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第24話

昨日投稿するの忘れてましたorz


 たったの一日しか間が開いていないというのに、高志はそこを懐かしいと感じた。

 薄暗く鬱蒼うっそうとした森は当たり前だが相変わらずで、少し歩いた場所には熊と格闘した際の跡もきちんと残されていた。懐かしく感じるのはそれだけ印象深い場所だからだろうと、高志は感慨をもって森を眺めた。


「ねずみさーん、出ておいでー。大丈夫、痛くしないからー」


 リーベルが小さな声で、周囲を伺いつつ発する。高志はなんでセクハラ口調なんだと心の中で突っ込みつつ、森の奥へと足を進めていった。



「さっそくいたな。幸先いいぞ」


 ――ネズミの肉を手にいれた――


「よし、ここは僕に…………あ、的が小さいと弓無理だね」


 ――ネズミの肉を手に入れた――

 ――毛皮(鼠)を手に入れた――


「いったいこいつら何匹いんだろうな…………」


 ――ネズミの肉を手に入れた――

 ――ネズミの牙を手に入れた――


「僕が思うに、僕らがここで狩りをできてるのって、ネズミさんたちが向かってくるからだね」


 ――ネズミの肉2つを手に入れた――


「すぐ逃げる固体もいるけど、そもそも向かってくるネズミって時点でおかしいからな」


 ――ネズミの肉を手に入れた――

 ――毛皮(鼠)を手に入れた――


「おっ、なんだこいつ。新手か…………ジャイアントウィーズル、ね。なんでこいつらみんなジャイアントなんたらって名前なんだ。わかり易いっちゃわかり易いが。うわっ、こいつ強いぞ!」


 ――イタチの肉を手に入れた――

 ――毛皮イタチを手に入れた――


 およそ4時間に渡る猟。そこで彼らは8つのネズミの肉と、イタチの肉、そしてそれぞれの皮や牙といった用途不明な品を手に入れ、とりあえずは大漁といっても良さそうな成果を得る事ができた。


「狩りイコール弓みたいなイメージだけど、魔物相手だとそうでもないね」


 手にした弓と槍を交互に見比べて、リーベルがそんな感想をもらす。高志はまったくだと頷くと、相手によって使う武器を見極める必要がありそうだと心に留めた。


 弓の利点は、その射程距離にある。

 大抵の野生動物は危険が迫ればすぐに逃げ出し、そして足は人よりも速い。それを捉えるとなると遠距離から攻撃ができる弓は必須だし、逆に向かってくるような獰猛な獣には安全な場所から攻撃を仕掛ける事ができる。


 しかしここで現れる、すなわち魔物となると、小さなネズミですらも高志達に牙をむいて飛び掛ってくる。もちろん傷つけば逃げる様子を見せるし、最初から回避しようとするネズミもいたが、そうでない固体も多い。そうなるとネズミという小さな的に対しては、弓で狙うよりも槍で格闘する方がずっと効果的だった。


「威力で言えば、体重がかかる槍の方がずっと強いしな…………あぁ、やっと表示が消えたわ。動く動く」


 視界隅に居座っていた「麻痺」という表示がようやく消えたのに気付き、高志が安堵の声と共に右腕をぐるぐると動かした。今までしばらく全く動かせなかった右腕だが、当然のように望む通りに動いてくれた。


「血も止まったみたい。これ、布きれもってきといて良かったね」


 リーベルが高志の腕を縛っていた布をはずし、患部の様子を確認しながら言った。


 初めて遭遇したジャイアントウィーズルなる体長80センチ程のイタチの魔物により、高志は腕に切り傷を負っていた。イタチは非常に俊敏で、その鋭い鍵爪は高志の腕を容易に切り裂き、さらには麻痺の効果まで与えてきた。


 高志はリーベルに感謝する事は多々あったが、今先程の瞬間程それを強く思った事はなかった。先程は彼女が弓で仕留めてくれたが、しかしひとりであれば今頃はイタチのエサと化していただろうからだ。利き腕が封じられた状態では、もはや逃げる事しかできない。あの俊敏なイタチから逃げるなど、熊以上に不可能としか思えなかった。


「ありがとう。助かる…………うお、治り早いな。いくらなんでも気持ち悪いぞ」


 指先に血がしたたる程だった深い傷跡は、既に巨大なかさぶたと化しており、もはや痛みもなくなっていた。麻痺が治るまでと休憩をしていた時間はせいぜい1時間程で、現実世界のそれとは全く比べ物にならなかった。


「でも、イタチすっごいかわいかったよね。でっかいフェレットって感じ」


「飼いたいとか言うなよ。エサやるつもりがエサになってたとかシャレにならん。あいつ要注意モンスターだな」


「やられたのが腕じゃなくて足だったら、結構やばかったかもだよね」


「まぁな。しかし、麻痺と毒の違いって何なんだろな。麻痺する毒か何かを注入されたわけだろ? 結局は毒なんじゃねぇの?」


「ゲームの世界に突っ込むだけ野暮ですぜ、旦那」


「それを言ったらおしまいだ。さ、そろそろ引き返すとしよう」


 ふたりは重くなった荷物をまとめると、村へと引き返し始めた。荷物の量や重さには限界があるし、暗くなってからの狩りなどご免だった。




「…………いや、待て。このような量を渡されても困る」


 困り顔のウィリーが、テーブルに置かれた6つの肉を見ながらそう言った。置かれた肉は高志達が村へのおすそ分けにとウィリーの家まで持ってきたもので、全てネズミの肉だった。イタチはリーベルが絶対に食べたいと断言したので、自分達用に持って帰る事となっていた。


「あれ。もしかして、ネズミ肉って駄目か? ちょっと臭いけど、焼けば食えると思うんだが」


 現実世界でネズミの肉が一般的でないように、こちらでもそうなのだろうかと不安になる高志。しかしウィリーは「そうじゃない」と首を振ると、やがて家の奥へと消えて行き、そして戻ってきた。


「今朝獲れた兎だ。ひとつはこれと交換しよう。ネズミは動物のそれであれば滅多に食わんが、魔物ならば話は別だ」


 ウィリーの手には、既に皮が剥がされた状態で手足を紐で結ばれた兎が一羽。高志とリーベルは揃って「おおっ」と声をあげると、それを受け取った。残念ながら兎型の魔物――いるとすればジャイアントラビットという名前だろうと高志は予想した――にはまだ出会っておらず、初めて手にする肉だった。


「ありがとな。これは普通に嬉しいわ…………っていうか、残りの5個も授業料としてもらってくんないかな」


「たったあれだけの指導でか? 本当に真面目な奴だなお前は。だが、わかった。ではもうひとつもらおう」


「いや、焼き肉ってあんまもたないから、余ったら干し肉にしちまうだけなんだよ」


「そう言われてもな。むやみに施しを受けるわけにもいかん。では2つを宿代という事にして、村長へ渡しておくか。それなら筋も通るだろう」


「あぁ、そうしてくれると助かるわ。そんじゃ後の2つは干しちまうかな」


「そうだな。そうすると良い。売るなり食うなり、自分達で消費する事だ」


「売る? え、誰か買い取ってくれんの? 村に商店とかないよな?」


「ないが、定期的に町へ買出しに行く者はいる。金子が必要なら頼んでみるといい。それにたった今兎を手にしたしたばかりだろう。欲しい物があるなら交換してみればどうだ?」


「あー、なるほど…………物々交換か。そりゃそうだわな」


 小さな村に、店などない。村は生活のほとんどを自給自足で賄っており、そして大きな共同体として生きている。必要なものがあれば村で購入するし、売れる物があれば村で売る。そして村人に必要なものが出てきたら、自分の生業から得られた生産物を、直接それと交換する。間に貨幣を挟む必要性がまったくないのだ。


「ねぇねぇタカシ、僕お米かパンが食べたい」


 隣に立つリーベルが、高志の袖を掴んで訴えてくる。高志は「俺もだ」と即答すると、ウィリーに余裕のありそうな農家の紹介して欲しいと頼んだ。先日のご馳走を除けばずっと肉のみで生活をしてきており、いい加減主食と呼ばれるものを口にしたかった。


「いくつか、お前の事を話してある家がある。そこらに持っていくと良いだろう…………それとだが、お前は日々それだけの量の成果を手にする事ができるのか?」


 ウィリーの質問。高志は懸念していた事があたっただろうかと、それを口にした。


「多分だけど、これくらいなら。もしかしてハンターの領分に突っ込んでるか?」


 近所にショッピングセンターが出来たがゆえに、商店街が立ち行かなくなる。そんな光景は何も現代地球だけに限った話ではなく、昔からあらゆる場所に存在する問題だった。高志は自分達の行動が猟師の生活に影響が出るようであれば、何らかの形で対処する必要があるだろうとは思っていた。


「いや、普通の獲物であるならともかく、魔物であれば構わない。むしろ村の生活が豊かになるだろう。だが、そうだな。余った分が出るようであれば、こちらで引き取る形にできると助かる」


「あ、それは普通にこっちも助かるな。直接売ると、買い叩かれてもわかんないし」


「では行商の者にも話を通しておこう。金子が必要なら用意するが、どうする?」


「ツケでいいよ。大丈夫。ほんとありがとな」


 蓄財の為の貨幣など、村に大した量があるはずもない。そして当然のごとく銀行があるわけでもないので、むしろ盗まれたり紛失したりする恐れがある現金よりも、ツケの方がずっと便利で安全だった。


 その後高志はウィリーに何度も礼を言うと、さっそく紹介された家へと向かう事にした。



「見ろよリーベル…………俺たちはとうとう、文明世界の住人となったんだ」


 テーブルに並べられた料理を眺め、高志が感慨深く発した。テーブルには2つの丸パンに、薄切りされた焼きイタチ肉、そして穀物と野菜のスープが並べれており、誰に見せても恥ずかしくない立派な食事と言えそうだった。


「ありがてぇ……ありがてぇ……」


 リーベルが料理に向かい、手を合わせて大げさに拝んでいる。高志も同じように手を合わせると、パンを手にし、薄切りの肉をそれに乗せた。


「しかしスープが爆発して死んだ時にはどうなるかと思ったが、復活するのがここで助かったな…………しかし、なんでここで復活になってんだ?」


 先程、リーベルが料理中に爆死した時の事を思い出し、高志が言った。リーベルは「にゃはは」と乾いた笑いを発すると、彼女の死をもって作られたスープへと口をつけた。


「おいし…………くはないなぁ。普通。やっぱこれ、料理スキル関係してるっぽいね。未熟な料理によるなんたら~って出て爆発したし」


「なんでもかんでも爆発させ過ぎだろこのゲーム。昔のバラエティじゃねぇんだぞ」


「あはは、だねぇ…………あ、駄目。タカシ、それ飲んじゃだめ。毒なった」


「…………ん、そうか。逝ってこい」


「漫画とかで、料理下手な女の子が作った料理を食べて男の子が吐いたりとかあるけど、死ぬのはなかなか――」


「逝ったか…………あっちで5分だと、こっちで30分くらいか。しょうがない。新しいスープ作っといてやるか」


 ――スキルが上昇しました 失敗 料理0.35――

 ――未熟なスキルの使用により、タカシは死亡しました――




もうタイトルは「ゲームの世界でスローライフ」とかにしようかしら。

その方が作品に合ってる気がしる

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