりです」
「やっぱり、あんた達二人は強いわね」
「フレイの機転とオレの寿命のおかげってやつだな」
「悪かったわね、酷使させちゃって」
「いーや、これもミーニャの為になるんだ、命は惜しまないさ」
「はぁぁぁー!
お熱いこった。
ミーニャ、アルバ、片付いたわよー!」
声が届いたらしく二人は足早に向かってくる。
「お嬢様っ!
良かったです、お怪我は?」
「無いわよ。
あたしだけじゃなく、全員何も無いわよ。
ま、えーと、その、なんだ……」
口ごもるあたしにミーニャは首を傾げて瞳を大きくしている。
「ニールセンは寿命を削って魔法を使ってくれたから、ね。
何か言ってあげなさいな」
それには笑顔で頷くも、ニールセンの方を向くと少し眉間に皺を寄せていた。
「また魔法を使ったんですね。
仕方ないとはいえ、もっと命を大事にして下さいっ」
誰もが労いの言葉をかけるのだろうと予想していたのでミーニャに視線が降り注いだ。
「お、おう。
そう、だな。
次からは出来る限り知識で戦うことにするよ。
心配かけたな」
「全くです。
お嬢様といい、ニールセンまでそんなんじゃ私の身が持たないです」
「いや、あたしは――」
「まぁまぁ、皆無事で何よりってね。
それよりも早く行かないと出てから探してる暇なんてなくなっちまうよ?」
アルバの言ったことは最もだったことで皆に笑顔が戻り、頷くとこの場を後にした。




