冥土喫茶へようこそ!
時間軸はいつものところです。
視点は羽ヶ崎です。
モンスター娘のメイド喫茶ができたようです。
「俺も正直どうかしてたと思うよ。でもさ、やっぱり夢だろ?」
「わかんない」
「折角の異世界だし、モンスターだって居るんだからさ」
「ええー?分からないでもないけどさー」
「そういうスキルだって持ってたんだから、やってみなきゃ駄目だと思って」
「……錦野。お前、つくづく、すごい奴だよ。ああ。本当に」
……あのさ。本当にすごいよ。錦野は。
「ってことで、舞戸さん、貸してもらえないかな」
「断る!」
いやあ、すごいよね!どうしてモンスターだらけの店なんか作って、その上で舞戸を貸せとか言えるんだよ!頭おかしいんじゃねえのこいつ!
……錦野は頭がおかしい。
何を思ったのか、『僕のスキルは人間以外にも通用するんだろうか』っていう探求心に満ちた実験を始めた。ここはいいよ。僕らだって似たようなもんでしょ。実験するのは僕らの性だし、スキルの効果範囲の確認は当然、必要なことだし。
ただ、それで『スキルでモンスターも誘惑できるらしい』って気づいた後、どうして『そういえばこの世界ってモンスターは居るけれどモンスター娘が居ない』っていう発想になって、更に『じゃあモンスター娘を生み出してメイドさんにしてメイド喫茶作ろう』っていう発想になるんだよ!訳分かんねえ!
「いや、浪漫だからさ……折角の異世界だし……」
「まあ、折角の異世界だから、という気持ちは分かりますが」
そうなんだよ。僕はともかく、社長らへんは『折角なので』だけで生きてるようなもんだし、そこらへんも分からないでもない、らしい。社長にモンスター娘メイド喫茶の趣味があるとは思えないけどね。
「ま、まあね?うん。分かる分かる。分かるんだけど、けど、そこに舞戸さんはちょっと貸せないっすわー」
鳥海はどっちかっていうとモンスター娘メイド喫茶に惹かれるものがある側だと思うけど、ここはしっかり線引きするらしい。
「いくら舞戸さんが『メイド長』だからって言っても、モンスターを教育してメイドにするのは難しいんじゃないでしょうかね……」
「舞戸、死ぬ気がする……」
……そうなんだよ。
別に、錦野が何やったって、僕らには関係無いから。どうでもいい。キャリッサとシュレイラの姉妹がなんかよく分からないことやったって、僕らには関係無いからどうでもいい。
けれど、そこに舞戸を入れたらあいつ死ぬでしょ。雑魚中の雑魚、モンスター一匹まともに倒せない奴をモンスターだらけのメイド喫茶にぶち込んだら、あいつ、死ぬって。絶対死ぬって。
「そこをなんとか!」
「悪いが他を当たってくれ。大体、メイドらしいメイドならそっちにもっと伝手があるだろう」
「確かに前、ハーレムを作ってた時にはメイドさんも入れてたよ!でもそれを解散させたのは舞戸さんだろ!?」
「うーん、そうは言っても舞戸さんは簡単に死にそうだからなあ……」
「あ。じゃあメイドさん人形貸してもらえばいいんじゃない?とこよちゃんとか、教育係、できそうじゃない?」
……だから僕らは錦野の頼みを断ってるんだけどさ。
「あの、君達さ。ちょい。おーい。私を何だと思ってるの?スぺランカーか何か?」
僕らの後ろからもぞもぞ出てきた舞戸は、不服そうな顔してた。不服そうな顔してるんじゃねえよ。こっちが不服だよ。
「流石に私、錦野君のコントロールが効いてるモンスター娘にまで後れを取るつもりは無いけれど」
「そこに万一があって死ぬのがお前だろ」
「いや、だからさ。なんで君達はそんなに私のHPを過小評価してるのかね」
過小評価でもなんでもないと思うけどね。リスク管理って言ってほしい。
「舞戸さん。実際、錦野君は一度、舞戸さんによってハーレムを瓦解させられています。二度目が無いとは言えませんね?」
「いや、そうだろうけどさあ……その時は私が『転移』とかで即座に逃げれば済む話では」
「それができるならお前は福山に刺されていない」
舞戸は今までに何回も事故って死にかけてるから。それを忘れる僕らじゃない。なんでわざわざ、リスクのあるところに貸し出さなきゃならないんだよ、ていう。
「駄目かなあ……うーん」
けれど舞戸が、渋る。やたらと。
「……あのさあ、お前、やりたいの?」
念のため聞いてみたら、舞戸はあっさり、頷いた。
「うん」
「モンスター娘のメイド喫茶を?」
「うん」
……あ、そ。
「駄目でしょうか……」
いや、そう言われても。
「君達だって猫耳メイドは好きかもしれないけれど」
「僕の趣味じゃない」
「俺は趣味っすわー」
「そうかそうか。私は趣味です」
いや、そう言われても。
「っていうことで、やりたいのでやります!死なないようにケトラミさんを連れていきます!いざとなったら店をぶち壊してでも私を助けてもらう!頼んだぜケトラミさん!」
「それ別の意味でのモンスター喫茶になるんじゃない?ん?」
だよね。僕だったら絶対嫌だけど。いきなり壁ぶち破って軽トラサイズの狼が飛び込んでくる喫茶店とか。
……結局、僕らが折れた。というか、どうせ錬金姉妹の力は僕らに必要な訳だし、そこ2人が『ユートのお願いを聞いてくれないなら私達も協力しない』とかゴネ始めたら僕らには拒否権が無い。ほんとムカつくんだけど。何あいつら。
だから僕らはしばらく、アーギスの近くに拠点を作ってそこで過ごすことになった。モンスター娘メイド喫茶とかいうトチ狂ったもののためになんでわざわざ……。
「では行ってきまーす!」
舞戸が無駄に元気よく出発していった。
……まあ、偶にはいいか。舞戸がやたら楽しそうだし。いや、あいつが楽しそうでも僕は全く楽しくないけど。
「実際、俺、ちょっと気になるわー。この世界来てからモンスター娘っぽいもの、見たことないしなー」
舞戸が出て行っている間、僕らは適当にUNOとかワンナイト人狼とかスキル有りの鬼ごっことかやって過ごしてたんだけど、休憩に入ってから鳥海が唐突に言い出した。
「サキュバスなら居たが……」
「あー、うん。あれはね。あれはまあ、ノーカンで」
猫耳のサキュバス居たけど、まあ、あれはモンスター娘っていう分類にはしなくていいと思う。サキュバスはサキュバスってことで。
「……この世界、そういうの、居るのかな」
「どうでしょうね。俺達はこの世界を相当くまなく見ていると思いますが、それでもサキュバス以外のモンスター娘らしいものには出会っていません。存在しないと考えてもいいように思いますが」
「あー、だよねー。俺、知ってるもん。異世界でモンスター娘っていうと大体獣人が奴隷とかにされてる」
針生はそれ、どっから仕入れてきた情報なんだよ。いや、イメージは分からないでもないけど。
「言われてみれば、この世界で人間以外の知的生命体に出会っていない、というか……種族の違う人間型の生き物を見ていない、というか。異世界だって言うならエルフぐらい居てもいい気がするが」
鈴本の言いたいこともまあ分からないでもないけど、この世界にはそういうの居ない、ってことでいいんじゃないの?
「俺としては、モンスター娘をどのようにして生み出したのかが気になりますね」
「キャリッサちゃんとシュレイラさんが作ったって錦野君、言ってましたよね。ちょっと気になりますよね」
あそこの錬金姉妹が創りだしたものって、クリーチャーとかじゃないの?本当に人間型してんの?
「いや、でも、できたって、言ってたし、できたんじゃないの……?」
「しかしこの世界にモンスター娘は居ないんだぞ?彼女達が錦野から伝えられた情報を元に生み出した生命体なわけで、俺達の思うモンスター娘とは違う何かである可能性は十分にある」
「んー?いや、ちょい待ち。俺達の世界にもモンスター娘は実在しないんじゃないかな?ん?」
「実在します!俺達が知らないだけできっとどこかにはいるんですよ!」
……なんか色々、心配になってきたんだけど。
錦野の方も心配になってきたし、それよりもまずこの部の人間達のことが心配になってきたんだけど……。
……それから数日間、舞戸は錦野のところに行って、帰ってくるとものすごく楽しそうな顔をして色々話してくれた。
んだけれど、こいつの話は聞いていてもよく分からないのが常だから、まあ、話半分ぐらいに聞いておいて……。
それで、モンスター娘メイド喫茶のオープン当日になったので、僕らはそこに行ってみることにした。
「まあ、折角なので行ってみましょう」
……あのさあ、僕ら、この『折角なので』で何回失敗してると思ってんの?
「お帰りなさいませご主人様!」
アーギスの錦野の屋敷の隣にできてた店に入ったら、舞戸がにこにこしながら僕らを出迎えた。
「他所で舞戸に『お帰りなさいませ』と言われるとものすごく違和感があるんだが」
「同意」
正直、普段と変わらないから何とも言えない。……よくよく考えたら割ととんでもないことしてるよね、舞戸。
「舞戸さーん、モン娘はどこ?俺、モン娘見に来たんだけど」
「ん?それなら奥に居ますよご主人様ーず。はーい8名様ごあんなーい」
舞戸は僕らを連れて、店の奥まで入っていく。
……店内は普通の喫茶店、みたいなかんじだ。ボックス席がいくつかあって、部屋の中は趣味よく落ち着いた色合いでまとめられてて、焦げ茶の床板と、ベージュの地に控えめな金の箔押しの壁紙がなんとなく舞戸の趣味だな、と思わされて……。
……で、骸骨が居た。
「ひぇっ」
「なにこれ」
カタカタカタカタ、と、骸骨が、動く。
「何って、メイド」
「え?冥土?」
「うん。メイド」
……メイド服着た骸骨が、カタカタ動きながら、盆に乗せた水のコップを、僕らの前に、置いた。
そして、またカタカタ去っていく。
……あのさあ。
「今の、何?」
「何って、モン娘のメイドでしょうが」
「冥土のメイド……?」
「うん。冥土喫茶だからね。はっはっは」
つまんねーギャグ挟むなよ!なんなんだよ今の!
「確かに先程の骸骨の骨格は女性のものでしたね」
そこは問題じゃねえよ!骨だろ!男でも女でもそれ以前に骨だろ!
「……舞戸」
「うい」
鈴本がすごく深刻な顔で、舞戸に確認をとる。
「このメイド喫茶の従業員は、さっきの骸骨達だけか」
「いやいや、流石に流石に。それじゃあスケルトン喫茶になっちゃうし」
あ、違うんだ。へー。骸骨だけ集めて『冥土喫茶』かと思ったけど。
「じゃあ他の子も紹介するねー。で、ご注文は?」
舞戸がにやにやしてるのが気に食わないけど、とりあえず普通に喫茶店らしいメニューを渡されたから、そこにあったものを適当に注文する。
注文を取った舞戸がうきうきしながら厨房の方へ戻っていって、数分。
……二足歩行の牛が、社長と加鳥の前にアイスコーヒーを置いた。
「これは一体」
嘘でしょ。社長が絶句してる。いや、分かるけど。僕も絶句してるけど。何だよ。メイド服着てるミノタウロスとか、何があったら出てくるんだよ。
「ミノタウロス」
それは分かる。
「……冥土喫茶ということなら牛頭であるべきなのでは」
そこはもういいだろ。
「ちなみにちゃんと牝牛だよ」
そこももういいだろ!
「舞戸さん!もう俺、男の娘でもいいです!実際に女の子かどうかはどうでもいいので、女の子に見えるメイドさんをください!」
「わかる」
「わかる……」
何て言うか……いや、いいけど。ホント、どうでもいいけど。
でも……『モンスター娘』って言われて想像するのと大分違うのしか来てないんだけど、これ……ほんと、誰が得するんだよ。
その後、針生と僕が頼んだジンジャーエールを持って来たのはモロにトカゲ人間のリザードマン(リザードウーマンらしいけどホントどうでもいい)だったし、鳥海と刈谷が頼んだフルーツジュースを持って来たのは頭部までしっかり鳥の鳥人間だったし、鈴本と角三君が頼んだミルクティーを持ってきたのはフワフワした謎の物体だった。エプロン着けてた。何、この物体……。
その後も骸骨が自分の肋骨の中からパフェを出すっていうパフォーマンスっぽいのをやったり、ミノタウロスがその場でリンゴを握りつぶしてジュースを絞ったり、クリームブリュレの上に砂糖振りかけて、その場でリザードマンが火を吹いて砂糖をカラメルにしたり、そういう……何?何て言ったらいいの?明らかに『メイド喫茶』ではない何かが沢山見られた。
「……モンスター喫茶ではあるが、モンスター娘喫茶ではない」
パフェ食いながら、鈴本がすっげえ頭の痛そうな顔してる。
「俺達の期待を裏切った罪は重いですよ、舞戸さん!錦野君!」
「あのさ……舞戸、これ、錦野は何て言ってるの……?」
「『キャリッサとシュレイラの嫉妬を買いました……』だそうです」
あー、成程。へー。どうでもいい。死ね。
「接客は完璧ですね。人語を話さない割にはフレンドリーで丁寧な印象です。ボディランゲージは舞戸さんが仕込んだんですか?」
「あ、うん。そうそう。うちのメイド達は私が育てた」
……更にどうでもいいことに、普通に喫茶店としては及第なんだよね、ここ。
店の内装は舞戸が手を入れたのか、趣味が良いし。接客も……まあ、モンスターだけど、問題は無い。謎のパフォーマンスしてくるけど、それには目を瞑るしかない。
「それから飲食物の味が非常にいいですね。これも舞戸さんが?」
「ある程度は。しかし!今や私抜きでも彼女達は自力でいくらでもこれらを生産することができる!そう!彼女達は真のメイド!冥土な見た目してるけど!確かに!メイドなのだ!」
確かにケーキとか、普通の味、するけど。
……いや、でもさあ。これ……どうなの?
「いや、錦野君もね、当初は本気でモン娘を生産するつもりだったらしいんだよね」
途中から舞戸も僕らの席に着いて、この地獄みてえな喫茶店の誕生秘話を語ってくれた。正直どうでもいい。
「技術的には生命体を創りだす、ってのは難しいらしいし、何よりもまず最初に、人間をベースにモンスターとかその他の生き物の要素を加えるのが一番手っ取り早い製法になるから、倫理的に滅茶苦茶問題がある、ってのがハードルで」
「うわあ、錦野君の悲しい話になるかと思ったら普通にヤバい話が出てきたぞー」
どう考えてもまずいでしょ、それ。いや、生命倫理とか、もうあの錬金姉妹に言うだけ無駄だとは思うし、僕らもそこに甘えてるところ、無い訳じゃないけど。
でも、死者を生き返らせるよりは、生きてる人間に別の生き物を足してクリーチャー作り出す方がヤバい気はする。
「……で、まあ、生きてる人間を改造するのは流石にまずかろう、ってことになって。主に資金面で」
「資金面で!?倫理面じゃないの!?」
「うん。キャリッサちゃんとシュレイラさんの倫理面は障子紙より薄いし、錦野君の倫理面は『モン娘』の前に吹き飛んだ。で、まあ、人間を調達してきて改造するのは難しいね、ってなったから、ゴーレムを作る方向になったんだよね」
……さっきから舞戸の話の行き先がまるで見えない。何これ。
「美少女アンドロイドみたいなのを魔法の力で動くように作って、そこに猫耳パーツつけたり、ドラゴンパーツつけたりしたらいいかんじにモンスター娘になるだろ、みたいな。……けれどそこで問題が起きて」
「爆発したんですか?」
社長はなんですぐそういう発想に行くんだよ。
「いや、爆発はしなかったんだけど、ゴーレムだと、錦野君のスキルが通じなかった」
ああ……まあ、ゴーレムって要は人形でしょ?なら、有効スキルが別のもの、っていうのは分かる。舞戸が持ってる『人形操作』とかの対象になるんじゃないの?
「具体的には、生み出した人間……キャリッサちゃんとシュレイラさんに忠誠を誓ってるゴーレムしか、できなかった。なので、錦野君には美少女ゴーレムが優しくしてくれない。何故ならゴーレムの主達が嫉妬しているので」
「うわあ……」
……僕が口出すことでもないけど、あの錬金姉妹、ヤバいんじゃないの?錦野、大丈夫?いや大丈夫じゃなくてもいいかあんな奴。
「そうして、すごく反抗的な美少女モン娘ゴーレム達をメイドにするか、錦野君のスキルがモンスターに通じるかどうかを確認するために捕まえてきた忠誠心あふれるマジモンモンスター娘達をメイドにするかの二択になって」
「どうしてそこの二択で錦野君は間違えちゃったんですか!こんな悲しい冥土喫茶は生まれちゃいけなかった!」
刈谷の叫びがうるさい。気持ちは分かるけどうるさい。うるせえ。
舞戸は刈谷のうるせえ叫びに神妙な顔で頷いて……。
「何故かって?それは猫耳生やす薬で猫耳生やしたキャリッサちゃんと、それを改造したドラゴン羽と角と尻尾生やす薬でドラゴン娘になったシュレイラさんが錦野君を満足させたからです」
僕らを怒らせた。
「錦野ー!野球しようぜー!お前ボールな!」
「俺達は冥土喫茶のためにメイドさんを貸し出した訳じゃないんですよ!」
「期待させておいて酷いぞー!」
……モンスター娘メイド喫茶については、もうどうでもいい。っていうか、最初からどうでもよかった。
けど、錦野が僕らに頼み事してうちのメイドを借りていったにもかかわらずこの体たらくってのは、腹立つ。
「う、うわ、殴り込みに来た」
「殴り込みますよ!あれを見せられて殴り込まない男が居ますか!」
刈谷の情熱はもっと別のところへ向けた方がいいと思う。
「いや、そう言われても……ほら、キャリッサとシュレイラがさ、許可をくれないと、どうにも……」
それから錦野は死んだ方がいいと思う。
「ユートぉ、モン娘、っていうのが居なくたって、私達で十分でしょ?」
「ふふ、十分に満足させてやるからな、ご主人様」
「うん。やっぱり2人が居てくれればそれでいいや」
こっちに迷惑掛けておいて自分は女2人侍らせて、何嬉しそうにしてるんだよ。なんなのこいつ。
「まあ、そういうことならしょうがないよね!」
僕らは割とイラつかされてるんだけど、舞戸は1人、妙に楽しそうだった。こいつはメイド長体験できてそれはそれで楽しかったらしい。うざい。
「……で、ところで、君のメイドさん達が来ていますが」
舞戸がちょっと横にずれたら、その後ろに、冥土達が居た。骸骨とミノタウロスとトカゲと鳥人間と謎のフワフワがメイド服着て立ってた。
錦野が固まってた。
「……彼女達、解雇?ねえ、解雇するの?ねえ。私が手塩にかけて育てたメイド達、解雇するってんじゃーないだろうなあ錦野君よぉ」
舞戸が嬉々として錦野に詰め寄ってた。その後ろから冥土達が詰め寄ってくる。笑える眺めだ。
「……いや、あの」
「おらおら、ご主人様。雇ったんなら最後までキッチリ面倒みるよなあ?」
「ええと、それは」
「メイドぞ?我らメイドぞ?モンスターだろうが何だろうが、雇用されてキッチリ仕事覚えたメイドぞ?どう落とし前つけてくれるのかな?ん?」
舞戸は舞戸で錦野に腹立ってたみたいだね。まあ丁度いいからこのままほっとこ。まあ、何?優しく見守る、ってことで。いいよね?
「では行ってきまーす!」
舞戸が無駄に元気よく出発していった。『メイド喫茶』の教育係として。
……結局、『モンスター娘のメイド喫茶』は成立しなかったんだけど、単なる『モンスターメイド喫茶』は好評だったらしくて、そっちはこの世界の人間達に受け入れられて、店として成立することになったらしい。というか、錦野が冥土達に詰め寄られて解雇もスキル解除もできなくなったらしい。笑える。
……いや、でもよくよく考えてみたら訳分かんねえよ。何それ。何が悲しくてモンスターに接客されなきゃならないわけ。なんでそういう店が好評になるんだよ。
舞戸曰く『モンスターであるところを存分に生かしたパフォーマンス!そして彼女らの細やかな気遣い!接客!そしてメニューのおいしさ!全てがパーフェクトの新感覚エンターテイメントだからさ!』とかそういうことらしいけど、だとしたらこの世界、娯楽に飢え過ぎてない?アレすら楽しいの?理解できないんだけど。
「ところであの店、錦野君の行きつけになったみたいだよ」
へー。
舞戸が夕飯の仕込みをしながら適当に僕に話してくる。正直もう興味ないんだけど。
「キャリッサちゃんとシュレイラちゃんと一緒に行くんだってさ。お店の雰囲気は良いし、気分転換に丁度いいらしくて」
あ、そ。
「いいなあ。私もメイド喫茶行きたい」
……いや、え?
「お前がメイドだろ」
「うん。だからメイドに接客されたい……」
メイドがメイドに接客されたい、っていうのは……え、それ、どういう感情?
「というか、単純にモンスターを間近で眺められる異世界ならではの喫茶店、お客さんの立場で行きたい……」
……。
「モンスターが増えているな……」
「もう『娘』へのこだわりはなくしたっぽいねえ」
「そうですね。あの骨格は男性の骨格だと思います」
「でも制服は全部メイド服なのがすごくいいと思う。私は嬉しい」
「狂気じゃん……」
結局、行った。舞戸が行きたがってたからとかじゃなくて、いつもの『折角なので』で行った。
……まあ、確かに、モンスターが大人しく接客してるって、新鮮ではある、のか。
「メイドさーん!次、注文こっちお願いしまーす!」
あと、舞戸がメイドに接客されてる光景ってのが、新鮮。
……まあ、偶にはこういうのもいいか。
「じゃあ私はカルシウムたっぷりホネホネパフェと……あ。私が考案した奴からメニュー新しくなったんだね。じゃあ新メニューの……うん、吸血鬼のブラッドオレンジジュース果汁0%で!」
「舞戸さん。それはもしかして血なのでは?」
「えっ?ええー……あ、本当だ。原材料に血って書いてある。血はちょっとなあ……あ、じゃあサキュバス一番搾りミ」
「こいつにはストレートティーを頼む。注文は以上だ」
いややっぱ駄目だわ。モンスターの喫茶店とか絶対駄目だ!何なんだよここ!地獄かよ!




