愛するよりも笑いたい
時系列はいつもの辺りです。
視点は針生です。
アナログゲームをアレンジしてハウスルールでやっています。
「そういえば今日私、プロポーズされたんだけど」
舞戸さんの発言で全員びっくりした。
「……何をしでかしたんだ、お前は」
「そこで最初に『しでかす』っていう表現が出てくるあたりで鈴本が私のことをどう思っているかがよく分かる」
いや、俺もそういう気分だけどさあ……っていうかプロポーズってさあ……えええ……?
「何をしでかした、と言えば、まあ、町を歩いていて、ついでに市場に『煮込み料理に最適!』っていう薔薇の花みたいなのが置いてあってそれ気になってお店に寄って購入してただけなんだけどね」
「そうしていたら、突然プロポーズされた、と」
「うん」
ええー……異世界怖すぎない?それほとんど通りすがりじゃん。もし通りすがりじゃなかったらストーカーだし。どっちにしろ怖いじゃん!
「で、相手は?どんな奴だった?そもそも人間?」
「私としてはできればミジンコとかウニとかウミウシとかからのプロポーズだったらやぶさかでもなかったんだけど残念ながらこの世界の現地人でした」
まあそうだよね。ミジンコとかウニとかウミウシとかはまず喋らないと思うし。喋ってたらちょっと見てみたいかも。
「えーと、ちなみにそれ、大丈夫だったん?何かトラブルになったりとかはしなかったってこと?」
「うん。普通に『もう人妻です』って言ったら退いたから逃げてきた」
「舞戸さんは何時から人妻になったんでしょうか」
「プロポーズを断る瞬間から断った瞬間までの間人妻でした」
「誰の?」
「ミジンコ」
……あんまりうまい断り方じゃない気がするけどなー。でもさらっと嘘を吐ける人ならいいのかも。うん。この世界の人って割としつこいみたいだし。『興味ありません』よりは『もう人妻です』の方が断り力強いよね。あははは。
「で、本題なんだけどね」
って舞戸さんが言い出したのでちょっと俺達、身構えるよね。
「ちょっと待て。今のは本題じゃなかったのか?」
プロポーズされた、相手はこの世界の奴だった、適当に断って逃げてきた、よりも先の話あるの?
「うん。いやぁ、そのね……よくもまあ、プロポーズの言葉を思いつくな、と、思った次第でした。『君はバラの花の妖精かな?よかったら僕と結婚してくれないか?』とかすごいね。なんでああいう言葉が指輪と一緒にスラッと出てくるんだろうね?」
あ、そーいう?
……心配して損した!何かもっと深刻かつどうでもよくない内容だと思ったらすごく軽くてどうでもいい内容だった!
「そういえばそういうゲームあるよね?」
しかも早速鳥海がゲームの話にしちゃった!
「折角だからここで1つ、俺達の頭がこの世界の住民より回って、かつ俺達のセンスがこの世界の住民より優れてるってことを証明しようぜ!」
しかもなんか張り合いだしちゃった!
っていう雑なノリでゲーム始まっちゃったんだよね。あはは。まあいつものことじゃん?っていう。
「ルールは簡単!取り札5枚で最高のプロポーズの言葉をキメろ!っていうだけのゲームね。要は、カードに書いてある言葉を組み合わせてうまいことプロポーズっぽくするっていうだけ。とりあえず本来のカード無いから自前で作りながらやるいつものパターンでいこっか」
んでもって、俺達、既成のカードが無くても自分達の記憶を頼りにカード作っちゃったりするからね。まあ、これもいつものことだから驚くことでもないんだけどさ。
「『僕は』とか『僕が』、或いは『君に』とか『君と』とか、そういう『僕』と『君』と助詞、っていう言葉は使い放題のルールでいこう。あと『愛してる』『結婚しよう』も取り札如何にかかわらず使えますってことで」
鳥海の言う通りに舞戸さんがすごい速度でカード作っていく。薄く削った木の板に『染色』で文字を染められるっぽい。無駄にハイクオリティなカードができていくとちょっと楽しいよね。
「次に、いろんな言葉が書いてある取り札が大量に。これは皆で言葉考えて書いちゃっていいんじゃないかな?」
「これを組み合わせてプロポーズの言葉にするわけだよね?じゃあ最高の単語を入れておかないとなあ」
「そうだな」
「心に来る奴にしないとね」
ってことで、これは1人11枚、適当に書くことにした!どう考えてもまともな言葉出てこないと思うけどまあそれはそれで楽しめばいいよね!最悪の場合でも使い放題の『愛してる』『結婚しよう』だけでプロポーズはできるし!あははは。
それから少しして、なんとか全員がカードを作り終わったからゲーム開始!
最初の親はじゃんけんで負けた角三君。つまりみんなのプロポーズを受けるのが角三君。だから皆、角三君の心に響くようなプロポーズの言葉を捻り出そうとするわけなんだよね。
……ということで俺が引いた札が、『白百合のように』『犬』『美しい』『味噌汁』『うすしお味』の5枚だったんだけどさ。
まあこれなら決まりだよね!
「じゃあみんなで角三君にプロポーズする時間です!いえーい!」
「え……なんか嫌なんだけど……」
「そうは言っても親が審査員だからね。諦めてプロポーズされてね」
角三君がもじもじしてるけど、まあそれはそれってことで、早速鳥海からプロポーズ開始!
「僕と毎日味噌汁!結婚しよう!」
……。
「え……やだ」
「あ、角三君。判定は全員分聞いてからね?」
いや、これは全員分聞かなくてもアウトでしょ……。
次、舞戸さん。
「僕は君に運命を感じたんだ!結婚しよう!」
「あ、まとも」
いいなー。引きが良かったかんじあるよね、今の。
次、鈴本。
「君の騎士になりたい。結婚しよう」
「こいつフリガナまでつけてきやがったぜ!」
こっちも引きが良かったかんじだ!すげえ!
次、羽ケ崎君。
「愛してる。結婚しよう」
「あ、作れなかったんだ」
「しょうがないだろ!見ろよこれ!」
羽ケ崎君が初期手札だけのプロポーズしてたから取り札を見たら、『味噌汁』『猫』『ベッド』『ビート板』『米』だった。ひでえ!
次、加鳥。
「君と僕とでランデブー。結婚しよう!」
「そんな札書いたの誰だよ」
次、刈谷。
「君と合体死体!」
「『君』じゃなくて『あなた』なら完璧だったな」
次、社長。
「きっと君を一生幸せにするよ。結婚しよう」
「ああ、まともだ……」
最後、俺!
「君は白百合のように美しい!結婚しよう!」
「まあ普通だな」
「普通だね」
……ひでえ!すごく引きよかったのに!
「じゃあ角三君。一番心に響いたのは誰のプロポーズですか!」
「え……んー……鈴本のが完成度高かった」
「よし」
ってことで鈴本が1点先取。完成度かー。俺も自信あったんだけどなー。まいいや。次がんばろ。
「とりあえず1回やってみて分かっちゃったんだけどさ、このゲーム、割と運ゲーだよね」
「そうだな。だが、カードを重ねる技を使えばできる言葉もある」
鈴本が俺にカードを重ねて見せてくれた。
『心に』『花火』『泥がついた』の3枚のカードをうまく重ねて、『心に火がついた』っていう一文にしてくれた。おおー。
「このルールを応用すれば案外色々できるぞ」
あー成程ね。それ、滅茶苦茶頭使う奴じゃん。じっくり考えればできるかもしれないけど、瞬発的にって結構きついよー。
「んー、俺はもしパワーカードを引けたらそれに前後をくっつける、みたいなやり方してるかなー?」
まあ、それが簡単ていうか妥当に強いよね。俺も『白百合のように』がパワーカードだったし。
「いや、鳥海はその結果が『僕と毎日味噌汁』だからね?」
……まあ、変なカード引いちゃうと大変なんだよなー。俺も今回は『犬』のカードとか『うすしお味』とか使いようがなかったしさー。
「じゃあ次は俺に皆でプロポーズしてくれよな!皆のプロポーズ、待ってるぜ!」
「熱血少年漫画とかにある『皆のお便り待ってるぜ!』みたいな言い方されてもなあ」
次は鳥海が親なんだよなー。ってことは、完成度もだけどセンスも問われるよね。多分。
よーし。今度こそ俺も得点するぞー!
最初は舞戸さん。
「君の為に墓場を作るよ。愛してる。結婚しよう」
「やめて!俺の為に争わないで!死体を増やさないで!」
「そのプロポーズをしてくる奴が居たら逃げるのが正解だな」
「いや、ただの石材屋の可能性もあります」
「それでも嫌なんだよなあこんなプロポーズ……」
次が鈴本。
「君と一緒に運命を生きたい。結婚しよう」
「なんで鈴本さあ、そんなにカードに恵まれるの?」
次が羽ヶ崎君。
「君は美しい。愛してる」
「微妙にパワー足りないかんじがそれっぽい」
「何の話だよ!」
次が加鳥。
「君は眼鏡がよく似合う。結婚しよう」
「そういえば君は眼鏡フェチだったね。まさかカードの引きにまで反映されるとは」
「え……加鳥、ここで運使っちゃっていいの……?」
次が刈谷。
「猫は綺麗だ。結婚しよう」
「猫と!?」
「鳥海へのプロポーズで猫に求婚するとは」
「つまり俺って猫だったのかにゃー?」
「猫耳生やす薬、要りますか?」
次が社長。
「狂ったように君を愛してる。結婚しよう」
「洒落にならない」
「なんだろう、洒落にならない」
「洒落にならない!」
やっと俺のターン!
「君は僕の一番星だ。結婚しよう!」
「割と綺麗に纏まったけどパワー不足」
酷くない!?俺がんばったよね!?
最後が角三君。
「……幸せにする」
あっ短い。でも角三君っぽい。おおー。
「じゃあ結果発表にゃん!俺が選ぶのは刈谷にゃん!」
「猫になってる……」
「誰が得するんだよその喋り方」
ええー、刈谷かー。ってことはやっぱり、ネタに走ったほうがいける……?
「はい!じゃあ次は私が親だよ!よろしくだよ!」
次は舞戸さんが親かー。
……えーと。
なんとなく、なんだけど……うん!やっぱり俺はネタに走ることにする!決めたもんね!
最初は鈴本。
「僕は犬が好きだ。結婚しよう」
「突然の犬派宣言」
次は羽ヶ崎君。
「これから毎日家を焼こうぜ」
「それチャーから始まって研で終わる奴だな?」
次は加鳥。
「まっすぐ右ストレート味噌汁」
「ちょっと不思議な技名みたいなの編み出すんじゃない」
次は刈谷。
「ベッドが爆発しそうなんだ。結婚しよう」
「中国製ベッドかな?」
次は社長。
「君はうすしお味なのかな?結婚しよう」
「こわい!それこわい!やだ!食べないでね!」
次、俺!
「多分愛してるかもしれない。結婚しよう」
「なんで余計なものつけちゃったの?」
次は角三君。
「闇を感じたんだ」
「プロポーズですらない」
最後、鳥海。
「僕ととろなんだ!結婚しよう!」
「待て。今のはなんだ」
「『僕と』に、『ときめき』のと、『ロマンチック』のろ。それで僕ととろ!だぜ!」
「なんかあれ思い出すね……じぶりのタイトル組み合わせて一番面白かった奴が優勝、ってやつ……」
「……急に全員ネタに走り始めたので私、困惑しています」
まあ、そうだよね。あははは。でもまあ、俺は予想できてたよ。
「まあいつかはこうなるって僕は予想してたよ?うん」
「まあね、皆さんの発想の豊かさと頭の回転力があればこのくらいのネタは簡単に錬成できるけどね……まあいいや、とりあえずネタとして一番斬新だったので私、ととろと結婚します」
「やったぜ!」
ということで、この回は鳥海が優勝。やっぱりネタに強い奴が勝つんだよね、このゲーム。
……ってことで、それから何回かやって、更に新しいカード作って足して、余計に内容がカオスになった。
「時が止まったように一番綺麗な火遁の術!」とか「まっすぐ家に行こう」とか「味噌汁命」とか、そういうネタ系統も豊作だったし、「僕は敵を墓場に連れていくよ」とか「僕の犬を燃やした君を追いかけ続ける」とか「僕は一生ベッドに居るよ」とか「君は火を点けた。家に」とか「これから毎日優勝するわよ」とか、妙にストーリー性に溢れた奴も豊作だった。
うん。途中からプロポーズって何?みたいなことになってたけど、まあ、これはこれで面白かったからいいかなーって。あははは。
で、ゲームの後、話は戻って、舞戸さんが唐突にプロポーズされる話についてなんだけどね。
これも解決した!
「こんなに簡単な解決方法があったとは……私、感動」
「お前は本当にそれでいいのか?」
えっとね。舞戸さんは買い物に出る時だけ、異世界語で俺達のプロポーズがでっかく書かれたエプロンを着ていくことになった!
……要は、胸のところにでっかく『僕の僕が僕で爆発』とか『君が死ぬまで笑顔で火遁の術を止めないのさ』とか書いてある謎エプロンね。
そんな変なエプロン来てたらどんなに美少女に見えても流石に一発目からプロポーズには来ないっしょ!っていう!
……いや、最初はさ、指輪、着けとけばいいんじゃない?ってなったんだよ。でもなんかさー、流石にさー、こう、嫌じゃん!だからまあ、だったらネタに走って笑いを取りに行く方がいいじゃん?ってなった。
実際、舞戸さん、ちょっと遠巻きに見られるようになったって自慢気に言ってた。プロポーズもほとんどなくなって、ナンパも結構減ったみたい。(逆にそれでも来る奴が少数ながら居るってのが驚きなんだけどさー。あはは)
おかげで、一緒に買い物に行った俺達が凄い勢いで人攫いか善意の求婚者か分からない奴らを叩きのめさなきゃならない回数が大分減って、ちょっと買い物の方に割く意識の割合が増えて楽しくなった!やったね!
それから。
「ところで舞戸さんってこういうプロポーズされたい!みたいなのってあるん?」
鳥海が聞いたら、舞戸さん、ものすごく悩んだ。
……それで、答えが。
「正直ね。あんまりロマンチック求めてないからネタに走ってくれた方が嬉しい。或いは効率重視で内容の伝達だけできればまあ……」
っていうね。そういう内容だったから。まあ、舞戸さんらしいっちゃらしいけどね。
「お前結婚できなさそうだな」
「おうおうおう羽ヶ崎君よ。類は友を呼ぶって知ってるかい?つまり君もだぞ」
「やめて!俺達全員を巻き込んだ争いを始めないで!それ全員被弾する奴だから!」
……その後全員仲良くダメージ負ったけど、うん、そーだなー……。
全然そういうこと考える年齢でもないけどさ。確かに、こういう変なプロポーズだったら、ちょっと楽しいかもね。あははは。
いやまあ、俺はしないけど。




