episode 09 人との繋がり
あれから三日。
ようやく宿へ王の遣いが訪れ準備が出来た知らせを聞くと、街を離れ雪が降り積もる中を南西へと下って行く。
「ここを右に曲がると良いのね」
二股の道の右手に村はあるのだが、ここからでも既に仰々しい砦がそびえ立っているのが見える。
「ここからでも見える砦ってスゴいわね。
ホントに向こうとは遮断してる感じだわ」
「何せ魔人の軍勢だからね、それだけ警戒してなきゃってことだろうさ」
「でも話じゃ村から出て来ないような話じゃない?」
「魔人がいるんじゃ知恵も働くだろうさ。
攻められて追い返すことは出来ても攻めて行くには戦力が足りないって考えてるのかもだしな」
「ただの魔人でも頭が働くってイヤね」
そうこうしている内に砦門まで辿り着くと、兵士に追い返えされそうになった。
「だからね、あたし達が村の魔人を討伐しに来たっての!」
「そんな話、信じられるわけないだろ!」
「もう!
面倒くさいわね。
これ見てよ、王からの書状よ。
ほら、ほら」
「ちっ!
どれ、見せてみろ!
…………。
これは失礼した。
門を開けろ!!
……どうぞ、お通り下さい」
「分かれば良いのよって言いたいとこだけど、手のひらを返す言い方良くないわよ。
ふんっ!」
ようやく開かれた門をくぐると中庭のような造りになっていて、兵士達が休んでいたりする。
「まぁここの砦はこんなもんよね。
この先の砦こそが重要な拠点らしいからね」
「ああ、ここはね。
ずっと警戒しっぱなしじゃ参っちゃうし、息抜きも必要だろ」
「そうね、だからこそ兵士達を見てるとよく仕える気になるもんだと思うわけよ」
「私ら海賊と同じで好きで兵士になったわけじゃないのもいるさ。
本気で国の為に、民の為にって思ってるのは一握りだと思うがね。
あくまで私の想像だけど」
「テティー達のとこは海賊っても特殊なんでしょ?
国を追われたり理由があって集まったってさ」
「そうだよ。
大罪人がいるってわけじゃないんだがね、何かしらの理由があって居るべき場所が無くなった連中が集まったのさ。
それをカルディアが纏めてくれてたってわけ。
私もさ、踊り子だったんだけどね、行く先々で兵士と揉めちゃってね。
そんな時にたまたま酒場に寄っていたカルディアが声をかけてくれて。
海賊になるのも町を造るのもきっかけはそこからだったんだ」
「へぇ~。
カルディアと二人三脚で造り上げたのね。
だから魔人王になったときはあんなに感情を露にしてたの」
「そうだよ。
何でも話して何だってやって来た仲だったのに、隠し事があってそんなことを考えていたなんて思いもしてなかったからね。
まさに裏切られたって一言じゃ尽きない感じだったのさ」
「誰にでも話せない秘密があるってことなのね。
あたしはそんなの特にないんだけどなぁ。
ね、ミーニャ」
「え?
え、えーっと?」
「聞いてなかったのね。
それなら別に良いわよ」
テティーとの話と兵士達の話し声で気にしていなかったが、確かに後ろでミーニャとニールセンの話し声と笑い声が聞こえていた気がした。
「ま、とにかくあたしには隠し事はないってことよ。
隠すようなことはこの体だけってね」
「それが一番良いんだよ。
一つの秘密が色んなことを巻き込むことだってあるからね。
私ら海賊は信頼関係で成り立ってたから、そういうことには敏感になっちゃうしさ。
人と人が繋がり合うってことは簡単なようで難しいってことだよ。
その点、アテナとミーニャは誰にでも心を開いてるみたいだから接し易くて一緒にいると楽しいけどね」
「それは嬉しい言葉よ。
いくらレディの代わりだって言ってもレディじゃないからさ、テティーは新たな仲間なんだって思ってきたし、今では掛け替えのない友人と思ってるわ。
海賊だからとか代わりだからとか、あたしにとってはどうでも良いことだからね」
「言ってくれるね、ありがと。
でも一応は踊り子としても海賊としてもそれなりのプライドは持っているから。
ま、今は海を離れたから踊り子としてのプライドが高いかな。
踊りが見たかったらアテナでも料金は戴くつもりだし」
「あら、冗談にしては顔が笑ってないわね。
それなら今度正式にお願いしようかしら?」
「ふふ。
良いよ、その分高いからね。
っと、何だい?
人が歩いてるね」
話ながらいつの間にか門を抜け街道を歩いていたのだが、こんなとこに人が一人で歩いている違和感を覚えた。
「兵士……ってわけじゃなさそうね。
何でこんなとこに?」
「どう見たっておかしいね」
ここは砦と砦を繋ぐ街道。
この先は魔人のいる村があり、兵士でもない人が砦門を簡単に抜けて一人で歩いているわけがない。
荷馬車すらなく、腰には剣のような物を提げているのであればなおのことであった。




