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こうじさんが居なくても

時間軸は大体いつものあたりです。視点は加鳥です。


『たほいや』をアレンジルールで遊びます。

『たほいや』については『実験室の西洋のお盆』で扱っていますので、もしよろしければそちらもどうぞ。

「私、元の世界に帰ったら、図書室にこうじさん入れてもらうんだ……」

「死亡フラグっぽいですね、舞戸さん……」

 何故か舞戸さんの元気がないと思ったら、そういうことらしいよ。

「こうじさんが居なかったら、私達は、たほいやができないのだ……」

 うん……ええと、『たほいや』、やりたかったけれど、この学校の図書室に、広辞苑置いてなかったんだってさ。




『たほいや』っていうのは、そういう名前のアナログゲームだよ。紙とペンと国語辞書使ってやる奴で……すごく簡単に言うと、『全く意味が分からない単語の意味を如何にも辞書っぽいテイストに捏造して、どれが一番それっぽいかを競いつつ、どれが本物の意味かを当てる』みたいなルール。

「別にこうじさんでなくてもよくない?ん?じりんさんなら居たよ?」

「なんか雰囲気でないんだよ、大辞林だと……」

 大辞林に失礼な気がするけど、舞戸さんはどうにも、広辞苑へのこだわりがあるらしい。よくわからないなあ……。

「図書室には広辞苑、あったと思うんですけれど……偶々貸し出し中の時に転移が起こっちゃった、とかですかね」

「あ、それなら俺、心当たりある!国語の高田先生が大量の辞書抱えて図書室から出てくるの、転移のちょっと前に見た!」

「成程、あの高田先生か。部活の時間、野球部の人達に『お前ら走り込みしてこーい』と言っておいて、その間自分は学校のゴミ捨て場の横の竹林でタケノコを掘ってたというあの高田先生か」

「鈴本、お前、どこでその情報手に入れてきたんだよ」

「舞戸からだ」

「私もあそこのタケノコ狙ってたので……」

「学校のタケノコ狙うなよ。馬鹿じゃねえの?」

 ……ま、まあ、高田先生にはちょっと反省してもらうとして、広辞苑が無いのはしょうがないんだよなあ。

「えー、どうする?たほいやじゃない奴やる?でも俺、なんとなくもう、たほいやの気分なんだけど」

「分かる分かる。俺もたほいやの気分」

 一方、鳥海と針生はもう、たほいやの気分らしいよ。なんだろうなあ、たほいやの気分って……。


「そうですね……なら、折角ですし、試してみますか」

 僕らがそんなやりとりをしていたら、社長がそっと、前に出た。

「俺達が、如何に共通しない知識を持っているかと、そこに関する語彙力がどの程度のものなのかを」

 ……そして、なんだか不穏な事を言い出したぞ。わーい、楽しそうだなー。




「ということで、これより『辞書抜きたほいや』を開始します」

「それもうたほいやじゃないのでは?」

 社長に従って、僕ら全員、机を囲んで座ったんだけれど、辞書抜きのたほいやって、それもうたほいやじゃない気がするんだよなあ……。

「ルールはたほいやと概ね同じです。しかし、今回は『誰が親か』が最後まで分かりません」

 早速、社長がルール説明を始めて……それで、途中で黙って、ちょっと考えて……言った。

「まあ、実際にやってみながらルールを確認しましょうか。バランスが悪い部分があったら適宜改良していく、ということで」

 あ、そういうかんじになるのか。分かる分かる。僕達、始めてやるアナログゲームとかは全員で一回、取説見ながら役職とかをオープンにしてやってみることあるし。『実際にやってみる』って、一番分かりやすいんだよね。




「それでは最初に、各自、配られた紙片に『絶対に他の人が意味を知らないであろう単語』を記入して、この紙袋の中に入れてください」

「そんなのありますかねえ……」

「絶対に広辞苑に載っていないであろう単語を用いても構いません。フィクションの中に出てくる単語であっても構いませんよ」

 成程なあ。……多くのフィクションがこの世には存在していて、僕らは割とそういうのが好きな人達の集まりだけれど、皆それぞれ、履修している分野は違うからなあ。みんなロボ系もっと見ようよー。

「あ、筆跡は適宜変えてください」

 さらっと難しい注文されたぞー。まあでも、こういうゲームは結構あるから、ちょっと筆跡を変えるくらいの技術はこの部の部員は全員持ってるんだよね。いや、それでもなんとなく、『綺麗な字だから多分羽ヶ崎君』とか、『ちょっと不揃いだから多分角三君』とか、『筆圧強いから社長』とか、なんとなくは分かっちゃうんだけどね。まあ、一応、フレーバー程度に筆跡変えておこうかな。




「全員2枚ずつ記入しましたね。ではこれを紙袋に入れてシャッフルして……適当に一枚引いて出します。では、ドロー」

 社長が紙袋から1枚紙を取り出して……それを眺めてから、そっと、机の上に出した。


「『インク追従体』。これが今回のお題です」


 ……すごいなあ。

 この部って、本当に、意味が分からない単語を知っている、変な知識の偏り方の人が、いっぱいいるんだなあ……!




「なんだよインク追従体って」

「なんだろうねえ……」

「インクっつってんだから印刷関係とかじゃない?」

 とりあえず好き勝手皆で言っているんだけれど、この中の1人はこの単語を書いた本人なんだよなあ。誰も信用できないぞ。

「では、これよりお題の単語の意味をそれぞれから発表してもらいます。……お題の単語の意味が分かるのは書いた本人だけですから、書いた本人以外の人は、『お題の単語の意味』を捏造して発表することになりますね」

「待って!考えるからちょっと待って!」

「時間が欲しいな。……3分でどうだ?」

「長いですね。1分でいきましょう」

「きつい……」

 結構ハードだぞ、これ。ええと、今から僕は、『インク追従体』の意味を1分で捏造しなきゃいけない。が、頑張るぞ、頑張るぞ……。




「では発表していきましょう。順番はどうでもいいですが、まあ、折角なので俺から時計回りで……」

「反時計回りで!」

「……分かりました。角三さんがギリギリまで考えたいようなので、反時計回りでいきましょう」

 角三君は社長の左に座ってるんだけれど、必死の形相でそういうことを言うので、なんか、すごく親っぽくないなあ……。多分、角三君は、この単語の意味を本当に知らないんだろうなあ……。

「では。……えー、インク追従体とは、その名の通り、インクに追従するものです。レーザープリンターのインク、トナーと呼ばれるものがありますが、あれを紙の上に出力する際、紙に置かれたインクの後を追いかけるように動いて熱処理を行い、インクを紙に定着させるパーツですね。……以上です」

「待て。クオリティが高すぎる」

 うわ、社長、流石だなあ。最初から結構飛ばしていくなあ……。僕も結構自信あったんだけれど、社長の前には霞むしかないぞ。


「じゃあ、次は俺?針生いきまーす。……えーとね。インク追従体、っていうのはね……そういう……そういう、体の一部。臓器なんだけど、インクに……いや、インク瓶に形が似てるやつがあって、その臓器にくっついた位置でその臓器のサポート役みたいに働いてるから、インク追従体」

 針生のを聞いてちょっとほっとしたぞ。うん。せめてこれくらいのクオリティでいてほしい。


「じゃあ次、鳥海いきまーす。えーと、インク追従体っていうのは、活版印刷の直後ぐらいに考案された印刷技術に使われたやつなんだなー、これが。特殊なインクを使って紙に文字を書いてあれば、それを書いた紙の上に白紙を置いてその上にインク追従体をばら撒くと、磁石に砂鉄がくっつくみたいにインクがある位置にだけインク追従体がくっつくんですわ。まあ、コスパ悪すぎて、普及することなく廃れて消え去ったんだけどね」

 鳥海も結構飛ばしてきたからやめてほしいなあ。僕のやつが残念に聞こえてしまうぞ。


「あ、次私?じゃあねえ……インク追従体っていうのは、ほら、あの、ゲルインクボールペンとか水性ボールペンとかのインクの後ろにくっついてる、透明なジェル状のやつ。あれのことだよ。あれのおかげで水性ボールペンとかのインクは飛び散らなくて済むし、乾燥もしなくて済むのだ」

 舞戸さんの目の付け所が結構いい気がするなあ。そっか、ペンのインクかあ。工業用のインクの方ばっかり考えていたけれど、そっちもあるか。


「次、僕?じゃあ……蟻とか一部の虫のこと。……油性ボールペンのインクで書かれた線があると蟻とかはその上を歩くんだけど、それってインクに含まれる香気成分が蟻のフェロモンに近しい物質だかららしくて、で、そういう風に仲間が出したフェロモンを辿って歩く習性がある虫の中でも、特にインクに反応する奴らがインク追従体」

 羽ヶ崎君も結構頑張るなあ。まあ、これはちょっと厳しいかんじもあるけどなあ……うーん。


「次は俺か。そうだな、インク追従体というのは、天体用語だ。えーと、すまん、位置は詳しく覚えていないんだが……多分木星近辺だな。小惑星の1つに『INK』と名をつけられたものがあるんだが、それに追従するようにして軌道上を動き続ける塵があってな。それがインク追従体、だ。ちなみに小惑星『INK』の名前についてだが、インク追従体が『INK』が通った後に尾を残していくように見えるから、インクで線を引いたかのようだ、ということで名づけられたものらしい」

 鈴本は綺麗に自分の専門知識で勝負してきたなあ。結構これ、本物っぽいぞ……。


「次は俺ですね!皆さん、違いますよ。インク追従体と言うのはですね……幼児向け教育番組に出てくる悪の組織が生み出した恐るべき兵器なんです!学校の先生が丸つけしたテストのインクをそっと追いかけていって、○を×にしてしまうという、そういう恐ろしい兵器なんですよ!まあ、正義のヒーローによって倒されてね、平和が保たれたんですが」

 刈谷のは……な、なんだろう、凄みを感じるぞ!


「ええと、じゃあ、僕かな。インク追従体っていうのは、インクの成分なんだけれど、色素成分じゃなくて、インクの安定化とかそういうのに使われる成分の内、クロマトグラフィーやった時に後ろの方に出てくる奴のことなんだよ。ほら、コーヒーフィルターの下の方に水性インクをつけて、下から水を吸わせてインクの分離を見る、っていう、ペーパークロマト、あるじゃないか。あれをやった時にインクの色成分以外になんかちょっと違うやつが下の方に出るんだけれど、あれのことだよ」

 僕は結構頑張ったつもりなんだけれど……結構苦しいかなー。うーん、いっそのこと刈谷方面に突き抜けていっちゃった方がよかったかもしれないなあ。結構難しいなあ、これ。


「あ、もう俺……?」

「まだ考え終わっていないならもう少し時間を取りますが」

「え、いや、流石に……ええと」

 そして最後は角三君!頑張れ角三君!

「……童話の、中に出てくる」

 ……うん。

「小人?妖精?ええと、そういうやつ、で……」

 ……うんうん。

「インクの線を、辿って歩いていくから、インクを零しておくと、捕獲できる……」

 ……うん。

 ええと……なんだろうな!この安心感って、なんだろうなあ!




「では投票フェイズに入ります。たほいや本家とのルールの違いですが、まず、1人1票です。得票数がそのまま得点になります。そして、正解に投票していた人は別途で1点獲得。そして、正解への投票が1票も無かった場合は、得点総取りではなく、別途人数分の得点を得る、ということにしましょう」

 続いて投票フェイズ。本家とはルールが違うのか。なるほどなあ。

「まあ、チップで賭けるやり方は複雑になりすぎるからそこの改変はいいと思う。だが、たほいや本家のルールでは、『正解への投票が無かった場合は親が得点総取り』だったよな。そこも違うのか」

「はい。まあ、このルールだと、自分が書いた単語がお題になるかどうかは完全にランダムですからね」

「そうか……なら、たほいや同様、『親が自らの選んだお題の単語を発表後、全員が意味を紙に書いて提出、親が全てをシャッフルして読み上げる』という方式にしないのは何故だ?その方が、親役が偏って得点総取りのチャンスも偏る、という事が減っていいと思うが」

「このゲームは、『親役の知識の偏り』によってお題が決まっています。つまり、誰が親なのかが分かってしまったらその時点で、概ね推測が付いてしまうんですよ」

 鈴本がちょっとツッコミを入れて、社長が解説。それから社長がちょっと周りを見て……。

「例えば、舞戸さんが親の時に出てきた単語であるならば、間違いなく世界史や地理に関わらないものであると分かってしまいますね?」

 そう言った。舞戸さんを真っ直ぐ見て、そう言った。

「ひどいぞ社長!ひどいぞ社長!その通りだけどひどいぞ社長!」

 ま、まあ、舞戸さんはね、ほら、社会科っていうものが倫理以外全部苦手な人だからね……。

「その通りなんだから文句言うな。……まあ、そういうことなら分かる。親役の知識の偏り方が概ね分かってしまう以上、投票に支障が出る。また、親が誰かが分かると子役の捏造の方向性が被り、『ほとんど同じ意味の捏造文が被る』という事故が発生しやすくなる、ということか。オーケー、理解した」


 鈴本の確認も終わったところで、改めて投票フェイズに入る、んだけれど……。

「ではいきますよ。いっせーの、せ」

 ……うん。

 社長4票、羽ヶ崎君1票、舞戸さん2票、鈴本1票、角三君1票。ちなみに角三君に入れているのは舞戸さん。


「さて。では、今回のお題である『インク追従体』を書いたのは誰ですか?」

 そして正解発表は……。

「はいはーい!私でーす!なのでインク追従体の正しい意味は『ボールペンのインクの後ろにくっついてる透明なジェル状のあれ』でしたー!」

 うわー、そっちかー。結構社長が極まってたから社長かと思ったんだけどな。

 それにしても、そっか。ゲルインクボールペンとかのインクの後ろにぴったりついてる色が付いてないジェル状のあれ、インク追従体っていうのか。そっかー……。


「では得点計算ですね。今回の親役であった舞戸さんの投票は除きますので、俺4点、羽ヶ崎さん1点、舞戸さん2点、鈴本1点、です」

 ああ、角三君がちょっとしょんぼりしている……い、いや、でも『インクの後ろについていく小人さん』で得点しようと思うのはちょっと無理があるんじゃないかな!




「というような流れで、『誰かが2回親になるまで』ゲームを続けます」

「ん?じゃあ最短2ゲーム、最長10ゲームってこと?その心は?」

「俺達は今回、単語の紙を1人2枚記入しています。つまり、2回、同一人物が親になってしまったら、それ以降のゲームではその人が書いた単語は出てこないということが分かってしまいますからね。逆に、全ての紙を出し尽くすまでゲームを回すとなると、最後の方はある程度、誰が出すお題かが分かってしまいますので」

「成程ねー。所要時間が読めなくなるのは難点だけど、逆にどこでゲームが終わるか分からないっていうのはドキドキ感があっていいかもしれない。だが私は困る。通しでの所要時間が分からないと、ご飯の支度に支障が出る。今回以降は『自分が書いた単語がお題になったら、その人は次のゲーム開始前に新しくお題を書いて足す。全5ラウンド』とかにすることを提案します!」

「成程。それはいいですね。ではゲームの調整は次回以降、ということで」

 自分達でアナログゲームのアレンジして遊ぼうとすると、こういうゲームバランスが結構難しいよね。

 たほいや本家だと、『得点総取り』だけで勝敗が決まっちゃうようなところがあるから、辞書抜きルールだとそこがよりイーブンになってるかな、っていう印象かな。




 ……ということで、その後もゲームを続けてみた。

「では、次のお題は『あまづら』です」

「はい!あまづらとは『雨面』!泣き顔、の方言らしい!主に東北の一部地域で使われている言葉!」

「はいはい!あまづらとは『雨面』ってとこまではそうなんだけど、雨が池とかの上に落ちて波紋が広がっていく様子を表す言葉です!風流ーっ!」

「はいはいはい!あまづらとは『甘鶉』のことで、ウズラの肉を甘く煮つけた料理です!九州の南の方で食べられてます!黒糖を使うのがおいしさの秘訣です!」

「モーツァルトが日本に初めて知られた頃、『アマデウス』のミドルネームで広まったんだけど、それが地方に伝わっていくにつれ訛って『あまづら』になったやつ。大正時代の文献に残ってる」

「あまづらとは『甘葛』……甘いかずら、の意味だ。蔦の茎から採った汁で作った甘味料で、芥川龍之介の『芋粥』に出てくる芋粥は長芋をこの甘蔦で煮たものだな」

「アマヅラっていうのはですね!尼さんのお面のことですよ!能に使われてます!」

「えーとね、アマヅラっていうのはね、実は某特撮に出てきた怪人の名前で、ジャンゴっていう別の怪人と東京ドームあたりで戦って同士討ちしたんだよね。元々2体は九州と北海道に出現して、全然倒せなかったんだけれど、主人公達の機転によってその2体を引き合わせて同士討ちさせよう、っていうことになって、それで決着がついた回だったんだよ」

「ええと……妖怪の名前。顔が甘いやつ……」

「あまづらとは、天の面です。つまり空模様のことですね」


「へー、あまづらって甘葛なんだ」

「芋粥って芋と米煮たやつじゃないのかー!」

「芋粥と甘葛については国語便覧に載ってるから見てみろ。粥ですらないからな、あれ」

「は?正解特撮じゃないのかよ。投票して損した」

「説明、詳しかったから、加鳥が真実かと思ったのに……」




「次のお題は『アルマゲスト』です」

「えふえふ5のラスボスの技だぜ!防御無視技はラスボスの浪漫!」

「スペースオペラ的戦略系フリーゲームの名前!私が好きなのはユイ・ルメルシエちゃんとレイメイ・レンさん!」

「プトレマイオスが書いた本の名前だろ」

「ちょっと待って!鳥海のも正解だし、羽ヶ崎君にも正解されたー!俺が書いたお題なのにー!事故ったー!ノーゲーム!ノーゲーム!」

「というかこれ、今まで出たもの全部正解なんじゃないでしょうかね……」

「多義語は駄目だあ……」




「次のお題は『ブルー・ジョン』です」

「ジャズピアニストだよ。本名はジョナサン・アビーなんだけれど、ブルーノートスケールっていうちょっと特殊な音階をよく使っていたので『ブルー・ジョン』と呼ばれるようになったのだよ」

「ハウリン・ウルフっていう、狼と一緒にサバイバルする映画の中に出てくる飼い狼の名前。なんかいつも拗ねてるからブルーなジョンってことでブルー・ジョンって呼ばれてた」

「合成インディゴの名前だ。合成インディゴはジョン・ホワイトが初めて合成に成功した。それまで理屈も分からず発酵させたり酸化させたりして藍染をしていた訳だが、インディゴの科学的な反応を解明することでブルー・ジョンが生まれ、安定して藍染ができるようになったという訳だ」

「そういう歌ですよ。ソ連出身のシャンソン歌手が西部アメリカで歌った事で有名になったんですよ。こう、もの悲しくてね、いい曲なんですよ……」

「それはね、ジョブ・ジョンのことだよ。ホワイトベース勤務だからまあ有名だし、複数作品に出てるからまあ皆知っていて当然だと思うけれど……え?知らない?本当に?」

「ええと……あー……あの、トイレに置くだけのやつの、亜種……」

「ブルー・ジョンとは、イギリスのダービシャーのブルー・ジョン鉱山でしか採掘されない半貴石ですね。青紫と黄の縞模様とその透明感が美しい蛍石の亜種ですが、採掘されつくしてしまい、現在では小さな結晶が採掘されるのみとなっています。硬度は4。加工しやすい石ではありますが、柔らかすぎるため罅も多く、加工の際には樹脂に浸漬してから、というのが一般的なようですね。宝石として扱われてアクセサリーになることもありますが、大きな結晶が産出していた頃に作られた器や燭台が現在も残っています。以上です」

「そういう気象現象の名前なんだよねー。ええとね、夕方、空が青紫っぽくなる時があると思うんだけれど、あれの名前がブルー・ジョン。雲の生じ方で光の屈折が普通の夕焼けと違う状態になっちゃって青紫になるんだよね」


「正解は俺です。ブルー・ジョンは是非、蛍石派の皆さんには見て頂きたい石ですね。縞模様の美しさもそうですが、色合いと透明感が素晴らしくて」

「これは分かった。社長がいつも以上に饒舌だったからな」

「社長ってある意味、嘘吐けないよねえ」

「好きなものを語る時にはついついいっぱい喋っちゃうんだよね。分かる分かる」




 ……ということで。

「……意外と、舞戸の雑学が多方面に及んでいることが分かった」

「もっと褒めて」

「うるせえ死ね」

「羽ヶ崎君はもうちょっと私に優しくてもいいと思うんだよ」

 優勝は舞戸さんだった。ちょっと意外だなあ。

 ええとね……舞戸さん、サラッと嘘を吐くから、こういうの、強いんだよ。しかも、妙にその嘘が説得力あるんだよ。しかも、妙に変な分野のことを微妙な深さで知ってるから、『舞戸さんが嘘を吐くとしてこの方面で嘘を吐くか?いや、ない』みたいに思わせておいて嘘なんだよ!騙された!

「んー、俺はネタに走らなければもうちょっといけたかなー?」

「鳥海はなんで途中からモンスター図鑑始めちゃったの?」

 ちなみに、鳥海も結構強かったんだけど、途中から某カードゲームのフレーバーテキストみたいなかんじにモンスターの紹介を始めてしまったので途中から点が伸び悩んでた。いや、でも一番笑いを取っていったという点では優勝だと思うよ。

「俺さー、鈴本が割とガンガン嘘吐くのが面白かったんだけど」

「当たり前だろ。嘘を吐くゲームだろうが。これは。違うのか?」

 鈴本はなあ……なんとなく村人陣営のイメージがあるから、今回は新鮮だったなあ。

「……俺、これ、苦手だった」

「角三君は……ええと、まあ、そういうこともありますよ!ドンマイですよ!」

 あと、角三君は咄嗟に嘘を吐くのがすごく苦手らしいので、今回みたいなのはすごく不向きなんだなあ、って思った。見てて可哀相なくらい、困ってたからなあ……。




「私、分かった。この部の人達って、変なもの滅茶苦茶いっぱい知ってるんだけど、そのせいで、誰も知らない分野で嘘を吐くし、本当のことも誰も知らない分野から言うから、嘘か本当か何も分からない。角三君以外!」

 うん。まあ、舞戸さんの言うことは分かるよ。それぞれに違う分野の変な知識を持っているから、嘘を吐いても本当のことを言っても、本人以外何も分からないんだよ。だから今回、判断の基準は『その人っぽいか』とか『サラッと説明できたか』とか、話術の方に傾いちゃってたんだよなあ……。

 で。角三君は……こういうのが苦手らしい。うん。それはすごく分かったよ。分かったけれどそういうこと言うのはやめてあげようよー。

「角三君がサラサラ嘘を吐いていたらそれは偽物だということですね」

「或いはスタンド攻撃!」

「……スタンド攻撃でもいいからサラサラ嘘吐いてみたい」

「いいんだ。角三君はそのままでいいんだ。そのままの角三君で居てくれ」

 そうだね。角三君はこのままでいいと思うよ……。嘘を吐くのが得意な角三君はなんとなく違う気がするよ……。




「ゲームバランスはどうでしたか?」

「えーと、これ、得点制にしなくてもいいんでない?1ゲームずつ勝敗決定してかるーくやる方が向いてるんでないかなって俺思っちゃった」

「そうだな。得点計算が面倒だ」

「本家たほいやでもそれはそうなんだよね。まあ、折角こうじさんが居なくてもできる形式になってるから、お手軽方面に突き抜けてもいいのかもしれない」

「分かりました。やはり軽めのバランスで調整した方が良さそうですね。根本のシステムはこのままでも運用できそうですが、或いはお題の単語の出題範囲を『食べ物』『生き物』というように狭めてもいいのかもしれません」

 そして最後にゲームバランスの確認なんかをして終了。いやあ、自分達でアレンジを入れてゲームをやるのって結構難しいね。特に得点式にしちゃうとバランス調整が難しい。

「まあ、これいいんじゃない?他の人の変な知識を知るいいきっかけになるってことで」

「『この人こんなこと知ってるんだー』って、ある意味その人の理解に繋がるっていうかさー、なんか面白いよね」

 でもまあ、バランスは抜きにして、変な単語と大量の捏造を味わえるから、そういう意味ではこのくらいお手軽にできるたほいや亜種もいいのかもしれないね。




「ところで私は甘葛でリアル芋粥を作ってを食べてみたいのだけれど、誰か探しに行ってくれないだろうか」

「俺も思った!食べたい!リアル芋粥食べたい!」

「蔦っぽい植物なら、1Fにあった気がするけど」

「あ!長芋っぽい植物なら4Fにありましたよ!確か!」

「じゃあ俺、芋、掘ってくる」

 ……まあ、折角の異世界だし。変な知識があったらその分、変な方向に生かすチャンスだし。

 そういう意味でも丁度いいゲームかもしれないね。




 ということで、その日のおやつは芋粥になった。

 なんか、こう、美味しかった……のかな?すごく端的に言ってしまうと、甘い芋の煮物だったよ。うん。


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