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桜の下でつく嘘は

作者: 南波 由花

エイプリルフール記念に書いた短編小説なんですが、日付変更しちゃいました〜えへへ>_<


あらすじにも書きましたが、このお話にはいろんな「嘘」が隠れています。ぜひ、それを探してみてください。

  四月の空は、思ったより重く、青空なんか全然見当たらなくて。


  校門のそばにある、満開になった桜がはらはらと風に花びらを舞わせている様だけが、今の季節が春だということを教えてくれている。


  春なのに。


  冷たい風と雲に覆われた空はまるで、私の心を写したかのように重く、冷たく、暗い。


  空を見上げた両目の視界が歪んで、目を閉じると涙が頬を伝って落ちた。


  ツンと鼻の奥が痛んで、ブレザーのポケットからティッシュを取り出し鼻をかむ。


実衣みい……泣いているの?」


  躊躇いがちに声をかけてきた声にあわてて目をこすって振り返ると、友人の藍蘭あいらが心配そうな顔をして立っていた。


  赤い小花のヘアピンをつけた、ショートカットの彼女は、生徒会副会長らしく校則を守った少し長めのスカート丈の真面目女子だ。


  私は少しだけ、スカートを折りたたんで短くしている。


「違うよ、花粉症」


  ティッシュで鼻をかみ、ポケットにしまってから藍蘭に駆け寄る。


  本当は今にも彼女から逃げたかったけど。



  さっき私は見てしまったのだ。


  彼女がキスをしているところを。


  私の好きな人の、香奈太かなた君と……。


  二人が付き合っているなんて知らなかった。


  知りたくもなかった。



  鼻をすすりながら桜を見上げる。


「そういえばさっき、香奈太君といたよね。なにしてたの?」


「え?」


  藍蘭の顔が強張る。それはそうだ。私が香奈太君のことを好きだと知っているから。


「生徒会の仕事?」


「う…うん、そんなとこかな…」


  生徒会長の香奈太君と、副会長の藍蘭が付き合うことになるのも自然な流れだったのかもしれない。


「入学式の準備もあるもんね。生徒会は忙しいね」


実衣みいの園芸部がお花をお手入れしてくれたから、おかげで素敵な入学式にできるよ」


  藍蘭の言葉に私は「そっかな」と笑った。



  生徒会という接点のある藍蘭と、クラスも違って生徒会でもない私。


  園芸部部長となり、予算会議などで生徒会と接点を持つようにはしたけれど、藍蘭にはかなわなかった。


  入学式に飾る、プリムラとパンジーのプランターを頑張って育てたのも、香奈太君が褒めてくれるかなと思ったから。


  彼の役に立ちたかった。


  ただ、それだけだった。


  でもなにも彼に伝えられず、遠くからただ眺めるだけしかできなかった。なにも行動しなかった結果だ。

 

  頭の中では納得したいけど、でも心がそれを拒絶している。


「プランターも運び終わったし、そろそろ私、行くね。生徒会の仕事頑張って」


  だから藍蘭のそばにいるのが辛くて、私は部室に帰った。


  部員はもう帰したから、私しかいない。

 

 だから、今なら思う存分一人で泣ける。



  部室の扉を閉めて大きくため息をつく。ふらふらとパイプ椅子に座り、長テーブルに突っ伏した。


  涙がじわりと溢れ、制服にしみをつくっていく。


「う……っ」


  悲しみを思う存分ながしたら、彼のことは諦めよう。


  そう決意して。


  部室のティッシュがなくなるまで鼻をかみ、泣きまくった。



  そのおかげで鼻の下が真っ赤になっていた。


  部室の時計を見ると、四時をすぎていた。

 そろそろ帰らないと、と思い、椅子を立って机の上に散らばった使用済みティッシュをゴミ箱に入れる。


「派手に泣いちゃったからな…」


  ミラーで確認すると、目は真っ赤に腫れぼったくなっていて、鼻の下はかみすぎたせいで真っ赤だった。



「うう……水道で顔洗ってこ」



  花壇の脇にある水道で顔を洗う。水の冷たさが、厚ぼったくなって少し熱を持った瞼を心地よく冷やしてくれる。


「……ふぅ」


「ほら、タオル」


「え?」


  誰もいないと思って犬のように顔を振って水気を飛ばしていたのだけれど、突然声をかけられ、驚いて目を開いた。


  そこにいたのは会計委員の倉田祐一朗くらたゆういちろう君だった。


  彼は計算が得意で、予算会議などではいろんな意味でだいぶお世話になった。


  もちろん、悪い方の意味でだけど。


  だから彼にはいい印象があまりなくて、こういう風に優しくされるのも意外すぎて。


  私が首をかしげると、文系が服を着て歩いているような彼は再度タオルを突き出してきた。


「タオル。安心しろ、新品だから」


「う、うん……」


  その言葉が嘘ではないのはわかった。ふわふわのタオルからいい匂いがしたからだ。


「ありがとう。洗濯して返すね」


「いいよ」


「でも……」


「いいったら」


  そういって倉田君は私からタオルを取ってしまった。


「倉田君は何をしているの?」


「生徒会の仕事で校内を見回りしてた。もう帰るところだけど……筿原しのはらさんは?」

 

「あ、私も帰るところ……」


  ぶっきらぼうに答え、タオルを小脇に抱えるて聞いてきたので答えた。


「そっか」


  そしてなぜか一緒に校門の方に歩くことになってしまった。


  となりに立つと彼が意外と背が高いのに気づく。少し癖のある、色素の薄い柔らかめの髪の毛。タオルと同じ、柔軟剤の優しい香りがする。


「プランター、ありがとな」


「え?」


「パンジーとプリムラ。今年寒かったから、管理大変だっただろ?」


「うん、まあ、ね…」


  暖房費などの予算をもぎ取るのに、昨年度の予算会議では随分彼とはバトルをしたものだ。


  「来年度も綺麗な花を咲かせるために、予算を一つお願いしますよ」


「こら、調子にのるな」


  手をスリスリ揉みながら冗談まじりに言うと、吹き出された。


  倉田君、笑うと猫みたいでかわいいな、と意外な表情にどきりとする。


  もっと色々な表情がみたくて、ふざけながら歩いて行くと、校門の桜の木の前に着いた。


「入学式の前に咲いてくれてよかったよ」


「入学式明日だもんね。今日満開なら、明日には散っちゃうってこともないだろうし」


「あれ、チロちゃん?」


  そんなことを桜の木を眺めながら話していたら、背後からかけられた声にどきりとする。


  この声、振り返らなくてもわかる。


「香奈太……その呼び方やめろって言ってんだろ」


「いいじゃん、可愛くて」


  私はお気楽に話す倉田君とは逆に、恐る恐る振り返った。


「……っ!」


「あ……っ!」



  やっぱり、彼のとなりには藍蘭がいた。


  しかも、手をつないでいた。


  指を絡めたカップルつなぎというやつだ。


「ちったぁ隠せよ、バカップル」


  その言葉にずきりと胸が痛む。


  生徒会で二人が付き合っていることは周知のことなんだ、とわかったから。


「もう誰もいないし、帰るとこだしいいじゃん」


「俺たちがここにいるんですけどー?」


「よく言うわ。そっちだって彼女連れじゃないか」



  彼女。


  香奈太君の言葉が突き刺さる。


  気まずそうにする藍蘭の方を見ていられず、私は地面に視線を落とした。


「からかうなよ。お前らほど付きあい長くないんだから」


  そうだよね。キス、するくらいだもんね……。


「そんなに長くねーよ。もうすぐ一年かな」


「十分長いわ」


  ほんとに。


  そんなに長い間、藍蘭は私に隠していたんだ。


  友だちの彼氏が好きだって、知らなかったにせよ恋バナをしていた自分が恥ずかしくて、いたたまれない。


「そっちも頑張れよ」


「余計なお世話」


「実衣……あのね…」


「あ……、藍蘭に彼氏いたなんて知らなかったよ〜!びっくり!おめでとう…おしあわせにね!」


  藍蘭の言葉を遮り、涙をこらえ、少し震える声だったけどなるべく明るく言った。


「実衣……」


「ありがとな。じゃあな、お二人さん」


  何か言いたげな藍蘭の手を引いて、香奈太君は行ってしまった。



  冷たい風が吹いて、桜の木が慰めるように騒めく。


「ごめん、筿原さん」


「え?何が」


「俺の彼女扱いされて嫌だったでしょ?」


  香奈太君と藍蘭の姿にショックをうけていて、そんなことには全然気がつかなかった。


「話の流れでしょ?大丈夫だよ」


  わかってるって、と言って目を閉じて深呼吸する。


  溢れてくる涙を抑えるためだ。


  ここで泣いたら倉田君に変に思われてしまう。


 泣くのはお風呂で泣こう。


  深呼吸したら、かすかに少し甘い桜の香りが漂ってきた。


「あのさ、こんな話の後で、言うべきか迷うんだけど……筿原さん」


「な、何?」


  なんだか改まった様子に、私も身構える。まさかもう予算の話?


  今年度は、来年度に部長を引き継ぐ後輩のためにも、もうちょっと増やしたいと思っている。


「俺、ずっと筿原さんのこと、好きだったんだ。だから俺の彼女になってほしい。さっきみたいな冗談で、とか、話の流れなんかじゃなくて……」


「え…………?」


  ざわり、と風の音。


  さらさらと桜の花が触れ合って音を立てる。


  一瞬何を言われたのかと思った。


  夕日は厚い雲の向こう。


  だから目の前の倉田君が赤い顔をしているのは、紛れもなく彼の言葉は嘘じゃないというのがわかってしまい、私は途端に熱くなった頬を押さえた。


「え?え??私のこと、好き?」


「去年の予算会議で一目惚れしたんだ。俺に臆せずあそこまで予算をもぎ取りに来る部長は筿原さんが初めてだった」


  真剣に見つめてくる、眼鏡の奥の瞳。


  恥ずかしくなって彼の視線を避けるために、足元の砂利に視線を落とした。


「罰ゲームとかじゃない…よね?」


「当たり前だろ!」


  藍蘭とくらべて見た目も普通な私を、好きだって言ってくれる人が現れるなんて。


  思ってもみなかった。


「返事は、急がないから……」


  そう言って去ろうとする倉田君の袖を、思わず掴んでしまった。


「筿原さん……?」


「……いいよ」


「え?」


「私を倉田君の彼女にしてください」



  自分でも驚いた。


  失恋したばかりなのに、こんな言葉が出るとは、と。


  倉田君は目を見開き、驚いた顔をして、それからいきなり私を抱きしめた。


「本当に?!俺の彼女になってくれるの?」


「うん……」


「ありがとう!!」


  借りたタオルと同じ優しい香りに包まれてドキドキする。


「あ、ごめん!」


「ううん、大丈夫……」


  我にかえった倉田君がやっと離してくれて、少しホッとしたような、寂しい気分になった。


「びっくりした、よね、ごめん……嬉しすぎて」


「だ、大丈夫だよ……?」


「でも。ありがとう」


「い、いえいえ、こちらこそありがとう…」


  そう言って倉田君は深くお辞儀をしたから、私も慌ててお辞儀を返した。


  なんかおかしいなぁと思いながらも、さわさわと風が桜の花を撫で、優しい音を立てるのを聞いていた。


私が恋を失ってまだ数時間。


まだ倉田くんのことを好きになっているわけじゃない。


本当はまだ香奈太君が好き。


「筿原さん、これから俺のこと、いろいろおしえるから。筿原さんに、ちゃんと俺のこと好きになってもらいたいから」


黄昏空に冷たい春の風が抜ける。


倉田君の柔らかな髪が巻き上げられ、眼鏡は陽の光を反射していて彼の表情は見えない。


「うん」


でも、いつか。


この恋心を忘れることができて、また藍蘭と普通に話せるようになるころには、倉田君の彼女にちゃんとなっていられるといいな。



私は少し冷たい倉田君の手を握り、桜の樹の下を後にした。

嘘は見つけられましたか?


タイトルにある通り、桜がヒントですが、倉田君の実衣に対する気持ちはホンモノです。


彼の告白も嘘だと実衣がさすがに不憫…。


ですが、ちなみに彼も嘘をついています。

校内見回りは嘘です。ずっと実衣を見ていました(ストーカー?怖ッ)。

告白する機会をうかがっていたので。


あの中で唯一嘘をついていないキャラは香奈太だけですね。

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