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にいちゃんのステータスにはもうつっこまへんで?

『逃げ(カミ)一手』(イッテ)沢見雄平

職業:囮聖デコイマスター

Lv:56 経験値:2828427 次のレベルまで:4649

HP:829/1083 MP:0/53

攻撃力:48 防御力:67 敏捷性:211

魔法:目眩まし呪文 目潰し呪文 目抉り呪文

    敏捷性強化呪文 敏捷性超強化呪文

スキル:『三十六計逃げるに如かず(エスケープリンシプル)』『すたこらさっさ(サウンドエスケープ)』『逃げるが勝ち(エスケープゴート)

     『頭隠して尻隠さずハイドリスク・ハイドリターン』『木の葉を隠すなら森の中(フォレストラクチャー)』『隠れたるより見るるはなしシーク・レット・イット・ビー

耐性:毒舌 異世界での生活

状態:疲労 空腹 最近ではここでの生活も悪くないと思えてきた

資格:普通自動車第一種運転免許(AT限定)

    漢検3級

    英検3級

所持金:347922円


「乾杯です」


 俺は高くも低くもないテンションで乾杯の音頭をとった。今日もいつもの居酒屋『笑う猛虎亭』で反省会だ。


「……「「乾杯!」」」


 割れんばかりの乾杯が俺達の座席でこだました。三人とも、イズリハさんもエサシさんもオリオノさんも嬉しそうに美味そうにビールを呷っている。


「にいちゃんのステータスにはもうつっこまへんで?」

 イズリハさんは皮肉っぽく笑って言った。いつも以上に傷の増えたビキニアーマーが前回のクエストの難易度の高さを物語っている。


「はい。まあそれも仕方ないですね」


 ぴんぽ~ん♪


「逃げて隠れて最早ぜんぜん囮ってないやんね!」


 エサシさんがぴんぽん押すやつを鳴らしながら、今日もまた大声で言う。こちらのローブもあちこち破け、焦げ跡が付いている。宝石の数は倍くらいに増えていてミラーボールみたいな様相だ。


「いやいや。スキル名はあれですけど。使いようですって。実際今回は大活躍だったじゃないですか。なかなかの囮回しっぷりでしたよ。囲い明けからのかすみ落としの連携なんて凄くないですか?」

「囮の専門用語とか知らんから。だいたい目潰しと目抉りはどう違うねん」


 普通に突っ込まれた。


「目抉りが上位互換ですよ。目を入手できるんです」

「こわ。それ囮の仕事ちゃうやろ。ほんでMP使いきっとるし。知らん間にどんだけ目抉っとんねん」

「ほとんど敏捷性超強化呪文を使ってたんですよ」

「……かっこよかったで」


 オリオノさんの僧侶服に縫い込まれた呪文も大部分が解けたらしい。今は既に縫い直されているが。


「ありがとうございます」

「甘やかしとるなあ」

「お待たせしました。お伺いいたします」


 とても長い舌が口から飛び出している店員のテンマさん。


「ハーピーのから揚げ! 串大盛り! クラーケン焙り焼き! 大蛤の蜃気楼蒸し! おぼろ豆腐!」


 エサシさんが次々に注文していく。さらに4、5品注文し、「とりあえず以上で」と締めくくる。


「にしてもすごい成果やったな! 『縞々姉妹』歴で一番の稼ぎやったんちゃう!?」

「……せやね。マッピングも捗った。アイテムもめっちゃ見つけた。モンスターもかなり倒した」

「その上、深淵の泉の雷鳴広原で主っぽいモンスターまで見つけたからな。あの蛸のような貝のような奴も新種の可能性高いらしいし、倒せば府モ研から報奨金出るらしいで」

「それはごめんな! ウチのMPが尽きてもうて! 引き返す羽目になって!」

「……それはオリオノもやから。さっさと弱点見つければMPも節約できたのに」


 珍しくエサシさんとオリオノさんがしおらしくなっている。

 あの蛸のような貝のようなモンスターを倒せなかった事を二人は後悔しているらしい。別にそれほど気にするような事でもないと思うけど。そんなことより……。


「ええねんええねん。今回のクエストとは関係ないモンスターやし。その内クエスト出たら受注してリベンジしたろ。何はともあれクエスト自体は大成功なんやからな」

「でも転生のオーブは見つかりませんでしたね」


 俺は一気にジョッキを呷る。肝心のアイテムは影も形も無かった。元の世界に帰る小さな希望だったが音も無く掻き消えてしまった。

 一瞬静まるがエサシさんが静寂を破る。


「雄平君には悪いけど、まだこの世界に居てくれてウチは嬉しい! ごめんな!」

「いえ、そう言ってくれるのは俺も嬉しいです。それに転生のオーブって物がこの世界にあるって知れただけでも進歩ですから」

「……せやね。次からは転生のオーブの情報収集やね」

「お待たせしました」


 テンマさんが二つの腕と長い舌で料理を運んできた。早速エサシさんがから揚げにかぶりつく。


「クエストはお決まりですか?」

「あ、いやまだです。また後で」


 串を手に取りながらイズリハさんが言った。


「畏まりました」

「じゃ、クエストやな」


 イズリハさんがクエストメニューをぱらぱらと捲り、あるページを机の上に広げる。


 推奨Lv:50~75

  冒険上級者様にお願い申し上げたいクエストです♪


 超人気クエスト

 ・ウツボホンの囚人討伐クエスト(★★★★★) 受注額49800円(税抜き)

  言わずと知れた大監獄ウツボホンの大規模脱獄事件から50年を記念して大幅値下げ♪

  ウツボホンの囚人達も残り僅かの17人しかおりません。(いっそげ~)

  生死問わず肉体の7割を引き渡す事で換金されます!(ほとんどのターゲットが不死ですけどね♪)

  ※いずれも強力な魔法使いである囚人達は個別に懸賞金が設定されています。

  ※当店でクエストを受注することで各懸賞金にボーナスがつきます。


 ・悪鬼部族連合征伐クエスト(★★★★★) 受注額98000円(税抜き)

  スンジャタの南に広がる大湿地で10年ほど続く征伐戦争に参加するクエストです♪

  小鬼で小遣い稼ぎもよし♪ 本格的に参戦するもよし♪ 首級次第で一攫千金も夢じゃない!

  いまなら征伐軍への体験入隊も可能!(別途料金有)

  さらに! さらに! さらに! 

  変身魔法を使える冒険者様だけの特別なクエストもあります!

 ・悪鬼部族連合諜報クエスト(★★★★★) 受注額128000円(税抜き)

  ※詳細は征伐クエスト受注後、征伐省諜報課何でも相談室へご連絡ください。

  

 裏クエスト(条件を満たした方のみ下記文面を読む事が出来ます)


 ・紅蓮の蛸貝女討伐クエスト(★★★★★) 受注額250000円(税抜き)

  ウムエダの地下迷宮で新エリア発見!(当店派遣の冒険者様の功績です♪ 拍手)

  新エリア『深淵の泉の雷鳴広原』の主とされるモンスター、紅蓮の蛸貝女討伐クエストです。

  新種モンスターなので問答無用の5つ星!(意外に弱かったりして♪)

  生け捕りで報奨金も大きく値上がりします!

  ※新エリアは一時的に調査室から踏破室に管理が移行しています。

   お間違いの無いようにお気を付け下さい。


 このページ以降は星によるランク付けの無い未知すぎるクエストしかない。


「あ! もうさっき言ってたクエスト乗ってるじゃないですか」


 俺達の事も少し書いてある。思っていたより大きな事を成し遂げたんじゃないだろうか。


「……紅蓮の蛸貝……女?」

「女要素あったっけ!?」

「貝殻の中に隠れてたんやで」

「なるほど。あの時見たのは巨大な貝殻とその隙間から出てきた触腕だけでしたもんね。ってイズリハさん見たかのように言いますね」

「え? いや、その」

「イズリハちゃんは元盗賊やからね! 盗み見系のスキル使ったんやろ!?」

「ちょ! それは秘密って言うたやろ!?」

「……『縞々姉妹』以外には秘密、って言うてたで」


 オリオノさんは今日も元気にキュウリを食べている。


「ええやないの! 減るもんやなし!」

「……イズリハは恥ずかしがり屋さんやから」

「別に恥ずかしがってへんし。ただにいちゃんは一時的なもんやから、どうしようかと」

「それはそうですね。すみません」


 口につけたジョッキに中身が無い事に気付いた。

 俺は立ち上がり「トイレに行ってきます」と言って座敷を離れた。


 トイレは何の代り映えもなかった。天井近くにも小便器があったり、とても小さい小便器があったりする事以外は。俺は小便を済まし、手を洗う。鏡に映る自分の顔は真っ赤になっていた。どうやらいつも以上のペースで飲んでいたらしい。トイレを出ると、そこにイズリハさんがいた。


「大丈夫なん?」


 イズリハさんは眉根を寄せて心配そうな面持ちで言った。


「ええ、大丈夫です。ちょっと飲みすぎました」

「ごめんな。悪気があった訳やないねんで? 仲間になってもうたら別れが辛いやろうと思って」

「そこまで気遣ってくれてたんですね。ありがとうございます」


 自然俺の顔は微笑んだ。今ではこのパーティーに居る事が心地よくなっている。


「当たり前やろ」


 イズリハさんの顔も赤くなっている。イズリハさんもまたかなり飲んでいた。


「でも、まあ、転生のオーブが見つかるまでは別れも何もないですよ」


 俺は出来るだけ弾むような明るい口調でそう言った。イズリハさんを心配させたくない。


「手、出して」


 イズリハさんが真っ直ぐに俺を見つめて言った。


「手?」


 俺が掌を広げるとイズリハさんはその上に小さなピンポン玉くらいの大きさのガラス玉を置いた。白い煙を放っているが熱くも冷たくもない。


「それが転生のオーブやで」

「え? 何で? どこにあったんですか?」

「紅蓮の蛸貝女が握っとった」


 一瞬頭が止まったがすぐに分かる。


「あ! 盗賊のスキルですか?」

「うん。使い方も調べてきた。丸呑みにして祈るだけや。これでいつでも帰れる」

「あ、ありがとうございます! でも……」


 俺は本当に帰りたいのだろうか。帰るべきなんだろうか。


「一つだけお願いしてもええ?」

「何ですか?」

「最後にもう一つだけクエスト手伝ってくれへん?  紅蓮の蛸貝女討伐クエスト」


 俺は決断を先延ばしにする事にした。今すぐ帰らなくてはならないわけでもない。


「はい! もちろん! でも何で?」

「アタシも転生のオーブ欲しいねん」


 イズリハさんは目を逸らし、俺達の座敷の方を見た。


「どこか転生したい世界があるんですか?」

「うん。どこかは秘密やけど」

「分かりました。任せてください」


 俺達は座敷へと戻る。


「ま、にいちゃんはただの囮やけどな」

「囮魂見せてやりますよ!」

「ちょ! ちょっと待って! 何で二人同時に戻ってくるん!?」

「ちゃ、ちゃうで! たまたまや!」

「……怪しい」 

「次のクエストの話をしてたんですよ。 紅蓮の蛸貝女討伐クエスト。リベンジしましょう!」

「よっしゃ! たこ焼きにしたるで!」


 エサシさんがガッツポーズをすると身に付けた宝石が星のように瞬いた。


「……蛸とキュウリのマリネに決まってるやろ」


 オリオノさんはやっぱりキュウリを食べている。


「そや! 今回はにいちゃんが奢ってくれるらしいで」


 イズリハさんが悪戯っぽく微笑んだ。


「えええ!? まあいいですけど」

「……「「ご馳走様!」」」


『逃げ(カミ)一手』(イッテ)沢見雄平

職業:囮聖デコイマスター

Lv:56 経験値:2828427 次のレベルまで:4649

HP:1083/1083 MP:53/53

攻撃力:48 防御力:67 敏捷性:211

魔法:目眩まし呪文 目潰し呪文 目抉り呪文

    敏捷性強化呪文 敏捷性超強化呪文

スキル:『三十六計逃げるに如かず(エスケープリンシプル)』『すたこらさっさ(サウンドエスケープ)』『逃げるが勝ち(エスケープゴート)

     『頭隠して尻隠さずハイドリスク・ハイドリターン』『木の葉を隠すなら森の中(フォレストラクチャー)』『隠れたるより見るるはなしシーク・レット・イット・ビー

耐性:毒舌 異世界での生活 元の世界に戻れない寂しさ

状態:満腹 最近ではここでの生活も悪くないと思えてきた 恋

資格:普通自動車第一種運転免許(AT限定)

    漢検3級

    英検3級

所持金:85922円

ここまで読んで下さってありがとうございます。

ご意見ご感想ご質問お待ちしております。


現代大阪風ファンタジーを書こうと思ったはずなのにどこにでもある居酒屋チェーン店内で終わってしまった。

何だかんだでクエスト考えてる時が一番楽しかった。

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