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第10話

「火種ってのは持ち歩けるんだ。うまくやれば半日以上も持つらしいぞ」


 拠点から離れた場所で火を起こしてしまった事に対し、それをもったいないと言ったリーベルへの回答。高志は凄い凄いと言ってはしゃぐリーベルに対し、「事前に調べておいたのさ」と正直に話した。


「とりあえず一度戻って、干し肉作りといこうか。荷物もそう沢山は持てないからな」


「りょーかい、しれーかん。でも干し肉って作るのに時間かかるんじゃないの?」


「だからこそだ。こうして採集をしながらならある程度見張ってられるし、夜なら鳥もこない。それとまぁ、ちょっと思いついた事もある」


「なるほどー。ちゃんと考えてるんだね」


「誰かさんと違ってな」


「なんだとコンニャロー!」


 ふたりは拠点に戻る事に決めると、火種を消えないように細い枯草の束で包み、今来た道を引き返し始めた。


 途中で目立つ場所へ放っておいた持ち帰る用の枝やら何やらを拾い、リーベルがそれを抱え、ある程度一杯になったらロープ替わりのツタで結ぶ。出来上がった束は背中に背負えるようにして、邪魔にならないようにした。


「よっしゃ、ただいまー!」


 拠点に到着すると、リーベルがそんな声を上げて荷物を下した。高志は彼女を下ろそうと腰を落としかけたが、しかし思い立ってそれを取りやめた。そして彼女を支えている腕を少しずつ緩めると、彼女が自分でその場に降りて立つのを見届けた。


「ふふん、それで良しだよ君。ただいまー」


「あぁ、そうだな。よし、まずは火種から火を起こそう。確か枯れ草の塊があったよな」


「ねぇタカシ、ただいまー」


「ん? あぁ、おかえり。そうしたら次は、干し肉作り用の網棚だな。重要なのは風通しらしいから、そこら辺は十分に注意しないとだな」


「ターカースィー、おかえりー!」


「はいはい、ただいまただいま。お前はほんとに人懐っこいやつだな。騙されないようにしろよ? お前みたいなやつは危ない」


「えへへ…………って、余計なお世話だよ!」


 高志はリーベルに尻をばしばし叩かれるがままにすると、また攻撃扱いされないかどうかいくらか不安になりつつも、火起こしの準備に取り掛かった。


 まずは太目の木を使い、風通しを確保する為に井の字型へと組み、高さを作る。そしてそれに寄り掛からせるように細い木の枝を配置していき、適度に隙間を開けつつ、細々とした燃えやすい小さな木や葉、木片といった着火用の木片を、井の字の隙間へと入れ込んでいく。


 ベースの準備が出来たら、次は持ち帰った種火を慎重に運搬用の葉から下ろし、良く乾燥した、細く柔らかい綿のような枯れ草を追加して、包み込む。それへそっと顔を近づけ、少しずつ、慎重に息を吹きかける。


「おぉ…………おぉぉぉー!」


 リーベルがこちらの手元を覗き込み、感嘆の声をあげる。火種は送られた酸素により力を吹き返し、やがて大きく煙を吐き出し始めた。そして吹く息を段々と強くしていくと、ある瞬間にぼうっと炎を吹き上げ始めた。


 ――スキルが上昇しました 火起こし1.00――


 中空に現れた文字に、一瞬固まる高志。彼は「そんなスキルもあるのか」とどうでも良く思いつつ、火のついた枯れ草の塊を着火用の木片のある場所へと押し込んだ。


「後は太い枝が燃え始めるまで火を絶やさないようにするだけだな。俺は薪を集めてくるから、頼んだぞ。火の勢いが弱くなってきたら、優しく息を吹きかけるんだ。いいか、優しくだぞ?」


「おや、それは振りですかな? かな?」


「いやいや。見ててわかったろうが、結構面倒だから勘弁してくれ」


 高志はきりもみ式の方法で火をおこした際のしんどさを思い出しながらそう言うと、周囲にある薪を拾い集め始めた。

 水分の多い木は燃えにくく、また、蒸発した水分によって破裂する恐れがある為、出来るだけ乾燥したものを選ぶ。枝の太さは細い程燃えやすいが、火がつきにくい分太い方が長時間燃えてくれる為、両者をバランス良く集めていく。細いものだけだとすぐ燃え尽きてしまうし、太いものだけだと火が消えやすい。


「あだぶっ、ぼはっ、ごほっ、ごほっ!」


 煙にあおられたらしい、リーベルの咽る声が聞こえてくる。高志はその光景を想像して小さく笑うと、薪を抱えて拠点へと戻った。幸いにも薪は周囲にいくらでもあり、困る事はなさそうだった。春先でこれなのだから、草木が枯れ落ちる秋や冬――もしあればだが――はさぞ凄い量になる事だろう。


「お、十分に燃えてるな。それじゃ俺は干し肉作成機……と呼んでいいのかわからんが、そんなんを作る。肉を焼くのは任せたぞ」


「あいあい、任せたまえ。焼肉奉行のリーベル様たぁ、この僕の事よ」


 高志は帰り道に拾ってきた木材をざっと眺めると、まずは網を作ることにし、細い枝を見繕い始めた。枝は当然ながら形も太さも大きさも不揃いで、並べられた枝はひどくでこぼことしていたが、しかし通気性の確保という意味ではむしろ望ましかった。


 高志はフレームとなる枝に石で切れ込みを作ると、ツタをうまく使って網を組んでいった。フレームに差し込まれただけの網部分の木は少し力をかければ折れてしまう程度の不安定なものだったが、直す為の材料などいくらでもあるし、挿すだけなので手間もかからなかった。


「それにお肉を乗っけるんだよね? 地面に置いたら駄目だろうし、どうやって浮かせるの?」


 枝に刺した肉を焚き火の周囲に設置し終えたリーベルが、高志の方を振り返りつつ聞いてくる。高志は「複雑な事はしない」とだけ答えると、説明するより早いだろうと作業を続けた。


 まずはしっかりとした枝3本を選び、それを地面につきたてて頂点の方を交差させる。三角錐の辺のようになったそれを長めのツタで軽く結びつけると、余った部分を輪になるように結び付けた。それと同じツタをもうひとつ程作ってやると、あとはそこに網をセットするだけとなった。


 それを見たリーベルが「おぉー」と拍手をしてきたので、高志は大した事じゃないとばかりにかぶりを振った。


「材料があれば誰だって作れるさ…………む、工作スキルが0.25になったな」


「おお、結構上がったね。難易度的には難しい扱いなのかもねぇ……ちなみに火はどれくらい通す?」


「うーん、味で言うと少し焼いた程度でもいいらしいんだが、我々に必要なのは保存性だからなぁ。調べたサイトでは牛肉や何かを使ってたが、俺達のはネズミの肉だっていう問題もある」


「寄生虫とか細菌とか、怖いよね…………しっかり焼いとこうか」


「まぁ、問題ないかどうか、自分の体で実験する気にはなれんからな」


 高志は作成した網をふたつのツタの輪に通すと、慎重に高さを調節した。テストのために軽く押してみると若干不安定だったので、さらにもう2本ツタを追加する。用意したツタはこれでほとんどなくなってしまい、高志はまた取りにいくようにと頭の中にメモをした。


「そろそろいいんじゃないかなぁ…………ちょっと焦げちゃった。ごめんね」


 焼き加減を確認したリーベルが、残念そうに言った。高志は「いや」と首を振ると、リーベルの手元を覗き込んだ。


「生焼けよりずっといいし、それくらいなら問題ないよ。というか焚き火の直火だとどうしても火力が安定しないから、仕方ないだろう。そんなもんだよ」


 高志はリーベルから串の刺さった肉を受け取ると、火がついていない事を確認してから網の上に乗せた。手の平サイズの肉はそれなりの重量があったが、しかし網はしっかりと受け止めてくれた。


「…………あ、覆いを忘れてたな」


 直射日光にあたるのはまずいと、高志は頭の中の持ち帰る物リストに幅広の葉を加えた。そして彼は出来上がった不恰好な干し肉作成機をじっと見やると、他に問題がないかどうかを思案し始めた。


「ネズミ、か」


 高志はぼそりと呟くと、干し肉作成機に改良を加えるべく動き始めた。三角錐に組んだ柱の頂点にある結び目に、曲がった細長い枝を下向きにいくつも差し込む。しつこいくらいにそれを行うと、謎の怪しい儀式で使う祭壇のようになってしまったが、しかし目的は十分に果たせそうなものとなった。


「タカツィン、悪魔召喚でもするの?」


「ネズミ返しだ。そんな恐ろしげな事するわけがないだろ……発想が怖ぇよ。あとそのロシア人みたいな呼び方はやめてくれ」


「タカツィン大統領の貴重な産卵シーン」


「お前、やっぱりネタがおっさん臭いぞ」


 高志はリーベルからもう一本の焼きネズミ肉を受け取り、それを網にセットすると、腕を組んでしばし待ち続けた。彼はそのままゲームの事や今後の事についてを軽く話し合うと、しばらくの後、どうにも当てが外れたようだと判断する事にした。


「少し焚き火にでもあたって休憩して、また材料集めに行くか。量的にあと1、2往復は必要だろうし」


 一度で運べた木材の量と、想定していた荷物置き場の大きさを頭の中で比べ、高志が言った。リーベルは「うんうん」とそれに頷くと、少し首を傾げ、「何を考えてたの?」と尋ねてくる。それに高志は「あぁいや」と顔の前で手を振った。


「さっき思いついた事があるって言っただろ? 大蛇やネズミが肉に変わったように、干し肉もぱっと変わるんじゃないかって期待したんだよ」


「あー、なるほど。ゲーム中の料理とかって、一瞬で出来上がるもんね。わかるわかる」


「だろ? そう思ったんだが、まぁ、甘い考えだったみたいだな」


 ふたりして干し肉作成機をみやる。肉の焼けた香ばしい匂いを発するそれは、ふたりの視線を受けても動じず、ただそこに居座っていた。


「…………こうしてみると、火って綺麗だよね」


 しばらくの無言の後、ふとリーベルが言った。高志は視線を焚き火の方へ向けると、「そうだな」と同意した。オレンジの炎は心地良い揺らぎと共に周囲を照らし、その辺り一角だけに特別な空間を作り出している。


「僕、焚き火って初めてなんだ。ちょっと憧れてたんだよね」


 小さく笑みを作るリーベルが、目を細めて言った。彼女の横顔は焚き火の光に照らされ、より強い陰影を作り出していた。


「都会っ子か。最近は色々とうるさいし、キャンプ場にでもいかなきゃ出来んからな」


 高志が焚き火に薪をくべながら言った。それにリーベルは「ん、まぁ」と曖昧な返事を返してくる。彼女は脇に積まれた薪から細い枝を一本取り出すと、その先端に火をつけ、それを中空でくるくると弄んだ。


「ここに来てから、初めてがいっぱい。焚き火をしたのも、蛇の生肉を食べたのも、森に基地を作ったのも…………あと、君みたいなおっさんと沢山話したのも、かな」


 悪戯っぽい表情を浮かべ、リーベルが火のついた枝で高志を指し示してくる。高志は突きつけられた枝の火をふっと息で吹き消すと、「まだ20代だ」と言い返し、そして「かろうじてな」と付け加えた。


「僕から見れば十分おっさんさ」


 リーベルはそう言って小さく笑うと、再び枝の先に火をつけ始めた。高志はそんなリーベルを無言で眺めると、少し弱くなった火の勢いに気付き、風が通るように枝の位置を調節した。火は再び勢いを取り戻し、火の粉を舞い上げる。


「ほんと、何もかもが初めてだよ…………ねぇタカシ、僕は――」


 リーベルが決意じみた顔を上げ、何かを言いかける。しかし続きが語られる事はなく、不振な間を疑問に思った高志は、彼女の方を向いた。


「タカシ…………光ってる」


 リーベルの視線を追い、振り返る。

 するとそこには、青白く発光する干し肉作成機があった。





書いてて思ったんだけど、ロープ状の何かがないと人ってほとんど何も作れない気がする。もしくはどうしてもワンランク下がっちゃう的な。


今作はキャラクターの行動や心情の描写、周囲の情景等を比較的しっかりと書くようにしています。合う合わないあるとは思いますが、如何でしょうか。

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