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双子の弟のせいで知らない女の子に怒られる僕

作者: 岸村 翼

初投稿作品です。

 



 僕、早瀬 海(はやせ かい)には家族や親戚にしか、区別がつかないほどそっくりな双子の弟がいる。


 弟の名前は早瀬 大地(はやせ だいち)

 学校の成績はあまり良いほうではないが、その分運動神経が抜群で他の追随を許さない。

 どんなスポーツだって助っ人に呼ばれれば、大活躍をして観客から歓声が上がるのが常である。

 それだけならまだしも、大地には天性のコミュニケーション能力とリーダーシップを兼ね備えていた。

 イケイケな男子、イケイケな女子、そしてその中心にはいつも大地がいる。

 怖いものなし、陽キャの中の陽キャ、まさに大地はスクールカーストの頂点に立つような男なのである。


 そんな僕の弟である大地に恋愛の噂が絶えるわけがなく……



「あれ?大地、こんな夜中にでかけるの?」


「ん?あぁ、ちょっと彼女の家行ってくるわ」


「そうなんだ…ってあれ?最近別れたって言ってなかったっけ?」


「いつの話してんだよ海。それ前の前の彼女の話だろ?」


「えっ!?それじゃあ今付き合ってるのって何人目の彼女なの!?」


「そんなのいちいち覚えてねーよ」


 そう言い残して、大地はやれやれといった感じで家を出ていった。



 ガチャッ


 家の中に虚しく響く扉の音。


 両親は仕事の出張で、今日まで家には帰って来ない。


 ただ1人ぽつんと、虚しく家に取り残される。




「チッッッキショオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」



 僕は叫びながら、近くにあった傘立てに今までの鬱憤を晴らすがごとく蹴飛ばした。



「一体なぜだ?なぜ僕には彼女ができないぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!!」



 そう、双子の兄である僕は生まれてこの方、彼女というものができたことがない。

 というか女子とまともに会話すらできたことがないレベルの重症である。



 顔の似ている双子の僕と大地になぜこんなにも差がついてしまったのか?

 一体なぜ僕がこんなにも女性に飢えているのか?



 話は小さい頃に遡る。



 幼稚園時代。

 今思えばこの頃が人生のピークかも知れない。

 双子の僕らにみんな純粋に接してくれていた。

「すっごいにてる〜!」とか「かいくん、だいちくんのあてっこげーむしよ〜」

 などと双子だからこそ珍しがられたものの、幼稚園ではいつも人気者だった。


 しかし、小学校に入学したあたり…


「どっちがどっちだかわかんね〜」

「分身の術でも使ってんじゃねーの」

「ドッペルゲンガーだろ」


 物心が付き始め、双子の僕らにはどうしても珍しさよりも不気味さが勝ってしまうようになってきていた。


 大地はそんな悪口なんて聞き流せと言って気にしていなかったが、僕にはどうしても気になってしまう。

 だから僕はあまり視力がよくなかったことを理由に、母に頼んで買ってもらった瓶底眼鏡を常にかけるようになった。


 すると、今までのことが嘘のように悪口はすぐになくなった。


 小学四年生の頃になると大地は徒競走のクラス代表に選ばれた。

 その徒競走で1位をとったあたりからだろうか。

 大地がモテ始めるようになったのは…


 小学生の頃は足の速い奴がモテるという通説がある。

 バカバカしいと思うかも知れない。

 現に僕は思っていた。

 しかしどうだろうか?

 僕は運動がからっきしだったから、その分勉強に取り組んだ。

 大地は勉強があまり得意ではなかったが、持ち前の運動神経を活かして色んなスポーツを始めた。


 その結果、、


 大地は同級生の女子から滅茶苦茶モテだして、瞬く間に学校の人気者になった。


 一方の僕はというと…先生方に滅茶苦茶ちやほやされた。


 何だこの違いは!!僕も同級生の女の子にモテたい!!


 何が大地くんってイケメンでかっこいいよね〜だ!

 僕も同じ顔だわ!メガネとったろうか!!(いまさらとれない)



 ていうかみんな僕が大地の双子の兄だってこと完全に忘れてないか……



 そんな僕に追い打ちをかけるかのように、さらなる災難が襲う。


「海、お前中学受験してみないか?」


「中学受験?」


 当時担任だった田中先生に僕は中学受験を勧められた。


「海の学力で公立の中学校に行くのはちょっともったいないと思ってな」


「は、はぁ」


「どうだ?家に帰ってから親と相談したりでいいから考えてみてくれ」


「あ、あの…」


「ん?」


「中学受験したら…モ…モテマスカネ?」


「え?あぁ…ご、合格したらそうだなぁ…モ、モテるんじゃないか?」



 そうして僕は田中先生の言葉を信じきり、気が狂うほどモテるために勉強した。

 小学六年生の思い出は?と聞かれると、だいたいみんな修学旅行が楽しかった!とか卒業式で泣いてしまった!と答えるのが一般的だろうが、僕の場合はEveryday study。気づいたら高校の範囲を勉強してましたよ…と遠い目で答えるほどには勉強していた。

 未来のモテモテな自分を想像しては勉強、大地を見てワーキャー叫ぶ女子を嘲笑しては勉強。

 そんな勉強生活のせいで、少し高飛車になっていたのかも知れない。


「か、海、勉強もいいがたまには気晴らしも…」


「大丈夫です田中先生、全て将来のためです」


「そ、そうか…それでどこを受けるか決めたのか?」


「ふっ、先生。ここらへんで一番偏差値の高い中学はどこでしょうか?」


「えっと…多分開聖中学かな…」


「では、そこを受けます」


 今になって思う。

 なぜ、僕はそんなことを聞いてしまったのだろうか?

 田中先生も若干引いていたような気がする…いや、絶対引いていた。

 当時の僕に会ったら思いっきりぶん殴って、自分が受ける中学くらい自分で決めろ〜!!と大声で怒鳴ってやりたいくらいだ。



 そして僕は勉強の甲斐あって、中高一貫校である開聖中学に合格した。



 僕が開聖中学が男子校だと知ったのは入学式当日だった。



 晴れやかな気持ちで入学式の日を迎えたというのに、周りに男子生徒しかいない光景はもはや絶望以外の何ものでもない。

 思えば試験の日、教室には男しかいなかった。

 なのに俺は男女で教室別なのかなぁ〜という安直な考えでその思考までたどり着けなかった。

 開聖中学のパンフレットもわざわざ田中先生が取り寄せてくれたのに、勉強のほうが大事だし、楽しみはとっておくものだな…とかカッコつけて結局一回も見ることがなかった。

 とても死にたい。


 母さん、、あんなにパンフレット熟読してたなら男子校という情報くらい教えてくれよ…

 え?言わなくても知ってるものだと思ってた?で、ですよね〜。


 大地、、僕と変わって開聖中学行かない?ほら僕たち顔似てるしさ。全然バレないと思うんだよね…

 え?あんな男臭いガリ勉中学はごめん?あはは、僕も同意見だよ。


 父さん、、え?泣きそうな顔してどうしたのかって?ううん。なんでもない。お仕事頑張ってね…



 モテたくて勉強したのに男子校に入るとか、もはや意味がわからない。

 ただすべらない鉄板ネタが1つできたくらいだ。

 本当に僕はどうしようもない大馬鹿者だ。


 いっそのこと退学して大地のいる地元の中学に行きたいとも思い始めたが、両親や小学校の先生たちにこれでもかと言うほど褒めちぎられて引き返せないうえに、小学生のクラスメイトには開聖中学に行くことをウザったいほどに自慢してしまったため、今から地元の中学校に転校するとか自殺行為でしかない。


 僕はもうそれ以上考えることをやめ、中学校生活をまた勉強に費やし現実逃避をすることに決めた。






 そして月日が立ち、僕は高校一年生になった。

 正直、開聖中学の三年間は悪いものでもなかった。

 女子の視線を気にせずに馬鹿やって過ごせるし、勉強の環境も申し分ない。

 周りも皆いいやつだったし、先生も面白い人ばかりだった。

 あとは彼女さえいれば、僕の中学生ライフは100点だったんだけどね。

 もう拗らせすぎて、中3らへん恋愛小説死ぬほど読みまくったよね。

 結局、僕は流れに流されそのまま開聖高校に入学した。



 大地は相変わらず、中学でもモテまくっていたらしい。

 サッカー部に入ってすぐに即戦力扱い、気がつけばチームのエースとして大活躍だ。

 なんと輝かしい学生ライフだこと。

 中学に入学してすぐに滅茶苦茶かわいい初彼女を家に連れてきたときは、殺してやろうかな〜とか思ったけど、もはや違う人種の人間だと今は割り切っている。

 大地はそのずば抜けた運動神経を買われ、スポーツ推薦で地元で有名な頭のいい共学(女子が多い)の高校に入学した。



 もう昔とは違う。

 昔のようによく似た双子とも言われなくなった。

 大地と僕はほとんど真逆の道を歩むようになっていた。




 高校二年生になった。

 その間、特に何も起こらなかった。

 強いて言えば、もしかしたらモテるかも…という淡い期待を持って、眼鏡からコンタクトに変えたことくらいだろうか。

 両親からもクラスの皆からも高評価を得て狂喜乱舞したが、そもそも僕は彼女ができる以前に出会いがないことに気づいてしまった。

 大地にダメ元で合コンのセッティングとかも頼んでみたりしたが大地曰く、開聖高校の人と聞いただけで女子が恐縮するとか、お前がいると顔が似ているから話がややこしくなるとか、それ以前にそんなことする暇がないとかで全否定された。


 相変わらず辛辣だぜ…大地…

 でも大地が言っていることはわからなくもない。

 そもそも大地は僕が眼鏡からコンタクトに変えることをあまり良く思っていなかったしなぁ…

 今の僕と大地の違いといえば髪型と肌の色くらいだろう。

 僕はストレートヘアだけど、大地は常にワックスでガチガチに固めたツンツンヘアだ。

 また若干ではあるが、肌の色が青白くて不健康そうな僕に対して、大地のほうが日に焼けて少し浅黒く健康的な肌である。


 僕は相も変わらず勉強に励み、最近では全国模試に名前が載るようになったおかげで先生達から一目置かれるようになった。

 でも全然嬉しくない。切実に彼女が欲しい。あとキュンキュンする恋愛小説が読みたい。


 一方の大地はスポーツ推薦で入った高校であったが、弱いからという理由でサッカー部をサボリ気味になり、可愛い彼女やチャラい友達と頻繁に遊ぶようになった。それでも学校ではイケメン陽キャとして絶対的な立ち位置にいるから恐ろしい。

 切実にサッカー部員にボコられて欲しい。



 そんなこんなで現在、僕は昨日の鬱憤で壊した傘立てを修理している。

 次の日、学校から帰宅してすぐに母さんから壊れた傘立てについて問い詰められて怒られたからだ。

 確かにこれは全て僕が悪い。ごめんよ…傘立て…

 そんな謝罪とともに傘立てを組み直していると、母さんが足早に玄関までやってくる。


「海〜。あなたに電話来てるわよ〜」


 そう言いながら、何故かニヤニヤしている母さん。


「え?誰だろ?友達かな?」


「さぁ〜女性の声だったけれど」


「えっ!?女性!!大地じゃなくて?」


「ちゃんと早瀬海くんはいますか?って言ってたわ。心当たりないの?」


 正直、心当たりなんて全くない。

 母さん以外の女性と最後に話したのは、多分三ヶ月前に初めて1人でゲーセンに行った時、たまたま近くにいた金髪ギャルに、あれ〜?大地じゃーん!いつもと違って髪ぺったんこなんですけどオフモードですかぁ〜?ウケるwwwwwwと馴れ馴れしく声をかけられたとき以来だ。

 ちなみにその時は怖くなって、否定もせずに全速力で逃げた。

 あれ以降あのゲーセン付近には一切近寄っていない。


「ま、まぁ、わかんないけど出てみる!」


「あらあら」


 母さんが望む感じのやつではないと思うんだよなぁ…


 僕はそう思いながらも少しの期待を背負いながらリビングへ行き、恐る恐る受話器を手に取った。


「も、もしもし…お電話変わりました…早瀬海です。」


「あっ、早瀬海くんですか!?」


 電話の相手は間違いなく女性の者であったが、その声に聞き覚えはない。


「は、はい。あの、、失礼ながら用事があるのは早瀬大地の方ではありませんか?」


「いえ!早瀬海くんであってます!間違いありません!」


 どうやら本当に僕に用事があるようだ。


 おっ?これはモテ期到来か!?

 まさかこれが一目惚れってやーつ?

 僕の自宅の電話番号を友達から聞いて、ドキドキしながら電話かけてきたやーつ?

 ていうか僕、恋愛小説読み過ぎなやーつ?


 そんな僕の淡い期待は相手の一言で一瞬にして粉砕した。


「あっ、申し遅れました!私、学習塾西京ハイスクールの加藤と申します。」


「…………え?」







 気がつけば、僕は西京ハイスクールにいた。


「ーーーということで、早瀬くんが西京大学に合格すれば、入塾料の免除と授業料を半額に……」


 淡い期待をいだきながらとった電話の招待は普通に塾の勧誘だった。

 そりゃあ当たり前である。これが現実というものか…

 西京ハイスクールに入る気など更々なかった僕だったが、加藤さんに話だけでも聞きに来てくださいと説得されたら、なんだかんだ断りきれなかった。

 僕は押しに弱いのである。


 しかし、悪いことばかりでもない。

 西京ハイスクールの加藤さんに会ってみたら、それはそれはものすっごく綺麗な人だったからだ。

 ていうか塾の講師って綺麗な人多いよね!!


「あ、あの〜、聞いてます?」


「あっ、はい!聞いてます!」


「それでですね。ぜひとも早瀬くんには入塾の検討をしていただきたいのですが…」


「なるほど〜」


 僕は曖昧にうなずいてみせる。

 正直、塾に行かなくても西京大学に合格することなんて、青春を殆ど勉強に捧げた僕から言わせればそれほど難しいことでもない。

 多分、西京ハイスクールの魂胆は僕みたいな奴らを入塾させて合格者数を増やし、塾の評判をあげようというようなものだろう。

 いわば僕は広告塔の1人だ。


 ていうか、どうやって僕のことや家の電話番号知ったんだろう?

 あぁっ模試か!

 色んな模試受けすぎて心当たりがありすぎる!

 美人な加藤さんともお話できたことだし、ここは一先ず、考えとくとか言って濁しておこう。


「とりあえず考えておき……あっ、、」


 その瞬間、僕、早瀬海は気づく。

 いや、気づいてしまう。衝撃的な事実に…


 おいおい。よくよく考えたら…塾に通えば…塾に通えば合法的に女の子とお話ができる!!


 その事実に気づいてからの僕の行動は早かった。


「あっ…あのすいません。もし入塾を希望した場合、僕はどのクラスに入ることになるのでしょうか?」


「検討してくださるのですねっ!早瀬さんの場合はですね…難関国立大クラスになります!」


「ほう…ちなみにクラスの人数と男女比率を聞いても?」


「だ、男女比率ですか?」


「ふっ。僕は統計学を習っていましてね。クラスの人数と男女比率によってその塾の環境というものは大きく左右されるのですよ」


 全て真っ赤な嘘である。

 ただ、女子の比率が知りたいだけの変態である。


「す、すごい物知りなんですね〜。えっと難関国立大クラスは30名のクラスで、男女比は少し女子の方が多いで」


「入ります」


 僕の決断は一瞬だった。




「では、早瀬くんのご来塾を心よりお待ちしております」


「はい!」


 僕は入る気満々だったのだが、どうやら両親の承諾が必要ということなので、今回は入塾の書類を受け取るのみとなった。


 これからの薔薇色の学習塾ライフを思うと、楽しみで仕方ないぜ!※塾は勉強をする場所です。

 というか、塾ですれ違う女子みんな可愛いな!※彼には男子校フィルターがかかっています。



 そんなことを思いながら、これ以上ない満面の笑みで塾を後にしようとすると、不意に後ろから肩を叩かれる。


「ん?」


 なにか忘れ物をしたかな?と思いながらも、後ろを振り返るとそこには綺麗な黒髪ロングにぱっちりとした目が印象的な可愛らしいTHE清楚系女子という風貌の美少女が立っていた。


 えっ、可愛い…どタイプです…って違う違う!!

 え!?だ、誰?てか怖っ!


 一瞬、見惚れていて気が付かなかったが、よく見るとその美少女は眉間に皺を寄せ、僕のことを親の仇と言わんばかりに睨んでいた。


 すごい睨んでるんですけど…


「ど、どうかしました?」


 慌ててそう尋ねると僕の発言に不服なのか、彼女は信じられないというような顔をする。 


「どういう風の吹き回し?」


「へ?」


「ここはあんたのいるような場所じゃない」


 えっ!何!僕なにかしました!?

 なぜか全く見覚えのないの女子から存在を否定される僕。

 ついさっきの満面の笑みが一転、今は涙目である。


 いや、待てよっ!も、もしかして僕が女子とお話がしたいという理由で塾に入ろうとしていることが、見破られているのか!?あの一瞬で!?

 そんなことありえない!!

 で、でも、それならば全て辻褄が合うじゃないか!

 だからあんなに侮蔑的な目を!!

 や、やばい!今すぐにでも謝らなきゃっ!


「も、申し訳ございません!!」


 僕は全力で頭を下げる。


 これで許してもらえるとは到底思えないけど、せめて態度でも…


 そう思いながらチラチラ彼女の様子を伺うと今度は新種の生物でも見るかのように驚いた顔をしていた。


「えっ…あなた誰?」


 それは僕が聞きたいんだけど…


「は、早瀬です…」


「だ、だよねっ!ちょっ、どうしたのよっ!今日のあんたおかしいわよっ!いつもは突っかかってくるくせにっ!なんでそんなに従順なのよっ!というかいつものツンツン頭はどうしたのよっ!そっちのほうが似合ってるじゃないっ!それに部活サボりすぎて前より肌白くなったんじゃないの!?だいたいあんたね〜っ…」


 混乱しているのか、矢継ぎ早に言葉を浴びせてくる彼女。

 彼女の声が大きいからか周りも、もの珍しそうにこちらを見ている。


 し、視線が痛い…


「いっ、一旦落ち着きましょう。ここは塾ですから…」


「はっ!」


 彼女は今の状況を見て、我に返ったのか自分の口元を抑えて顔を赤くしている。


 ぐはっ!不覚にもキュンとしたではないか…


「だ、だいたいこうなったのはね!全部あんたの!」


「あ、あの〜そのことなんですけど…」


「な、なによ?」


「非常に申し上げにくいのですが…もしかして大地の知り合いですか?」


「え?あなた大地じゃ…」


 やっぱりなぁ…

 ツンツン頭というワードが出たところで、あれ?もしかして僕、大地と間違えられてる?とは思ったけれど、彼女の服装をよく見てみれば大地の高校の制服だったことで、それが確信に変わった。


 冷静に考えれば、すぐわかることなのに盲点だった…

 邪推していたせいで、意味もなく全力で謝ってしまったし…

 というか、どれもこれも全部、大地のせいじゃないか!!


「も、申し遅れました…僕、大地の双子の兄の海です」


「えっ!双子!?」


 彼女のとても驚いた様子から、おそらく大地は学校で双子だということを言っていないのだろう。

 あぁ…悲しきかな……まぁ、僕も言ってないけど…

 ていうか大地は学校で普段何してるんだよ!


「大地がいつもお世話になってます。その、、大地が学校で迷惑をかけてるなら本当に申し訳ないです。家に帰ったらきつく言っておきますので…」


「……」


 彼女からの返事はない。

 相当大地に腹を立てているのだろう。

 僕はこの場から逃げ出したい衝動を抑えて、平謝りをするしかない。

 チラチラと彼女の表情を伺うが、その表情に変化はなかった…


 ってあれ?彼女驚いた表情のままフリーズしてないか?


「だ、大丈夫ですか?」


 僕が再度、話しかけるも返事はない。


 ど、どうすればいいんだ?

 僕はフリーズした女性を解凍する方法なんて知らない。

 こんなことになるんだったなら、大地にあらかじめ聞いておけばよかった。


「お、おーい」


 僕が彼女の顔の目の前で手を振ると、やっと彼女の意識がこちらへと戻ってくる。


「ふ…双子…双子…う、嘘っ!嘘よっ!じゃあ今までのって…」


 なにやら小言を言っているが、そんなに双子で驚くことだろうか…

 しかも信じてくれていない。

 まぁ僕と大地は似ているもんなぁ。


「では僕はこれで…」


 そう言って帰ろうとしたそのとき、不意に彼女の細い手が僕の腕を掴む。


「ま、待ってください…」



 彼女は目元をウルウルさせながら上目遣いで言った。


「あっ、あの…その…れっ、連絡先を交換してくださぃ…」


「えっ?」





 どうしてこうなった?










 私、貴城 美空(きしろ みそら)には密かに想いを寄せている男の子がいた。

 その男の子に出会ったのは小学六年生の夏、自由研究の資料を探しにたまたま図書館に寄ったときのことだ。


「眠そう…」


 色々なジャンルのコーナーを見ながら探索していると、ふと自習スペースで睡魔と戦いながらも勉強をしている男の子が私の目に留まった。

 大きな瓶底眼鏡のせいであまり表情は見えないけれど、ウトウトしているのか、頭が前後に揺れている。

 私はその光景を本棚の影からこっそりと見て、くすっと笑ってしまう。

 男の子なんてみんな外で遊び回ったり、ゲームをしたりすることにしか目がないと思っていた当時の私には、休日に睡魔と戦いながら自習室で勉強する彼がとても新鮮に映った。


 そんな小さな興味で彼のことを見ていると、不意に彼は眠そうな目をこすりながら瓶底眼鏡を外した。

 その瞬間、私の体に電流のようなものが駆け巡った。


「綺麗…」


 思わずそんな言葉が漏れる。


 瓶底眼鏡を外した彼の顔は、まるで小さい頃に読んだ王子様のように綺麗な顔立ちをしていた。


 段々と胸の鼓動が早くなり、身体が熱くなる。

 なんの勉強をしているんだろう?

 ここの近くに住んでる子なのかな?

 同い年なのかな?

 そんな多くの疑問が浮かんでくるほど、私は彼のことが知りたくてたまらなくなる。


 そうかこれが一目惚れというものか。

 そのことを自覚した瞬間、私の鼓動は更に早くなるばかりだった。


 それから小学校を卒業するまでの間、私は暇な時間があれば彼に会いたいがために図書館に向かった。

 彼がいない日もあったけれど、その分彼がいる日はとても嬉しいし、彼のことをもっと知れる。

 彼は早瀬くんというらしい。司書さんが彼のことをそう呼んでいるところを聞いた。

 早瀬くんは私と同じ小学六年生らしい。修学旅行(6年生)の冊子をパラパラと軽く目を通している姿を見た。

 早瀬くんはどうやら虫が苦手らしい。自習スペースでに蜘蛛が出たときに、びっくりしすぎて椅子から転げ落ちているところを見かけた。


 彼のことを知れば知るほど、私の気持ちは大きくなっていく。

 思い切って早瀬くんに話しかけてみようと思ったりもしたけれど、彼の勉強の邪魔をするのはためらわれたし、何より当時の私は自分に自信が持てなかった。

 ただ私は自習スペースにいる早瀬くんの一生懸命勉強する姿を隠れて見ていることしかできなかった。


 そんなストーカーまがいなことをしている私に罰があたったのだろう。

 早瀬くんは中学に上がると同時に、図書館に姿を見せることはなくなった。

 それはそうだ。中学生にもなれば部活や新しい友人と遊んだりして、図書館に来ることなんてなくなるだろう。

 何してるんだろう私…

 勉強の邪魔だからってなんだっ!自分に自信が持てないからってなんだっ!

 何であの時話しかけなかったんだっ!!!


「何もしなかったら…後悔しか残らないじゃない…」


 私は自分の部屋で泣きながら、ポツリとそう呟いた。




 そこから私は変わった。

 身なりに気を使うようになり、流行の雑誌を漁ってはオシャレの勉強をする日々。

 プロポーションを保つために朝のジョギングや筋トレもした。

 成績でも常に上位を維持するために、予習復習を怠らない。

 生徒会にも入って、積極的に行事に参加して人脈も広げた。

 最初は何度も心が折れかけたけれど、あの時の後悔に比べたらなんてことはなかった。



 中学を卒業する頃には、私は地元で美少女生徒会長として名が通っていた。

 一々数えていられないほどの告白も受けたが、すべて断った。

 もう昔の影から彼のことをひっそりと見ている私じゃない。

 ちゃんとお話がしたい。

 全ては彼のため、、

 早瀬くんとまた再会できることを信じて…


 私はその後、地元で有名な頭のいい高校に合格した。

 地元では偏差値が高くて有名なこの高校なら、もしかしたら早瀬くんも入学してくるかもしれないという一縷の望みをかけてこの高校を選んだ。

 そんな私のこれまでの努力や彼に対する強い気持ちが実を結んだのかもしれない。


 迎えた高校の入学式。

 校門の前に立っていた先生にクラス分けされたプリントをもらう。

 そこで私は、同じクラスの生徒に早瀬という名字の生徒がいるのを見つけた。


 思わず跳び上がりたくなるほど嬉しかったけれども、まだ油断はできない。

 同じ名字の全く違う人物かもしれない…


 私はその場で深呼吸をして平常心を保ちながら、クラスに向かい、自分の指定された席に座る。

 どうやらまだ早瀬という名の生徒は来ていないようだ。

 時間は刻一刻と迫っていく。

 静かだった教室は、生徒が多くなるごとに賑わいを増していく。


「なぁなぁ、あの子可愛くね?」


「俺話かけてみようかな〜」


「あの子が今年度の新入生代表らしいよ」


「可愛いのに成績もいいとか完璧かよ」


 何やらヒソヒソ声が聞こえてくるが、今の私にはそんなことはどうでも良かった。


 しかし、朝のチャイムがなり担任の男の先生がやってきても、早瀬という名の生徒の席は空席のままだった。


 ま、まぁそんな早まることでもないわよね…


 そんなことを思い、半ば諦めていたその時だった。


 ガラガラ〜ッ


 勢いよく教室の引き戸が開く。

 そこから現れたのは…


「ハァハァッ、ギリギリセーフ?」


「アウトだぞ。入学早々遅刻だなんていい度胸してるな?」


「えへへ、褒められちった〜」


「そんなわけないだろ!お前が早瀬()()だな?」


「うぃ〜っす」


 昔の私とは逆のベクトルで変わってしまった早瀬くんがそこにいた。



 えぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!

 確かに彼はあの頃の銀縁眼鏡を外した時のかっこいい早瀬くんだ!

 でもなにっ!あのワックスガチガチのツンツン頭っ!

 肌も浅黒くなってる!!

 制服の第三ボタンまで開けてるしぃぃ!

 真面目だったあの頃の面影が1つものこってなぁぁい!

 一体何があったぁぁぁぁぁぁあああああああ!!

 変わりすぎだろおおおおおおおおおおおおお!!※あなたもです。



 驚きと混乱で頭が追いつかない。

 私が中学のときに思い描いていた今の早瀬くん像とは完全に真逆である。もはや別人だ。

 あのちょっと女の子が苦手そうで、おしゃれにあんまり関心がなさそうで、スポーツはあんまり得意じゃなさそうで、教室の隅っこで難しい本読んでそうで、でも話しかけたら優しく接してくれるし、勉強も理解できるまでちゃんと教えてくれそうな私の早瀬くん理想像は遠く彼方へ消えていく。


 それでも、もしかしたら…

 もしかしたら、無理してあんな高校デビューまがいなことをしているのかもしれない…


 そんなことを自分に言い聞かせながら、迎えた放課後…


「ねえ、君?」


「ひゃ、ひゃい!?わ、私ですか!?」


 いきなり早瀬くんの方から話しかけられたことで、私は動揺を隠せなかった。


「そう君。あのさ、名前なんて言うの?」


「き、貴城美空です」


「美空ちゃんね。俺、早瀬、よろしく」


「よ、よろしくお願いします…」


 いきなりの名前呼び…

 なんなんだこの圧倒的コミュ力は…


「親睦を深めようってことでカラオケ何人か誘ってるんだけど、よかったら美空ちゃんも行かない?」


「す、すいません…今日は予定がありまして」


「そうか〜、じゃあ連絡先くらい交換しようよ」


「えっ…」


  いくらなんでも展開が早すぎるだろ〜〜!!


 私が訳も分からず困惑していた、その時だった。


「ここにいた!おーい大地くーん」


「げっ、ゆかり…」


 ゆかりという名のあざとい感じの女の子が早瀬くんの名前を呼びながら、元気よく教室に入ってくる。


「今日は付き合って一ヶ月記念だからお気に入りの喫茶店に連れてってくれるって言ってたでしょ!」


「そ、そうだっけ?」


「すぐ可愛い女の子に話しかけるんだから!」


「ご、ごめん…じゃあ美空ちゃんまた明日…」


 ゆかりちゃんは早瀬くんの腕に捕まって、キッと私を睨む。


「ア、アハハ…」


 私はただ苦笑いでその場をやり過ごすことしかできなかった。


 この日、私の中で何かが音を立てて壊れた。

 100年の恋も冷めるとはこういうことを言うんだろうか。

 ふつふつと彼に対して怒りすら湧いてくる。

 なんなんだアイツは…

 私の想い人はただの女たらしであった。


 現実とは常に残酷だ。



 一年後…


「あっ、また美空と同じクラスだ」


「名前呼びやめてくれませんか?早瀬くん。吐き気がします」


「おっ、ツンデレか?」


「だといいですね」


「今日放課後遊ばない?」


「塾があるので無理です。なくても無理ですけど」


「へ〜、塾行ってるんだ。俺も塾行こうかな〜」


「フッ」


「ん?なんかおかしいこと言った?」


「成績も下から数えたほうが早い、サッカー部もサボり気味、顔だけしか取り柄のない女たらしのあなたが塾に行くなんて、笑わせないでくれるかしら」


「俺のこと詳しいね。やっぱ俺のこと好きなんでしょ?」


「随分ポジティブですね。死んでください」


 彼のことを好きだった中学生の頃の私は今ではもう黒歴史となっている。

 中学の頃の彼を知っている女の子に話を聞いたけれど、彼は中学の頃からあんな感じだったらしい…

 私が図書館で見た彼は本当に幻だったのだろうか…


「ほんと眼鏡の時の早瀬くんに会いたいわ…」


 あっ、やばい。思わず口から出てしまった。

 ふと視線を上げると、早瀬くんは今までにないくらい動揺した顔をしている。


「知っているのか?」


「えっ…」


「なんで知っているんだ!?」


 いつになく取り乱している早瀬くんに私は思わず怯んでしまう。


「ちょっ、ど、どうしたのよ…」


「す、すまん…やっぱなんでもねえ…」


 そう言い残して彼は私の前から立ち去る。


 あの頃のことは彼にとってはもう思い出したくもないほどの黒歴史なのだろうか…

 そんなことを考えたら余計に悲しくなった。




 その数日後、私はその言葉の本当の意味を知ることになるとは知る由もなかった。










 押しに弱い僕は結局、塾で出会った女の子、貴城さんと連絡先を交換してしまった。

 よくわかんないけど、とにかく母さん以外で初めての異性の連絡先。

 それに加えて両親からの入塾の許可も漕ぎ着けた僕は随分と浮かれていた。


「やっぱりこれから塾でお会いするんだし、よろしくお願いしますとかが無難かな?」


 そんな大地が秒で終わらせそうな貴城さんへの返事を何時間もかけて熟考していると、気がつけば僕は自分のベッドでぐっすりと寝落ちしていた。


「ふぁ〜、よく寝た…」


 今日は日曜だから時間を気にすることもないもないし…最高だ。


 ゆっくりとベッドから降りて、スマートフォンに手を伸ばす。


 新着メッセージ24件


 貴城さん:貴城美空です


 貴城さん:今日は本当に申し訳ございませんでした


 貴城さん:私の勘違いで、優しい海くんにとても失礼な行いをしたことをちゃんと謝りたいです


 貴城さん:お詫びとしてはなんですが、美味しいスイーツをご馳走させてください


 貴城さん:どうか、もう一度私にチャンスをください


 貴城さん:突然、海くんに連絡先を聞いてしまったにも関わらず…




 あぁ、昨日の件で疲れているんだな。

 どうやらまだ夢の中にいるらしい。

 貴城さんへの返事を考えすぎたせいで変な夢を見ている。


 僕はスマホを置いてベッドに入り、ゆっくりと目を閉じた。



















 僕、早瀬 海には家族や親戚にしか、区別がつかないほどそっくりな双子の弟がいる。


 弟の名前は早瀬大地。

 学校の成績は…「ちょっと待ってタイムッ!タ〜〜イムッッ!!」


「どうしたの?折角、僕が語り手として読んでるのに」


「もう一回最初の1行を読みなさい!」


「僕、早瀬海には家族や親戚にしか、区別がつかない…」


「そこ!」


「え?」


「なんで私の名前が入っていないのよ?」


「だってこれ丁度10年前の学生時代の話だし」


「い、今は一瞬でわかるもん!というかあなたと大地を私が間違えるわけないでしょ!!」


「でもネタバレになるしなぁ」


「いいから私の名前もいれなさい!」


「……」


「な、なに急に真剣な顔しちゃって…何か言ってよ…」


「あのさ…」


「う、うん…」


「その…僕的にはもう家族みたいなもんじゃないかなと思ってるから…」


「えっ…」


「……」


「まっ、まって!それって、も、もしかして……プ、ププ、プロポーズ!?」



 頬が徐々に赤くなっていく美空に僕はぎこちなく頷いてみせた。





読んで下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 男子校でこんな奇跡起きたらいいよね……… まあ起きないから奇跡、現実にはないからファンタジーっていうんだけどね チクショー!
[気になる点] 面白いけど、恋と恋愛が足りない。。。 勉強と弟の事いっぱいけど、肝心の恋少ない まるでイチゴないのいちごケーキな感じ [一言] 双子の物語だけなら、とてもいいかも
[一言] 連載でもっと細かく読みたい。
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