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episode 24 腐街アルザド

 男達は何も持っていないので、あたし達としても武器を構えることは出来なかった。


「何の用?」


 ぐるりと見回しながら誰ともなしに声を発すると、一人の男が一歩前に出た。


「あんたら余所者だな?

 何しに来た?」


「何って……別にここに用があるんじゃなく、帝都に入りたいだけなのよね」


「帝都に?

 どこの国の者だ?」


「どこの国?

 いやいや、あたし達は国から命じられて来たワケじゃないのよ。

 単なる旅人ってやつ」


「本当か?

 帝都に何の用がある?」


「それは……ちょっと言えないけど、まぁ調べ物があってね」


「オレ達に危害が及ぶことか?」


「それは多分ないわね。

 及ぶとしたら帝国にってところかしら」


「本当だな?」


「ええ、ウソは言ってないわ」


「……よし、分かった。

 解散だ、解散!

 こいつらは大丈夫だろう」


 男の号令で各々が散り散りに去って行くと、目の前には三人だけ残った。


「ここはどこだか分かるか?」


「どこって、見た感じは帝都にある腐街(スラム)ってところだろうけど、何か違和感があるのよね」


「帝都に入れずにこっちへ来たと見て良いんだな?」


「そうよ。

 一つも入れてくれる気配がなくってね」


「よし、良いだろう。

 付いてこい」


 男達は(きびす)を返すも路地裏へとどんどん入って行く。

 高い建物はあっても至るところが崩れ、今にも崩れてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。

 その中でも入り口が崩れている建物に沿って歩くと、吹き抜けになっている小さな窓から中へと入って行く。


「ねえ、どこ行くのさ」


「……あんたらに知って欲しいのさ、この街が、帝都が何なのかをな」


 振り返ることもなく応えると二階三階と階段を上り一つの部屋へと入った。


「ここがこの街で帝都が一番見えるところだ。

 見て見ろ」


 半壊している窓から覗き込むと、高い壁の向こうには綺麗な街並みが見えていた。


「あれが帝都アルザラ。

 そして、壁を隔てたこちらが棄てられた街アルザド。

 分かるか?

 腐街との違いが」


「違いって言うと……普通は壁なんか無いはずよね?」


「ああ、そうだ。

 戦争からの名残りで復興出来ていない貧民層が住む所、名声、富、権力により住むことが許されている富裕層との二つが一つの街で分かれているのが普通だ。

 だがな、帝国は、帝都は壁を造り完全に二つを分けた。

 街の一部を棄てたのだ。

 我々が居るにも関わらずにな。

 それが意味することは分かるな?」


「別の街になったってことでしょ?

 すると食べ物も何も自分達で何とかするしかなくなるわね。

 かといって、他の地に行ったところで代価も無いだろうし、そもそもこの寒空の中をまともな服も無しに旅に出れるわけもないってこと……か」


「ああ、だから離れることも出来ず、寝床は地の中。

 この状況で帝国が憎くないわけはないだろ」


「それで?

 これをあたし達に見せてどうするの?」


「帝国に何か仕出かすならば、我々も手を貸す。

 どんなことになろうが今より悪くなることはないからな」


「虐殺とかが起きなければだけどね。

 ……あなた達の気持ちも状況も分かったから、お言葉に甘えてみようかしら」


「良いのかい、アテナ」


「ぶっちゃけて言うと、富裕層の人間よりもこっち側の人間の方が信用は出来るのよね、経験上。

 それに、いつ飢えや寒さで死んでもおかしくない人達ってそれなりの覚悟があるから危険を惜しまないのよ。

 その点で言ったらあたし達だって同じだし。

 利益じゃない未来の為の行動なら誰も首を横に振らないでしょ」


「アテナが分かってるなら従うよ。

 それで、どうする?」


「我々の住まう所へ案内しよう。

 私はヴェルサム、こっちがアルバ、そっちがバインだ」


 無精髭さえなければ爽やかな好青年と呼べるであろうヴェルサムは、背丈はあたしほどのやんちゃそうな少年をアルバと、黒髪の長い髪を後ろに束ねた無愛想な男をバインと紹介してくれたので、こちらもそれぞれ紹介を済ませる。


「では、案内しよう。

 ここの地下から行けるから付いてこい」


 ヴェルサムとアルバを前に一階まで降りると奥まで進み、窓もない部屋で瓦礫を少しずらして見せた。


「ここが入口だ。

 階段は暗いから気をつけてくれ」


 瓦礫に隠されていた鉄板を持ち上げると、人一人分の階段が地中へと続いている。

 順番に一人ずつ入って行くも灯りは下に見えるだけで、一番後ろにいるバインが鉄板を上げているおかげで光が射し込んでいるだけだった。


「思っていたより暗かったけど、下は明るいのね」


 とは言ったもののしっかりした灯りは少なく互いの表情までは分かりづらいほどであった。


「まだここは暗いほうだ。

 ここからは迷路のようになっているから、出入りは誰かと一緒が良いだろう」


「分かったわ。

 でも、どうして迷路みたいに?」


 階段から降りた通路は三人は余裕で並んで歩けるほど広くなっていたが、迷路のようにしている意図が見えなかった。


「この街に帝国兵が来ることはそうそう無いんだがな、帝都の北と南に流れる下水路から繋げて造ったことからそうなった。

 水路から大体中心の位置に我々の住まう場所がある」


「なるほど。

 身を隠す為じゃなく生活の為にってことなのね」


「そういうことだ。

 迷子になるから離れるなよ」


 そうして歩いていくと徐々に明るくなり、人が居る気配も段々としてき始めていた。

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