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episode 15 雪女

 あたし達の目の前に広がるのは、かつて村長の屋敷があった場所なのだが、ただの屋敷というには程遠く全てが氷で覆われた上に領主の屋敷ほどに大きく氷で建物が増されていた。


「あそこにいるはずよ。

 けど、ただの魔人ってワケじゃなさそうね」


「こいつは……。

 魔力(マナ)で造り上げるなんて、一筋縄でいく相手じゃなさそうだぞ?

 どうする?」


「魔術師の目から見てもそうなのね。

 どうするも何もやるしかないってのよ。

 さて、この中に行くのは魔人の有利に働くってことよねぇ。

 だったら、外に出さなきゃならない、か。

 ニールセン、悪いんだけどさ……あれ、燃やしてくんない?」


「は?」


「燃やすのよ、燃やすの」


「屋敷ごとってことか?

 そんなことして大丈夫なのか?」


「どうせこのままだと魔人に支配されたままの屋敷でしょ?

 それにこの村には人はもういないのよ。

 だったわよね、ミーニャ」


「はい、人は誰もいないと言ってましたね」


「だったら燃やすのに躊躇(ちゅうちょ)は要らないでしょうに。

 それにさ、なんだったら魔人がしたことにしちゃえば良いんだから」


「な、なんちゅう……。

 でも、まぁ、仕方ないか。

 どこまで溶かすことが出来るか分からないが、やってみよう」


「頼むわ。

 それでフレイはさ、その火を風で吹かせて勢いを増し欲しいのよ。

 魔力の氷だとニールセンの魔力だけじゃ大変だと思うからさ」


「分かりました。

 風の精霊(シルフ)にお願いしてみます。

 火を中心的にそよ風を吹かせてみますね」


「これであとは出てくるのを待つだけね。

 出てきたらテティーとあたしが前に出るわ」


「私はいつでも良いよ。

 しかし、魔力でこんなものまで出来るんだね」


「そうね。

 こうまでするってことは雪か氷にめっぽう特化してる魔人なんでしょうけど。

 逆を言えば、火や炎にはめっぽう弱いと見るわ」


「だろうね。

 ここで火を焚ければ一番良さそうだが」


「それよ!」


「何がだい?」


「屋敷を燃やして大きな焚き火にしたらさ、こっちが有利なんじゃない!?」


「……。

 いや、そうだろうがさ、逃げられては元も子もないんだし、逃げられた先に魔雪蜥蜴人(スノーリザードマン)なんか居られたら確実に不利になるだしなぁ。

 ここで決着が付けれるようにはしないと」


「な、なるほどね。

 それもそうよね、逃がさないようにもしなきゃいけないのか」


「そういうことだね。

 ほら、火も着いたよ」


「炎か……何か、何か思い浮かびそうなんだけど……」


「さあ、考えごとも大概にして集中してなよ。

 入口から来るとは限らないからね」


「あ、そうね。

 てっきり普通に出てくると考えてたわ」


「そういうこと。

 屋敷全体に注視してなきゃだからね。

 どこから何が飛んで来るかも分からないんだから」


「そうよね。

 また急に氷の槍なんて物もあるんだものね、緊張感が半端ないじゃない」


 そうこうしている間に屋敷を包む一部の氷は溶け始めているのが見える。

 こうなるといつ姿を現しても遅くないと考え、あたしとテティーはみんなと距離を取り前に陣取った。


「出て来るかしら?」


「来てもらわなきゃ困るが……」


 冷たい空気がより張り詰めた感覚。

 いつ何が起きても良いように剣を握る右手に力が入る。

 と、その時、屋敷の扉が氷ごと動き開いた。


「あぢー、なんでこんな暑いわけ!」


「へ?」


 中から出てきたのは全身、髪から着てる服まで真っ白なスラリとした女性であった。


「あ"あ"ー!

 何よ、この火は!!

 これが原因なのねっ!

 むむむぅ、こんなものこーして、こーよ!!」


「こ、こっちに気づいてないみたい、ね」


「あ、ああ。

 ま、まあ、ちょっと様子を……」


 あたし達はさっきからの魔人の行動に拍子抜けしてしまっている。


「ふ、ふぅ。

 これでどうにか暑いのも収まるかしら。

 なんだって火が着いていたのかしらね、乾いてたのかしら。

 さ、寝よ寝よ」


「ちょ、ちょっと待ちなさーい!」


「ん?

 誰か呼んだ?

 あら?

 人間がどうしてここに?」


「あんたに用があって来たのよ!

 さあ、消滅させてあげるわっ」


「え、何?

 戦いに来たの?

 めんどくさーい。

 今お腹空いてないし、寝るのが先なんだけど」


「は?

 あんた魔人でしょ?」


「そういうあんたは人間でしょ?」


「いや、まあ、そうだけど……って違うわー!

 何で魔人が人間を見て戦おうとしないのさっ」


「何でってめんどくさいじゃない。

 凍らせて食事にはするけど、今はお腹空いてないし」


「そういう感じ!?

 あぁー、あんた何て魔人なのよ」


「人間は雪女(スノーレディ)と呼んでいたわよ?

 知らないで来たの?

 ならさ、一度戻って調べて来たら?

 その間に寝とくからさ」


「んな面倒なことするかー!

 それにしても安直な名前ね……」


「雪女か!

 知っているぞ」


「ニールセン知ってるの?」


「おっ!

 私のことを知ってるなんてあんた魔術師か何かだね。

 エライエライ」


「あいつは人間を凍らせて食事とする中級魔人だ。

 こいつは簡単にはいかないぞ」


「その前に戦う意思が……。

 ねぇ、そしたらさ、別の場所で寝たら?

 雪山とか色々あるじゃない」


「雪山なんかで過ごせるかー!

 あんな人間も中々来ない、探すことも出来ない場所じゃご馳走にありつけないじゃないのさっ」


「ま、まあ、そうだわね」


「納得するなよアテナ」


「あ、ああ、そうね。

 ここに居られちゃ迷惑なのよね。

 この村は人間の場所!

 あんたらの場所じゃないのよ!」


「ええー!

 力づくで奪ったんだから文句ないじゃない。

 人間同士だって力づくで奪い合うでしょうに」


「いや、まぁ、そうなんだけど。

 ええー、どうする、テティー?」


「どうと言われても、ねぇ?」


「特に用がないならもう寝るからさ、また今度来なさいな」


「用があるのよっ!

 なら、あたしが人間代表としてこの村を力づくで奪い返すわ!」


「うふふふ。

 これじゃあ、どちらが悪者か分からないわね」


「うっさい!

 これは人間界のことなんだから、あたし達が正義なのよっ」


「あら、人間は話し合いで決める知性あるものと誇っているんじゃなくって?

 あははははっ。

 なら私は自分の土地を守る正義をかざして戦うしかないじゃない」


「絶対的にあたし達が悪者みたいだけど!?

 それはあんたをぶった斬った後に考えるわっ!!

 ニールセン!

 あそこの木に炎の魔法を。

 フレイはあたし達に風の守りを」


「分かった!」


「少しお待ち下さいね」


 やりづらさがとんでもない魔人がいたもんだと思うと同時に、魔者も知性を持つと人間とさほど変わらないのかも知れないと思うようになった。

 ただ違うのは人間をも食材として見ている点。

 人間が動物を狩り食すのとなんら変わりない、ならば抵抗する為に戦うのが当たり前ということを肝に命じると二人の術が完成した。


 



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