episode 22 竜の卵
少し考えているようにも見え、あたしは白竜の返事を待った。
「……しばらく前の話ではある。
突如として姿を現した人間どもに我が卵を奪い去られた。
その卵を取り返してきた暁には汝らの望みも叶えようではないか」
「竜の……卵?」
「ああ、そうだ。
幾星霜を経てようやく産み落とした卵を人間どもは奪い、逃げて行った。
だがな、人間どもと争うこととなれば我とて無傷ではいられず、哀しみの咆哮を上げることしか出来なんだ。
それ故に同じ人間同士の汝らが取り戻してくれることを望んでいる」
「ま、まぁ、そういうことなら。
あたし達もお願いしたいことがあるんだから、交換条件ってことよね。
それなら何か特徴はなかったの?
盗んだ人のさ」
白竜は首をゆっくり下げ前足を曲げると戦う意思はないと示したようだったので、ミーニャらも近くに来るよう手招きした。
「特徴……か。
彼らは数十の数で奪って行った。
服には皆、同じ紋様を付けていたが」
「大人数か。
盗賊団かしらね」
「そいつはどうだかな。
大規模な盗賊団ってことになるけど、船が無ければ来れない場所にわざわざ来るもんか疑問だね」
海賊であったテティーの話には説得力があった。
「そうなの?」
「それなら普通に考えたら海賊ってことになるさ。
船を調達して盗賊やるなら、いっそ海賊として徒党を組んだ方が良いからね。
それに盗賊が船を持っていたら、いつ海賊に狙われることか」
「なるほど。
だとしたら、海賊?」
「いや、その線は薄いだろうね。
こんな雪山で竜の卵を盗んだところで価値が見出だせないだろうな。
海賊は基本的に金銀財宝が目当てさ。
それが竜の卵ってのはどうだろうね」
「価値……か。
それに同じ紋様の服……。
まさか?」
「私もそれに同意だね」
「だとしたら一体どの国――」
「多分ね。
寒さにも慣れて船もある。
船自体も雪や氷に対応してるだろうから、その国が一番怪しいだろうさ」
「国にとっても孵化した竜を手懐けられたら戦力になるってことか。
それなら話は早いわ。
船に戻りましょ!
船長なら何か知ってるかも知れない」
「どうやら何か掴んだようだな。
では我は静かに待つことにしよう。
だがな、我が仔が孵る頃になっても戻って来なければ、命を賭としても人間を根絶やしにするつもりであることは忘れるな」
「良いわよ!
やって見せるわ。
待っててくれたら必ずここに来るから」
「頼んだぞ、人間」
威圧感を増した物言いにそれなりの覚悟を竜から感じ、人間達の為にも必ず取り返して来なければならない使命感に捕らわれながら雪山を下って行った。
帰り道は風も弱まり雪がちらちらと降るほどだったことを踏まえると、どうやらこの現象には白竜が関係しているのではと考えるようなっている。
「船長、ただいま!
待たせたわね」
「おお!!
無事で何より!
流石は恐れを知らぬ勇者殿だ。
して、目的は果たせましたかな?」
「いや、ね。
竜には会えたんだけど、ちょっとした交換条件になって目的は果たせてないのよ」
「ほぅ、交換条件ですか。
そいつは一体どんなことで?」
気さくな船長の言葉に全て話してしまいそうだったが言葉を飲み込み、どうにか概要だけ伝わるよう考えた。
それは、船長が国に属しているからであるのと同時に、不用意に巻き込みたくなかったからだ。
「あまり話したくはないんだけど、いつかここから船で何か運んだってことはない?」
「ん?
そいつはあまりに抽象的な」
「詳しくは知らない方が良いし、運んだ物があるなら教えて欲しいのよね」
「この山からですか……。
オレらがここから運んだってことがあるのは氷くらいでさ。
氷が何かあるんで?」
「いや、氷なら特に平気よ。
だったら、何かそんな話は聞いたことない?」
「んん~~…………。
あっ!
随分前の話になるですがね、オレらとは違う船団がここに来たって。
それで一つの箱を持ち帰って来たんでさ。
そうそう!
その後ですよ、村が魔者に襲われ始めたのは」
「何だか色々見えて来そうね!
多分だけど、その箱があたし達の探さなきゃならない物で……あー、分かったわ!!
それでその箱は?」
船長の話と竜の話が線で結ばれ、あたしは確信を持った。
「城へ持って行ったのは聞いたんですが、その後のことはさっぱりでさぁ。
何かマズイ物だったんですかね?」
「ちょっとどころじゃないくらいとでも言っておくわ。
あまり詮索しないのが身の為でもあるから」
「勇者殿が言われると背筋が凍りますわ。
雪国だけあってですが……わっはっはっは」
「い、今のは笑うとこなのね……。
そしたら、あなた達は王都に帰るんでしょ?
あたし達も一緒に王都まで頼めるかしら?」
「ええ、御安い御用でさ。
では、早速出発と行きますか!」
船長の号令により進路が王都ウィーネスへと向けられると、与えられた船室で皆に分かったことを伝えた。
「やっぱり盗み出したのはウィンシェス王国。
そして、魔人が現れたのは白竜の嘆きの咆哮」
「お嬢様、どういうことでしょう?」
「王国が盗んだ理由は分からないけど、戦力増強か何かに利用する為に卵を盗んだ。
それに嘆いた竜は咆哮を上げた。
それは異界との扉を開き魔人を呼び込んでしまった、意図せずにと言ったところでしょうけど」
「なるほどな。
ならば、王都に戻って箱の在りかを探るか?」
「流石はニールセン、飲み込みが早いわね。
多分、王に進言しようにも知らないの一点張りで追い返されるでしょう、だったら兵士や街の人に聞いて回るしかないってことよ。
孵化するまでは絶対に公にはしないでしょうからね」
「それは良いが、聞いて回ったところで何も掴めなかったらどうする?」
「テティーの言うこともその通りで、何も掴めない可能性が高いと思うわ。
何せ城の中に隠してるとなれば。
そうなれば……まぁ忍び込むしかないのよね……」
ミーニャだけならともかく、この場にいる全員が呆気にとられ口が開いたままだったのは、城に忍び込み捕まれば斬首刑なのは明白だったからであろう。




