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第16話

「がはっ!! ぐぅ! がっ!」


 ――タカシ(ヤング+)に被害 軽症+――


 空中で半回転し、背後の木に激突する。肺の空気が押し出され、地面に落ちた高志は砂を吸い込みながら喘いだ。


「タカシ!!」


 どこからかリーベルの叫ぶ声が聞こえる。脳震盪でも起こしたのか方向感覚が掴めず、高志は激突した木に寄りかかるようにして立ち上がった。


「くそ…………まだ、息が…………」


 高志はぼやけた視界の中に熊の姿を見つけると、後ずさるようにして距離をとった。毒のせいだろうか、まるで見えない敵と戦うかのように、熊はあたり構わず両手を振り回しており、そこら中に土を撒き散らしていた。


 そして熊はやがて不恰好に木に激突すると、不満を表すかのようにその木に爪を立て、そして無造作に振るった。木にはの跡が刻まれ、細かい木の破片が周囲に散乱する。


「随分と元気一杯じゃねぇか…………」


 高志がぼそりと毒づく。彼は吹っ飛んだ際に落としてしまった木の槍を見つけ、それに手を伸ばして掴み、なんとも頼りない武器だと心の中でぼやいた。


「タカシ!! タカシ!!」


 またもやリーベルの呼ぶ声。高志は彼女の方を向こうとしたが、しかしゆっくりと振り返った熊の血走った目が合い、それに釘付けとなってしまった。


 明らかに敵意のこもった視線。


 高志は震える両手で槍をしっかりと掴むと、一歩二歩と後ずさった。熊は低い唸り声を上げながら両足を下ろすと、姿勢を低く構える。


「こりゃ、駄目だなっ!!」


 陸上選手がクラウチングスタートで走り出すように、熊が一気に加速する。高志は咄嗟に木の後ろに回りこむと、熊の突進を間一髪でかわした。木が振動で揺れ、木の葉がはらはらと振ってくる。

 熊は木に抱きつくような格好のままで巨大な右手を振るい、それが高志の肩を掠めた。高志は真っ青な顔で後ろへ倒れこむと、肩から流れ出す血液には目もくれず、一目散に走り出した。


「リーベル、逃げろ!!」


 大声で叫び、かつて大蛇に対してそうしたように、なんとか熊をひきつけようと試みる。高志はもつれそうになる足を回転させると、ちらりと後ろを振り返った。


「ちょっ、早っ!」


 すぐ後ろに見えた熊の姿。飛び出た舌を左右に揺らし、よだれを撒き散らしながら口を開いている。高志は考える間もなく横へ飛ぶが、熊から繰り出された左手に引っ掛けられ、空中で回転しながら地面を転がった。


 ――タカシ(ヤング+)に被害 重症――


 枯葉やら下草やらを巻き込みながら派手に転がった高志は、勢いが収まった後も倒れたままだった。正確に言うと立とうとはしたのだが、出来なかった。足に力が入らず、上体を起こすのがやっとだった。


「く、くそっ!」


 自分でも不思議な事にまだ掴んでいた槍を杖代わりにし、なんとか立ち上がろうとする高志。熊は既に彼の方へと向き直っており、不愉快そうに唸り声をあげていた。


「タカシ、聞いて! タカシ!」


 再度リーベルの声。高志が声の方を目だけで見やると、熊の後方を這うリーベルの姿が見えた。


「こりゃあ、お互い死に戻りかな」


 暴力的なまでに俊敏な熊に対し、地を這うリーベルに何が出来るとも思えない。既に高志は復活後の行動をどうしようかなどと考え始めていた。しかし――


「タカシ! 10秒! 10秒しか使えないからね!」


 熊の向こうに見えるリーベルが、槍を掲げて叫んでいる。高志はぼんやりとそんな彼女を見ていたが、そんな高志を余所に、リーベルはさらに叫んだ。


邪気眼じゃきがん!!」


 右手人差し指と中指でVの字を作ったリーベルが、もの凄いドヤ顔でその間から右目を覗かせている。高志はこんな状況でギャグを飛ばせるとは大したものだと無意味な感心をしていたが、しかし驚きの異変が起こるのだった。


 突然リーベルの身体がふわりと持ち上がり、重力を無視して飛び上がり始める。右目は赤く光り、背中には透明に輝く鳥の羽が生えていた。


「…………はぁっ!?」


 何が何だかわからず、声をあげる高志。リーベルはそのままぐんと加速すると、高志の方へ歩みを進めていた熊へと接近し、そのまま無防備な首元へと槍を突き立てた。


「通らぬか! あぁっ、我が魔槍がっ!」


 リーベルの突き刺した木の槍は折れ、熊の背中に半分を残したままとなる。熊は衝撃から彼女の存在に気付き、振り向きざまに牙を振るった。しかしリーベルはそれを回り込むようにひょいとかわすと、熊の後頭部を足で蹴った。


「くっ! タカ……我が眷属よ! これは10秒しか持たぬのらっ!」


 まとわりつく蜂を嫌がる人のようにその場で暴れる熊と、その蜂に相当するリーベル。高志はほんの刹那そんな光景をぼけっと見ていたが、すぐにはっと気を持ち直し、手の中にある槍の感触を再確認した。


「な、なんだかわからんが、わかった!」


 そう叫び、タイミングを見計らって熊の下へと走り込む高志。彼はそのまま勢いを殺さずに小さく飛ぶと、体重をかけた槍を熊の足へと突き立てた。


 ――ジャイアントベア(ミドル)に被害 軽傷――


「通った! 抜けねえっ! あがはっ」


 熊の足の甲を貫通してしまった槍を抜こうとしていた高志は、またもや宙を舞った。しかし殴られたというよりは押し飛ばされたといった形に近く、さしたるダメージはないようだった。


「もう石ぐらいしか武器ねぇぞっ! そいつ投石きくのか!?」

「わかんない! タカシ、後ろ向いて!」


 リーベルが高志の方へ向かい、低空を飛行してくる。高志は彼女の意図を理解すると、咄嗟に背後へ振り返った。

 背中に衝撃。そして両脇の下から生えてくる2本の脚。それを両腕でしっかりと掴む高志。


「タカシ、逃げるっちゃ!」

「おうよ! 任しとけ!」


 高志は衝撃で倒れ込んだ体を支えるように一歩目を踏み出すと、歯を食いしばって二歩目へ繋げた。背後には怒り狂った熊の唸り声が聞こえており、追って来ているだろう事は確認するまでもなかった。


「急いで急いで! 追って来てるよ!」

「わぁってる! こっちも全力で…………あれ?」


 必死で森の中を駆けつつ、高志は感じた違和感に視線を下した。回転する足はいつもの通りだが、それが妙に軽く感じる。


 ――スキルが上昇しました 運搬2.05――

 ――徒歩 走行 運搬 登攀がそれぞれ規定値を超えた為、――

 ――特性 不整地踏破が付与されました――


 足の回転がさらに早くなり、体がぐんと加速する。巧みに地形の起伏を足や膝の動きで相殺し、体は滑らかに前へと進んでいく。


「おぉっ!? 早い早いっ!」

「ちょ、これ勝手に動いて、気持ちわりぃ!」


 知らないはずなのに知っている感覚。初めてやる事なのに、既に経験した何かのように感じる感覚。高志はそんな奇妙な感覚に強い違和感を感じたが、しかし今はそれについてを考える余裕はなかった。


「リーベル、どんな具合だ!」


 走る事に集中しつつ、高志が尋ねる。リーベルは高志の背中で後ろを振り返ると、「引き離してるよ!」と喜色のある声で答えた。


「引き離すって、まじか」


 少しだけ体を捻り、後ろを振り返る。熊の姿は確かにそこにあったが、リーベルの言う通り先程よりは距離が離れていた。

 

 しかし熊の走る速さを考えると、いくらアナウンスにあったような何か都合の良いスキルが手に入ったとしても、それは有り得ない事のように思えた。確かに高志は森の中を飛ぶような早さで駆けてはいたが、しかし人間としての常識の範囲に収まる程度であり、車のような速度が出せているわけではない。


「…………足か!」


 視線を前と後ろに何度も往復させていると、やがて熊の走り方が若干歪になっている事に気付いた。熊の後ろ足には今も高志が突き刺した木の槍が生えており、それが原因だろうと思われた。


「よし、このまま距離をとるぞ!」


 高志はそう意気込むと、時折確認の為に振り返る際を除き、あとは前を見て走り続けた。



 そして走る事、10分。


「なんだ? た、倒れたのか?」


 肩で息をしている高志が、振り返った際に見えた熊の様子を見て発した。彼は観察の為というより、むしろ息を整える為にと足を止めた。


「動かないね…………さすがに疲れたのかな?」


 リーベルが暢気そうに言った。高志は「どうだろうな」と適当に返すと、夢中で気がつかなかった疲労の文字に今更気付き、大慌てでその場に腰を下ろした。


「ここで過労死は洒落にならん。頼むから、そのまま動かないでくれよ」


 熊をにらみつつ、高志が発した。


 しかし幸いな事に、その後数分を座ったまま休憩に費やした後も、熊が動き出す事はなかった。

 高志はリーベルと少しだけ話し合った後、熊の動きに注意しつつ周囲を探し、なんとか持てるといった重量の大きさの岩を探し出した。リーベルは高志が岩を探す間に手ごろな木の枝を削り、新たな木の槍を作り出している。


「多分毒で力尽きたんだろうが、念のためな。いくらなんでも、こいつを食らえば終わりのはずだ」


 高志は岩を持ち上げつつそろりそろりと熊へ近付き、そしてその頭目掛けて岩を投げ落とした。


 ――スキルが上昇しました 投擲1.00――



「熊さん、安らかにお眠り下さい。君の血肉はぼくらの体となって生き続けるのです」


 頭部を潰された熊へ向かい、リーベルが手を合わせている。高志はそんな彼女を横目に片手だけで軽く拝むと、解体用の石を熊の喉元に押し当てた。


「…………硬った。無理やりいけなくもなさそうだが、これかなり苦労するぞ」


 分厚い皮膚は尖った石をなかなか通さず、切るというよりはえぐるといった感覚で穴を開けていく。高志は生々しい血と肉の光景に若干吐き気を覚えたが、我慢して作業を進めていった。


「ちょっと…………あいや、さすがにグロいね…………」


 不恰好に、そしてなんとか解体を進めていくと、内臓に到達した所でリーベルが顔をしかめた。高志は至近距離で見てる身にもなれよと文句を言おうとしたが、しかし顔を背けないで見ているだけでも凄いのではと思い直し、黙っている事にした。


 ――スキルが上昇しました 解体 2.00――


 待ちに待ったアナウンス。高志はせっかくの大物の解体が大成功でなかった事を若干残念に思いつつも、しかしようやく開放されると喜んだ。


「熊! 肉! 熊! 肉!」


 地べたに座ったリーベルが、木の槍を地面に打ちつけながら興奮気味に発する。正直不気味だったが、喜んでいるのは間違いないだろうと、高志は放っておいた。


 やがてネズミやヘビと同じように熊の体が発光し出すと、しばらくしてそれが消え、そして期待のアナウンスが流された。


 ――熊の肉を手に入れた――

 ――毛皮(熊)を手に入れた――

 ――宝箱(小)を手に入れた――


 熊の死体があった場所に残される、巨大なブロック肉と折り畳まれた毛皮、そして20センチ程の大きさの小さな箱。


「…………宝箱?」


 歓声と共に拍手をしようと思って浮かせていた手を止めたまま、首を傾げる高志。横ではリーベルも同じようにしていた。




----タカシ----------------


歩き:2.40  走り:2.10

運搬:2.05  騎乗:0.00

夜眼:0.15  登攀:2.00


鑑定:0.25  工作:0.60

医術:0.10  解体:2.00

自然回復:1.15

火起こし:1.00


料理:0.20  肉焼き:0.10


投擲:1.00  槍:0.75


衝撃耐性:0.25


//特性パッシブ

不整地踏破


//特殊アクティブ

なし


//死因

過労死 渇死 毒死、爆死、戦死


----リーベル----------------


歩き:0.05  走り:0.00

運搬:0.25  騎乗:2.10

夜眼:3.30  登攀:0.05


鑑定:0.50

工作:0.45


医術:0.10  解体:1.75

自然回復:1.15

火起こし:0.50


料理:0.10  肉焼き:1.40


投擲:0.05  槍:1.45


衝撃耐性:0.00


//特性パッシブ

不随


//特殊アクティブ

邪気眼(浮遊)


//死因

爆死、戦死



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