episode 01 処刑
王の前に引き出されたあたし達は後ろ手を縄で縛られ、ここまで来る間に抵抗した手首の痛みを失うほどの言葉に耳を疑うことしか出来なかった。
「はぁ!?
処刑って!?
何よそれ!!!」
「陛下の御前である!
無礼であるぞ!」
片足を一歩踏み出し前のめりな体勢で不満をぶちまけるも、玉座の隣に立つ老齢の男が制止の声を上げた。
が、あたしにそんなことはお構い無しだった。
「無礼もへったくれもないわよ!
いきなり人を縛り上げて理由も無しに処刑って、そんなことが罷り通るわけないでしょ!!
誰が納得するってのよ!!!」
「貴様ら場を弁えよ」
「場所とかそんなのどうだって良いのよ!
理由一つも話さないなんておかしいって言ってんのよ!!」
あまりの理不尽さにあたしはどんな顔をしているのか自分でも分からないが、視線だけは王から逸れることはなかった。
「我に二言はない。
その者達を牢へ連れて行け」
王は肩肘を玉座につけ拳に顎を乗せたまま、表情一つ変えずに淡々とした口調で兵士に命令を下した。
「はっ!!」
「いや、あんた達も『はっ』じゃないわよ!
痛い痛い!
待って、待ちなさいっての!!」
「待っていただけますか。
陛下、少しよろしいでしょうか?」
突然の言葉に兵士が動きを止め、王へと顔を向けると縄を引く力を緩めた。
あたしは兵士の視線を辿って行くと、どうやら声の主は老齢の男の反対側に立っていたフードを目深に被っていた女性だった。
「部外者の私が口を挟むべきではないと思っておりますが、どうにかあの方達を自由にさせたく考えております」
「……何故に?」
「これからのことも考えて、とでも申しましょうか。
赤毛の彼女は剣を下げておりましたが、まだまだ子供。
あちらの女性はどうやら海賊上がりと見受けられます。
そして、可愛いらしい彼女はどうみても普通の女性。
一見おかしな編成ではありますが、単なる旅の者ではないかと思います。
それ故にどこでどの様な者と接触しているのか分かりかねますので、あまりに理不尽なこととなりますと国への弊害になるやも知れません。
それと単純に、ルハルト殿下に頼まれたとも考えられますから」
「……ふむ。
……では、特使の連れの者の頼みとしてならば聞いてやろうとは思うが?」
「はい。
それで結構でございます」
「良いだろう。
……そやつらは自由に。
すぐに城から連れ出せ」
「はっ!」
兵士は敬礼するとあたし達の縄を手早くほどき、大きな扉へと誘導しようとし出した。
「ちょっとお待ち下さい。
あなた方と少しお話がしたいので、街の追想の茶亭で待って頂けませんか?」
兵士に従い王へ背を向けようとした瞬間、フードの女性が不意に話し掛けてきた。
「え?
あ、良いわよ。
それならあたしからも言いたいこともあるから待ってるわ」
「ありがとう。
では後ほど」
フードの下から僅かに見えた口元は微かに笑みを浮かべているようで、悪い人ではなさそうな印象を受けた。
兵士に連れ添われ城門まで辿り着くと一礼をされ、足早に城内へと戻る背中を見送った。
「さて、と。
一応は無罪放免になったわね」
「ああ、どうなることかと思ったがね。
ミーニャなんて震えていたもんだから、気が気じゃなかったよ」
「すいません。
唐突なことで怖くなってしまいましたので」
「良いのよ、それが普通の反応だと思うわ。
にしてもよ、なんだって急に処刑なんて話になったのかしらね」
「ああ、全くだよ。
私が海賊上がりだからとも思ったが、そうではなさそうだったしな」
追想の茶亭に向かいながら意味の分からない処罰に首を傾げながら並んで歩いて行く。
森に立っていただけで捕まるなど、一緒にいた男性が相当なことをしでかしたとしか思えないが、兵士に一緒のところを見られた訳でもなかったことがより謎を深めていた。
「あった、あそこね」
街の中心であろう場所に構えた茶亭は、酒場と違い落ち着いた様相の造りになっていた。
「あたしとミーニャはこれを頼むわ。
テティーはどうする?」
「私も同じで良いよ」
注文に訪れた給仕に果実茶を三つ頼むと、程なくしてグラスを三つテーブルに置かれた。
「にしても、何であたしらを助けてくれたのかしらね」
「あの女性かい?
理由も何も彼女も理不尽と思っただけかも知れないね。
どうやら、この国の人間じゃなさそうだったから進言出来たとも思えるしな」
「確かにね。
国の人間じゃあ王に楯突くことにも成りかねないもんね。
ま、おかげで助かったとも言えるから良かったわ。
でも、何であんなところにいたのかしら、エルフ」
最後の一言だけは周りに聞こえないように声を潜めた。
「あぁ。
そして、あの男。
悪いヤツじゃなさそうだし、匿っていたのは確かだが、何もあんなところにって感じでもあるね。
普通なら宿でも良さそうなもんだしな」
「耳さえ隠しちゃえば何とかなりそうだものね。
洞窟ってのはやり過ぎな気もしなくはないもの」
そこまで話した所で、あたし達のテーブルに近づく影が視界に入った。
「先ほどは大変でしたね」
「あ、いえ、こちらこそありがとう。
さぁ座って――っ!?」
立ち上がり椅子を引いて促すと女性はフードを取り長い金髪を靡かせたのだが、その容姿はあたしが知っている人物だった。