ある日の夜
「ねぇママ〜? ママとパパはどこでであったの?」
「それはまだひみつ。夏菜が大きくなったら教えてあげる」
「え〜おおきくなったらっていつ〜?」
「い つ か。 夏菜はどんな人と結婚したい?」
「かなはねぇ、おんなじタンポポぐみのとしきくんとけっこんするの〜。」
「そっかぁ。としきくんのどこが好き?」
「ん〜とねぇ、サッカーがじょうずなとこ。あとおべんとうをぜんぶたべるの。
あとねぇ〜……あとはねぇ〜………」
「…寝ちゃったみたいね。」
わたしは子ども用ベットから静かに体を起こし、布団を整えた。
小さな夏菜の寝顔に思わず笑みがこぼれる。
愛しいわが子。
夏菜のおでこにキスをして、子供部屋をあとにした。
煌煌と電気のついたリビングに戻ると、パソコンを前に仕事をしている背中がある。
広い肩幅、きれいについた背筋、そのくせ肩甲骨ははっきり浮き出ていて、余分な贅肉はどこにもない。
――なんて美しい背中だろう。
もう何年もその背中を見ているのに、思わず見惚れてしまったわたしは、しばらくその後ろ姿を見つめていた。
「夏菜、寝た?」
わたしの視線に気づいた光輝が、ふとわたしを振り返ってそう聞いた。
その声で我に返ったわたしは、今更見惚れていた自分に恥ずかしくなり、すっと視線をはずしてキッチンへ向かった。
「うん、寝たよ。コーヒー飲む?」
「あぁ、もらおうかな。」
コーヒーの匂いが部屋中を包み込む。
わたしと光輝は、二人でソファに座ってコーヒーをすすった。
「夏菜ね、としきくんと結婚するらしいよ。」
「えっ、何、幼稚園の子?」
「うん、同じクラス。あそこの団地に住んでいる子だよ。サッカーが上手なんだって。」
「だめだ。サッカーやるやつは遊んでいるやつが多いからな。」
「何本気になってんの〜。自分だってサッカーやってたじゃん。」
「おれは中学でちょっとやっただけだよ。」
「まぁまぁ、自分が結婚相手に選ばれなかったからってひがまないの。」
「おれの株、あげなきゃな。今度なんか買ってやるか!」
「物でつらないの!」
「あ〜あ…めちゃめちゃショックだ…」
「いいじゃん。あんたにはあたしがいるんだから。」
「まぁな。おれも人様の娘さんをいただいたんだからな。」
「そうそう、そうやって世の中動いているのよ。」
そんなたわいもない話をして、夜は更けていった。
そして、そんなたわいもない日常が、これから先も続いていく。
でも、たわいもないものが、この世で一番幸せなことだとわたしは思う。
いかがでしたか?
はじめての小説で、連載にしようか迷っています。
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