episode 13 氷小魔人
村の構造は粗方聞き、統治している魔人がいると思われる場所もおおよそ検討がついている。
「この先を曲がって、少し行ったら曲がるのよね」
「だね。
ただね、この先に魔者がいるようだよ」
「何か聞こえる?」
「ああ、私らの足音以外にも聞こえるね、話し声のようなものがさ」
言われて音を聞き分けようとするも、雪を踏む足音に邪魔され上手く聞き取れなかった。
「いた!!
氷小魔人がここにもいたのね。
ニールセンは休んでミーニャの守りを!
フレイはそのまま持続させておいて!!」
「任せな!」
「はい、でも長くは持ちませんから!」
「分かったわ!!
行くわよテティー!」
「ああ、一気に片を付ける!」
あたしとテティーは並び魔人に走りかかる。
するりと抜ける剣を右手に魔人の数を数える……数にして七。
一人当たり三人は相手にしなければならないのは少し不利にも思うのは、相手の出方が氷の礫だけではない気がしているからだ。
気づかれた魔人に対しテティーとは少し距離を取ると、それに戸惑ったのか数人は右往左往し出した。
「でやぁ!!」
魔法の帯びた軽い剣は雪煙りと共に魔人を凪払った。
「浅かった!」
肝心の初擊は予測より浅く掠め、次に備え左足に力を込めると後ろに転がるように飛んだ。
「あっぶな!!」
一撃を見舞ったその場所には鋭く尖った氷の柱が二本突き出ている。
やはり魔人は風の精霊でも防げない術を使って来ていたのだ。
「フレイ!
何かお願い!!」
どんなことが出来るのか分からない以上はフレイの機転にあたしが合わせる他はなく、後は己で何とかするしかない。
「っとっとっと、てやぁー!」
同じことが起きると予想し、左右に跳び跳ねながら一番近くの魔人に剣を振り下ろす。
これは避けられたものの、すぐに左に回り込み下ろした剣を振り上げる。
「次!!」
手応えを感じると確めることなく近くの魔人を横から切り裂くが、同時に放たれた礫に邪魔され剣は弾かれた。
「次は何が来るってのよ」
そう呟いた瞬間、目の前の魔人は真横に吹き飛ばされ近くに居たもう一体を巻き込み転がった。
「フレイね!
つぁっ!!」
この機を逃すまいと二歩の助走で飛ぶと、重なった魔人にめがけ剣を突き刺す。
「これで!!」
聞き慣れない断末魔が耳をつん裂くがあえて気にせずテティーを見やると、丁度魔人を切り裂いたところだった。
気配から察するにあと一体。
「テティー!!」
「分かってる!」
互いから二十歩ほど離れた魔人との距離を詰めると目の前に氷が瞬時に出現した。
「やばっ!!」
警戒はしていたおかげで咄嗟に左前方に転がると片膝を着いたまま斜め上方から剣を振り下ろした。
「やったか!?」
天を見上げ声にならない声で叫び、その肉体が塵と化すと目の前には同じ体勢のテティーがこちらを見据えていた。
「何とかやれたわね」
「ああ、若干分が悪かったけどね」
「ん、テティー?
ケガしてるじゃない!?」
雪を赤く染める雫が一つ二つと指先から溢れ落ちるのに気がついた。
「ん?
大丈夫だ、腕を掠めただけだからな。
痛みもほとんど無ければ、動かすことも出来る、大丈夫」
「そう?
それなら良いけどさ。
ムリはしてないわよね?」
「ああ、本当だって。
礫をね避けそこなっただけなのさ。
術に頼り切っていたからね、ふふ」
「笑えるくらいなら大丈夫そうね」
「最後の術は危なかったけど、どんなのか見えた?」
「氷の槍のように見えたよ。
気づくのが遅かったら一撃だったと思うね」
「やっぱり他にも使ってきたのね。
さ、戻りましょ」
「予測していたんだね、戦い慣れしてきたじゃない」
「テティーにも鍛えられたからね。
それに魔人じゃあ外見がどうあれ一筋縄じゃいかないでしょ」
いくら魔人でも子供の外見だったことに躊躇わず剣を振れたのは、それまでに聞いていた非道の行いがあったからだった。
村を解放するために挑んだ兵士達だったが絶命した兵士に対し、更に氷で串刺しにした上で喜んでははしゃいでいたそうだ。
しかし、それだけでは終わらずその上で更にいくつも氷を突き刺し遊んでいたそうなのだ。
こんなことを聞かされ子供だと認識出来るわけなかった。
「ありがとね、フレイ。
突風を吹かせてくれたのね」
「ええ、あの状況でしたら吹き飛ばしたほうが良いかと思いまして。
テティーさんのところまで飛ばして欲しかったんですが、やはりこの地ではそこまでの力は」
「十分よ、あれで。
助かったわ。
疲れたでしょ?
次は戦わずに大元の所まで行けると良いんだけど。
それまでは少し落ち着いていてね」
「ありがとうございます。
ちょっとばかり精神的に負担はかかりますから、そうさせて頂きますね」
「では、行こうかしら?
ミーニャも大丈夫?」
「はい、お嬢様。
何もしていませんが、着いていきます」
笑顔で返しこの場から動き出す。
というのも、聞いている話だと出会っていない魔者がまだ他にもいるからだ。
出来ることならそれに出会うことなく行きたいと願っていたからなのだが、その願いは突如として脆くも崩れさった。