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電話の向こう側

 記憶を辿って行った最初の思い出。


 

 あれは俺が小学校に上がる少し前の頃、イタズラ電話がマイブームとなっていた。

 イタズラ電話と言っても誰かの家にかけるわけでも110番などにかけるわけでもない。

 555555や999888等のデタラメな番号を押し、

 

「この電話番号は現在使われておりません」


の声を聞くだけの子供らしい可愛いイタズラだった。


 

 そしてあの日、親の外出を確認した俺はいつものように電話をかけ始めた。

 

「この電話番号は現在…」 


 いつもと同じ機械音声が流れる。それを1回、2回と繰り返した。


 そして3回目のこと。いつもとは違い通常のコール音が聞こえてきた。

 偶然かかってしまった事に焦り、電話を切り遅れる。やがて電話が繋がり相手の息づかいが聞こえてきた。


(お父さんの会社と間違った事にしよう)

 とっさに浮かぶ言い訳。


 そして電話から若い女の声で話しかけてきた。



「なにをしてるの?」



 女が不機嫌そうに聞いてくる。

 想定と少し違う展開にやや焦りながらも浮かんだ言い訳をそのまま口にする。


「お父さんの会社と間違いました」


 数秒の間を空け、女が返事をした。


「そう…」


 いかにも納得がいっていない声。

 それでも最低限の言い訳は済んだと思い、「スイマセンでした」と言いながら俺は電話を切った。


 そしてこれ以降イタズラ電話をかけることは無くなった。


 当時は不思議に思わなかったが大人になってから思い出すと謎が多い。

 あれは誰だったのか。

 こちらが子供であることを知っていてイタズラ電話を叱るような口調と感じた。ならば何故こちらの状況を把握できていたのか。


 忘れた頃に思い出すこの出来事は思い出したところで何もわからないままだ。


 子供の頃の話だし、夢でも見たんだろうとするのが妥当ではある。

 それでも別に良いのかもしれない。

 結果的にイタズラは辞めたのだから。




 ……そうイタズラは辞めた。

 しかし悪いことをしても言い訳で逃げるようになった。

 少しずつ悪くなる環境。結局俺はチンピラに成り下がった。

 悪いことを繰り返し、とうとう追い詰められた。

 組の金に手を出し、命を狙われている。

 もう追っ手はすぐ近くまで来ているだろう。風前の灯火ってやつだ。

 

 万策尽きた俺は人生を振り返った。

 何故こうなったのか、こうなってしまったのか。

 行き着いた結果があの出来事だった。

 あそこで逃げられたから味をしめた。


 そんなことを考えながら徒労とわかっている作業を繰り返す。

 何回も、何回も、

 捕まったあとの結末から逃避するように。


 ああ……結局あの女性は何者だったのか。

 もし悪い方向へ行こうとしている子供を正そうとするような存在だったなら申し訳ない。それを無意味にしてしまった。


 あるいは返答を間違った相手を殺す悪霊かなんかだったのなら……。

 今からでも来てほしい。

 きっと追っ手に捕まるよりはマシな死にかたが出来るから……。

 

「この電話番号は現在使われておりません」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふと思い返す昔の記憶。記憶であるからこそなのか、それは謎と不思議で暗い雰囲気を帯びている。しかし、それは過去とした終わっていて、今となってはただの、よういう出来事としての思い出でしかない。…
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