逃げないウサギはただの餌
平明神です。
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※ いわゆる「なろう系」の作りではありませんので、地の文を読むのが面倒な方、一人称の文しか読まないという方にはお勧めしません。
「な、なによ。じっと人の顔見てんじゃないわよ」
顔を赭らめつつ抗議する少女。
確かに光太郎は彼女をじっと見つめていた。
少女のつり目がちな大きな目は、誰もが認めるであろう美しい顔に収められていた。
しかし光太郎は、その美貌に魅せられていた訳ではない。
彼女の何かが、光太郎の記憶を擽っているのだ。
ツーサイドアップ、いや、後ろにもポニーテールがあったのでスリーサイドアップともいうべき特徴的な髪型にした桃色の髪と、日本の着物をアレンジしたようなジャケットと、ミニ・スカート。特徴的な格好だ。如何にもアニメに出てきそうな格好であるが、しかし違う。こんな個性が凡庸を挑発するような独特の外見を以前にも見ているのならば、すぐに思い出す。
やはり、顔か?
(もっと近くでよく見てみよう)
光太郎は少女に近づくため動こうとしたが、しかし動きはピタリと止まってしまった。
「え、え? ちょっと、なんでよ!」
焦る少女。それもその筈、自らの身体が再び発光しだしたからだ。
これは少女にとっても予想外だったらしく、首をキョロキョロ動かし、手をバタバタさせて体中を触り、自身の異常の原因を探ろうとしている。
「もう! 嘘でしょ⁉︎ 早くない⁉︎ せっかく出てこられたのに!」
少女の絶叫が引き金になったのか、次いで少女の全身にノイズのような揺らぎが走った。
やがてノイズは大きく、また多くなり、その範囲を広げて少女の原形を崩しつつあった。
「ねぇ、君は誰なの⁉︎」
この現象は不服ではあっても既定のことなのか、頬を膨れさせながらも騒ぐのをやめた少女に、光太郎は問いかけた。
「ああっ! やっぱりアンタ、こっちでも私のこと忘れてんじゃないの! もうっ、腹が立つわね! でも、今は私の事なんてどうでもいいわ。時間がないから手短に伝えるわよ。これからアンタはここから逃げ出すの。全力で」
「に、逃げるって……どうやって?」
「大丈夫。私がこれから言う事をよく聞いて、実行に移しなさい」
その時だ、部屋の外から声が掛けられた。
「支配人!何か大きな音がしましたけど、大丈夫ですか?」
恐らくポンシオの部下であろう男の声。
「───っ⁉︎ いよいよ時間が無いわ! いい? これから要点だけ言うからしっかり覚えなさいよ」
「う、うん」
聞きたいことは山程あるが、少女の真剣な顔と勢いに押され、光太郎はただ肯くしかできなかった。だが何故か、彼女の言うことは信じられる───そんな確信がある。
「まず私がこの場をなんとかするわ。そしたらさっさとこの部屋を出て、さっきの女の子───ローラって言ったかしら? その娘を見つけて仲間につけなさい。私の勘じゃきっと味方になってくれるから。あとは───」
一言一句を頭に刻みながら───と言ってもかなりアバウトな指示ではあったが───おそらく最後の指示になるだろう少女の言葉を、光太郎は固唾を飲んで待った。
「───自力で外に出て、自力で何とかしなさい!」
「…………」
最後はアバウトを通り越して丸投げだった。
目が点になった光太郎のことなどお構いなしに、少女はドアの方を睨み、右の掌をその方へ向けた。
「えいっ!」
少女が気合を入れると、掌から光が勢いよく飛び出してドアの向こうへ消えていった。
一瞬の後、ドアの向こうで何かが倒れるような音がした。
その間にも少女の発光化とノイズによるブレは酷くなる一方だった。
「最後に、ココ!」
「え? な、なに?」
「あんたには最高の武器がある。それに気づきなさい!」
そう言って彼女は消えて───いく寸前に、慌てて訂正した。
「いや、前も教えてあげたけど、忘れてるだけなのよ! それを思い出しなさいよ! 本当はもっと凄いんだから!あ、でも勘違いしちゃだめなんだからね? いい? こうやって教えてあげるのはあたしのためであって、あんたのためじゃ───」
パッ。
セリフの途中で、少女は唐突に消えてしまい、光だけが残された。その光もスッ、と光太郎の胸に飛び込んで消えてしまった。
この数分の間に光太郎の脳の処理能力を超える事態が立て続けに起きたために、彼は頭痛がしてきた。この状況を作り上げている存在───例えば『神』や『創造主』という存在がいるとするのならば、いろいろと物申したいことはある。てんこ盛りだ。
しかし、分けても一番強い思いは、
(どうせなら、せめて最後までツンデレさせてあげようよ)
というものだった。
しかしセリフの最後は容易に予想がついたので、そのこと自体は大した問題ではない。
とはいえ、光太郎が持っているという ”最高の武器” に関しては何一つ具体的な事を言わず消えていったので、やっぱりモヤモヤは残る。
光太郎が異世界に来てから───異世界に来たことも含め───理不尽、不可解のオンパレードだったが、この少女の件は、間違いなく現時点での首位に躍り出た。
「う……」
近くから聞こえてきたうめき声に、光太郎の肩がビクッと弾けた。
声の方を振り向くと、どうやらポンシオの意識が戻りかけているようだ。
(どうしよう。早くここから逃げなきゃ……)
意を決して勢いよく───は出来なかったので、そーっとドアを開ける。5センチほど。
ドアの隙間から床を見ると、横になっている男の足が見えた。勇気を出してもう少し隙間を開けてみると、こちらも伸びているらしく、廊下に大の字で倒れている男の姿。
光の少女の仕業であると確信している光太郎は、顔だけをドアから出して左右確認。サッと身体を疾風のように滑らせ、部屋から脱出 → 壁に張り付く NINJA アクション。周囲を警戒しつつ、小走りに進みだした。
特に目隠しをされていたわけではないので、道順は記憶している。往路とは逆に歩を進めつつ、少女の言葉を思い出していた。
(案内してくれたあの女の子を探して、味方につけろ───って言ってたよね)
何階あるか判らないが、1階当たりの部屋数は7だったので、館はそこそこに広いと言えるだろう。
ローラがどこにいるかは見当が付かなかったが、闇雲に探すのも憚られる。
見つかるリスクを犯さず、さりとて効率よく探すにはどうすれば良いか……。
その方法を模索していると、
「おい、お前。見かけねぇ顔だな?」
後ろから声を掛けられた。
ビクッと驚き、そのまま固まってしまった光太郎。ダラダラと冷や汗が流れていく。
「ああ、そうか。そういや今日、新人がるって言ってたな。そんで、こんなとこでどうしたんだ?」
独りで勝手に納得した男。
(あ、そうか……僕が逃げ出したことはまだ知られていないんだ)
幸運に感謝しつつ、しかし情報がいつ拡散されるともしれない現状も自覚していた。ならばこの機を活かさねばならない。
「えっと、あの……ローラさんから、部屋で待っているように言われたんですけど、渡された服のサイズが合わなくて、それでローラさんを探してて……」
なんとか絞り出すように言い訳をすると、男は「そうか」と頷き、前方を指し示した。
「ローラなら、今さっきその部屋でシーツを畳んでるのを見たぞ。たぶん、まだいるんじゃないか?」
「あ、ありがとうございます」
なんという幸運! 光太郎は短く例を述べると、そそくさと立ち去った。
教えられた扉を開く───といた。ローラだ。
堆く幾つも積まれたシーツの山を、小さな体で張り合うように一心不乱に畳んで減らしている。
ギィ……。
立て付けが悪く、光太郎が開けた拍子に扉が軋る。
「誰? あたいいま忙しいんだから、邪魔しないでよね。鐘が鳴るまでにコレを片付けないと、お姐さんたちにどやされるんだから───って、えっ⁉︎」
「ど、どうも……」
「あ、あんた何でこんなとこに……。いま講習中のはずでしょ?」
「えっと……げてきちゃった」
「え? 何だって?」
「だから……逃げてきちゃったの!」
「…………はぁっ⁉︎」
目をひん剥き、仰天するローラ。
「あ、あんた、逃げてきたって……そんな、どうやって。いや、そんなことより、それが本当なら、あんた、殺されるよ……」
小刻みに震えながら、空恐ろしい事を言ってくる少女。
「あのポンシオって男は札付きのワルで、この館に来るまでに何人も殺してるんだ。それも、ただ気に入らないってだけの理由でね。ここに来てからも、下男が何人か消えてる。それもポンシオの仕業だって噂なんだよ。それに、カミラ様だ……。逃げ出したってことは、あの方に楯突くってことなんだよ。この街であの方に逆らえるのは、貴族のお偉方くらいなもの。なのに……」
「ちょ、ちょっと待った! うん、それは何というか、ヤバいことをしちゃったんだなっていうのはわかってる。けど、僕も必死なんだ。こんなところに居るわけにはいかない」
「……僕?」
「あ……っ!」
よりによって今知りたくないネガティブな情報を垂れ流してくれるローラを制止しようとして、光太郎は思わず素を出してしまった。
しかしこれはある意味で、この危機的状況を打破する分水嶺になるかもしれない。
光太郎は覚悟を決めて、己の秘密を目の前の少女に打ち明ける決心をした。
「……うん。僕は実は、男なんだ。訳あってこんな格好してるけど」
「はんっ。何いってるの? こんな可愛い男がいるわけ無いでしょ? 嘘を吐くならもうちょっとマシな嘘を吐きなよ」
「えー。本当なんだけどなぁ」
「それが本当なら、証拠を見せなよ!」
いうなり、ローラは光太郎にやおら近づき、ズボッ。スカートの中に右手を突っ込んだ。
そして───キュッ。
「ふぁっ⁉︎」
光太郎の右足の付け根と左足の付け根の間にある、男にとって大事なモノを握ると、
「本当だ…………」
驚愕に震える声を上げた。
「ちょっ! ちょっと離してよ!」
すぐ解放されるかと思ったら、いつまでもローラの右手は光太郎のトレジャーから離れない。
それどころか、むにむにと揉み始めたではないか。
「ふぁぁぁぁ…………」
他人の、しかも少女の柔らかな小さな手に揉みしだかれる初の感覚に、光太郎の口から歓喜とも恍惚ともつかない声が漏れた。
彼の宝物が生理的な作用によって、より具体的に言えば血流が流れ込むことによって、その体積をムクムクと増してきたことで、ようやくローラは自分のしていることに気づいたようだ。
「はっ⁉︎ あ、あたい、なんてことを!」
途中からは無意識的な行動だったようで、己の右手の粗相に気づいた途端、あたかも焼けた鉄に触れたかのように勢いよく手を離した。
「うう……」
「ご、ごめんよ。ここまでするつもりは……」
「いや、いいよ。でも、これで解ってくれたでしょ? 僕が男だって」
「う、うん。解った。でもこれではっきりしたよ。あんた、ここにいちゃダメだ。女だったら、捕まったって運が良ければ、まだ命が助かる見込みはある。商品としてね。でも、男はダメだ。間違いなく殺される。それも、早く殺してくれってくらい、惨たらしい方法でね」
そう言うとローラは、しばらく黙り込んだあと、少しだけ声のトーンを落として告げる。
「あたいが、逃してやるよ」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白やん?」とか「あかん、続きが気になるわ」と思われたら、
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