ドナドナ
平明神です。
最高に面白い小説を皆様に読んでもらいたいと、いま出せる全力で作った作品です。どうか応援をお願いいたします。
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ごめんなさい。ヒロイン出そうと思いましたが、まだちょっと後になりそうです。でも、後1話か2話くらい……
いやもうホント、すぐです。はい。
※ いわゆる「なろう系」の作りではありませんので、地の文を読むのが面倒な方、一人称の文しか読まないという方にはお勧めしません。
「……売ら……れた?」
何を言われたのか理解できず、かろうじて出来た反応はオウム返し。
「ああ、そうだ。売られたんだよ」
鉄格子の向こうにいる男は、光太郎を見下ろしながら言った。
背はそこまで高くないが、筋骨逞しい体格をしている。
禿げ上がった頭に眼帯を巻き、左目を覆い隠しているその顔は、ネズミのそれを潰したような醜さだった。
いや、いま光太郎の頭を占めているのは、男の風体よりも男が言い放った言葉の方だ。
売られた───という言葉は理解る。
では、何を?
「売られたって……何が、ですか?」
「はぁ? お前、マジで言ってるんか? そうとう飲み込みが悪いんだな」
可哀想な子を見る目で見られた。
いや、光太郎も理解かってはいるのだ。
ただ、認めたくないだけ。
「いいか、もう一度言うぞ。お前は売られたんだ。仲間にな」
「仲間……」
「そうだ。な・か・ま。お前と一緒にいたやつがいんだろう? そいつにな」
「いっしょにいた……」
頭の中にホットミルクが詰まっているみたいだ。
真っ白で、膜がまとわりついて考えが纏まらない。
「そうだ、いっしょにいただろ? そいつにな」
ボクハウラレタ。
ボクハウラレタ。
ボクハウラレタ。
「……………」
優しい人達だと思っていた。
これから、もっと仲良くなれると思っていた。
きっといつか一緒に冒険して、いろいろな場所に行くんだと思っていた。
この世界に慣れたら、『一緒に冒険したい。連れて行ってほしい』と頼むつもりだった。
迷惑ばかりかけるだろうが、いずれは経験を積んで成長し、彼らを助け、守り、助けてもらった恩を返そう……。光太郎はそう思っていた。
なのに───。
(僕を助けてくれたのも、優しくしてくれたのも……こうやって売り飛ばすためだったのか?)
力なく項垂れる光太郎。
もう、彼は考えることを放棄した。
「可哀想だとは思うが、こうなっちまったもんは仕方ねぇ。お前はこれから売られていくんだ」
男は醜い顔をしているが、心根は優しいようだ。
同情の顔を見せ、男はまた鉄格子から離れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれから2日が過ぎた。
その間光太郎は何も考えず、何も喋らず、ただただ呆然と過ごしていた。
考えれば悲しくなるから。裏切られたことに。
考えれば怖くなるから。これらから待ち受ける人生に。
この2日間、醜い顔をした男は、光太郎に時おり話しかけてきた。
だが光太郎はまともに相手する気力もなかったので、「ええ」とか「そうですか」とか、生返事ばかりしていた。
ただ、いくつかの情報は勝手に入ってきた。
男は人さらいと人身売買の組織の一味だということ。
その組織と光太郎の知る誰かが共謀したこと。
光太郎は宿で寝ている間に、男の仲間によって拉致されたこと。
この牢は、売られていく者を一時的に置いておく、待機所のような場所だということ。
男は組織の中でも末端で、見張りをさせられているということなどだ。
世話係も男の仕事に含まれているらしく、定期的に食事を持ってきた。
食事と言っても固いパンに薄いスープだけの、餓死させないだけのものだ。
「おい、迎えがきたぞ」
男に言われ、光太郎は俯いていた顔を上げた。
牢番の男の後ろに、知らない男が立っていた。
長身痩躯の神経質そうな、若い男。
オールバックに髪を撫で付け、メガネを掛けている。
「お前が新しい商品か」
冷たい声。それは男のまとった雰囲気が凝集されて、男の口から吐き出されているようだった。
「ガウロ、そいつを連れてこい」
「わ、わかったよ、アーロンさん」
アーロンと呼ばれたオールバックの男は、門番ガウロに命じると、さっさと歩いて牢から出ていってしまった。
「悪いな。痛かったら言ってくれ」
ガウロは光太郎を後ろ手に縛り、丁寧に立たせた。
手に括られた縄の先をガウロが持ち、引っ張られるに従って歩いていく。
鉄格子を抜け、細い道を歩き、階段を登る。どうやら牢は地下にあったようだ。
建物の中から出て知った。時間の感覚がなかったため判らなかったが、今は彼誰時。
まだ薄暗い中、馬車に乗せられる。扉がついた箱型の客室に、車輪を付けたタイプだった。室内には向かい合わせに長椅子が据え付けてある。てっきり荷台に幌をつけただけの粗末な馬車を想像していただけに、これは意外だった。
馬車には光太郎とアーロンだけが乗っていた。外の御者台にも1人乗っているが、これはまた知らない男だった。ガウロは光太郎を荷台に乗せた後、先程の牢に戻った。
「…………」
アーロンはじっと光太郎を見ているが、何も言わない。
光太郎の方も、何も言うことはない。正直訊かなければいけないことはあるが、訊いたところで教えてくれないだろうし、喋るのも億劫だった。
沈黙のまま、馬車は進む。
何もすることがないので、窓から外を眺めるしか無い。
曙光に照らされて映し出された町の眺めは、初めて見るものだった。
ここは___ミケードの町ではない。
「気付いたか。ここはベルカーナという街だ。お前はここで、娼館に売られることになる」
馬車に乗ってから初めて、アーロンが光太郎に話しかけてきた。
娼館とは、春を鬻ぐ女性たちのいる場所だ。
通り魔に刺され異世界に飛ばされるだけでは飽き足らず、まさか男の自分が娼館に売られることになろうとは……。
光太郎は我が身の波乱万丈ぶりに、思わず笑いが溢れた。
「……? なにが可笑しい?」
怪訝そうに尋ねるアーロン。
「いえ、何も」
「ふん、妙な娘だ。いままで売られていく娘を数多く見てきたが、笑ったのはお前が初めてだな」
「…………あなたは組織の人なんですよね?」
「ガウロから何か聞いたのか? 仕方ないやつだ。……まぁいい。そうだが? 」
「なぜ人を売るんですか?」
「それが我々の商売だからだ。需要があるから供給する。美しい女を求める者がいて、求められればソレを用意する。それが我々だ。それ以上でも以下でもない。お前が売られたのも、買う我々に需要の理由があり、お前を売ったものに供給する理由があったからだ」
「私を売ったものに、どんな理由が……」
「それは俺の知ったことではないない。一般的な理由は金銭だ。が……あの女は金銭以外になにか理由があったのだろうな。見た所、お前に何らかの悪感情を抱いていたようだからな」
「女……?」
光太郎の胸が一つ、大きく跳ねた。
(そういえば、ガウロも言っていた。『お前を売ったやつ』って……)
やつらではなくやつ。複数では無く単数。
そしていま、アーロンは『あの女』と言った。
(僕といっしょにいた『女』の『一人』……)
考えることを放棄した頭脳が、急速に回転し始める。
導きだされたのは、二択。
(ブランカかベルタのどちらか……)
そして可能性が一番高いのは、
(ブランカ……なのか)
彼女の光太郎に対する態度は、疑いの天秤を傾けさせるのに充分だった。
「……どうやら余計なことを喋り過ぎたようだな。まぁいい……ちょうど目的地に着いたようだ」
馬車から降りると、目の前には三階建ての古びた建物があった。
「こっちだ。ついてこい」
光太郎の右隣に綱を握ったアーロン。左隣に御者台に坐っていた男が立ち、逃げられないように両隣を固められながら歩いていく。
表からではなく、裏の勝手口へ回る。
そこでアーロンは3回ノックをした。
「……誰?」
「アーロンだ」
ぎいっと扉が軋り、一人の女が顔を覗かせた。
「約束の女を連れてきた。セニョーラ・カミラに伝えてくれ」
「ちょっと待ってて」
女は扉を閉め、セニョーラ・カミラという人物を呼びに行った。
数分後、再び顔を覗かせた女に案内されて、光太郎とアーロンの二人だけが応接間らしき部屋に通された。
部屋の中には一人の少女が、大きなソファに足を組んで坐っていた。
黒髪のショートヘアが映える白い肌。豊満な身体は、露出度の高い赤いドレスに包まれている。
「アーロン、久しぶりね。貴方が出張るなんて珍しいじゃない」
「カミラ、久しぶりだな。最近はたまたま別の仕事が詰まっていただけだ。そう珍しいことではないだろう」
セニョーラと呼ぶには若々しすぎる相手だが、アーロンは見た目年下の少女に気安い態度で応じた。
「ふぅん。それより、上玉じゃない。どこで手に入れたのよ、その娘」
「企業秘密だ」
「相変わらずケチくさいわね。まぁいいわ、こっちは連れて来てくれるだけでもありがたいしね」
「それだけで満足しておくことだな」
「『好奇心はドラゴンを殺す』ってことわざもあることだしね」
「それより、どうなんだ? この娘を使うのか使わないのか、決めてくれないか?」
「もちろん、うちで使わせてもらうわ」
「決まりだな。では俺はここで失礼しよう。支払いはいつものように頼むぞ」
「もう帰るの? つれないわね、もう少しくらいはいいじゃない」
「これ以上は時間の無駄だ。為すべきことは成した」
ビジネスライクな姿勢を崩さないアーロンにため息を返し、カミラは肩を竦めた。
話は終わったようで、そのままアーロンは、光太郎を一瞥もせずに帰っていってしまった
「さてアンタ、名前は?」
セニョーラ・カミラは、初めてココを正面から見た。
「コ、ココです」
「ココね。ふ〜ん」
「あの……なんでしょうか?」
「あんた、ホントに可愛いわね。ムカつくわ」
「え?」
女の嫉妬は恐ろしいものだ。光太郎は思わず身を引いてしまった。
「そんなに怖がらなくてもいいわ。確かにアタシより綺麗な娘は腹が立つけど、だからって何も危害は加えたりしないわ。アンタが私の大切な商品である間はね」
その言葉にホッと胸を撫で下ろした光太郎。だが、すぐに顔が青褪める。
逆にいえば、商品として利用価値が無くなればすぐに牙を剥く、と言うことだろう。
目の前の少女は、光太郎とそれほど歳が離れているようには見えない。
しかし、裏の世界の人間と繋がっているのは伊達ではなく、いざとなれば容赦はしないだろうと感じさせる目付きをしている。
絶対に男だとはバレてはいけない。
(どうしよう……)
煙管から紫煙を燻らせながら、女は怯える仔ウサギを見るように、冷や汗を流す光太郎を見て微笑んだ。とても嗜虐的に。
「早速だけど、いまから講習を受けてもらうわ」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白やん?」とか「あかん、続きが気になるわ」と思われたら、
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