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episode 16 猛攻

 屋敷の庭に植えられていた一本の木に火が灯ると、瞬く間に燃え広がり大きな松明(たいまつ)と化している。


「あ、熱い!

 熱いじゃないのさっ!!」


「この気候があんたに有利なら当然のことをしたまでよ!

 行くわっ。

 消される前に畳み掛ける!!」


「気をつけろよ、アテナ。

 どんな攻撃か分からないからな。

 ……しかし!!

 ここが正念場、私の前に(ひざまず)かせてやるよっ!」


 あたしとテティーは両脇から走りだす。


雪女(スノーレディ)は吹雪を得意としている!

 距離を縮めるんだ!」


 ニールセンの声を背中に受けると勢いのまま真横に剣を振るう。

 しかし、それは軽々と後ろへ飛び退き(かわ)されてしまうが、続けてテティーが剣を振り下ろしていた。


「ちぃ!

 なんて小賢しい真似を!

 これでもくらいなっ」


 魔人は腕を一振りすると突如として粉雪が目の前を包んだ。


「やれる!」


 精霊のおかげだろう、一瞬視界が真っ白になっただけで魔人の姿ははっきりと捉えられている。


「てやぁぁぁ!」


「なっ!?

 ええぃ!」


 あたしの突いた一撃はいつの間にか持っていた氷の刃によって弾かれ、勢い余って地面に転がされる羽目になった。

 それでも目を逸らさず魔人の次なる手を見極めようとすると、テティーが間に入ってくれる。


「せやっ!

 てぃ!

 アテナ、回り込むんだっ」


 テティーの言わんとしたことを理解すると、魔人の背中に回り込み剣を振るう。

 それと同時にテティーも隣に並ぶと、魔人は燃え盛る木を背負う体勢になった。


「このまま逃がさないよ!」


「分かってるわよっ。

 せいっ!!」


 逃げ場の無くなった魔人は一歩、また一歩と後ろへ下がると炎まであと数歩というところまで追い詰めた。


「熱い、熱い熱い熱い!!

 凍らせてやる……全て凍らせてやるわよ!!」


「マズイ!!

 アテナ下がれっ!!」


 ニールセンの叫び声と風の守りを抜けてくる肌を刺す冷たさに危機感を覚えたあたし達は、背中を向けるとその場から走り去った。

 魔人はそれでもお構い無しに両腕を下から上へと勢い良く掬い上げると青白い冷気が辺りを包み、あたし達が居た場所は元より溶けかかった屋敷の氷と燃え盛る木をも厚い氷で閉ざしてしまった。


「なっ!!

 あの炎まで氷浸けに!?」


「な、なんて魔力だい……」


「あはっ!

 あははははははっ!

 どうだい、凍ったよ、全て凍った!

 うふふふふ。

 さぁ……後はあんた達、だよ」


 盛大に笑った後あたし達に刺さる様な視線を投げ掛けるが、それにはあたしも身が引き締まり同じ視線を返してやった。


「テティー!

 少しアテナを借りる!

 アテナ、少し戻ってくれ。

 剣に魔法をかける」


「あいよ、ニールセン。

 アテナ行きな。

 私が何とかしておくよ」


「ごめんね、テティー。

 ニールセン、今戻るわ」


 あたしは視線を外すことなくゆっくりと後退ると、間にテティーが入り身構えてくれる。


「おや?

 何をする気だい?

 ふふふ。

 何をしたって無駄無駄。

 全て凍るの。

 私の前では全て凍るのよっ」


 今度は両腕を振ると雪の結晶があたし達の前を駆け抜けるが、それも精霊のおかげで周りに四散していく。


「テティー!

 気をつけて!!」


「分かってる!

 これはこのまま動かない方が良さそうだ。

 アテナは早くニールセンの元へ!」


 あたしは背を向け走りだそうとした瞬間、傍の雪が大地から天に向かい氷柱(つらら)になって伸びだした。


「おわっ!!

 っと!

 今のは触れるとこうなるってワケ!?

 冗談止めてよね……」


 風の加護を受けておいたのが正解だったと、今となって改めて感じるとともにニールセンの元へ急いだ。


「ニールセン!

 どうするの!?」


「剣を差し出せ!

 今、炎を付与(エンチャント)させる」


 ニールセンに剣を向けながらテティーの様子を(うかが)うも、防戦一方のまま近づくことも(まま)ならないのが手に取るように分かる。

 その間、(かたわ)らでは魔言語(マジックワード)も聞こえているが、この(とき)がどれほど長く感じたことか。


「まだなのニールセン!!」


「………………。

 ………………。

 もう少し待て。

 後はこれで……。

 我が声に応じ宿いし熱き魂、破壊をもたらすその姿を我の前に現せ」


 完成したのが一目で分かるように、あたしの剣身が真っ赤に燃え静かに揺らめいている。


「多少の風や雪くらいなら消えることはない。

 これで頼んだぞ」


「助かるわニールセン!」


 あたしは直ぐ様テティーの元へ駆け出した。

 剣の炎は走った程度では全く揺らぎが変わることなく熱さも保ったままだ。

 これならと思った直後、魔人はテティーに吹雪を吹き掛けるとあたしの方をまじまじと見定めた。


「来る!!」


 直感的に感じたあたしは真横に転げ跳んだ。

 それは見事に当たり、氷小魔人(アイスチルドレン)が見せた大地からの氷柱(つらら)だったが、太さは倍にもなっていた。


「なんつーことを!

 炎はっ!?」


 転がったせいで炎が消えてないかと思ったがそれでも変わらず燃え続け、なんなら触れていた雪すら溶かしていた。


「相当に火を嫌っているのね。

 待ってよ、テティー!」


 あたしへの攻撃によりテティーは隙を見つけたのか、間合いへ入り込み軽やかな足取り(ステップ)で剣を振るっていた。


「でやぁー!」


 ようやく近づけたあたしの炎の剣は魔人の頬を霞めそこから少し煙が出ている。


「ぎぃぃ!!

 私の顔に傷を付けてくれたわね。

 厄介な物を!

 ふんっ!!

 やはり魔術師を先に片付けるべきだったのね」


 地面を掬うように振るった腕は一瞬あたし達の視界を奪うと同時に、魔人との距離が少し開いていた。


「一瞬で距離が!?」


「どうやら雪の足場は体の一部みたいなもののようだね。

 攻撃が当たらない訳だよ」


 どうして攻撃を当てようか剣を眼前に構え直すも、魔人の顔はミーニャ達の方を向いていた。


「マズイ!!」


 あたしが叫んだと同時にその予感は当たり、信じられないほどの跳躍でミーニャ達との距離を縮める。

 積もった雪が足に(まと)わりつき速力を奪うと、焦りだけがあたしの心を鷲掴みにして離そうとはしなかった。 

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