おひとよしな死神少女
青年が仕事で疲れきった体を休めるために布団に体を投げ出し眠ると、少女の声が聞こえた。
「あなたは死んでしまうようです」
まるで意識が引っ張られるような感覚が青年を襲い、青年の前には全身黒い服を着た少女がいた。
周囲を見渡すと、黒を基調とした神殿のようなつくりの建物だった。
「死んだっていったいどういうことだ? 現に俺は今ここにいるだろう」
俺には少女の言っている意味がわからない。
「私は、死神なんです。あなたはついさっき眠っている間に死に近づきすぎてしまいました」
「そこで、私がここにお呼びしたのです」
少女は、少し申し訳なさそうにおしとやかな口ぶりで説明する。
なるほど。状況はそこまでわからないが、おそらくは死に近づきすぎたといっているわけだから、完全に死んだというわけではないのか。
俺は少女の話からなんとなく分析する。
「だが、死んだわけじゃないんだろう。できることなら生き返らせてくれ」
俺は、少女に希望を手短に伝える。
「やはり、そうなりますよね」
少女は、俺の答えを聞くとしばし沈黙する。
ということは、このやりとりはよくあることなのだろうか?
「ええ、分かりました。あなたの命そのものはとりませんが、私も死神である以上何も取らないわけにはいきません」
なるほど、生き返るための交換条件というわけか。
「そうですね。あなたの未来の可能性をひとつだけいただきます」
「その、未来の可能性っていうのはどんなものなんだ?」
俺はいまいちわからないので、少女に聞く。
「私も何になるかはわかりません。幸福になる可能性かもしれませんし、不幸になる可能性かもしれません」
だとすれば、何の意味もないのではないか?
「その可能性というのはランダムなのか?」
「そうですね。ランダムです。何を奪うかは完全に運です。ただ奪った可能性はもうあなたの人生では実現しなくなります」
可能性が実現しなくなるか、それは少し悲しいな。
おそらくだがこの取引は、リスクが無いように見えてリスクがある。
もし、未来に俺が選ぶ可能性を奪われたら、おそらくだがそれ以上の結果を出すのが難しいわけだから、俺の人生は平均に近づく。
だが、命には代えれないか。
「分かった。それでいい。他にも条件があるんだろう?」
俺は、少女がこの話をするのは慣れていることから予想をつける。
「そうですね。もうひとつだけ条件があります。ここでの記憶は忘れる。それが条件です」
やはりそうか。
もし、過去にこんなことを他の人間にやってるならどこかしら噂話くらいは聞きそうなものだからな。
「ああ、いいさ。やってくれ」
俺は、一歩少女に近づく。
そして、少女が俺の胸の近くに手を当てると小さな光が俺の体から少女に向かって飛んでいった。
「これであなたは生き返ります」
俺は急激な眠気のようなものを感じ目の前がぼやけてくる。
その少女は、泣きそうな顔をしていた。
俺は、枕元から朝を知らせる耳障りな音を聞き。目が覚める。
ただ、大人になるとなかなか夢を見なくなる。
そんなあたりまえのことが無性に悲しかった。