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episode 17 黒紫の炎

 あたし達と距離が取れたことで雪女(スノーレディ)はゆっくりとミーニャ達へと近づいていく。


「えぇい!

 なんて走りづらい!!」


「仕方ない、急ぐしかないんだ!」


 ミーニャ達もゆっくりとではあるが後退りしているが、走って逃げないのはさっきの跳躍を見たからだろう。

 あたし達と離れ過ぎないよう、けれど魔人とは距離を取る最善の策ではある。

 少しずつ魔人の背中が近づくと、急に振り返り腕を振るう。


「今度は何よ!!」


 離れている分だけ攻撃を見定めて避けようと思ったが、飛んできたのは強風と共に(あられ)があたしの体を叩きつけた。


「いだだだだだ」


 顔を覆うだけで精一杯の飛礫(つぶて)は嫌がらせにしか思えなかったが次の瞬間、熱風が辺りを包み込んだ。


「ニールセン!?」


 魔法を使ったのだろう、魔人を取り囲むように広がった炎はその姿さえ隠している。


「こんな魔法……ニールセン大丈夫なの……」


「行こうアテナ。

 今が合流する機会(チャンス)だ」


「ええ!」


 炎は周りの雪さえも溶かし円を描くよう回り続けている。

 熱くて近づけない為に大回りでミーニャ達の元へ急いだのだが、その炎の熱気は瞬時に氷の遮蔽物へと様変わりし出した。


「なっ!?」


「バカな!!

 あの熱気で生きているうえに凍らせるだって!?」


 あたしとテティーは驚きのあまりその場に立ち尽くすしかなかった。

 すると、ここまで響き渡るひび割れる高音が耳を突くと氷に大きなひびが入り、割れると同時に氷柱(つらら)の矢となり四方八方へと飛散する。


「おわーっ!

 えいぃ!!」


 風の加護が弱まっているのか剣で弾きながら多少なりとも(かわ)さなければならなくなっていた。

 一瞬のうちに終わった氷柱の矢、そこで見据えたミーニャ達と高笑いしている魔人。

 何事かと思うと、ミーニャの前で立つニールセンが膝から崩れ落ち仰向けになって倒れた。


「ニールセン!?」


 真っ白な雪の絨毯に色が染まっていく。

 脳裏に浮かんだニールセンの決意は目の前で成されたのだと気づいた時には走りだし、ミーニャ達と魔人の間まで後少しのところまで来ていた。


「あんたの相手はあたしなのよ!!」


「ふふ、ふはははは!

 言っただろぉ?

 魔術師を先に、と。

 あははははは!!」


「くそっ!

 あたしの目の前でまたこんなっ!!

 でぁぁぁー!」


「ふっ。

 氷漬けじゃないのが残念だがねぇ。

 くふふふ。

 ミーニャ!

 ニールセンはどうなの!?」


 あたしの初撃をひらりと躱すとまたも吹雪を作り出したので一度離れミーニャに肩越しで叫びかけた。


「ミーニャ!?

 どうしたの!?」


 ミーニャからの返事は全くなく、ニールセンを抱えたまま(うつむ)いている。


「ええい!

 生きていて頂戴よ!

 テティー、二人で行くわ」


「分かってるよ!」


 テティーと二人で斬りかかるも一歩届かずに避けられてしまい、これといった攻撃もままならずにいると雪女は突如として横に吹き飛んだ。


「何!?

 どうしたの!」


 フレイかと思い振り返ると立っているのはミーニャだった。

 しかも、ニールセンの傍にいるのではなくあたし達のすぐ後ろに立っていた。


「ミーニャ!?

 ミーニャがやったの!?」


 返事をするわけでもなく俯き加減で手を伸ばしているだけだった。


「我が眠りを妨げたのは重罪に当たる……。

 滅せよ魔人ごときが……」


 ミーニャとは違う声で透き通り緊張感の走る声。

 それなのに重くのし掛かるような重圧感を伴って、聞いたことのない言語で呟き始めた。


「ひっ!

 な、なんなんだい!

 あの小娘は……あの小娘の魔力は一体なんなのさ!!」


 起き上がった雪女が顔を強張(こわば)らせ小刻みに震えている。


「テティー、なんだかヤバそうよ!

 ミーニャ!!

 どうしたの!?」


「我が前で朽ち果てよ!!」


 急に顔を上げたミーニャの目は真っ赤に染まり、腕を伸ばした瞬間、魔人は黒紫の炎に包まれた。


「ぎゃぁぁぁ!

 なんだい、なんだいこの炎は!!

 凍らない、凍らない凍らない凍らない

 ぎゃぁぁぁ、か、体がぁぁぁ」


 立ちながら動き回るも黒紫の炎は消えることはなく、魔人の体を消していく。

 その様子に炎と呼べるのか定かではないが、燃やしているのではなく見た通り体を消していっていた。

 残り僅かになった体を二階建ての建物ほど大きくなると全てを包み込み一瞬で消え去った。


「な、なんだったの、あの炎は……」


「炎のようでそうでないもののようだったね。

 まさか燃やし尽くすのではなく、消してしまうとは、ね」


「まだ哀しみを抱く理由は……あの者を治癒せというのか……」


「ミーニャ!?

 ミーニャじゃないの!?」


 あたしの呼び掛けには一切応じず、ニールセンの方をずっと眺めている。


「ミーニャじゃないにしてもニールセンを助けてくれるの!?」


 言葉と視線であたしは悟り、ミーニャの手を強引に引っ張りながらニールセンの元へ駆け寄った。


「まさか、もう……」


 胸を貫かれ酷い出血に息をしているようには思えなかった。


「助けられるなら助けてよ!

 ミーニャ!!」


「我が哀しみの元凶……死すべき者を助けねばならぬというのなら仕方ない……お前も我が一部ならば」


 小さな声で語りかけるのはあたし達にではないのだろうと黙って見ていると、ニールセンに手をかざし聞き慣れない言葉の羅列を口にし出した。

 それに呼応したのか、ニールセンから流れ出る血は逆流し体へと戻っていき、傷口が無数の泡で隠れ徐々に小さくなると体に空いていた傷が見事に塞がっている。


「こんなことって……」


「蘇生の術なのか?」


「精霊術でも神秘術(カムイ)でも蘇生は出来ないですよ。

 死んでいなかったか、もしくは神の直接な力でなければこんなことは……」


 フレイの言ったことは分かるが、今までミーニャは魔法は使ったが神秘術は使ったことはないし、使えるとも思えない。

 だとするとこのミーニャは一体……。

 そんな疑問を抱いてミーニャを見ているとニールセンが大きな一息を吐き、呼吸をし出した。


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