お料理すること食べること、そして筋肉
時間軸は多分集合が済んでからです。
視点は角三です。
例のアレを作ります。
「何か食べたい物無い?」
舞戸がそう言ったから、大変なことになった。
「……そう言われてもな。何が出てきてもいいんだが」
うん。これ、お母さんに言われて困る奴の上位に食い込む。
「うん。それは分かっているんだけれども、折角の異世界だから何か無いかなって」
……折角の異世界だから、って言われても……異世界っぽいもの、結構食ってるし。ドラゴン肉とか。コカトリスの卵とか。コカトリスの卵のプリン、美味かった。
「なんでも贅沢できるわけじゃない?だったらこう、なんか、悔いを残さない食生活にしたいじゃない?極限まで贅沢するんでもいいし、極限までチャレンジ精神でいくのもいいし」
贅沢は分かるけど、チャレンジ……?
「成程、チャレンジ精神ですか。面白そうですね」
「社長。毒を食うのはチャレンジって言わないから。自殺したいなら1人でやって」
うん。社長が考えそうなの、なんとなく俺も分かった。やめてほしい。
「おや?何も毒だけが挑戦だとは思いませんが。人体に害は無くても挑戦できそうな食べ物、というと、他にも色々ありますよ」
「あっ、ちなみにゲテモノ系はやるとしても小規模になります!何故かって言うと多分鈴本とか羽ヶ崎君とかが食べないから!」
「よく分かってるじゃないか。ゲテモノだったら俺は降りる」
「僕も降りる」
俺も降りたい。……よっぽど美味かったら食うけど。
「……あ。俺、1個思いついた!」
こういう時、針生は考えるのが早くて羨ましい。
「何だね!?何だね!?さあ言ってみたまえ!」
「でっかいカステラ!直径が俺達の身長超える奴!」
……あー。絵本の奴。
「分かる。あれは夢ですわー」
「あれ美味しそうだよねえ……」
身長を超えるサイズだと、うん、確かに、異世界じゃないとできない……。
「成程!承った!」
舞戸が嬉しそうに頷きながら、なんか考えて……それから、凄く注文してきた。
「焼くのに半日待って!あと社長!今から土魔法で窯作って!」
「そんなに大規模なんですか」
「鳥海はバカでかいフライパン作って!できるだけ分厚い鋳鉄の奴!針生乾煎りにできそうなサイズで!」
「うんまあオッケー」
「怖いんだけど!俺、乾煎りされんの!?やだ!」
「あと、皆さんはバカでかい卵とってきて!」
……えっ。あっ。
そっか、卵も……原作再現……。
「ありましたね」
「案外すぐに見つかっちゃうところがこの世界のヤバいところですわー」
あった。でかい卵、あった。
針生が中に5人ぐらい入れそうな卵、あった。
「そしてでかい鶏も居ますね」
針生が10人くらい乗れそうな鶏も、いた。
「うーん、あれは本当に鶏なのかなあ……なんか別の生き物のような気もするなあ……」
ここまででかいとなんか違う。鶏って、腕で抱けるサイズだからいいんだと思う。
「コッコをいじめると襲い掛かられるゲームあるけど、あのゲームにこのサイズの鶏居たらほんと怖いと思うわ」
うん。俺も思う。
「……狩るか?」
「卵だけ持って帰れればいいんじゃないの?」
うん、できればそうしたい。あの鶏、どこから羽でどこから肉なのか、全然分かんないし……。
あ。
「う、うわ、鶏、こっち来ますよ!?」
「仕方ありませんね。卵だけ持って帰れそうにはありませんから応戦しましょう」
……生け捕りにできたらでかい卵食べ放題かと思ったんだけど……でかい鶏肉食べ放題でもいいか。
「ただいまー」
「おかえりなさでっかい。なにこれ。でっかい。しかも皆さんがふっかふかだ……」
「お前がでかい卵を所望したんだろうが。その結果がこれだぞ」
俺達、帰った時には羽毛まみれになってた。あの鶏、飛びかかってくるだけで羽がすげえんだもん……。
その後、俺達はハタキで叩かれたらすぐ綺麗になってよかった。服とか頭とかについた羽毛、1個1個全部取るの、絶対めんどくさいし……。
「ということで早速始めて参ります!巨大カステラづくり!」
「俺、早速自分の発言をちょっぴり後悔してる……」
……自分の身長超えるカステラって、作る時もそういうサイズだから。大変。絶対、大変なの、もう見えてる。
「まあこれも異世界体験ということで!はい!じゃあ早速この卵を斬ってもらおうかな!じゃあ鈴本よろしくね!ありがとう!」
「待て、割るんじゃないのか」
「このサイズで割れるとでも?この卵の殻、絶対壁ぐらいあるよ」
わかる。
「……仕方ないな」
鈴本もため息吐きながら、刀構えてくれた。
「あ、白身と黄身は分けて欲しい」
でも舞戸が相当無茶言ってる。……卵斬って、白身と黄身分けるって……無理じゃん。
「無茶を言うんじゃない」
「そこで羽ヶ崎君の出番だ」
「僕まで巻き込まないでほしい」
「諦めてほしい。ええとね、鈴本が斬ったら、半冷凍状態にしてくれるかな。それを鳥海がボウルで受け止めます」
「俺にまで無茶ぶりが来ましたわー」
ここまでくるとちょっと笑える。
話し合ったんだけどそれ以上の案が出なかったから舞戸が言った通りになった。
「こんな事をする羽目になるとはな……」
鈴本が刀振ったら、卵の殻が真ん中から真っ二つになって、中から白身が洪水みたいに溢れてきた。
「はいはい……これでいいんでしょ」
溢れてきた白身がシャーベットみたいになった。
「っとっとっと。せふせふ」
溢れてきた白身は鳥海が持ってた巨大なボウル(舞戸が大理石の石材から『お掃除』で作ってた)に入って、黄身は殻に残った。
……え?
「ちなみに黄身は針生が影縛っておいてくれました」
「褒めて!」
あ、そういう……。
「……これ、本当に異世界じゃなきゃできないねえ」
うん。ほんとにそう。
今まですごく苦労してるけど、卵割っただけだし。これ、まだ調理の最初じゃん。
「○りと○らは一体どうやってあの卵を調理したんだろうなあ……」
「あいつら実は相当なマッチョなんだよ、多分。あのオーバーオールっぽい服を脱いだら腹筋とか板チョコなんだよ、多分」
そんな○りと○らはなんかやだ。
「さて、ではここでスキルの出番です。加鳥君よ」
「えっ僕?」
「風魔法を使ってこの卵白を泡立てておいてくれたまえ」
「あ、そういう使われ方かあ……うん、いいよー」
加鳥が凄い量の白身を泡立て始めた。白身が混ぜられてて、なんか、生き物みたいに見える。スライムみたいな……なんか、こういうモンスター居そうじゃん。
「一方こちらでは卵黄の方をどうにかします。まず殻から移送しないといけないんだけれど……」
「舞戸さんにはこの卵の殻、持ち上げられないもんね。俺がやりますわー」
卵の殻の下半分に残った黄身は、鳥海が卵の殻持ち上げて、別のボウルに移した。
……鳥海の両手広げたよりも卵の円周の半分がでかい。卵の殻の断面、普通に壁ぐらいある。あれ、何キロあるんだろ……。
「ぐぬぬ……悔しい。これをできない自分が悔しい……」
「いや、そこで悔しがるなよ。鳥海の今の光景見てどう思う?化け物じゃん」
「いや、そう言う羽ヶ崎君も多分本気出せばあれと同じことができるわけで……ぐぬぬ……」
「いやだからなんでそこで悔しがるの」
舞戸が悔しがってるけど別にここで悔しがらなくていいと思う。
「さて、じゃあこっちの黄身の方には生クリームとか溶かしバターとか砂糖とか蜂蜜とかを贅沢に入れていきます」
「へー。カステラって生クリームとか使うんだ。俺始めて知ったわ」
「使わないレシピもあるし、使うレシピでも大抵は牛乳なんだけどね。ほら、折角の異世界だから、お高い食材使いたいじゃない……」
うん。
「貧乏性だな」
「うるしゃい」
まあ、異世界だし……。生クリームは高いって、舞戸、元の世界でもよく言ってたし……。
「溶かしバターはトラっぽい妖精がぐるぐる回って溶けてできた奴。砂糖はサトウキビから余が直々に精製した奴。蜂蜜は紅玉蜂の蜂蜜を贅沢に使用!生クリームはこないだ皆さんがミノタウロスから絞ってきた奴から作った!」
「あ、あったねそういうのも」
「牛乳まみれになって『搾乳プレイしてきた』ってニコニコしながら帰ってきた皆さんを見た時の私の衝撃、分かる?ねえ、分かる?」
それはごめん。でもあれ楽しかった。あと、変な牛の牛乳持って帰ったら舞戸が喜ぶと思った……。
「はい、黄身の方が混ざったので小麦粉を入れます。……頑張って振るうぞー」
でっかいザルが出てきた。中に小麦粉入ってる。舞戸の目が死んでる。
「……え、これ振るうの?」
「振るうの」
「ええー……都合よく舞戸さんの『お掃除』で何とかなったりしないの?」
「しないの。何度か試したことあるんだけど、振るうことによってダマをとるってことも大切なんだけど、粉に空気を含ませるっていうのも大事だから結局『お掃除』じゃ代替できなかった」
あ、そうなんだ。
「また力仕事か……しょうがない、舞戸には任せられないからな」
「おおありがとう鈴本君。君のカステラにはクリーム大盛りにしてあげよう」
「はいはいやったぜ。社長、暇ならそっち持ってくれ」
「2人掛かりで粉振るいとは新しいですね」
鈴本と社長が2人でザルの端っこと端っこ持って振り始めた。粉がザルから落ちて黄身の液に入っていく。……なんか粉で煙、できてるんだけど……。
「ちなみにこちらの小麦粉は異世界の小麦を良い感じに私が精麦して粉にしたへっくしょい」
舞戸が小麦粉の粉塵でくしゃみしてる……。
「なんで君達、さっきのでくしゃみしなかったの?」
「お前が弱いからだろ」
「異世界補正ってくしゃみにまで関わってくるの?嘘でしょ?ねえ嘘だと言ってよ羽ヶ崎君!」
俺は頑張って我慢してたからくしゃみしなかった。補正じゃないと思う。多分。
「ま、まあいいや……ではこれより、いよいよここまで頑張ってくれた加鳥君作のメレンゲと卵黄生地が出会います。これをサックリと混ぜるのが……また重労働だなあ……」
「オッケー俺がやるわー。コツとかある?」
「最初にメレンゲ3分の1だけガッツリ混ぜちゃえば、あとの3分の2は割と雑で平気」
「りょうかーい」
鳥海がでかいしゃもじみたいなので混ぜ始めた。……なんかカステラっぽくなってきた。
「それにしても、本当に、ぐ○とぐ○はどうやってあのサイズのカステラ焼いたんだろう」
「あのサイズのフライパン運んでるしねえ……」
「やっぱりムキムキなんじゃないでしょうかね!」
ムキムキの○りとぐ○はなんかやだ。
「ではこれよりカステラをオーブンに入れます」
生地がでかいフライパンの中に入って、それがオーブンの中に入った。
……うん。
ガン○ムがオーブンにフライパン入れてる……。
「なんでわざわざモビ○スーツ持って来たの?」
「火だから危ないかなって思って」
重さは多分、俺とか鳥海なら余裕だと思うんだけど、確かに火傷はちょっと心配かもしれない。刈谷が居るけど、あんまり回復魔法ばっかり使わせたくないし。
「……初めからこいつだけでよかったんじゃないか?」
「そういうこと言わないの」
うん。ガ○ダムが持ってると、このフライパン、そんなに大きくなく見える。
「えっ!?焼けるまでに半日かかるの!?やだー!」
「そりゃ、あの大きさだからねえ……」
なんか、あのカステラ、オーブンに入れてから半日かかるらしい。結構かかるんだなって思った。
「普通サイズのフライパンでも、ガス火のトロ火で1時間近くかかったりするよ。今回は天板にお湯張って蒸し焼きにしたりとか色々工夫はしてるけど、それでもボチボチ時間かかると思うよ」
そっか……。すぐ食べられると思ったんだけどそうでもないっぽい。
「……ぐ○と○らは……もしかして、半日かけてあのサイズのカステラを……!?」
「もう普通のサイズで焼けばよかったんじゃないかなあ……」
本当にそう思う。なんであのサイズで焼いたんだろ……。
それから半日待った。
その間に俺達が卵と一緒に狩ってきた鶏でローストチキン作って食べたり大富豪やったり人狼やったりして待ってた。
……それで、夜になってから、カステラができた。
「……感慨もひとしお」
「でかいな」
でかい。俺の身長よりも直径がでかい。ほんとでかい。なんか、でかい以上の感想が出てこない……。
「上で眠れそう!うわー、ふかふかじゃーん!いいなーこれいいなー!寝たい!」
「駄目!食べ物で寝ない!どうしても寝たいなら社長に妖精化薬貰って身長15cmになってから寝なさい!」
「針生さん、薬ならありますよ」
「うわーっ社長!急に後ろに来ないで!割とビックリするから!」
針生が寝たがる気持ちはちょっと分かる。ふわふわしてていい匂いしてほかほかしてるし。でかいし。
「なんかこう、お菓子が焼けた時の匂いって幸せになりますよねえ」
分かる。
「うむ。私は下手するとお菓子食べる時よりもお菓子焼き上げた時の方が好きだったりする」
それは分からない。
「そしてその直後、焼き立てをつまみ食いする瞬間が最高で……!」
それは分かる。
「わー、ふかふかー」
食べてみたらふかふかだった。あと甘かった。カステラ、っていって想像してた味とはなんか違ったけど、割と美味い。
泡立てたクリームのとろい奴掛けて食べたらなんかよかった。
「フライパンから直接千切って食べるのも風情があっていいよねえ。今日は丁度、カステラみたいなお月様だし」
……うん。満月だから、確かにカステラっぽい。
「それ、月に対して風情が無さすぎなんじゃないの?」
「え?羽ヶ崎君はお月様見てお腹空かないの?」
「は?お前は空くの?」
そういえば、前、舞戸が満月見てプリン作ってたことあったけど、あれってそういうことだったんだ……。
「……まあ、異世界らしくはあるんじゃないのか?」
「うん。元の世界じゃー絶対できない系クッキングだったわ」
なんか本来の目的から離れた気がする、けど……うん、楽しかった、と思う。
「とりあえず○りと○らはムキムキマッチョメンだったということがよく分かった」
それはやだ。
次の日。
「やっぱりここまでやってこそのぐ○とぐ○だよなあ」
「あの車は自動車じゃなかったと思いますけど……」
「いいじゃないかー」
加鳥が卵の殻を改造して、車にしてた。卵の殻が地面走ってた。
「ところでこの卵の殻、やっぱり滅茶苦茶頑丈だけど、この卵の殻を破って出てこられるヒヨコって一体何者なんだろう」
「その結果があの鶏だろ」
「俺達の世界では、その問題があるので卵生の生物は一定以上の大きさになれない、はずなんですけれどね」
うん。なんか授業でやった。虫とかも、でかくなりすぎると外骨格を厚くしなきゃならなくなって、重くなるから動けなくなって、生きていけないから小さいんだって習った気がする。
「……やっぱり異世界だな、ここは」
「そうだねえ」
「はっ……!俺、気づいちまったぜ!もしかして、ぐ○とぐ○は異世界人……!?」
「フィクションという意味では異世界人扱いでいいのではないでしょうか」
うん……今回やってみて分かったけど、でかいカステラって、作るの、疲れる。疲れた。ほんとにこんなの、異世界じゃなきゃできない。
だから、うーん……まあ、できて良かった、かな。




