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103.気になることがあるんです。

今日が2月29日だと気づき、急ぎ投稿することにしました。

いつもより短いので、明日も投稿します。

 ラムレイさんと視線を交わしても、どちらからも言葉を切り出すことができない。本当に、私って何もできないんだ……そんなふうに思って落ち込んでいると、いきなり髪をグシャグシャにかき撫でられた。

「子供がそんな顔をするんじゃない」

「ししょー……」

「……サンド、美味かった。礼を言っておいてくれ」

 どうやら、今日はもう帰れってことみたい。ラムレイさんも何か考えることがあるのか、どちらにせよ私もこのまま落ち込んだ顔を見せるのは嫌だったし、おとなしく帰ることにする。

「またきますね」

「ああ」


 空になった籠を持って店の外に出ると、途端に活気が良い市場の騒めきが耳に入ってきた。今の私のテンションの低さとは正反対だ。

「あら、リナ、お使いかい? えらいねえ」

 通りかかった顔見知りの屋台のおばさんが声をかけてくる。何か微笑ましいものを見るような眼差しは少し恥ずかしい。

 手を振って別れると、私は目の前の自分の手を見た。本当にちっちゃな子供の手だ。

(もっと大きかったら……)

 例えば、私が前に死んでしまった時と同じ歳だったら……ううん、中学生くらいでもいい、少なくとも今の私より大きかったら、もっとできることはあったんじゃないかな……。

 魔法が使える特別な世界なのに、今の私にできることは本当に少ない。

 無意識にふぅっと息を吐き、そのまま歩き出そうとしたけど、ふと私はさっきのことを思い出して足を止める。振り向いた視線の先にあるのは、賑やかな通りとはまったく違う静かな細い通りだ。

(さっきの……)

 チラッとしか見えなかったから確証はないけど、さっきまでの話が頭の中に残っているせいか気になってしかたがない。

 まだ陽は高いし、少しくらいなら寄り道をしてもいいよね。

 そう自分自身を納得させて、私は今まで足を踏み入れたことがない場所へと向かった。




 キョロキョロあたりを見回しながら進む。こっちの方には来たことがないから、行き交う人の顔も知らない人ばかりだ。

(だんだん……人が少なくなってきた……)

 賑やかな店が並んでいる、いわゆるメインの通りとは違って、ここは一軒一軒の店が小さくて狭い。それに、品揃いはあまり良いとは言えないし、店先にいる人たちもちょっと……。

(市場の中だし、堂々と悪いことはしていないだろうけど……)

 どの顔も疲れたような感じで、とても客商売をしているようには見えなかった。

 ラムレイさんの店から100メートルほど進んだと思うけど、これ以上奥に行っても大丈夫なのか不安になって、自然と足が止まってしまう。

 やっぱり、帰ろうかな。

「嬢ちゃん」

「!」

 その時、いきなり声をかけられて、私は文字通り飛び上がってしまった。

(だ、誰っ?)

 恐る恐る視線を向けた先には、痩せた女の人がいた。その人もやっぱり疲れたような表情をしていたけど、その目は心配そうに私を見ている。

「あんたみたいな子が行くような店はないよ」

 どうやら、本当に私のことを心配して声をかけてくれたみたい。

 女の人に敵意がないのがわかって安心したけど、やっぱりこの先は行かない方がいいのかな。

「この先には何があるの?」

 私はできるだけ無邪気に尋ねてみる。すると、女の人は面倒くさそうに大きな溜め息をついた。

「この先には後ろ暗い奴が行く呪術師がいるだけだよ。ほら、あんたみたいな子がウロウロしていたら悪い奴らの餌食になるだけだ」

 そう言って女の人が私の背を押すのと、

「リナ!」

 遠くから私の名前を呼んだラムレイさんが駆け寄ってくるのはほぼ同時だった。




「何を考えてるんだ、お前は!」

 長々と続くお説教。私は、ただただごめんなさいと頭を下げることしかできない。

 あのタイミングでラムレイさんが来てくれたのは、お店の常連さんがいつもと違う通りに向かう私を見かけて知らせてくれたらしい。ラムレイさんが来てくれてすごくホッとしたのは本当だけど、このお説教には半泣きだ。

「市の中には善人ばかりいるわけじゃない。店の中にも、客にも、善人の顔の悪人はいるんだ」

 私の珍しい容姿は価値があるし、その上この年齢で術が使えるほどの力を持っていると万が一知られてしまったら、そのまま連れ去られる可能性だってある……らしい。

 容姿……いつの間にか周りに受け入れられていたから気にしなくなっていたけど、確かにこの黒い髪と黒い眼は珍しいんだよね。


「……で?」

「え?」

「どうしてあそこに行った? お前が欲しいような調味料が売っている店はなかっただろう?」

「……」

「ま、まよって……」

「お前が?」

 どうやら、ラムレイさんの中では私は道に迷ってしまう子供ではないようだ。ちょっと妙な信用だけど。

 私があの場所へと向かったことには何らかの意味がある。そう断定しているらしい眼差しと言葉に、私は少しだけ悩んだ。

 あの時見た人影のことを言うには、見間違いの可能性も捨てきれないし。

「リナ」

「……ぅ……」

 でも、私が口ごもればそれだけ、ラムレイさんの眼差しが険しいものになっていく。

「……こーさん」

「もっと早く言えばいいだろ」

 ふんぞり返ってさも当然のように言う師匠はやっぱり凄い。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々の更新ありがとうございます。 [一言] 次回の更新も楽しみにしています。
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