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そして、山羊になる

時間軸は多分いつものあたりです。

視点は加鳥です。

全体的に気が狂っています。お気を付けください。

「舞戸さん。俺は最近、気になるものを見つけてしまったのですが」

 今日のおやつを食べた後。社長がなんだかそんなことを言いながら、舞戸さんに近づいていったよ。

「このシャツですが、『防御力上昇』の効果が付いていますね」

「そうだねえ」

 社長が今着ているシャツは、白い布に白い糸で刺繍が入っているやつだよ。僕が着ているのも大体同じだなあ。

「そして今日のお茶はミントが入っていましたよね。ミントには『MP回復』の効果があったと思いますが」

「そうだねえ」

 それで、今日のおやつに出てきたおやつはジャムを添えたスコーンで、お茶はミントティーだったね。まあ、偶にはこういうのもいいと思うよ。ミントが苦手な人向けに、ミントの量を減らしてくれたみたいだし。

「ミントを食うとMPが回復しますよね」

「そうだねえ」

「では、俺はこのシャツを食うと防御力が上がるのでしょうか」




「ということで始まりました、服を食べようのコーナーです」

「いえーい」

 社長と舞戸さんは今日も元気だなあ。

「帰れキチガイ共」

「お前らその内いえーいじゃなくて遺影になるんじゃない?」

 鈴本と羽ケ崎君は今日も辛辣だなあ。皆平常運転でいいと思うよ。

「じゃあ社長、どうぞ。こちら、白い布に白い糸で刺繍した布です」

「どうもありがとうございます。では早速」

「おい待て!やめろ!食うな!お前らは止めてもらうのを待ってるのか!?」

 社長が白い布を食べようとした瞬間、流石にまずいと思ったらしい鈴本に止められた。ちなみに僕は鈴本が止めると思ったから止めなかったよ。

「俺は本気だったのですが」

「やめろ……頼むから人間をやめないでくれ……」

「俺は技術の発展のためなら人間をやめますよ鈴本さん」

 わー、社長の目がしっかり据わってるなあ。流石、地域一の狂人と謳われるだけのことはあるなあ……。

 ……平和だなあ。




 平和はさておき、ちょっと気になってきたから僕もそろそろ参加しようかな。

「社長が言いたいのは、舞戸さんの『染色』で出た効果のものは装備する以外で効果を発揮する方法があるんじゃないか、っていうことだよね?」

「そうですね。そしてあわよくば、永久ステータスアップを狙っています」

「あー、『ちからのたね』みたいなかんじ?」

「そうそう。『力の石』みたいなかんじ」

 要は、一時的な効果じゃないステータス上昇アイテムがあったらいいなあ、っていう話なんだけれど、そううまくはいかないかなー。

「一時的ステータスアップアイテムならありましたよね?宝石屋さんのやつが」

「あー、砕くとステータスが上がる宝石ね?そもそも宝石を握り潰せるような人外向きのやつね?」

 イトイカワステイツでの戦いの時に使った奴だよね。舞戸さんがあの時も納得のいかなさそうな顔をしていたけれど、今もそういう顔だなあ。まあ、そうだよね。普通の人間は石を握り潰すなんてできないんだよなあ。おかしいなあ、僕ら、普通にやってるなあ。おかしいなあ……。

「ではこの石を食べれば」

「だから食うな。頼むから石を食わないでくれ」

 でも社長は更におかしいんだよなあ。流石に僕だって石を食べようとはしないぞ。




「舞戸。『最大MP上昇』っていうのもあったよね、確か」

 社長がステータスアップの宝石を食べようとしている横で、羽ケ崎君も『ステータスアップと聞いて!』みたいなかんじにやってきたよ。

「うん。あったあった。食べる?はい、『最大MP上昇』のハンカチ」

「お前なんなの?」

 でもハンカチを食べるところまではいってないみたいだ。そうかー、やっぱり部一番の狂人は社長かー。

「あっ、そういえばさー、これこれ」

 舞戸さんが羽ケ崎君にアイアンクローを仕掛けられている横で針生が出したのは、サボテンのトゲだね。見覚えがあるやつだなあ。これ。多分、ハントルのお母さんが居たあたりの砂漠に生えてるサボテンのトゲじゃないかな。

「これ、『攻撃力上昇』って効果ついてるらしいし、実際、これ握って戦うと素手の時より攻撃力上がるかんじあるんだけどさー。これも食べたら攻撃力あがるの?」

「だとしても棘は食えないだろうが」

 まあ、投げナイフとしても使える針は流石に食べられないよね。分かる分かる。

「……いや、やってみる価値はあると思う」

 と思ったら舞戸さんが社長みたいなこと言いだしたぞ。これは面白くなってきたなあ。

「粉にして小麦粉と合わせて調理してみよう」

「手伝いますよ」

 舞戸さんと社長がうきうきしながら調理を始めたのを見て鈴本と羽ケ崎君が何とも言えない顔をしているけれど、僕はどちらかというとわくわくする派だなあ。鳥海と針生もわくわく派らしい。角三君と刈谷はどっちつかずかなあ。わー、サボテンのトゲを使った料理、完成が楽しみだなあ。


 ……と思っていたら、案外すぐ、舞戸さん達が戻ってきた。

「駄目だった。粉にした途端に効果が消えた!」

「あっそ」

「無念です」

「へーよかったね」

 舞戸さんも社長も羽ケ崎君にものすごくにべもないあしらわれ方をしてる。それでも羽ケ崎君のところに報告に行くんだもんなあ。

「酷くないかね!?酷くないかね羽ケ崎君!ねえ角三君どう思う!?角三君だって攻撃力上昇パンケーキがあったら食べたいはずだ!」

「いや、サボテン本体ならともかく、トゲは食いたくない……」

 そこら辺に居た角三君が次の犠牲になってるけれど、角三君もこの調子だ。そっかあ、僕はちょっと気になるけれどなあ、トゲ。

「それだ」

 かと思ったら舞戸さん、目がきらきらしてきた。うわー、嫌な予感がするぞー。

「いや、効果云々はさて置き、食べてみたかったんだよ、サボテンステーキ」




 ということで僕らは2Fの砂漠エリアに来たよ。そしてそこで夕方になるまで待つよ。社長が『ちなみにサボテンは砂漠の植物にありがちなCAM植物です。夜間の内に呼吸を行い二酸化炭素をリンゴ酸に変え、昼間は気孔を閉じてリンゴ酸を糖に変えているわけです。よって、明け方が最も酸っぱく、日没直後が最も酸っぱくないはずですね』と教えてくれたので夕方に採取するよ。いや、だって嫌じゃないか、酸っぱいサボテン食べるの……。

「なんでサボテンなんか採らなきゃいけないわけ?」

「そういうこと言いつつサボテン狩りに来てくれる羽ケ崎君大好き!さあたっぷりサボテン採ってくれたまえ!美味しく調理してくれよう!」

 舞戸さんがすっかり乗り気なので、僕らはとりあえず、食用できるサボテンを見つけてはそれに『攻撃力上昇』の効果が付いていることを確認して、そこから葉っぱ1枚分ぐらいを貰っていく、という作業を繰り返したよ。サボテンって案外、瑞々しいんだね。切ったところから水が出てくる。サボテンなんて切ったことなかったからなあ。

 あと、サボテンってネバネバするんだね。オクラとか山芋っぽいかな。

 ……これ、どういう味がするんだろうなあ。

「……このサボテン、不味かったらどうすんの?」

「その時は私とケトラミさんで責任をもって食べ切ります」

 舞戸さん、舞戸さん。後ろの方でケトラミがバウバウ吠えてるけれど、同意は得てるのかなあ。得てない気がするけれどなあ。大丈夫かなあ……。




「では攻撃力上昇ご飯ができることを祈って!サボテンステーキの調理にとりかかります!」

 実験室を展開したら、早速舞戸さんが晩御飯を作り始めるよ。……サボテンっておかずになるんだろうか。ちょっと心配だけれど、まあ、何とかなるか。何とかなってくれー。

「針を抜いて、皮を剥いて……」

 舞戸さん、妙に楽しげに作業してるなあ。サボテン、そんなに食べたかったのか。……いや、もしかしたら攻撃力を上げたいのかもしれないよね。素のステータスの低さを気にしている訳だし。

「……試食!あっ!意外とこのままでも美味しい!もっと渋かったり苦かったりするかと思ったのに!」

「どんな味?」

「ちょっと酸っぱいサクサクした瑞々しい粘る何か!ウリ科っぽい味がすると思ってたらそうでもなかった!」

 気になってちょっと切り分けてもらったサボテンを食べてみたら、本当にちょっと酸っぱい瑞々しいサクサク感のある粘っこい何かだったよ。うん。本当に『何か』っていう表現が相応しいと思う。

「そうか。それは果たして本当に美味くなるのか?」

「やってやらあ!……とりあえず塩コショウと小麦粉はたいて照り焼きにしよう。照り焼きにすればなんでも美味しくなる。あと、パン粉で衣つけてフライにする。挽肉捏ねたやつサンドイッチしてチーズ挟んでフライにしてソース掛けたら絶対に美味しい。もうステーキじゃない気もするけれど」

「それは逃げなんじゃないかなー?んー?」

「しょうがないなあ、チャレンジャー鳥海のために塩コショウだけで焼いた奴も作ってみよう。ソースはちょっとフルーティな甘酸っぱめのかんじのとスパイシーなのと2種類用意して比較してみようか」

 舞戸さんがあれこれやってるのを横で見ながら、僕らはトランプを広げる。大富豪数ゲーム分ぐらいは時間がありそうだし。




「お待たせ!さあ!ご飯の時間だ!」

 それから針生が大富豪、鳥海が都落ちして大貧民になったところでご飯ができたらしい。ちなみに僕は平民だったよ。まあ、次があるさっていうことにしておこうかな。

「サボテンステーキだけだとたんぱく質が足りないと文句を言われそうなので普通のお肉の照り焼きも作りました。お食べ」

「普通の肉って言っても異世界モンスター肉じゃないですかー!やだー!」

「好き嫌いしてたら大きくなれないよ。さあお食べ」

 食卓に並んでる料理はいつも通り美味しそうなんだけれど……中央の大皿にあるのはサボテンなんだよなあ。

「いただきまーす!サボテンだー!」

「サボテンダー?」

 早速、針生と鳥海の鉄砲玉2人がサボテンを食べ始めた。

 ……神妙な顔をして食べているなあ。うーん、心配になってきたぞ。

 ということで僕もサボテン、食べてみたよ。

 うん、うん……。

 ……悪くない、と思う。うん。少なくとも、不味くはない。美味しいかって言われると……まあ、普通の味?うーん、焼いた野菜っていうかんじかな。ちょっと酸味がある分、違和感があるけれど、まあ、誤差。

 あと、オクラっぽい粘りがちょっとあるんだけれど、なんというか、オクラみたいなかんじじゃなくて、火を通したからかもっと……うーん、なんだろうなあ、これ、なんだろうなあ……。


「よかった。ちゃんと食べ物の味がしますね!」

「取り立てて食べたいという程のものじゃあないが、食べたくないという程でもない」

「つまりどうでもいい味ってことでしょ」

「そんな、ひどい……」

 う、うーん……まあ、どうでもいい味……うーん、うーん。微妙なところだなあ……!

「こっちの肉挟んで揚げた奴はすごく美味い!これめっちゃいい!」

「でもナスとかの方がよくない?」

「うわー、そう言われちゃうと確かにそうだわ!あはははは」

 ナスの下位互換って言われちゃうと悲しいなあ。ナスには無い食感と粘りがあるじゃないかー。それが美味しいかは別としてもさあ。


「まあ、味はさておきだよ、皆さん。どう?攻撃力上がった?」

「別に」

 しかも味はさて置いたとして、攻撃力が上昇した感覚、無いんだよね。永久ステータスアップはやっぱり難しいのかなあ。

「ということは、私達はただ、サボテンという珍しい食材を食べただけっていうことか……」

「そもそも食材じゃないから。お前はサボテンが食材に見えるの?」

「見える」

「は?目玉腐ってんじゃねえの?」

「ねえ諸君。羽ケ崎君の言葉の攻撃力は間違いなく上がってるんだけれどこれはどうだろう」

「そうですね、もしかしたらこういう面においての『攻撃力上昇』なのかもしれませんね」

 成程なー、できれば物理的な攻撃力が上がったらよかったけれど、そう都合よくはいかないか。まあ、攻撃力が部分的にだけでも上がった可能性があるっていうことで……。うーん、こういう攻撃力はむしろ上がらない方がいい気がするなあ!




 とりあえず、サボテンについては残念でした、ということで。

 食後のデザートにサボテンの実を食べてみたらこっちは結構美味しかったから、まあ収穫が無かったわけじゃないね、なんて話してたら……社長がじっと、自分のシャツを見つめていたよ。

「やはり服を食べれば」

「やめろ」

「俺が山羊ならいけましたかね」

「やめろ」

 社長はちょっと諦めた方がいいんじゃない?そうでもない?うーん……。

 ……まあいいやあ。サボテンの実、美味しいなあ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 染めれば、いいと思うよ。 更には飾り切りとか。 そういう意味では『身体に絵が描いてある人』は攻撃力高いよね。
[良い点] 社長の気の狂いようが際立った回でしたね。あと舞戸さんの食への飽くなき探究心と羽ヶ崎くんの口撃力。 社長と羽ヶ崎くん大好きなので嬉しかったです。
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