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シュワッチ

平明神たいら みょうじん)です。

最高に面白い小説を皆様に読んでもらいたいと、いま出せる全力で作った作品です。どうか応援をお願いいたします。


面白い、続きが読みたいと思われた方は当ページの下部にある部分から評価をつけて頂ければ幸いです。


※ いわゆる「なろう系」の作りではありませんので、地の文を読むのが面倒な方、一人称の文しか読まないという方にはお勧めしません。

「講習……ですか?」


「そう、講習。わかるでしょ?」


 さも当然のように話すカミラに対し、光太郎はいまいちピンとこない。


(講習っていうと、お客さん相手の礼儀作法を教えられるってことかな?)


 コスプレの費用を稼ぐためにアルバイトした飲食店で、光太郎は講習を受けたことがある。その経験から似たようなことを想像したのは当然といえる。


「わかりました。講習を受けます」


 そもそも男の光太郎が娼館で働けるはずもない。だから、逃げるまでの時間稼ぎとしてひとまず相手の提案を受け、逃げ出す隙を窺う算段を立てた。


「あら、案外物わかりがいいのね。大体の子は黙って唇を噛むか、泣きじゃくるかのどっちかなのに。それじゃ、早速───と行きたいけど、その前にアンタ、汚いわね。ちょっと衰弱してるみたいだし、そんなんじゃ講習どころじゃないわね。いいわ、ちょっと休みなさい」


 そう言って、カミラはテーブルの上に置いてある呼び鈴を一振り。軽やかな音が鳴り、小間使いであろう一人の少女が現れた。


「この子に食事を与えて。その後少し休ませなさい。起きたら身なりを整えさせて。講習を受けさせるから。講習はポンシオあたりに声を掛けておいて」


 指示を与えた後、カミラを部屋を出て行った。



 小間使いの少女に案内された食堂で、パンとスープだけの質素なものであるが、食事を与えられた。不安から食欲はほとんど湧かなかったが、この2日間ほとんど食事をしていなかったことと、逃げるためには体力が必要だという判断から、無理やり胃に詰め込んだ。

 その後、案内された部屋には、小さなベッドがいくつか並んでいた。そのうちの一つで休めと言われ、光太郎は言われるまま体を横たえた。


 体を揺さぶられる感覚に目を覚ますと、先ほどの小間使いの少女がやや険しい顔で光太郎を睨んでいた。

 どうやら横になった瞬間、眠りに落ちたらしい。そのまま爆睡していたようだ。疲れと胃が満たされたことが原因なのは間違いない。

 少女は水の入った木の桶と、きれいな布巾を持っていた。これで体を拭け、ということだ。

 危うく服を脱がされそうになった光太郎は、


「だ、大丈夫です! 自分でできます!」


 と固辞した。しかし少女は、


「何で? 別に女同士なんだし、恥ずかしがることないじゃな……あ、そうか。ごめん、あんたもそうなんだね。そりゃ ”印” なんて、他人に見られたくないよね」


 と何かをひとりで納得し、追求の手を止めた。


「じゃあ、終わったらコレに着替えて、コレであたいを呼んで」

 

 と言い残し、少女は出ていった。

 最初の指示代名詞コレはベッドの上に置いた布の塊で、次のコレは呼び鈴のことだ。

 ほっと安堵の息をもらし、光太郎は布巾を水に濡らして服の間から拭身した。

 ちなみに光太郎の汗と努力の結晶である姫騎士の鎧は、牢屋で起きたときには既に剥ぎ取られていた。悲しかったが、仕方ない、と光太郎は諦めざるを得なかった。

 たらいに張られた冷たい水が、光太郎の心を一層惨めにした。

 とはいえ、汗や垢などが拭い取られるたびに、その分だけ陰鬱な気持ちもなくなっていく気がしたのも事実だった。

 拭身を終えて視線を移した先は、ベッドの上に置かれた着替えだった。

 あまり上等とは言えない生地のようだったが、縫製はしっかりとしている。

 しかも有り難いことに、生地は薄くはあったが少なくない。つまり露出面積が少ないのだ。

 シンプルな、町娘向きのドレスといった趣の衣装を着て、先程の少女を呼ぼうかと思ったが、彼女の名前を知らないことに気がついた。その時、そういえば呼び鈴も置いていったことを思い出したので、振ってみた。

 チリリンという音の後、先程の少女がドアを少し開け、隙間から顔をのぞかせた。


「大丈夫そうだね。じゃあ、こっちに来て」


 少女に案内された先は、ひとつ上の階にある部屋だった。


「ポンシオ、あたい。連れてきたよ、新入り」


 トントン、と二回ノックしたあと、少女は扉の向こうへ声をかけた。


「おう、入ってくれ」


 少女の声に応えたのは、野太い男の声だった。

 ドアを開けて入ると、室内には一人の男がいた。全体的にずんぐりとした体型で、首は太く、短足だった。着ているものは生成りのシャツにスラックスのようなパンツで、小綺麗にしている。だが、身につけているものは金ピカの指輪やネックレスで、ゴテゴテした装飾が印象を台無しにている。


「そいつか、新入りってのは?」


「そう。この娘」


「ほーう。こいつは上玉じゃねぇか。いいねぇ。こういう女を相手にできるんだから、この商売はやめられねぇ」


 舌なめずりして、男は下卑た笑いを浮かべた。

 その顔を見た少女は、一瞬だけ軽蔑の目を浮かべたのを光太郎は見逃さなかった。


「じゃあ、ローラ、下がっていいぞ」


 男に退去を命じられ、少女───ローラは無言で退室した。


「俺はポンシオ。この ”カミラの館” の支配人だ」


 カミラの館というのは、おそらくこの娼館の屋号なのだろう。そしてこのポンシオは、支配人という肩書から察するに、上から1,2番めの権力者ではないだろうか。人を見下すように顎を上向きに話すその態度が、それを肯定している。


「それじゃさっそくだが、おいお前、服を脱げ」


「……………………はい?」


 いま自分は何を言われたのだろうか、聞き間違えたのだろうかと首を捻った。


「何をやっている。さっさと脱げ」


 しかし、どうやら聞き間違えではなかったようだ。

 しかもあろうことか、ポンシオは光太郎を急かしながら、自身もシャツのボタンを外しながら脱衣を始めたではないか。


「ちょっ!なな、何をしてるんですかっ⁉︎」


「何って、講習を始めるんだよ。カミラの姐さんから聞かなかったのか?」

「講習……」


 たしかに言っていた。講習をしてもらう、と。


「あ……」


 そして遅まきながら、気付いた。気付いてしまった。

 アーロンも言っていたではないか。ここは ”娼館” だと。

 ここが娼館であり、女を求める男が客というのならば、講習とやらの中身は必然、お互い裸での接客技術を教える、という内容になる。


「誰も教えてねぇのか? ったく、仕方ねぇ」


 言うなり、ポンシオは光太郎に向かって手を伸ばした。


「ひっ!」


 言い知れぬ嫌悪感に身をよじり、その手を避けた。

 それを見たポンシオの動きが一瞬止まり、やがて彼の顔が憤怒に歪む。

 

「てめぇ……」


 そして光太郎を一睨みするや、


 パンッ!


 乾いた音が部屋に響いた。

 呆然と目を見開いたままの光太郎。

 自分に何が起きたのかは、熱を持ち、やがてヒリヒリと痛みだした頬が教えている。

 自分は暴力を振るわれたのだ、と認識した途端、きゅっと心臓が竦み上がった。

 平手で光太郎の頬を張ったポンシオは怯える光太郎を見ると、やがて憤怒を嗜虐の笑みに変えて言う。


「そうかそうか、何も知らないのか。だったら俺が一から十まで教えてやる。手とり足取り、腰取り───な」


 嗜虐心を刺激されたのか、下卑たセリフと共に、光太郎に伸ばされる手。

 逃げなければ───。そう思っても、身体が金縛りにあったように動かない。

 震える光太郎に、男の影がかかる。

 

(もうダメだ───!)


 諦めかけたその時、


「な、なんだこりゃっ⁉︎」


 ポンシオが上げる驚愕の声を聞きながら、光太郎は見た。。眩く輝き出した、己の胸元を。



『アンタ、こいつになにしてくれてんのよーーーーーー!』


 どこかから虚空に響く、若く張りのある、怒りを帯びたアニメ声。

 同時に、輝く胸元から更に大きな光が飛び出してきた───と思うより前に、その光はポンシオに勢いよくぶつかり、彼を思い切り吹き飛ばした。


「ぐぎょっ!……お……ぉふ」


 めり込むかと思うほどの勢いで壁にぶつかったポンシオは、そのままずるずると床に倒れ込み、妙なうめき声をあげたあとに気絶した。


「…………」


 呆然と目の前で起きた不可思議な現象を、ただ見つめる光太郎。

 

 ポンシオを吹き飛ばした光は、徐々にその光量を落としていき、やがてキラキラと淡い輝きだけを残し、消えていった。いや、正確にはその光から生まれるように、光が生まれ変わるように、ひとつのシルエットを形作っていった。

 最初は文字通り人影だった。光が逆光となり判然としなかったが、光が収まる頃には間違いなく形を成していた───少女の姿を。


『まったく。誰の許しを得てこいつに手を上げてんのよ。女神が許しても、私が許さないわ』


「…………」


 いまだ茫然自失の光太郎。

 しかし確実にその瞳は、光から生まれた少女を捉えている。捉えて離さないでいる。あるいは、少女から放たれる目に見えない何らかの力によって捉えられているのかもしれない。

 いま光太郎には、少女の顔は見えない。少女が背を向けて立っているからだ。別にこれは光太郎に顔を見せたくないとかではなく、単純に倒れ伏したポンシオを睨みつけているからだ。

 その証拠に───


『……ん? あんた、大丈夫? 怪我とか、ない?』


 肩越しに振り向き、少女は光太郎を見た。

 少女は眉を下げ、不安そうな目つきをしていた。光太郎を案じているのだ。

 少女と目が合った瞬間、光太郎の心臓は再びギュッと掴まれたような気がした。しかしそれは、ポンシオに打たれた時とは明らかに違う感覚だった。


 この感覚はなんだろうか?

 

 だがその答えを見出すより前に───光太郎が呆けたままだったからだろう───少女は更に不安そうな顔色を浮かべて、質問を重ねる。


「ちょ、ちょっと! ほんとに大丈夫なの⁉︎ まさか、打たれた衝撃で頭がどうかなったんじゃないでしょうね?」


 あわあわと狼狽しだした少女に、光太郎はやっと声を返した。


「君は……僕を助けてくれたの……?」


 ひとまず光太郎は、意思の疎通ができるくらいには無事だ───そう思ったのか、少女は安堵のため息をついた。

 しかしそのあとで、ハッとした顔をした。


「べ、別にあんたのためじゃないんだからねっ!」


 この少女は誰なのか。どんな存在なのか。なぜ光と共に現れ、なぜ光太郎を助けてくれたのか。

 不可解なことは山程ある。

 しかし一つだけ確かなことは、


 この少女は、どうやら典型的なツンデレらしい───ということだった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!


やっとヒロイン出せました。


「面白やん?」とか「あかん、続きが気になるわ」と思われたら、

①『ブックマーク』

②広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】

していただけますと幸いです。

皆様の応援が作者のモチベーション、励ましとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!

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