おかしない?
沢見雄平
職業:上級囮
Lv:37 経験値:37564 次のレベルまで:491
HP:213/324 MP:0/25
攻撃力:33 防御力:21 敏捷性:89
魔法:目眩まし呪文
敏捷性強化呪文
スキル:『三十六計逃げるに如かず』『すたこらさっさ』『逃げるが勝ち』
耐性:毒舌
状態:疲労 空腹
資格:普通自動車第一種運転免許(AT限定)
所持金:38350円
「おかしない?」というイズリハさんの一言で『縞々姉妹』の反省会は始まった。
『縞々姉妹』リーダーのイズリハさんは今日もビキニアーマーだ。クエストの度に鎧に傷を増やしているらしいが、肌には傷一つない。防御力低そうですよね、と言ったところ。でも裸よりはマシやで、と当たり前の事を返された。
「お菓子なんてもってないですよ」
前回と同じ居酒屋『笑う猛虎亭』の、前回と違う座敷に『縞々姉妹』の4人は集まった。最後に来た俺が4人分の履物(スニーカー、ブーツ、ブーツ、具足)を並べ替える。大体店員さんがやってくれるけれど俺は気にする性質なのだ。
座席の並びは少し違う。奥が空いていて、向かいにオリオノさん、斜め向かいにイズリハさん、隣がエサシさんだ。エサシさんが注文したいのだろう。
「いや、にいちゃんのステータスがおかしいやろって話や」
「ルフのから揚げ!」
早速エサシさんが次々に注文している。煌びやかなエサシさんの身に付けている宝石のせいで居酒屋の間接照明も形無しだ。ビールは既にテーブルの上にある。
「別におかしい事なんてないですよー」
「ドヤ顔やめろや。何やねんこのレベルは。逃げ回ってただけやろ」
「エンカウントからは逃げてませんしー」
「喋り方腹立つわ。ほんで上級囮って何やねん。囮の時点で下等やろが」
「雄平君何か食べたいのある!?」
「あ、納豆餅春巻きお願いします」
「聞けや! あとこのルビも腹立つわ。何やねんハイデコイって。ええ格好すな」
「沢見、経験値が前科者みたいになっとる」
オリオノさんが口を抑えてくすくす笑っている。
「だいたい経験値は倒した敵プラス行動ボーナスのはずやろ。にいちゃんが何したんやっちゅう話や」
「何したって。あれだけ活躍したんだから別におかしくないんじゃないですか?」
「せやせや!」
「え? 何かあったん?」
「……イズリハは周り見えへんくなるから。戦闘の時」
オリオノさんは僧侶らしい質素な格好だが、その実数十種類の防御呪文や反射呪文が縫い込まれているらしい。そのせいでごわごわして着心地が悪いと言っていた。
「オリオノまで……。とりあえず説明してえや」
「じゃあ意気消沈のイズリハちゃんに代わって不肖ながらこのエサシめが反省会の進行させていただきます!」
「……やんややんや」
オリオノさんがキュウリのたたきを箸の先でいじりながら言った。
そこへルフのから揚げその他の料理が運ばれてくる。
「えー、結果から言えば今回のクエストは失敗やねんけど!」
エサシさんが料理を取り分けながら言った。
「え!? 失敗なんですか?」
初耳だ。さっきこの冒険者の居酒屋で報奨金も受け取ったし、何もかもうまく言ったのかと思っていた。
「雄平君知らんかったん!? 1匹取り逃してノルマ達成してへんで!」
「そうなんですか。あれだけ倒したのに失敗なんですね」
「せやねん! ま、責められる程の失敗ではないねんけど報奨金は少し減額してもうた!」
「アタシはきっちり4匹倒したはずやで」
「ウチが仕留め損ないました! ごめんなさい!」
「……一番反省せなあかん人が反省会を進行しとるわけやね」
オリオノさんがキュウリスティックをぽりぽりしながらくすくす笑っている。
「というのもそこにトレジャータイガーこと百足虎が現れたんや!」
「え? ほんまに? 全然気付かんかったわ。あ、そういう事か」
俺はとろっとろ風だしまき卵を頬張りながら話を聞く。
「トレジャータイガーは宝石や貴金属を食べる事で知られとる! 勿論うちは豚なんてどうでもようなったわけや!」
「いやいや、仕事でしょうが」
「金を得るための仕事やねんからしゃあない」
「……せやね」
多数決で負けたようだ。
「そういうわけでウチはトレジャータイガーを仕留めようと極大火炎球呪文を唱えたんや!」
「よ! 火魔検準一級保持者!」
そんなのあるのか。俺は漢検と英検がどっちも3級だったかな。
「……トレジャータイガーの毛皮には火炎魔法反射効果がある事を忘れてたんやね」
「ほんまにすみません!」
「あれはそういう状況だったんですか」
エサシさんが呪文を唱えた途端トレジャータイガーの上からUSJにある地球儀のような大きさの火の玉が落ちてきた。しかし次の瞬間には消え失せ、代わりにエサシさんの頭上で巨大な火の玉が燃え上がり、エサシさんを焼き尽くそうと降って来た。
「そこをウチの雄平君が颯爽と助けてくれはったわけです!」
「……誰の沢見やねん」
「ウチの代わりに雄平君が犠牲になってくれました」
「にいちゃんが燃え死んでほんでどうなったんよ?」
「やっぱり俺死んでたんですね」
「……今度は下半身を食べられとった沢見にオリオノが回復呪文をかけたった」
「今度は下半身ですか」
「……そしたらトレジャータイガーの胃が破裂して中から沢見が出てきた」
「え、そっち? やっぱり下半身から上半身が生えたんですか? というか俺の旧上半身はどうしたんですか?」
「……え? 知りたいん?」
「やめておきます」
俺は一気にビールを呷り、おかわりを注文した。
「それでトレジャータイガーを倒したにいちゃんに莫大な経験値が入ったってわけやな」
「なるほど。そういう事だったんですね」
「ついでにボーナスも支給されて本来のクエスト報奨金よりは多くなったで! みんな雄平君に感謝せなあかんで!」
「いや元はと言えばにいちゃんが原因やからな。だいたい何やねん。この魔法とスキルは」
沢見雄平
職業:上級囮
Lv:37 経験値:37564 次のレベルまで:491
HP:262/324 MP:13/25
攻撃力:33 防御力:21 敏捷性:89
魔法:目眩まし呪文
敏捷性強化呪文
スキル:『三十六計逃げるに如かず』『すたこらさっさ』『逃げるが勝ち』
耐性:毒舌
状態:腹八分目
資格:普通自動車第一種運転免許(AT限定)
漢検3級
英検3級
所持金:38350円
「戦えや! ちゅうか囮ですらないやろこれは」
「いやいや魔法もスキルも使いようですよ。実際先のクエストではきちんと囮ってましたよ」
「何やねんその言い回しは」
「我々の業界ではこう言うんです」
「イズリハちゃん! あんまり雄平君をいじめんとってや!」
エサシさんが抱きついてくる。抱きつきながら俺が食べようとした揚げたてマンドラゴラチップスを横取りする。そしてエサシさんのが当たってる。エサシさんの宝石が食い込んでいる、と言った方が正確だ。
沢見雄平
職業:上級囮
Lv:37 経験値:37566 次のレベルまで:489
HP:260/324 MP:13/25
「……ちょっとくっつき過ぎとちゃう?」
ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりりぽりぽりぽりぽり。イラついているようだ。
「ウチが誰とくっ付こうと勝手やろ?」
「……沢見が嫌がってるやろ」
まさか異世界でモテ期が来るとは思わなかった。
「でもウチは雄平君の事好きやで!」
「え? 何だって?」
「……鼓膜に回復呪文かけたらどうなるんやろ」
「鼓膜から鼓膜以外の全てが生えるとか嫌すぎますね」
ヒッポカンポスの雲丹和えを食べながらその様を想像したが、気持ち悪くなったのでやめる。
「どうでもええけど、次のクエストどうするん?」
「そらリベンジや! 今度こそ豚を焼き尽くしたるで!」
「……もう平均レベルもかなり上昇したんやし、もっと上のクエストいけるんちゃう?」
「せやなー。っていうか豚クエ売り切れになってるわ」
イズリハさんがメニューをぱらぱらと捲る。エサシさんが空いた皿をテーブルの端に寄せ、真ん中にスペースを作った。イズリハさんがメニューをテーブルに置く。やはり手書きでクエストメニューが書かれている。
推奨Lv:30~45
冒険中級者さんにお願いしたいクエストです♪
日替わりクエスト
・断崖の鬼鷲の爪25g採集クエスト(★★★☆☆) 受注額4980円(税抜き)
キャンプ地ありで準備が多少楽になるクエストです♪
※巣の中にある爪を採集するクエストです。鬼鷲を攻撃する必要はありません。
・隻腕のハイイロドラゴン討伐クエスト(★★★★☆) 受注額8500円(税抜き)
府立モンスター研究院から脱走したハイイロドラゴンの討伐です。
既に幾つかの村で数十人が犠牲になっているのでしっかりした準備をお願いします♪
皆さまのご協力でターゲットは既に体の各部を失っています。
お客様の目当ての部位に関して当店では保証できません。
※クエスト地は不定です。府モ研の公報にてご確認ください。
店長のオススメ♪
・ウムエダの地下迷宮攻略クエスト(★★★★☆) 受注額15500円(税抜き)
推定約30%が判明しているウムエダの地下迷宮の攻略クエストです。
未踏圏管理部調査室の指示下でマッピングするだけのお手軽クエストです。
運が良ければエンカウントすらない事も♪
報奨金はマッピングした面積辺りで換金されるのですが……。
な、な、なんと!
1、取得したアイテムの八割を取得可能!(太っ腹だー)
2、もちろん徴収されるアイテムもきっちり換金されます♪♪♪
3、転生のオーブが発見されたという噂も(ヒソヒソ)
「これ! 転生のオーブって書いてますよ!」
俺は店長のオススメと書いてあるページを指差した。これを使えば元の世界に戻れるかもしれない。
「えー! 雄平君帰ってまうの!?」
「……ずっとここに居ればええやんか」
「そういうわけにはいかないですよ。こちらも楽しいですけど、俺の生活はあちらにあるんです」
「我がまま言いなや、あんたら。にいちゃんがここに来たのは事故なんやから。協力したろって話やったやろ。ほら、ピンポン鳴るやつ押して」
ピンポン鳴るやつを押して店員さんを呼び出した。ボタンを押した途端空中に現れた魔法陣から絞り出すようにうさ耳の男性店員のスイタさんが現れる。スイタさんは注文を確認して飛び跳ねながら厨房に戻っていった。
4人で思い思いに残った料理をお腹に詰めていく。結局塩キャベツが一番美味い。
「ほな、そろそろ行くで。いつも通り割り勘やからな」
沢見雄平
職業:上級囮
Lv:37 経験値:37566 次のレベルまで:489
HP:303/324 MP:25/25
攻撃力:33 防御力:21 敏捷性:89
魔法:目眩まし呪文
敏捷性強化呪文
スキル:『三十六計逃げるに如かず』『すたこらさっさ』『逃げるが勝ち』
耐性:毒舌
状態:満腹 期待感
資格:普通自動車第一種運転免許(AT限定)
漢検3級
英検3級
所持金:29330円