episode 18 別人格
瞼はまだ開けてないが、胸は等間隔で上下に動いている。
そして、ミーニャのかざした手のひらから光が消えると、そのまま項垂れピクリとも動かなくなった。
「ミーニャ!?
ねぇ、ミーニャ!!」
呼び掛けようにも肩を揺らそうにも全く応じることなく、あたしの疑問は大きくなっていくばかりだった。
「う、うう……。
オ、オレは……」
「ニールセン!!
無事なのね!」
「オレは確か……」
頭を抑えたかと思うと破れた胸元に手を当て、手のひらを眺めている。
「そうよ、胸元を貫かれて半死だったのか死んでいたのか分からない状態だったのよ」
「あ、あぁ。
オレの記憶は……氷の欠片が飛んできて……。
ミーニャの前に出――ミーニャ!!」
ニールセンが名を叫ぶとミーニャが唐突に顔を上げた。
「ニ、ニールセン?
ニールセン……生きて……生きてるんですね……」
ミーニャは無事を確認すると一粒一粒と涙がこぼれ落ちた。
「ミーニャも無事だったんだな。
庇っただけあって……良かったよ、生きていてくれて」
「ミーニャは無事だったけど、あんたが死にそうだったのよ!
ったく、心配させるのもいい加減にしてよね。
ただ、ホントにミーニャを助けてくれたお礼はしなきゃね」
「お礼?
そんなものは……。
ミーニャを守り抜くのが約束だったからな。
っとととと」
ニールセンの手を引っ張り立たせようとしたがふらつき、片膝を雪の上に付いてしまった。
「ムリしない方が良さそうね。
血が廻りきってないんでしょ多分」
「どういうことだ?」
「あんたは氷に貫かれて血を吹き出しながら倒れていたの。
それをミーニャ、いえ、ミーニャではない誰かが溢れた血を体に戻したのよ」
「ミーニャではない?」
「いや、あたしにも分からないわよ。
ミーニャがしたことなんだけど、言葉、外見、雰囲気、全てがミーニャではなかったのよね」
「わ、私がニールセンを?」
「ま、こうなるわよね。
今までも魔法を使ったときの記憶がないんだもの。
そ、ミーニャがやったのよ。
今度は魔法でも神秘術でもない何かしらの術を使ってね」
「何かしらの術、ですか?」
「そ。
どっちでもない言葉だったし、フレイも精霊術ではないって言うんだから。
それに、ミーニャとは言えない別の誰かなのよね。
思い当たることはある?
無いとは思うけど」
「私の記憶はニールセンが血を出して倒れて、慌てて悲しくなってもう何が何だか分からなくなって。
後は、特に今までも何かあったなんてことはないんですが」
「そうよね、そんなもんよね。
また今度、ミーニャが変わったら誰なのか聞いてみるしかないわね。
さ、とりあえず報告に戻りましょ。
あ、そういえば、あの魔人もミーニャがやったのよ。
一応教えておくわ。
それじゃ行きましょうか」
驚いたままのミーニャを放っておき、隊長の元へ魔人討伐の報告へと足を向けた。
しかし、あれは一体誰だったのだろうか。
ミーニャには別の人格『レーヌ』という名の者は存在しているが、その者が魔法や得たいの知れない術を使ったというのも無い話ではない。
ただ、過去にレーヌが現れた時の雰囲気とは似ても似つかなかった。
そして、胸元の痣の広がり。
ミーニャには隠された何かがあるとしか思えないが、ミーニャ自身を疑うのは違う気もしている。
こればかりは刻を重ねるしかないのだろうか、それとも何か掴める事があるのか、一人考えながら歩いているといつの間にか村の入口まで近づいていた。
「あれ?
ルイーダ達は?」
「ん、んー。
あれか?
あれがそうじゃないかい?」
魔者に奇襲をかけた村の入口付近から随分と離れたところに黒い塊が見えていた。
「どうしたのかしらね。
ま、一応待ってくれてるみたいだから行きましょ」
黒い塊を目指し歩いて行くとそれは人影であり、部隊がそこに陣取っていた。
「ルイーダはいる?」
「おお!
よくぞ戻ったな。
して、その様子だと――」
「ええ、魔人は討伐してきたわよ。
消滅しちゃったもんだから首を持って来ることは出来なかったけどね」
「では、あの黒っぽい火柱のようなものが?」
「そう、あれで姿形が無くなってしまったわ」
「やはりそうか。
我らも後退しながら応戦していたが、あの火柱があった後、すぐに魔者達は砕けたり散り散りに逃げて行ったからな」
「そうだったのね。
それで被害はどうなの?」
「うむ。
負傷者は出てしまったが、死者は誰一人としてな」
「さすがの手腕ってとこなのね。
それで?
王にはどう伝える?
竜の尾根島に行きたいって話なんだけど」
「それでは我らから陛下に伝えるようにしよう。
そなたらは砦で待つが良い。
竜の尾根島ならば船を出す他手はないからな、砦に伝令兵が到着後村へ向かうことになろう」
「ありがとう、助かるわ。
じゃあ砦に行きましょう、みんなも疲れきってるから」
ルイーダの指示の元、隊と一緒に砦へと戻ると食事を取りすぐに眠りについた。