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episode 25 地下の住み処

 雑音がするようになって来ると人とすれ違うようにもなり、やがて広場のような場所に出た。


「ここが我らの住む中心だ。

 大体の寝床にはここから辿り着けるようになっている。

 さぁ、こっちだ」


 言われるがままに付いて行くと、板で覆われた小屋のような所へ入って行った。


「ここが集会所のような場所になる。

 くつろいでくれたら良い。

 温かい飲み物でも出そう」


「え?

 あ、ありがとう、頂くわ」


 ヴェルサムが奥へ行くと、黙ったままのアルバとバインを目の前にしてどう接したら良いか困ってしまう。


「ヴェルサムがこの街を取り仕切ってるってことで良いのかしら?」


 どちらに対して言ったわけでもなかったのが良くなかったのか、二人は顔を見合せ沈黙を貫いている。


「いや、別になんてことない、ただ聞いてみただけだから誰が応えても良いのよ?」


「リーダーと言えばそうかも知れないけど、仕切ってるというか(まと)め役みたいなもんだよ」


 ようやく口を開いてくれたアルバは声の感じからして、あたしよりも若い印象を受けた。


「なら別に仕切ってる人がいるってこと?」


「そうだね、仕切ってるっていうと――」


「これ以上は話す必要はない。

 オレはまだ信用していないからな」


 アルバとは対照的に静かに冷たい物言いのバインは、話を遮るとまた黙ってしまった。


「……信用、か。

 ま、そりゃそうよね。

 どこの者とも分からない人にここのことをあれこれとは簡単に言えないわよね。

 どうするテティー、信用だって」


「どうするって言われてもな。

 それを証明する手立てはないからね、私達の目的を話す以外は無理なんじゃないかい?」


「別に話すのは良いんだけど、巻き込みたくないってのがあるのよね……」


「待たせたな。

 これくらいしか出せないが、体を暖めると良い」


「ありがとう、ヴェルサム」


「それで?

 少し聞こえて来たが、オレ達を信用させる(すべ)がないのだとか?」


「ええ、目的を話すからそれで信用してもらうしかないんじゃないかって」


「オレだけが信用していても仕方ないことではあるからな。

 それにバインは自分なりにここを守ろうとしてくれている。

 そこは分かって欲しいところではある」


「それくらい十分理解しているわ。

 沈黙がツラいから雑談をしようとしただけよ。

 あたしが言いたいのは、あなた達を巻き込みたくはないけど、目的を果たせなければこの街は愚か、この地方一帯が消滅する可能性があるってことなのよね」


「何か重いものを背負っているようだな。

 ならば、手を貸すくらいならしてやっても良い。

 ただ、バインも納得出来るよう目的を話して貰いたいものだな」


 テティー、ニールセンと一瞥するとどちらも軽く頷いた。


「分かったわ。

 あたし達は(ドラゴン)の卵を探しているの。

 というのも竜から頼まれたことで、卵が盗まれたので返して欲しいって。

 出来なければ……人間達と争うことも厭わないってね」


「それは帝国で飼い慣らしている仔竜(ドラゴンパピー)のようなものか?」


「いや、文献で仔竜は知っているが大きさは三……いや五倍かそれ以上だと思ってくれていい」


「あたしが剣で傷つけたのだって小指程度だったのよ。

 あんなのが街に吐息(ブレス)をしたら一瞬で壊滅だと思うわ」


「そいつは……。

 その卵とやらは帝国にあるのか?」


「それが確実ではないから確かめに行くんだけど、推測で言ったら間違いなく帝国にあるわね」


「帝国が進めている竜騎士団(ドラゴンナイツ)の要というわけか。

 これで帝国の動きとも合点がいったなバイン」


「帝国の動き?」


「ああ。

 急に始まった街の閉鎖。

 そして同時に厩舎付近への衛兵増員。

 更に仔竜乗り(ドラゴンライダー)の人員を増やし、食糧その他の物資搬入が多い割には仔竜自体を増やしてはいないんだ。

 それはまだ見ぬ竜の存在を示していると言っても間違いではないだろう」


「もしかしてさ、街の閉鎖が始まったのって晴れる日が無くなってすぐじゃない?」


「どうだろう、気にしてはいなかったが閉鎖された頃からは確かに晴れることはなくなったな」


「それもどうやら竜の咆哮のせいでそうなってるらしいのよね」


「……では、お互いの話でいよいよ確信が持ててきたようだな」


「間違いないわね。

 ここまで分かったなら忍び込むでも何でもするしかないと思うわ」


「どうだ、バイン。

 これで手を貸しても損はないんじゃないか?

 竜に襲われたらこの街は壊滅じゃ済まない、全滅だと思うしな。

 アルバはどうだ?」


「オレは最初から信用してたぜ?

 この姉ちゃんらは正直に生きてる匂いしかしねぇもん」


 ね、姉ちゃん……。

 そんなに年が離れているとは思えないのに?


「ちょっ、ちょっといいかしら?

 アルバって言ったわよね?

 姉ちゃんってさ、あたしはあんたとそんなに変わらない気がするけど?

 んん!?」


「おっ!

 怒った顔も可愛いじゃないか姉ちゃんは」


「姉ちゃん、姉ちゃんってね、あたしはアテナ!

 姉ちゃんっていうのはもっと年が離れた人にいうのよ!!

 例えばテティーにとかさ」


「年上なんだろ?

 だったら姉ちゃんじゃん。

 何も変わらないよ」


 こんガキが!


「まあ、アテナ。

 アルバのことは許してやってくれ、悪気はないんだ。

 こいつは口こそ悪いかも知れないが腕は立つんでな。

 これから役に立つと思うから気を悪くしないでくれ」


「んん、ヴェルサムがそういうなら。

 役に立たなかった煮るなり焼くなりさせてもらうからね」


「ヴェルサム!

 オレ焼かれるってよ!

 こいつらおもしれーな」


「クソガ――」


「やめなってのアテナ。

 大人の対応だ、大人なのな」


 テティーに宥められ我に帰ると心の中で『大人になれ大人になれ』と何度か呟いた。


「言葉のあやも理解出来ない子供が本当に役に立つと?」


「アテナ!

 挑発してどうするんだい」


「いや、大人ってこういうもんでしょ?」


「そ、そいつはちょっとズレてるな……」


「お互いの言い分は分かった。

 では、帝国へ潜入する手筈を考えようかと思うのだが?」


「あれが大人」


「お、おう」


 テティーの言いたいことがちょっと理解出来た気がした。

 が、腹の虫が治まったわけではないのも自覚していた。




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