出会い 〜黒い魔女の森〜
平明神です。
最高に面白い小説を皆様に読んでもらいたいと、いま出せる全力で作った作品です。どうか応援をお願いいたします。
面白い、続きが読みたいと思われた方は当ページの下部にある部分から評価をつけて頂ければ幸いです。
※ いわゆる「なろう系」の作りではありませんので、地の文を読むのが面倒な方、一人称の文しか読まないという方にはお勧めしません。
中途半端な眠りから目覚めたようなダルさを感じながら、光太郎は目を覚ました。
何か、とてつもなく奇妙な夢を見ていた気がする。
夢とは荒唐無稽なものだと解っていたが、女神だとか、光太郎が死んだとか、起きているときの光太郎ならば、決して思いつかない内容だ。
それはともかく、そろそろ起床しなければならないだろう。
そう思って枕元のスマートフォンを探そうと手を伸ばした。しかし手は空を切る。それどころか、カサカサと少し濡れた何かが手に当たった。
そういえば、寝床の感触も何かおかしい。シーツの感触はなく、ベッドのような柔らかさもない。むしろ固い。
まだ微睡んでいた意識が、日常との感覚の差異によって急速に覚醒する。
バッと跳ね起きて、周囲を見回す。
「……ここは、どこ?」
自分の部屋ではない。というか、屋内ですらない。
まばらに陽光が射す、鬱蒼とした森の中だ。
どうやら、自分は森の中で眠っていたようだと光太郎は認識した。
認識はしたが、理解はしていない。
なぜ自分はこんな森の中で眠っていたのか。
そして、ふと思い出す。
コスプレ会場で暴漢に刺されたこと。
自称女神から、転生させると言われたこと。
(まさかね……)
常識という壁が、現在の状況と記憶を結びつけることを拒否している。
とはいえ、いつまでもこんなところにいても埒があかないことに気づき、ひとまず移動しようと考えた。自分がいまどこにいるのか、その情報を得るためだ。
茂みをかき分けると、一転して陽光がまばゆいばかりに降り注ぎ、水面に反射した光がキラキラしていた。そこには輝くように澄んだ泉があったのだ。
水面を鏡のように使い、自分の容姿を確認する。
顔は、記憶にある自分のままだ。背も年齢も、表面上は変化がみられない。
服装に関しては歩きながら確認していたことだが、コスプレ会場で着ていた【姫騎士アニエラ】のコス衣装のままだ。ウィッグもつけたままで、小道具の剣も持っている。
身体には……刺された傷はない。衣装にも血痕やそれによる染みなどはない。せいぜい森で横になっていたので、土が少々ついている程度だ。
ガサ。
光太郎が歩いてきた方向とは別の茂みから、葉擦れの音がした。
ひょこっと顔を出したのは、一言で言えばウサギだった。ただし、光太郎の知っているウサギより、2周りは大きい。それに、額から一本、角が生えている。
(え……あんな種類のウサギ、日本じゃ見たことないよ。新種? それとも、突然変異かな?)
ウサギはしばらくの間、じっと光太郎を見つめていたが、光太郎が近づこうと身動ぎをした瞬間、身を翻して森の奥へ消えた。
(残念。近くで見たかったのに……)
しかし、こんどはまた反対の茂みから、ガサ。葉擦れの音。
またあの一角のウサギかもしれない。だとしたら、今度こそ近くで見よう。そう思って勢いよく振り返った光太郎の目に写ったのは、
「グルルルルルル……」
口の端からよだれを滴らせながら、光太郎を睨みつける一匹の大型犬だった。
しかしただの犬ではない。瞳は赤く、硬そうな体毛を逆立てている。なにより異様だったのは、サーベルタイガーのように長く尖った牙だった。
獣は完全に光太郎に狙いを定めている。
「ひぅ……っ!」
光太郎の口から、短い悲鳴が上がる。
「ガウッ!」
光太郎が恐怖からへたり込んだ隙を狙って、軽捷な動きで躍りかかった───が、
ひゅん。
「キャインッ!」
どこからから飛来した矢が、犬の横腹を貫いた。
「炎よ来たれ!焼き払え!」
地に落ちた犬を、炎が包み込む。
「グオオオオオオオン!」
断末魔を上げ、犬は絶命した。
「大丈夫か?」
呆然としている光太郎に、一人の男が声をかけた。
男は、座り込んでいる光太郎に手を差し出した。掴まれ、ということだ。
「あ……はい」
返事はしたものの、光太郎は相手の格好に釘付けになったまま、リアクションを取れなかった。
光太郎に声をかけた男は、長身で金髪の、明らかに外国人だった。そして着ているものといえば、簡素なだが丈夫そうな作りの布のパンツとシャツ。その上に、使い古された金属製の胸当てや篭手などを嵌めており、腰には大ぶりの剣を佩いている。
(外国人のコスプレイヤーだ。初めて生で見た!)
と感動していたが、同時に、なんとなく違和感を感じた。
金髪男のコス衣装が、妙にリアルすぎるのだ。
衣類のくたびれかたや袖口の垢光などの、着古し感。剣の鞘は革だ。鞣した革で作られていて、経年による色の変化が窺える。鎧の光り方は間違いなく本物の金属だということを示しており、光が当たると細かな傷まで見える。
こんな芸の細かいコス衣装は初めて見た。コス衣装というよりは、むしろ実用的な ”装備” という言葉がしっくりくる。
「どうかしたか? 本当に大丈夫なのか?」
再び安否の声がかけられた。
「あ、すみません」
宙ぶらりんだった男の手を握り、引き起こされるように光太郎は立ち上がった。
「お嬢ちゃん、危ないところだったな。そんな高価そうな装備してるくせに、鈍くせーんだな。ペッロサブレ如きに襲われるなんて」
男はいきなり光太郎をディスってきたが、屈託ない笑顔をしているところを見ると、どうやら悪気はないらしい。
ペッロサブレとは多分、さっきのサーベルタイガーのような犬のことだろう。
「カルメロ、初対面のお嬢さんに向かって口が過ぎますよ。上等の衣服を着ているところから、どうやらこのお嬢さん、良いところのご令嬢のようです。装備も卸したてのようですし、冒険者ビギナーといったところでしょうね」
光太郎に手を差し伸べた男はカルメロというらしい。
カルメロを窘めた柔和そうな男は、長身痩躯で青いローブを纏っている。
「なるほど。ブルーノの言うとおりなら、お金持ちのお嬢様が家を飛び出して、冒険者気取りで装備を整えたはいいが、森で迷ってモンスターに襲われた、というところか」
青いローブの男はブルーノというらしい。
「あの……助けていただいてありがとうございます」
ともあれ、助けてくれたことには変わりない。光太郎は礼を言った。
「ん? ああ、いいってことよ。俺らもちょうど食料を調達してたところだしな」
「カルメロー!ブルーノー!大丈夫だったー?」
この場に、4人目の人物が現れた。
息せき切って駆けてきたのは、茶髪を短めにカットした少女だった。
緑のシャツに茶色のショートパンツ。膝上まである革製のチャップスを履いている。
肩には矢筒、右手には短めの弓が握られている。
「おお、ベルタ。ナイスヒットだったぜ。相変わらず凄い腕前だな。ちびのくせに」
「一言多いんだよ、カルメロ。背丈と狙いの良さは関係ないんだよ。そんなことより、その子は?」
「おお、見たとこ怪我もなさそうだし、ピンピンしてらぁ。まぁちょっと驚いたのか、ボーっとしてるがな」
「そう、無事なら良かった。キミ、大丈夫?」
ベルタと呼ばれた少女は、自身よりやや背の高い光太郎を見上げ、覗き込むようにしながら尋ねた。
「あ、うん。大丈夫……です」
光太郎の方は、まるで展開について行けていない。
凶暴な犬に襲われたかと思えば、コスプレした外国人が3人も現れたのだ。
しかも3人共日本語が堪能である。母国語発話者のレベルだ。
「あの……」
「うん? なんだお嬢ちゃん?」
「ここって、どこですか?」
混乱する頭の舵を取るため、ひとまず情報を得ることにした。
質問された三人は、お互いに顔を見合わせた。
「どこって……”黒い魔女の森”だろう。ここは、その中心部にある泉だ。まさか、知らないで入り込んだのか?」
代表して答えたのはカルメロだ。
ここは、”黒い魔女の森”と云うらしい。やはり光太郎には聞き覚えがない場所だ。日本にそんな場所があったのか。
「ええ、気がつくとここで倒れていて。ついさっき目が覚めたんです。黒い魔女の森っていうんですか、ここ?」
「おいおい、黒い魔女の森を知らないのか。この辺りの娘じゃねーのか?」
「カルメロ、ちょっと待って下さい。……お嬢さん、一つ尋ねますが、貴女はどのようにしてこの森……というか、この泉までたどり着いたのですか?」
困惑するカルメロを抑え、ブルーノが光太郎に尋ねた。
「えっと……さっきも言ったんですけど、気がつくとここで倒れていたんです。それまでは全然別の場所にいました」
光太郎の答えを聞いて、三人の気配が驚きに変わった。
「え……それって、”虚空の子” じゃないの?」
ベルタが呟いた。
「その可能性はありますね。お嬢さん、もう一つお聞かせ下さい。貴女はどこから来ましたか?」
「どこって、池袋ですけど……東京の」
「イケブクロ? トーキョー? 聞いたことねぇな」
「やはり、そうかもしれません。いえ、十中八九そうでしょう」
「うわー、本当にいたんだ……」
三種三様の反応をしつつ、やがて全員が神妙な顔をして光太郎に向き直った。
そして今度は、ブルーノが代表して告げる。
衝撃的な言葉を。
「お嬢さん、貴女は異世界から来ましたね?」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白やん?」とか「あかん、続きが気になるわ」と思われたら、
①『ブックマーク』
②広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】
していただけますと幸いです。
皆様の応援が作者のモチベーション、励ましとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!