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他々界

作者: 斜志野九星

 8月に体調崩して何も書けなかった斜志野 九星です。元いた高校の文芸同好会の次に出す部誌のテーマが『たたかい』ということなので、そのテーマを拝借して書きました。これからはまた小説をたくさん書きたいと思っております。

 文章がおかしいところ、誤字・脱字、こうしたら良いというところありましたら、コメントお願いします。

 僕は布団の上で泣いている。

 何故、泣いているのかというと、僕が赤ちゃんだから。

 赤ちゃんがこんなに物事を考えていることに違和感を覚える人もいるかもしれないけど、実は死後の世界では常識だ。

 天国や地獄で魂を浄化され、現世に戻され、適当な赤ちゃんの中に入り込む。

 その後、魂はだんだんと赤ちゃんに馴染み、前世や死後の世界の記憶を捨て、新たな人生を送るらしい。

 らしいというのは、僕が前世の記憶も死後の世界の記憶もまだ持っているから。

 そうそう。

 僕も前世で死んで、魂を浄化されて、この家の赤ちゃんになっている。

 前世で、僕は小学校を卒業する前に死んでしまった。

 しかも、その原因というのは、『缶下駄』というどれくらいの人が知っているか分からない遊びを無理矢理やらされた挙句、自分で勝手に転び、頭を打って敢え無く昇天した。

 僕はぽっくりと逝ってしまった。

 こんな情けない死に方だったから、今度こそ人生を全うしたいと思っている。

 僕のお父さんとなる男が僕を持ち上げた。

 ちなみに、赤ちゃんとはだいぶ暇なもので、他人に構ってもらえると嬉しかったりする。

 ただ、心の中では構ってくれる人を見下している。

「たかい、たかーい」

「キャッ、キャッ!」

「たかい、たかーい」

「キャッ、キャッ!」

「たかい、たかーい」

 ……。

 しつこい!!!

 飽きたので、もう喜ぶフリはやめた。

「笑ってくれないなー……よし!!」

 僕のお父さんとなる男は、『たかいたかい』をまたやりだした。

 そして、なんと僕をちょっとだけ投げて、キャッチした。

「まだ、駄目かー」

 この男は、再び僕を上に投げた。

「あっ……」

 僕のお父さんとなる男の青ざめた顔が、僕の目の前にあった。

ドンッ!!

 僕は天井に激突した。

ドンッ!!!!

 そして、床に激突した。

 僕のお父さんとなる男は、僕のキャッチに失敗してしまった。

 全身に痛みが走る。

 死ぬな……これ……

 こうして、僕の新たな人生は幕を閉じた。

 僕は床に激突して他界してしまった。


「おっほん!」

 大きな咳払いと共に、僕は目を覚ました。

「うわっ!!」

 そして、驚いた。

 目の前には正真正銘の鬼がいたからね。

 辺りを見渡すと、金棒を持った鬼が整列していた。

 その奥には、死後の世界で知らない人はいない程の有名人、閻魔大王がいた。

「これより、この度地獄へ送られてきた罪人への裁判を行う」

 閻魔大王は鬼から渡された本を手に取った。

 僕の人生の全てが書かれている閻魔帳だ。

「さてさて……君の罪は……ん!?」

 閻魔大王は本を開けた途端、素っ頓狂な声を出した。

「何だ、これは!! ほとんど、真っ白ではないか!!」

 そりゃ、当然だ。

 僕は赤ちゃんの時に死んだんだ。

 一応、僕に前世の記憶はあるが、閻魔帳に前世の罪は書かれない。

「君は、人生の長さから察するに、前世の記憶を持ったまま死んだな?」

「はい……」

「せっかく地獄へ来てもらって悪いのだが、新たな人生で罪がない君をここに居させるわけにはいかないんだ」

「はい……」

「というわけで、君には天国へ行ってもらいたい」

 閻魔大王が頭を下げた。

 ここで普通の人なら喜ぶんだと思うけど、僕は絶望した。

 これは前世の記憶を持っている僕だから説明できるんだけど、死後の世界というのは1つじゃない。

 死後の世界の中に天国や地獄があるわけではなく、天国や地獄は別々の死後の世界なんだ。

 もっと言うと、現世も数ある世界の1つに過ぎない。

 ここで僕が何を言いたいのかというと、世界の移動についてだ。

 現世から死後の世界に行くためには、死ななければならない。

 このルールは絶対で、地獄から天国へ行く場合も死ななければならない。

 つまり、天国へ行ってもらいたいというのは、死ねと言っていることと全然変わらない。

「いや……別に地獄でもいいですよ……」

「それはならん。罪無き人間を苦しめるわけにはいかないからな」

「いや……地獄の拷問も別に死ぬわけじゃないし……」

「では、尚更だ。拷問が怖くない奴に地獄に居てもらいたくはないからな。天国へ行ってもらいたい」

 言い合っているうちに、上から蜘蛛の糸が垂れてきて、僕の首に絡まっていた。

「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……」

「では、天国で元気に暮らしてくれ……」

 閻魔大王が笑顔で手を振っている。

 何回も死んでたまるか!!

 たしか、かの芥川龍之介の小説だと、自己中心的なことを考えれば切れるはずだ。

「一応、言っておくが、蜘蛛の糸の強度はこっちで操っている。お前が何をしようと手遅れだ」

 小説のようにはいかないみたい。

 僕は蜘蛛の糸で首を絞められて他界してしまった。


 気が付くと、天国にいた。

「フォッフォッフォッ……。地獄から客人じゃわい」

 僕は蓮の池の近くで、仏様に出会った。

「はじめまして。地獄で殺されてきました」

「フォッフォッフォッ……。送り先の間違いなぞたくさんあるわい」

「はあ……」

「ところで、ちょっとよいかの?」

 仏様が僕の目を覗きこんだ。

「ふうむ。おぬしは現世で善い行いをしたというわけではないのう……」

「はあ。人生これからというところで死にましたから……」

 仏様は顎髭を弄っている。

「おまけに前世の記憶も持っているようじゃ」

「赤ちゃんで死にましたし……」

「前世で特に悪い行いもしたわけではないようじゃが、新たな人生で善い行いも悪い行いもしてない奴が天国へ来るのはちょっとのう……」

 僕は蓮の池の縁まで連れて行かれた。

「すまんがのう。もう一遍死んでくれや」

 そして、池に突き落とされた。

 僕は必死で浮きあがろうとした。

 だが、仏様はそれを押さえつけて、窒息死させようとしてくる。

「ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ……」

 仏様!?

 いくら天国でも、人殺しは人殺しですよ!

 僕死んじゃいますよ!!

 そんなことを考えていたが、だんだんと意識が遠のいていった。

 僕は蓮の池で溺れさせられて他界してしまった。


 と、このように僕は何回も死後の世界を移動させられている。

 天国と地獄を往復した後、違う世界にも送られた。

 さっきは、餓鬼に食い殺されて、また他界してしまった。

 僕が現世へ戻れる見込みは、今のところない。

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