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アルカナの戦慄  作者: 瑞希
第十二章『Traitor』
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『NO ONE at ALL』

「アハッ…!」


文字通りの光が、天を射殺すだけ。


考えるのと同じ速さで、アタシはもう空に居る。


飛べる。翔んでる。もっとトベる!!!!!!!!!!感触なんて、感情なんて、感傷なんて、要らない。


「アッハハハハハハ」


体が軽くて軽くて軽くてしょうがない。あ、違う。軽いんじゃない。ああ、そうだった。世界がアタシの重さに吊られてるだけ。


「…かり!」


声がする。誰の声?何の声?喧しい。姦しい。冷々しい。これ要らない。


真っ直ぐ前を見据える。

音がある。逃げ惑う声がある。憎しみ合う人がある。それを拒む悪魔が消えていく。望まれてる。願われてる。祈られてる。

救世主さまっ。英雄さまっ。神様っ。


「救ってくれ」って


聞きたくない言葉を聞いた。だから、アタシは笑ってあげる。この場に似つかわしくない程、嫌みに。無邪気に。


「アハハハッ」


だって、如何なる人物がそう言おうが、アタシはこうとしか思わないから。


ふざけるな(もちろん)


遥かカナタに、二点の光が灯る。


「嘘だ………」


やめろ!失せろ!消えろ!!!ねぇ、陽灯ちゃん!よりにもよって、何でアタシに救わせるの?!!知ったんでしょ…。わかったんでしょ…。なのに、なんで解ってくれないの…!

解ってくれない…。


「『「――最後の輝きはここに――」』」


あの矮小でいて愚かな、自分と一緒に墜ちて欲しいだけの孤独な女の末路を囲う。

てめぇの人生の陰惨さがどんもんか興味も湧かない…!


「『「――最古の輝きはここに――」』」


アタシは片手で自分の口を抑える。

その程度に負ける有象無象の塵芥共。犬畜生にも劣る欲深さと生き汚さのせいで、アタシの吐き気は絶え間なく続く。


「『「――最期の輝きを反駁とする――」』」


アイツも糞。ソイツも塵。あれも反吐が出る。

そんなものを救うために愛本陽灯はアタシを刺した。アタシを犠牲にした。アタシだけは死んでも、他の全部を助けようとした。


「アハッ…」


その他大勢のためなら、アタシだけは死んでもいいって判断した!


「――ひかりよ、ひかりよ、ひかりよ――」


ねぇ


ねぇ


ねぇ? 


聴かせてよ。有象無象共でも、塵芥共でも、何でも、…良いからさァ。


「アタシすら、アタシだけは救わないんだって!」


アタシ以外の全部を助けるのに…


「アハハハハハハハハハッ!」


生きろ!生きろ!生きちまえ!!ああ、そう。そんなの知っていましたとも!アタシはまた、世界に絶望する。


「くそが…」


あまりある希望を振り撒いてでも、アタシは豪語してやる。世界は滅ぶべきだったんだって。


「アタシは優しいらしいから…、たっぷり時間を与えてあげるよ…。」


こんな世界があることこそが絶望なんだって、てめぇらが一人残らず理解出来るまで、世界を続けてあげる。その為に力を奮ってあげる!


「エヘッ」


面白いねぇ。可笑しいねぇ。嗤えるねぇ?!


「ねぇ?ねぇ?陽灯ちゃん?どんな気分なの?ねぇ?教えてよ!」


喉がクツクツとなって楽しくて愉しくて吐き出しそう!馬鹿みたいに力は溢れるし!馬鹿みたいに血は流れるし!

苦痛も。喪失も。悲しさも。裏切りも。怒りも。恨みも。執着も。嫉妬も。全部。生きているからこそ。

いつか言う。いつか味わう。いつかてめぇらが晒されるその日を、指折り数えて夢見てきたの。

「あの時に死んでおけば良かった」って。


「『「――φως――」』」


私のこの金色の眼に入る範囲すべてが、光に昇る。闇を打ち消した訳じゃない。塵芥共を堕とした事実ごと打ち消した訳じゃない。

ただしく有象無象共は、堕ちたバケモノになった。貴方の魔法はちゃんと成熟した。数百年の貴殿方の努力は正しく作用し、世界に大きな絶望を与えた。


…ただ、


「それがアタシの4文字に至らなかっただけ。」


それらの現象を前提に、アタシがもう一度、昇げた。堕ちた悪魔から人間に戻してあげた。つまり。

ねぇ、つまり、んふっ…。どういうことか、お分かり?


「矮小で愚かなお前の罪だけが、この世界に残るの。」


やった事実は覆らない。だって確かに一度、ちゃんと墜ちてるんだもの。

だから、ねっ。だからぁ。お前の魂だけが、その罪の分も含め、二度と昇れないほど砕け墜ちて、正しく塵になるの。


「ぷっ…」


もう影も見えなくなった女は、亡霊に取り憑かれたまま、最期まで一人ぼっちでした。はい。おしまい。御終い。


「ダッサぁ♡」


元々、人間だったものも、人間じゃないものも、まとめて地へ足を着ける。軽々しく自由な翼は捥がれ、地を這えずるだけの虫けらへ。

なおも続く光の中で、有象無象塵芥共は歓喜に互いの体を確かめ合う。

その全部をちゃんと見ている。


「…」


二点の灯火が、力を失って落ちていく。アタシを縛り、正しく力を作用させるための楔。魔天使と人と、それからアタシ。

あれらはアタシを裏切らないけど…、助けるほどの愛着もない。


「だから、いらない」


口にすればたちまち心は萎える。何もかもがどうでも良い。幸も不幸も勝手にしていて欲しい。


「どんな風に感じるの?」


いつものように、アタシは独り呟く。

アタシはどんな試練だって与えない。アタシはどんな奇跡だって与えない。てめぇらが勝手に利用するだけ。全部、自業自得。

だから誰も信じない。誰にも期待しない。誰のためにも頑張らない。

アタシだけがアタシを守ってくれれば、それで眠れた。なのに。


「アタシより、大事なんだ。」


アタシの味方なんて居なかった。

…マジで全員、擂り潰そうかな?一人くらい別に良くない?一人やったらさ、二人も千人も変わらなくない?

思ったらまた心は躍って、光も強さを増す。

いいじゃん。利用したんだもんね?使っちゃったんだもんね?なら対価を貰わなきゃ…、でしょ?


「愛本!」


…誰も入れないはずのパーソナルスペースに、声が混入してくる。あまつさえ、私に触れようとする。

なぜ?可哀想だから?使えそうだから?恐くて震えそうだから?まさか、愛してるから?


「もういい、充分だ!力を解け!」


その声に、今度は両手で口を覆う。

きもちわるい…。誰が誰に指図してるの?間近で叫んで脅迫するなんて…何様なの?


「どの口で、アタシに助けろって言うの…」


アタシが救うことは、当たり前なの?


「…え……」


悪魔が嫌だったんでしょ?だから治してあげたじゃない。対価はその命ってことでアタシが使ってあげる。文字通りの天使へ、このまま昇っちゃえ?


「お前…、一体、何してるんだ…?!」


何でこれだけはあるんだろう。きもちわるい。気色悪いなぁ…。気分が悪くなる。コントロールが狂う。その金を見てると、酷い気分になる。髪だけじゃない。アタシの眼には、その瞳が何より気持ち悪いんだ。


「なんで」


意図して、アタシの金色の眼から涙を落とす。たった一雫だけ。それだけで十二分。

輝きは増す。誰も触れられない。誰も届かない。アタシがそう決めたから。その声さえ、もう届かなくて良い。


「あ、いもと……?」


もういい。いいよもう。救われた。アタシを犠牲に誰もが救われた。みんながハッピーエンドに笑うんだ。これが陽灯ちゃんの選び取ったアタシの結末(神殺し)


その代わり、

 

「なんで助けてくれなかったの?」


お前だけでも傷付いて。


「……………………え」


アタシの重さは消え失せて、今度は星の重さに降りていく。

輝いて。輝いて。星より。月より。太陽より。アタシを光に融かして。誰の記憶からも失せないよう焼き付けるから。

視界にはもう何も映らない。光輝いているだけの光景じゃ、いっそこれが闇だと言われても信じてしまう。


真っ白。空虚。からっぽ。


救われたかった。必死に手を伸ばしてた。声をあげていた。でも、誰もいない。誰もアタシの手なんか見えない。誰も触れたがらない。

はじめから無理な願いだった。

アタシ自身が自分の手を見つけられないから。


「…は……」


てめぇらにとってのヒーローは居た。もうそれでいいよ。アタシは自分自身にも裏切られて終わる。アタシは悪者だったんだ。…やっと理解したよ。


「アタシだけは産まれちゃいけなかったんだね。」



ねぇ、


もういい。


いいの。


いいのに、なぁ

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