こんな人狼ゲームは嫌だ
時間軸はいつものあたり、視点は鈴本です。
いかがわしいお姉さん(やそうじゃない)モンスターが出てきます。
割と何もかもが駄目な話です。キャラクターのイメージが大幅に崩れる可能性が極めて高いため読む場合は強い覚悟を持って読むかそもそも読まないことをお勧めします。
……どうしてこうなった、と、俺は今、切に思っている。
今、俺達の目の前には、煽情的な恰好をした女悪魔……サキュバス、とでも言うべき魔物が、8体、居る。
事の始まりに理由を付けるならば、いつものアレだ。『折角なので』だ。その『折角なので』によって俺達は、糸魚川先輩の国の横にあった謎の島の謎の古城を訪れていた。
今思えば、こんなところにまで『折角なので』を発揮するべきじゃあなかったし、角三君が『変な城、見つけた……』とうきうきした顔で言ってきても無視すべきだったし、舞戸が『じゃあお弁当持って行ってピクニックしよう!』とはしゃぎ始めても無視すべきだったし、社長が『そうですね。一応探索はしておくべきでしょう。もしかしたら生徒が居るかもしれませんから』と言ってきても無視すべきだった。
だが、あの時は、未来で自分達がどうなるかなんて、分からなかったんだよ。ああ。そうだよ。後悔先に立たず。後悔するのはいつだって後になってからなんだよ。
「うわっ暗っ!俺には見えるけど!」
城に入ってすぐ、俺達の目に飛び込んできたのは暗闇だった。暗闇に満ちた古城。どう考えても危険な匂いしかしない。
「……窓がありませんね」
何故こんなに暗いかといえば、窓が無いからだ。ああ。外からの光が入るのは、俺達が開けた扉からだけ。どう考えてもおかしいんだが、それでも、俺達はそこで退く訳が無かった。
「刈谷、いいですか?」
「あっはい。『光球』。……どうだ、これであかるくなつただろう」
「万札に火を点けるようなコスト払ってない癖に何言ってんのお前」
あっさりと刈谷が光をもたらして、室内を照らす。……どうやら、正面玄関から入ってすぐのこの部屋は、大広間、とでも言うべき部屋だったらしい。絨毯が敷かれた大理石の床と、所々朽ちているもののしっかりしている石の柱が立ち並ぶ様は、まあ、城、という雰囲気だ。正直、それ以上でもそれ以下でもない。
「進んでみる?俺先頭で」
「そうですね。何か居ないとも限りませんし、鳥海に先頭をやってもらいましょう」
「ういうい。んじゃあ行ってみようか」
生憎、俺達は力がある。異世界にきて手に入れてしまったこの力は、まあ……良くも悪くも、俺達を守っているし、俺達が戦う手段になっている。そして戦う手段があるとなると、多少の危機には鈍感になってしまう。正に俺達の『折角なので』はそれなんだが……。
「舞戸さんは……外で待機の方がいいですかね」
……この場に、『お弁当持ってピクニック』という動機で付いてきた奴が居て、そいつが居るからこそ、俺達はまだ、人間から離れ過ぎずに居るようだし、『折角なので』のあまり宇宙の果てへ飛んでいくようなことが無い。こいつは宇宙に行ったら死ぬからな。
だが。
「そうだね。私は外で……」
舞戸がそう言った途端。
ガシャン、と重い音がして、扉が完全に閉まった。
閉まった扉は、びくともしなかった。羽ヶ崎君が彼の最強技を出そうとしていたが、流石にそれは止めた。いくら扉を破壊するためだとしても、ここで『ニヴルヘイム』をやられたら俺達が凍え死ぬ。特に舞戸。
「……これは、私、ここで待っていない方が良いかな?」
「……そうですね。出られなくなった以上、俺達と行動を共にした方が安全でしょう。では舞戸さんは後列に」
「お世話になります……」
舞戸がそっと後ろの方に行くと、更にその後ろを角三君が固めた。要は、後ろからの襲撃に備える形になる。俺達がいつもやっている陣形なので、違和感はない。舞戸は……まあ、居ても居なくても大して変わらん。この時はそう思った。
だが。
「じゃあ、早速、部屋に入りまーす」
鳥海がそう言いつつ、刈谷の『光球』と一緒に大広間を進み、その先の、これまた広い部屋へ入った、その時。
……冒頭の通り、俺達が進んだ先の部屋で、サキュバスが8体、居た訳だ。
これは、舞戸を連れてきたことを後悔せざるを得ない。
俺達が唖然としていると、背後で、ガチャリ、と鍵のかかる音がした。
そして。
「いらっしゃい!楽しんでいってよね!」
「お主ら、ここまで来たのだ。何もせずに帰るということはあるまいな?」
「私達、お腹ペコペコね!ご飯くれなきゃ帰さないヨー」
……そんなことを言いながら、サキュバス達は、俺達に、迫ってきた。いや、正確には、迫ってきたのは3体。ブレザーを着た女子高生っぽい奴と、少々古めかしい言葉遣いの着物の少女と、チャイナドレスの奴だ。
「帰さない、とは」
「そのままの意味ヨ。私達、ここ、封印した。あなた達、私達にご飯くれなきゃ、ここから出られない。……力づくは止めといた方がいいネ。どうなるか分からないヨー」
甘く蠱惑的な声で、チャイナドレスのサキュバスは俺達をうっとりと眺めまわす。……なんてこった。
「こういうエロ漫画みたいな出来事も起こる。そう!異世界ならね!」
鳥海が一周回って振りきれたような顔をしている。すごいな。お前は……。
「空腹、ということは、何か食料を出せばいい、ということでしょうか」
こちらもまた、この状況で理性的な対話をしようとする社長が、サキュバスへそう問いかけた。
「えー?私達、サキュバスだよ?なら、食べるもの、決まってるよね……?」
……これには俺達も沈黙せざるを得ない。
サキュバス、というのは……淫魔、だ。ああ。俺にもそれくらいのファンタジー知識はある。くそったれ。
「ってことで、もういい?ねえ、私、待ちきれない……」
更に、サキュバス達は揃って俺達を見上げて、じりじりと迫ってくる。
「はーいはいはい、ブロック、ブローック」
一番迫ってきていたブレザー姿のサキュバスを盾でぐいぐい押し戻しつつ、先頭の鳥海が奮闘している。頑張ってくれ。俺はちょっと今、頭が追いついていない。
「意地を張っても良いことは無いぞ?素直に妾達と楽しもうぞ」
しかし、鳥海の盾の横から、するり、と着物のサキュバスが入りこんでくる。
「悪い気はしないじゃろう?見たところ、お主らは年頃の男じゃ。そういうことには興味もあろう?……そして何より、妾達は皆、お主らの好みに合わせて変化しておるからな」
そう言いつつ、着物の少女は鳥海の胸の辺りをつついた。
……その時。
「ん?好みに?ん?」
鳥海が、首を傾げた。
「いやー、俺、別にロリババアはそこまで趣味じゃないっすわー」
……待て。
待て。ちょっと待て!
「……いやちょっと待て!」
俺は内心で焦りつつ、俺は一応、確認してみる。
「……好みに合わせて、変化している、というのは……本当に、か?何か間違えていないか?」
「ん?そうじゃな。まあ、妾も、自分がお主らの内の誰の好みに化けたのかは分からんが……何せ、お主らの気配を感じて、それだけで変化しておるからの。むう、1対1で対面してから化けるなら、もっと正確に好みピッタリに化けられるのじゃが……」
……サキュバスの言葉に、絶望するしかない。
「……つまり、後ろの方に居る、ヤバそうな奴も、誰かの好みだと?」
俺達に迫ってきているサキュバスは、3体。
部屋の奥の方に居るサキュバスは、5体。
裾の長いメイド服に長い黒髪で清楚な印象のサキュバスと、眼鏡をかけた大人しそうな印象のサキュバスと、何故か入浴中で恥じらっている様子の猫耳が生えたショートカットのサキュバスと……そして、明らかに人形であって人間の体じゃないよな、と思しきサキュバスが手錠で拘束されている奴と……猫でも犬でもない、幻獣とかアニメのマスコットキャラクターとかそういう雰囲気の生き物が、少々贅肉の付きすぎな体格になっている奴。
……前2つはいいとして、真ん中あたりから分からなくなってくる。そして後ろ2つは、何だよ!?
「うわ、綺麗なお姉さん達だなあ……あっ、お姉さんじゃないのも居るけれど」
居心地の悪い俺の後ろから舞戸はそっと俺達の後ろから顔を覗かせて、随分と煽情的な恰好のサキュバス達を見つめて目を輝かせている。……おいおい。
「おい、舞戸。お前、こういうのは……」
「あっ、おかまいなく!」
……構う。こいつが構わなくても、俺が構う。
「針生。やってしまえ」
「え?あー、うん。オッケー」
そして針生が、舞戸から教室の宝石をスッた。そしてその場に教室を展開した。どうやら教室は、舞戸が食料貯蔵庫だか菓子置き場だかにしている教室だったらしい。そして、針生はそこに舞戸を放り込んだ。
「ああー!?何をするーッ!」
「何をする、はこっちの台詞だよ。馬鹿じゃねえのお前」
「羽ヶ崎君が酷い!いいじゃないか!私だって綺麗なお姉さん見る権利はある!あとちょっと不思議な生き物!あれ気になる!なんだろうあれ!」
「うるせえ」
ああそうだな。ちょっと不思議な生き物だな。サキュバスが化けたと聞いたら益々不思議な生き物だよな。ああ。
……なんだろうな、あれ。あれ、誰の好みなんだろうな……。俺は頭が痛い。
とりあえず、舞戸は部屋に放り込んだのでこれでいい。舞戸には悪いが、その、流石に気まずい。
「……で、どうするの。これ」
とりあえず相談の時間を設けさせてもらうことにして、俺達は今、話し合いの構えをとっている。
「扉は開きませんし、彼女らの要求に従うべきでしょうか」
社長が早速諦めかけている。いいのか、それで。いや、それしかないかもしれないが……。
「んー……いや、俺はまあ、別にいいかって思ったけど。まあ、異世界だしそういうのもありかなー?って」
「思っちゃ駄目でしょ。なんだよあれ。なんだよあのデブ幻獣」
「うん。あれは僕、分からないなあ……」
舞戸を除けば俺達は8人。そしてサキュバスも8体。その内、人間じゃない奴が、猫耳を含めて、3体。更にその内1体は、人型ですらない。何故だ。
だが、そこを除けば……いや、早まるべきじゃない。それは分かってる。だが……。
「……俺さー、気になったんだけど」
そんな中、針生が、考えに考えたらしい台詞を、吐いた。
「どれが誰の好みなの?」
「お前、一番言っちゃいけない奴でしょそれ……」
羽ヶ崎君が何とも言えない顔をしている。まあ、そうだよな。ここには触れずにそっと流して何とかすべきだったと思う。俺は。
「まあ……好みがあるということなら、マッチングはすべきでしょうか」
社長が極めて冷静かつ真面目にそういう事を言うが、正直、もう何も言わない方がいいと思う。
「ちなみに俺は入浴中の猫耳娘が好みなんだけど」
成程。鳥海は変態か。分かった。
「で、加鳥は眼鏡っ子でしょ?分かるよ」
「うん。まあ、分かるだろうなあって思ってたよ。うん」
加鳥の好みについては割と周知の事実だから、ここは何も言わない。推理しなくても誰に何を聞くでもなく分かってしまうことだ。ああ。
「ちなみに俺は全部いいなって思いました!」
「それ、参考にならないんじゃ……」
「いやちょっと待て!お前つまり、拘束された人形とか人間要素が少ないケモとかでもいけるの!?」
「うわあ!よく考えたらそれ、当たり障りない事言ってるように聞こえて一番当たり障りあるよね!?」
刈谷は変態だった。紛うこと無き変態だった。もう駄目だ。薄々分かっては居たが、この部には変態ばかりだ。
「でも実際、難しくない?どれが自分の好みかなんて、割と分からなくない?ん?」
鳥海がそう言い始めると、隣で刈谷がうんうん、と頷いている。やめろ。お前のそれは多分鳥海のそれとは違う。
「俺、猫耳娘割と好みだけど、ドンピシャ、って程じゃないし、人形とデブケモはちょっとキツイけど、それ以外だったら割とどれでもいけるし。あ、でもできればロングよりはショート派なんでそこ考慮してくれたらどれでも」
「あー、うん。正直ブレザーとか黒髪ロングメイドとか猫耳とかは誰でもいけるんじゃない?俺もどれでもいいや。あはは」
「いや、多分針生はロリババアだろ」
「俺以外にもロリババア好き、居るじゃん。え?居るでしょ?」
「微妙にチャイナ娘が居ない気がするんだよなー……あれ、誰の趣味なのかなあ……」
……頭が痛くなってきた。
「……ではカミングアウトします」
そんな中、社長がすっ、と手を挙げた。
「人形と拘束趣味COです。対抗居たら出てください」
……これは、人狼じゃないんだぞ!?
「対抗は居ませんね。ということは、あの人形に化けたサキュバスは俺の好みに応じて化けた、ということになるでしょう」
「聞いちゃいけないことを聞いてしまった気がするぞー」
「え?社長?正気?ねえ正気?」
「俺は正気です」
狂人が正気を主張しても何の説得力も無い。それがよく分かった。
「……あの人形サキュバス、その、手錠、してるけど」
「そこも好みです」
「……ええと、手錠、鍵穴が無くて、溶接、されてるみたい、だったけれど……」
「素晴らしいですね」
「そもそも人形だけど……」
「そうですね」
……聞かなかった事にしていいか?
「あー、良いですよね、分かります」
刈谷の守備範囲の広さは何なんだ?
「とりあえずこれで8分の1が埋まりました。残りは7人と7体ですが……」
埋めるな。これ以上埋めるな。俺は聞きたくない。何も聞きたくない。
だがそこで、珍しくも角三君が手を挙げた。
「あ、俺……その、そんなにチャイナ娘、好きじゃないんだけど……」
「そっかー。じゃあデブケモ」
「あれは論外」
角三君が珍しくも言い切った……。
「あ、ええと、僕以外に眼鏡っ子好き、居るかな。居なかったら6人と6体になるけど」
「……正直、僕が自分の好み絞りきれてないからちょっと保留させて。正直僕もチャイナよりは眼鏡」
成程な。眼鏡好きは間違いなく加鳥だが、羽ヶ崎君の言い分も分かる。
「で、デブケモはもう刈谷でいいんじゃない?」
「え?俺ですか?いいですよ」
いいのか。お前は本当にそれでいいのか。
「あ、でも他にあの子が良いっていう人が居たら代わりますけれど」
「それは無いと思うなあ……」
「ええ、いいじゃないですか!あの、ちょっとお上品そうな顔立ちと所作と、その割にだらしない体形!」
分からん。俺には何ももう分からん。世界は広い。それしか分からん。
「ねえ、ちょっと。早く決めてほしいんだけど」
その内、女子高生サキュバスが俺達をせっつきに来た。
「何を迷っておる。目移りするなら誰が何度相手をしてもよいのじゃぞ?」
しかもとんでもない内容でせっつきに来た。流石はサキュバスといったところか。もう感嘆するしかない。
「お好みなら、色んなの、できるヨ。縛るの好きカ?蝋燭好きカ?逆でもいいアルヨ。それから設定も承るネ!幼馴染でも師でも姉でも妹でもお姫様でも騎士でもいいヨ!どれするカ!?」
プロか。成程。プロだな。素晴らしい。そのプロ精神をもっと別のことに使ってほしい。
「……その、ええと、そっちは、好みとか、あるの?」
そしてこちらは素人精神まっしぐらの角三君がそんなことを聞くと。
「無い」
……切って捨てるような回答が返ってきた。プロ意識っていうのも考えものだな。ああ。俺はもうちょっと情緒が欲しい。
「そんなことを言っていられる程余裕はないのじゃ。妾達とて、こんな辺鄙な場所にずっと封印されておるわけじゃ。久しく食事などしておらんかったもんだから、もう、腹が減って腹が減って……」
通称ロリババアサキュバスはそう言って切なげな顔をすると……ふと、閃いたような顔をした。
「そうじゃ。お主らが嫌だというのなら、さっきの娘でもよいのだぞ。早う出せ」
……待て。ちょっと待て。
「え、サキュバスさん、女の子相手でもいけるんですか?」
「そりゃあの。妾達は飢えとるのじゃ。だから早うせんか」
……待て。ということは……もしや、ここのサキュバスが8体なのは元々で、そこに、『舞戸も含めた』9人がやってきて、そして、サキュバス達は、『舞戸も含めた』中からランダムな8人分の好みに化けた、のか?
ということは……この中に、舞戸の好みのサキュバスも、居るのか!?
「この性癖人狼の前提が崩れましたね」
「ああ……俺は人狼をやっていたつもりは無いが、舞戸がド変態の可能性も浮上してきたってことか……」
「そっか。舞戸さんがあのおデブ幻獣かー。そっかー」
「いや、あれは刈谷だと思うけれど……」
……デブ幻獣はまだしも、他の奴なら、確かに、十分あり得る。舞戸はあれで、こう……物好きだ。どこからどこまでが趣味なのか、俺達にもよく分からない。だから、あいつの趣味がここに反映されていることも、十分にあり得るのか……。
俺達がまた混乱していた、そんな時。
「ご主人様」
つい、と、俺の袖が引かれる。ぎょっとしてそちらを見ると、黒髪ロングのメイドサキュバスが、潤んだ目で俺を見つめていた。
「私に、どうか、ご慈悲を……」
……ご慈悲が欲しいのはこっちだ。
「ねー、私、お腹空いたヨ……」
更に、羽ヶ崎君も切なげなチャイナサキュバスにつつかれて固まっている。
「お兄ちゃん……お願いだよー」
角三君のところに猫耳がやってきて、角三君がとりあえずタオルで猫耳を拭き始めた。いや、面倒を見ている場合じゃない。
更に、さっきまでの強気な様子からは意外なほど恥じらう様子を見せながら女子高生サキュバスがやってきたり、謎のデブ幻獣が擦り寄ってきたり、眼鏡サキュバスが真っ赤になって震えながらやってきたり、人形が動き出したりしていたが、そうこうしている間に、俺達はそれぞれ、1人ずつサキュバスに迫られている状態になっていた。まずい。これはまずいが……いや、これは、もう、折れた方がいいのか……?
そんな時だった。
「えーと、とりあえず一旦、ご飯にしない?ほら、腹が減っては戦ができぬっていうし、食べないと元気出ないし……」
からから、と気まずげに引き戸が開いて、舞戸が、食料貯蔵庫だか菓子置き場だかから顔を出していた。
……その手に、昼食が入ったバスケットを提げて。
「今日のデザートは牛乳プリンだよー」
そんなことを、言いながら。
……結論から言うと。
俺達は、サキュバス達に特に何をされるでもなく、特に何をするでもなく、解放された。
理由は簡単だ。
「それにしてもサキュバスって本当に牛乳好きなんだねえ……」
……舞戸がバスケットの中に入れていた食事の中に、デザートの牛乳プリンが入っていた。それがどうやら、サキュバス達の目を引いたらしく……サキュバス達は、舞戸の菓子置き場からありったけの牛乳プリンを持っていくことで手打ちとした、らしい。そうして俺達は無事、解放されたというわけだ。
「へへへ……可愛いお姉さん達が作ったもの美味しそうに食べてくれるのって、こう、いいよね……」
……そして古城から帰った後、舞戸はにこにこしながら、在庫が0になった牛乳プリンを作り足している。何が楽しくてにこにこしているのか、俺には分からん。
「……俺、あそこで思い切ってた方がよかったかなー」
そしてこちらは、妙にぐったりとして管を巻いているところだ。
「いや、やめといて正解でしょ。相手、モンスターだし」
「正直、モンスターでもいいよなー、って思ってさー。俺達、そんなに高望みできるわけでもないじゃん」
「あー、うん。特に猫耳娘とか、元の世界に戻ったら絶対に居ないしなー……あー、しくったかなー」
まあ、そうだろうな。……だが惜しいと思ったら負けだとも思う。だから惜しいとは思わないしかないな。
「ちなみに舞戸さーん。舞戸さんだったら、あの中だったら誰が好みだった?」
釈然としないような、もやもやとしたものを抱える中、鳥海がそんなことを舞戸に聞く。すると舞戸は、調理の手を止めて、少し考えるそぶりを見せてから答え始める。
「え?私?うーん……あのメイドさん可愛かったと思う。あと、あのチャイナ娘、結構好きだったな。牛乳プリン食べてる時、すごく可愛かったし。元々、チャイナ娘、割と好きだし。あと、猫耳は実はそこまで趣味じゃない。けれどロリババアは割と好きで、特に和風ロリババアっていいよね……うーん、駄目だ、分からん」
……成程な。
「今日のことは全員忘れろ。俺は忘れる」
もう、考えるのはやめだ。駄目だ。疲れた。非常に、疲れた。
……今後は、『折角なので』なんていうノリで軽率に行動するのは控えるべきだ。さもないと、知りたくないことを知ったりする羽目になる。ああ。懲りた。
「まあ、今日は大変でした、ということで。んで、次はどこ行く?」
「あ、俺、こないだ変なところ見つけた!」
「じゃあ明日はそこにしましょうか」
いや、お前らも懲りろ!頼むから!




